思い出し - みる会図書館


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1. リング

271 て、自分を保ち続ける自信がなかった。ここは、すべて竜司の命令に服従しよう。それが きよ、つじん 一番だ。自分を消し去り、強靭な精神力を持った人間の配下に下るのだ。自分をなくして しまえ ! そうすれば、恐怖からさえ逃れることができる。土に埋まって自然と一体にな るんだ ! その願いが通じたのか、浅川は急激な睡魔に襲われて意識を失いかけた。そし よみがえ て、眠りに落ちる瞬間、娘の陽子を高い高いする幻想と共に、さっきふと甦った小学校の 頃のエ。ヒソードをもう一度思い出した。 浅川の育った街のはずれに市営のグラウンドがあり、その横の崖を降りたところにはザ リガニのいる沼があった。小学校の頃、浅川はよく友達と一緒にその沼にザリガニを取り に出かけた。その日、むき出しの崖の赤土は春の日差しに照らされ、挑発するように沼の 横にそそり立っていた。水の中につりざおをたらすことにも飽き、浅川は陽の当った崖の 急斜面に何気なく穴を掘ろうとした。土は柔らかく、板切れを差し込むだけでポロポロと 、それ 赤土は足元にこ・ほれていく。そのうち、友達も仲間に加わった。三人だったか : ・ とも四人。横穴を掘るにはちょうど手頃な人数であった。これ以上多いと頭と頭がかち合 グって邪魔になるし、少ないと一人一人の労力が多くなり過ぎる。 ン一時間ばかり掘ると、小学生ひとりがすつ。ほりと入れるくらいの横穴が誕生した。さら に掘り続けた。学校の帰り道だったから、中のひとりはそろそろ家に帰ると言い出した。 言い出しつべの浅川だけは黙々と掘った。そして、日が沈む頃、横穴は、その場にいた子 ひざ 供たち全員が身をかがめて入れるくらいの大きさに成長した。浅川は膝を抱え、友人とク がけ

2. リング

204 「すみません、お忙しいところ : : : 」 吉野は座りながら手帳を取り出し、右手にペンを握っていつものポーズを取った。 「山村貞子の名前を今頃になって聞くとは思いませんでした。もう、ずいぶん昔のことで すからねえ」 有馬は自分の青春時代を思い出していた。それまでいた商業劇団を飛び出し、仲間と共 に新しい劇団を創立した頃の若いエネルギーが懐かしい。 「さっき有馬さん、彼女の名前を思い出した時、″あの〃山村貞子とおっしゃいましたけ れど〃あの〃というのはどういうことなんですか ? 」 「あの子が入ってきたのは、えーと、いつの頃でしたつけねえ。劇団が誕生して数年とい ったところじゃなかったかな。劇団の伸び盛りの頃でねえ、年ごとに入団希望者は増えて いったんですが : 、とにかく、ヘンな子でしたよ、山村貞子は」 「変といいますと、どんなところがフ 「そうですねえ」 有馬は顎に手を当てて考え込んだ。そういえば、なぜ自分はあの子に対して変な女とい う印象を持っているのだろう。 「特別目立った特徴でも ? 」 「いや、外見はごく普通の女の子でしたよ、ちょっと背が高かったけれど、おとなしくて、 ・ : そして、いつも孤立してました」 あご

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205 「孤立 ? 」 「ええ、ほら、ふつうは、研究生同士仲がいいんですよ。でも、あの子は、自分からは決 して仲間に加わろうとしなかった どの集団にもそういったタイプの人間はいるものだ。それが、山村貞子の人格を際立た せていたとは考えにくい。 「彼女のイメージを一言で言うと ? 」 「一言 ? そうですね、不気味 : : : 、ってとこかな」 有馬は迷わず「不気味ーという表現を使った。そういえば、内村も「あの気持ちのワル イ女」と表現していたつけ。十八歳のうら若き乙女が不気味と評されてしまったことに、 吉野は同情を禁じ得ない。 , を 彼よ、グロテスクな容姿の女を想像していた。 「その不気味さは、どこからきていると思いますか ? 」 考えてみると、不思議であった。二十五年前たった一年ばかり在籍しただけの研究生の 印象が、なぜこうも鮮やかに残っているのか。有馬は心に引っ掛かるものがあった。なに グかあったはずだ。山村貞子の名を記憶に留めることになる、エ。ヒソード。 ン「そうだ、思い出しましたよ。この部屋だ 有馬は社長室を見回した。そして、例の事件を思い出したとたん、まだここが事務所と よみがえ して使われていた頃の家具の配置までが鮮明に甦っていった。 ーしこば 「いえね、創立当時から、劇団の稽古場はここにあったんですが、当時はもっとずっと狭

4. リング

ものだから、ああだこうだとうるさくてうるさくて : ください 「で、何を聞きたいってんだ ? 」 「その後、死因は判明したんですか」 吉野は首を振った。 「ま、ようするに、突然の心臓停止ってやつだが、どうしてソレが起こったかについちゃ 何もわからねえ」 「他殺の線は ? 例えば首を締められたとか」 「あり得ない。首筋に内出血の跡はなかった」 「薬物・・ : : 」 「解剖しても、反応はでなかった」 「とするとこの事件は、まだ解決 : : : 」 「おいおい、解決もクソもねえ。殺人じゃねえんだから事件でもなんでもないんだよ。病 死、あるいは事故死、それで終わりさ。捜査本部も当然ナシ」 素っ気ない言い方だった。吉野は椅子の背もたれに背中をあずけている。 「死亡した人間の名前を伏せてあるのはどうしてですか。 「未成年だしよ。 : それに、一応心中の疑いもあったからな」 吉野はそこで何かを思い出したようにふっと笑うと、体を前に乗り出した。 お願いしますよ。詳しく教えて

