王様 - みる会図書館


検索対象: リアル鬼ごっこ
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1. リアル鬼ごっこ

応は合格なのであろう。コックたちは一様に安堵の表情を浮かべた。合格と分かった途端、 コックたちは部屋から立ち去った。 黙々と料理を食べ続け、朝食の時間もそろそろ終わりに近づこうとしている時だった。王 様の居る部屋にじいが現れた。 「王様 ! 王様 ! 」 じいは落ち着かない様子で駆け寄ってきた。王様の朝食を妨げる者は罪に問われることを 忘れているかのようだった。 王様はナイフとフォークを置いた。 「朝食中なのに騒々しいぞ。一体何があった ? 」 王様がそう穏やかに言うと、 「申し訳ありません : : : 実は″あること〃の報告が入りまして : : : 」 その時、王様の弟である王子は過敏に反応した。 故「あること ? 一体なんだ ? 」 ま「は ! 実は : : : 残りの " 佐藤。の数が分かりましたので、すぐさま報告に上がろうかと じいのその言葉に一同耳を傾けた。

2. リアル鬼ごっこ

一、二分が経ち、 鬼を振り切ったところで翼は一度立ち止まり、苦しそうに息を吐いた。 落ち着きを取り戻した時、一つの音が翼を襲った。振り向いた翼の目に、追いかけてくる一 人の鬼が映っていた。最終日とあって、鬼の数も多い。そんなことを考える間もなく、再び 翼は走り出した : 必死に逃亡を繰り返していた王国中の生き残りの佐藤さんが一人、また一人と捕まってい った。捕まる際に激しく暴れる者。泣き叫ぶ者。そこで諦めグッタリする者。行動は様々で あるが、王国中に〃佐藤〃さんたちの叫び声がどこからともなく聞こえてくる。佐藤姓を持 つ人間の数が徐々に減っていき、全滅の時もすぐそこまで迫っていた : 「じい、じい」 王様は専用の大きなべッドに仰向けになりながらじいを呼んだ。すかさず、じいが早足で こ つやって来る。 。こ 鬼「王様、どうかいたしましたか ? 」 ス王様は天井を見つめている。 「今頃、また一人、同じ姓が消えていると思うと興奮して眠れないのだが」 「それは、困りましたね。明日、王様にはやるべきことが一杯あるというのに :

3. リアル鬼ごっこ

翼は最後の言葉を王様に告げた。 「バイハイ : ・・ : 王様」 翼は一瞬の間も与えず、王様の胸に弾を撃ち込んだ。パンと乾いた音がたて続けに響き、 計三発が王様の体を貫いた。その瞬間、翼には心地よい風が感じられた。そして、王様はド サッと倒れ込んだ。その光景に周りの人間はもちろん、テレビを見ている全国民が言葉を失 っ ? 」 0 呆然としていたじいはハッと気づいて、 「お、お、王様 ! 」 言葉を震わせて王様に近寄った。 「王様 ! 」 王様はじいの言葉に息も絶え絶えに答えた。 「し、死にたくない。死にたくないよ」 それが王様の最期の言葉だった。王様のグッタリとした様子を見ても、実の弟である王子 は駆け寄りもしなかった。ただ、哀れむような目でじっと王様を見つめていた。 「王様 ! 王様 ! 」 必死に体を揺らしても王様はピクリともしなかった。じいは翼を見て、

4. リアル鬼ごっこ

298 全ての国民が翼の言葉に耳を澄ませた。 「うん ? どうした ? 何でもいいぞ」 「な、何でも ? 」 翼は俯きながらそう呟いた。 「そうだ。何でも私が叶えてやる。さあ、言ってみよ」 翼は顔を上げると静かに口を開いた。 「はい。でもその前に一つだけ、よろしいですか ? 」 王様の目を見つめながら翼は言った。 「何だ ? 言ってみよ」 「僕はこの鬼ごっこを通して、様々な″佐藤〃さんたちに出会いました。そして、姓は同じ でもいろんな人がいることを改めて知りました。もちろん、僕もそのうちの一人です。でも 皆は翼の話に聞き入った。 「でも : 「でも : : : その全ての佐藤さんたちはいなくなった。そう、全ての人たちが殺されていった んです・ : : ・」

5. リアル鬼ごっこ

持久力がある者は絶対有利である。 これが、王様の発案内容である。 今の王様が即位してからはこんなことがごく当たり前に行われる、そんな国になってしま っ , 」 0 こんな恐るべきことを一瞬にして考えてしまう王様の悪しき想像力に、側近たちは背筋が 凍る思いがした。ところが、長々と説明を終えた王様は満足げな笑みを浮かべ、 「どうだ ! 皆の者、これなら私の威厳にかかわらず、より効率的に佐藤姓を減らすことが できるだろう」 こんなことを実行したら威厳も何もあったものではない。それすらこの王様は分かってい ないのだ。 「王様 : : : 」 呆れ果てたじいは、誰にも聞こえないくらいにため息をついた。側近たちも、意見を求め てきた王様に対し、誰一人顔を上げる者はおらず、不満そうな表情でただただ俯いているだ けであった。 「ん ? どうした ? この考えはよいと思わぬか ? 」 王様は聞いた。その時だった。先ほどから怒りで拳を震わせていた一人の側近が、とうと

