パシフィック - みる会図書館


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1. リング

239 へんぼう は問題とならない。しかし、総合病院への変貌を図るには、それは致命的であった。こう して、南箱根療養所は一九七二年に閉鎖されることになった。 そこに目をつけたのが、かねてよりゴルフ場やリゾート施設の建設地を物色していた。ハ シフィック・リゾートクラ・フであった。一九七五年、パシフィック・リゾートは、南箱根 療養所跡地を含めた高原地帯を購人、すぐにゴルフ場の建設に着手し、それ以後、建て売 りの別荘、ホテル、プ 1 ル、アスレチッククラブ、テ = スコートと、リゾート施設を次々 と整えていったのだ。そして、ビラ・ロッグキャビンが完成したのが、今から半年前の 四月。 「どんなところだ ? 」 デッキにいたはずの竜司が、いつの間にか浅川の隣の席にきていた。 「南箱根パシフィックランドだよ グ : そうか、竜司はまだあの地に行ったことがないんだ。 ン「夜景のきれいなところだ」 生命感の希薄な雰囲気、オレンジ色のライトの下、ポーンポーンと響いていたテニスポ よみがえ ールの音が、浅川の耳に甦った。 ・ : あの雰囲気はどこからくるんだ ? 療養所があったころ、そこで何人の人が亡くな

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240 ったのだろうか。 浅川はそんなことを考えながら、眼下に美しく広がる沼津と三島の夜景を思い浮かべて いたのだった。 ひざ 浅川は最初のプリントを下に回し、二枚目と三枚目を膝の上に広げた。二枚目のプリン トには、療養所の建物の簡単な配置図、そして、三枚目の。フリントには、療養所の現在の 姿である南箱根パシフィックランドインフォメーションセンターとレストランのある三階 建てのしゃれた建物が写っている。浅川が訪れた時、ふと車を止め、つかっかと入ってポ ーイにビラ・ロッグキャビンの場所を聞いた建物である。浅川は二枚のプリントをかわる がわる見つめた。三十年近い時の流れが図柄となって表れている。山に沿ってカープする 道を基準にしなければ、どことどこが一致するのかまるでわからない。浅川は実際の風景 を脳裏に浮かべながら、ビラ・ロッグキャビンの建つ場所には、以前何があったのだろう たど と、二枚目のプリントに描かれた地図を辿った。明確に位置を指定できるわけではない、 が、どうやってその二枚のプリントを重ね合わせても、ビラ・ロッグキャビンの場所には 何も存在しないのがわかる。谷側の斜面を覆ううっそうとした木々の茂みがあるのみであ 浅川はもう一度、一枚目のプリントに戻った。南箱根療養所から南箱根パシフィックラ ンドへの変遷、それ以外に、もうひとつ重要な情報が書き記されていゑ長尾城太郎、五 十七歳。熱海市で内科・小児科医院を経営する開業医である。長尾は一九六一一年から六七

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「いいんですのよ 義姉は軽く頭を下げ、帯に手を当てながら和室に入った。 トイレにて、浅川はカードを取り出した。パシフィック・リゾートクラプ会員証。この カードの名称であゑその下に野々山結貴の名前と会員番号。有効年月日。裏にする。個 条書きにされた注意事項が五つと会社の名前、住所。パシフィック・リゾートクラブ株式 こうじまち 会社、東京都千代田区麹町三ー五、 i--a ( 0 3 ) 2 61 ー 4 9 2 2 。拾ったり、盗ん だりしたものでなければ、智子はおそらくこのカードを野々山という人物から借りたのだ。 何のために。もちろん、パシフィック・リゾートの施設を利用するために。それはどこで、 いつのこと ? 。煙草を買ってくると言い残して、浅川は表 この家から電話をかけるわけこよ、 の公衆電話に走った。ダイアルを回す。 「はい、もしもしパシフィック・リゾートですという若い女性の声。 「あの、お宅の会員券で利用できる施設を知りたいのですがー グ女性の返事が遅れる。ロでは簡単に一一一口えない程、利用施設の数が多いのかもしれない。 ン「あ、いや、そうですね : : : 、東京から一泊で行ける範囲で : : : 」 そろ 浅川は言い足した。四人揃って二泊も三泊も家を空けたとなれば、かなり目立つはずで ある。これまでの調査で発見できなかったとすれば、せいぜい一泊程度の距離であろう。 一泊程度なら、友達のところに泊まるとか言ってなんとでも親の目をごまかせる。

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吉野は切らずに待っていた。「吉野さん、劇団の線はひとまずおいてください。それよ り、至急調べてもらいたいことが出てきました。南箱根パシフィックランドのことはもう お話ししたと思いますけど : : : 」 「ああ、聞いている。リゾートクラ。フだろ 「ええ、僕の記憶では、確か十年程前にゴルフ場ができ、それに付随するかたちで、現在 いいですか、調べてほしいのは、南箱根パシ の施設が整っていったと思うんですが : フィックランドができる以則、そこに何があったのかということ 吉野が走らせるべンの音が聞こえる。 「何があったって、おまえ、ただの高原じゃねえのか」 「そうかもしれない、でも、そうじゃないかもしれない そで 竜司がまた浅川の袖を引いた。「それと、配置図だ。いいか、パシフィックランドがで きる前、あの地に他の建物が建っていたとしたら、その建物の配置図も手に入れるよう、 電話の主に言ってくれ 浅川はその通り吉野に伝え、受話器を置いた。絶対に手がかりを掴んでくれと、強く念 じながら。そう、だれにだって念じる力はあるのだ。 十月十八日木曜日 つか

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「南箱根にパシフィックランドという総合施設がございます 女性の声は事務的であった。 「具体的に、つまり、どんなレジャーが楽しめるんですか ? 「そうですね、テニス、ゴルフ、フィールドアスレチック、それにプールもございます 「宿泊施設は ? 」 「はい、ホテルと貸し別荘ビラ・ロッグキャビンがございます。あの、もしよろしければ 案内書をお送り致しますがー 「ええ、ぜひお願いしますー 浅川は客を装った。心よく情報を聞き出すためである。 「その、ホテルや貸し別荘に、一般の人間も泊まれるんですか ? 」 、できます。一般料金になりますけれど 「そうですか、それじやひとつ、そこの電話番号教えてください。ためしに行ってみよう 力な」 「宿泊の申込みでしたらこちらで受け付けますが」 「うーん、いや、そっちの方ドライプしていて、急に寄りたくなるかもしれないから : 教えてよ、電話番号」 「しばらくお待ちください」 待っ間にメモ用紙とポールペンを取り出していた。

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293 南箱根パシフィックランドのレスト ( ウスから足利の妻のもとに電話をかけ、浅川は約 束通り日曜日の朝レンタカーで迎えに行くことを伝えた。静は、じゃあもう事件のほうは : たぶん」としか答えられな かたづいたのね、と聞いてきたがそれに対して浅川は、「 : かった。自分はこの通り生きているという、その事実だけから、たぶん解決したのだろう と推測するほかなかったのだ。しかし、受話器を置いた時、釈然としない気持ちのほうが より強く残った。どうしても引っ掛かることがあるのだ。一方では、自分が生きていると いう理由だけで、すべてきれいさつばりかたづいたと信じたくもある。ひょっとしたら、 竜司も同じ疑問を抱いているかもしれないと、テしフルに戻るとすぐ浅川は竜司に聞いた。 「なあ、本当にこれで終わりなんだよな」 竜司は、浅川が電話をかけている間にランチをきれいに平らげていた。 「べイビーは喜んでいたか ? 」 竜司は、すぐには質問に答えなかった。 「ああ。なあ、おまえ、どうだ ? すっきりさわやかって気分じゃないだろう」 グ「気になるのか ? 」 ン「おまえは ? 」 「まあな」 「どこだ ? 気になるところは」 「ばーさんの言葉だ。うぬはだーせんよごらをあげる。おまえは来年子供を産む。あのば

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159 に質問攻めにすることもなく、妙に黙り込んだまま自分なりに察してしまったらしい。ど ぬぐ のような解釈に達したのか知るよしもないが、不安感は拭えないらしく、朝の連続ドラマ を見ながら何度も腰を浮かせかけて、外の音に敏感に反応していた。 「一切、このことには触れるな。オレ自身、どう答えていいのかわからないんだよ。とに かく、オレに任せろ」 静の不安を押さえるため、浅川はそう言う他なかった。決して、弱気な姿を妻の前にさ らしてはならない。 まさに家を出ようとしたちょうどその時、電話が鳴った。竜司からである。 「おもしろい発見があるんだ。おまえの意見をぜひ聞きたいー 竜司の声は少し興奮気味である。 「電話では無理かい ? 実は、今、レンタカーを取りに行くところなんだ」 「レンタカー ? 「電波の発信場所を捜してこいと言ったのはおまえだろ」 グ「なるほどね。まあ、そっちのほうは放っておいて、とにかくすぐに来いよ。ひょっとし ンたら、アンテナなんて捜す必要がなくなるかもしれねえ。前提そのものが崩れちまう : かもネ」 南箱根パシフィックランドに行く必要が生じた場合、彼の部屋からそのまま直行できる ように、浅川はレンタカーを借りた上で竜司の部屋に寄ることにした。