6. リアル鬼ごっこ

じいは頭を悩ませて、 「王様、ワインでもお召し上がりになってはいかがですか ? 」 「そうだな。持って来てくれ」 「かしこまりました」 深く頭を下げると手を叩いてメイドに合図した。メイドが慌ててワインとグラスを持って 「さあ、王様」 グラスを渡し、ワインを注いだ。 「一つむ」 そう言うと王様はワインを一気に飲み干した。 「これで気持ちよく眠れそうだ」 頬を赤くし、王様は再びべッドに仰向けになった。じいはワインをメイドに片付けさせる と、静かに王様の側から離れて行った。じいの背中に王様の寝言が届いた 「明日が楽しみだ : それから王様は大きな寝息を立てながら気持ちよく眠りに就いた。それを確認するとじい は部屋を後にした。廊下に出ると、

7. リアル鬼ごっこ

う王様に向かって怒鳴った。その男は大勢の側近をかき分けて突進してきた。その鋭い瞳に は王様だけが映っている。 「この国をお前の勝手にさせてたまるか ! 」 そう叫びながら男は短剣を取り出し、狂ったように王様に襲いかかった そのあまりの凄まじさに、じいの顔はこわばってしまった。それでも王様の身の危険にハ ッと気づいた。 「そ、その者を止めろ ! 王様を守るのじゃー じいの必死の呼びかけで皆は我に返り、襲いかかろうとする男を全員で止めにかかった。 王様は意外にもその場から一歩も動かず、冷静にその様子を見つめていた。恐ろしくて動 けなかったのかもしれない。 男は皆に取り押さえられた。それはほんの数秒間の出来事であったが、じいにとっては異 あきら 様に長く感じられた。他の側近に短剣を取り上げられた男は諦めたのか、抵抗せずに荒い息 提をしながら、王様をにらみつけていた。 っ王様は一歩二歩と近づき、床に押さえつけられている男を冷たい目で見下ろした。そして、 ただ一一一 = ロ、 四「殺せ」 すさ

8. リアル鬼ごっこ

「王様ー・・鬼、こっことはど一つい一つことで」ざいますか ? ・」 王様はじいをギョロッと見た。じいは一歩引いたが、王様はニャリと不気味な笑みを浮か 「王様、一体何が浮かんだというのですか ? じいにはさつばり分かりませぬ」 王様に対し、先ほどよりかすかに口調が強まっていた。 「ふふふ、じいよ、そんなに私の考えを知りたいか ? 」 さつばり分からないと言われたのが、よほど嬉しかったのか、王様は満足そうな表情を浮 かべ、 いつにも増して尊大であった。 「お願いでございます。教えて下され ! 」 じいはただ興味本位で聞きたいのではない。王様の考えが王国を危機に陥らせるようなも のなら、すぐさま諫めなければならないのである。 王様は固く腕を組み、眉間にしわを寄せて深く考え込んでいた。何を考えているのかはじ いにも分からなかった。 再び、側近たちにとってあの嫌な沈黙が訪れた。が、今度はその沈黙はすぐにゃんだ。王 様は再び不気味な笑みを浮かべた後、 「じい : そんなに聞きたいか。それなら聞かせてやろう ! そのかわり驚くんじゃない うれ

9. リアル鬼ごっこ

鹿王〃、まさに全国民が納得できるあだ名であった。 しかし、王様に向かって、誰一人意見する者はなかった。無論、実の弟もだ。なぜなら、 この王国では、王様に反発、もしくは、王様を中傷する者は直ちに処刑という、恐ろしく厳 しい法律が定められていたからだ。といっても今までの王は自分のことより国のこと、治政 も何一つ問題なく、国民はそんな法律があることさえ、忘れていた。当然、王様に逆らう者 もいなければ処刑になった者もいない。本当にどこの国も羨むほどの平和な国だった。 そんな馬鹿王についている側近の者も、顔では王様のご機嫌取りをしながら、 ( 必ずこの国は滅びる ) と思っている者がほとんどで、王様の行動に頭を悩ませていた。 だが困ったことに、 ごく少数ながら馬鹿王に絶対の忠誠を誓う者がいた。先代から長く仕 えている年寄りの側近だ。彼らが王様を甘やかしているのは事実であった。王様の知らぬと ころでは、忠誠を誓う者とそうでない者との間で言い争いが絶えなかった。そんな日々が毎 日のように続き、王国滅亡の日も遠くはないといわれていた。 そんな中、王様の私情ともいえる一つの馬鹿げた提案がなされた。 十二月十五日、午前九時半。ここから全てが始まった : ワインの入ったグラスが勢いよく壁に投げつけられた。

10. リアル鬼ごっこ

「存じております。私どももそれは同じでございます」 「それがどうだ : 。今我が国にはその〈佐藤〉姓がどれだけいるか、知っているか ? 」 じいは自信を持って答えられず、戸惑いながらもおおよその数を述べた。 「確実な数は分かりませんが : : : 約五百万を数えるといわれております」 その数を聞いて王様は肖像画から目をそらし、今度は下を向いてしまった。 「じいはそのことに何も感じぬのか ? 」 じいは戸惑いながらも、 「素晴らしいことではございませぬか ! それだけ王様の仲間が大勢いるということでは 私はそれが気にくわんのだ ! 」 理一つー・ 王様は興奮していた。じいはそんな王様を宥めるように、 「どうしてでございます ? 何がお気に召さないのでございましよう ? 」 提王様は拳を握り、それを左の手のひらに打ちつけながら、 の っ 「私は嫌なのだ ! 同じ姓を持つ人間がこれだけいることが不快なのだ ! それは同じ人間 がいるのと同じだ ! 〈佐藤〉姓を持つのは私だけでよいと、じいは思わぬか ? 」 王様は真剣な眼差しでそう尋ねた。その言葉を最後に、王様とじいの間には長い沈黙が訪