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305 む直前、竜司は自分が助からないことを悟り、浅川の野郎にビデオテープの謎を教えてや りてえもんだ、と強く念じるのを忘れなかった。 彼女は受話 高野舞は何度も「もしもしと、電話の向こうに呼びかけた。返事はない。 , 器をフックに置いた。うめき声には聞き覚えがある。嫌な予感が胸を走り、もう一度受話 器を持ち上げると、尊敬する先生の番号を回した。話中を知らせるプープーという音がし た。一度フックを押し、また同じ番号を回す。やはり話中。この時、高野舞は、電話をか けてきたのが竜司で、彼の身にとんでもないことが起こったらしいことを知った。 十月一一十日土曜日 久しぶりの我が家ではあったが、妻と子供がいないとなんとなく寂しかった。何日ぶり グだろうと、浅川は指を折って数えた。鎌倉で一泊、嵐に閉じ込められ大島で二泊、その翌 ン日、南箱根パシフィックランドのビラ・ロッグキャビンで一泊、さらにまた大島で一泊。 たった五泊しただけであった。もっとずっと長い間外に出ていたような気がしてならない。 取材旅行で四泊五日なんてのはザラにあるが、帰ってきてふりかえると、いつも短かった なあと感じるものだ。

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くわかる。浅川はここでも驚かされた。レストランの営業は八時で終わりだけれど、まだ 半分ほどの席がうまっていたのだ。家族連れや、女の子だけのグループ。一体どういうこ とだ。浅川は首をひねった。この連中はどこから来たのだろう。不思議でならない。自分 が今通って来たあの同じ道を通って、ここにいる人々がやって来たとはどうしても思えな いのだ。ひょっとして、今通ってきたのは裏道で、本当はもっと他に明るく広い道がある のではないだろうか。しかし、パシフィックランドの場所を説明して、女は電話ロで言っ : ・熱函道路の中ほどを左に折れて、山道を上ってきてください。 浅川はその通りにした。他の抜け道があるとは考えられない。 オーダーストップを承知で、浅川はレストランの中に入った。広々としたガラス窓の下 には、よく手入れされた芝生がなだらかなカーブを描いて夜の街へと傾斜している。室内 の照明が薄暗く保たれているのは、より美しい夜景をお客に披露するためと思われる。浅 Ⅱは近くを通りかかったポーイをつかまえて、ビラ・ロッグキャビンの場所を聞いた。ポ ーイは、浅川が入って来たばかりの玄関ホールを指差した。 グ ン「そこの道を右にまっすぐ、二百メートルばかり行くと管理人室がございますー 「駐車場はあるの ? 」 「管理人室の前が駐車場になっておりますー なんのことはない。 こんなところに寄らず、まっすぐ進んでいれば、自然と目的の場所

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は明らかだ。これで、四人の共通の時間と場所がはっきりした。八月二十九日水曜日、南 箱根。ハシフィックランド、ビラ・ロッグキャビンー 4 号棟と考えて間違いない。謎の死 をとげるちょうど一週間前のことである。 浅川はすぐその場で受話器を取り上げ、ビラ・ロッグキャビンの番号を回した。 CQ—< 号棟の今晩の宿泊を予約するためである。明日の午前十一時の編集会議に間に合えばいし のだから、その地で夜を過ごす時間は充分にあった。 : 行ってみよう、とにかく、現場に行ってみよう。 気は急いてした。 , 、 - 彼の地で待ち構えているものが何なのか、彼にはまるで想像がっかな っこ 0 カオ トンネルを抜けるとすぐ料金所があり、浅川は百円玉を三枚手渡しながら聞いた。 「南箱根パシフィックランドはこの先 ? 」 わかりきったことであった。地図で何度も確認してある。久しぶりで人間に出合ったよ うな気がして、なんとなく一一 = ロ葉を交わしてみたくなったのだ。 「この先に案内が出ていますから、そこを左に折れてください」 領収書を受け取った。こんなに交通量が少なければ、人件費のほうがはるかに高くつく ように思われた。一体いつまでこの男はポックスの中に立っているつもりだろう。なかな けげん か車を出そうとしない浅川を、男は怪訝な顔で見ている。無理に笑い顔をつくり、ゆっく