5. リング

157 静は泣き出しそうな顔になっていた。 ひざ 「私の膝の上にいたわ : この、 : このビデオを見たと、言うんだな」 : おまえと一緒に、 「陽子も、 「ただ、チラつく画面を眺めていただけで、あの子には意味なんて : : : 」 「うるさい そんなことはどうでもいいー 夢が崩れ去る ? それどころではない。家族そのものが消滅しようとしている。まった く、なんの意味もない死によって。 ただごと 静は、夫の怒り、恐怖、絶望を見るに及んで、ようやくこれが只事でないことに気付き 始めた。 まさか、 : : : 嘘でしょ 「ねえ、 たちの悪いイタズラと解釈したビデオの言葉を、静は思い出していた。そんなことがあ るはずもない。でも、この人の、この荒てよう、これはなに ? 「ねえ、嘘なんでしよ。 あんなこと」 グ浅川は首を横に振るばかりで、何も言うことができない。ふと、いとおしさが込み上げ ンてくる。自分と同じ運命に陥った者がまたここにもいるかと思うと。 十月十五日月曜日

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「さあねえ 管理人はしきりに首をかしげている。どうして、こんなモノがここにあるのか、とんと 解せないというふうに。 「もし、よかったら、そのテープ、ちょっと貸してもらえないでしようかね」 管理人は返事をする代わりに、ポンと膝を打った。 「あ、思い出した。部屋に転がってたんだ、コレ。わたし、てつきり、ここのビデオだと ばかり思って、持ってきたんだけど : : : 」 「コレが置いてあったのは、ー 4 号棟じゃないですか ? 浅川は念を押すように、ゆっくりと聞いた。管理人は笑いながら首を振る。 「そんなこと覚えていませんよ。なにしろ、二ヶ月ばかり前のことだから」 浅川はもう一度聞く。 「あなた、このビデオ、見ましたか ? 管理人はやはり首を横に振った。顔から笑いが消えている。 「ソレ、ちょっと貸してくださいよ 「テレビ番組でも録画するのフ 「え、ええ、まあ : : : 」 管理人はビデオをチラッと見た。 ひざ

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品のない印象を与えるが、吉野は意外と人に気を遣うところがある。 「忙しいかよ 「ええ、まあ」 吉野は、浅川がまだ社会部にいた頃の三年先輩で、現在三十五歳だった。 「実は、横須賀通信部に問い合わせたところ、吉野さん、ここにいるってことだったので 「なんじゃい。オレに、なにか用でもあるのかい ? 」 浅川は、先ほどコビーした記事を差し出した。吉野は異常な程長い時間をかけてじっと それに見入った。自分の書いた記事なのだから、そんな熱心に読まなくても内容はわかっ ているはずなのに、彼はロに運ぶ好物の。ヒーナツツを空中で止めたまま、全神経をそこに そしやく 集中させた。今はゆっくりと咀嚼している。まるで、記事の内容を逐一思い出し、一緒に 胃の中で消化しようとするかのように。 「これがどうかしたのか ? 」 吉野は真剣な顔になっていた。 「いえね、もっと詳しく聞きたいと思いまして」 吉野は立ち上がった。 「よし、隣で茶でも飲みながら話そう」 「時間、だいじようぶですか

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148 「彼女がいないうちに、話さなくっちゃならねえことがある 「舞さんにはあのビデオ見せてないんだな」 「あったりめえよ」 「わかった、じゃあ、さっさと切り上げよう。オレは飯を食ったら帰る」 「そうだな、それに第一、おまえはアンテナを捜さなくっちゃならねえだろ 「アンテナ ? 」 「電波の発信基地だよー のんびりしてはいられなかった。帰りがけに図書館に寄って、まず電波に関して調べる 必要があった。今日このまま南箱根に行ってやみくもに捜すよりも、事前にある程度調べ て見当をつけておいた方がてっとり早いに違いない。電波の性格と、電波ジャック事件の 捜査の仕方がわかれま、 をいくらかは可能生も出てくる。 やるべきことは山ほどあった。しかし、今の浅川はどことなく気勢をそがれ、心ここに あらずといった具合だった。 , 彼女の顔と体が頭から去らないのだ。なぜ舞は竜司のような 男と付き合うのか。怒りを伴う大きな疑問。 「おい、聞いてるのか ! 」竜司の声に浅川は我に返る。「ビデオの中に男の赤ん坊のシー ンがあっただろ」 「ああ」 いったん 浅川は舞の姿態を一旦消し、ヌルヌルとした羊水に包まれた新生児の映像を思い出そう

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この映像を見た時の感覚を思い出してくれ。赤ん坊のシーンに関しては、昨日言ったとお りだな。それ以外は ? たとえば、無数の顔のシーンはどうだい ? 」 竜司はリモコンを操作して、そのシーンを映し出した。 「よーく、見ろ。この顔」 壁にはめ込まれた数十の顔が徐々に後退して、数百、数千の数に膨れ上がっていく。顔 のひとつひとつをよく見ると、人間の顔のようでいてどこか異なる。 「どんな感じだい ? 竜司が聞いた。 うそ 「なんだか、オレ自身が非難されているような : : : 、嘘つき、ペテン師と」 「そうだろ、実は、オレも同じ、いや、恐らくおまえと近い感覚を抱いた」 浅川は神経を集中させた。この事実が導く先。竜司は待っている。明確な返事を。 「どうだ ? もう一度竜司が聞いた。浅川は頭を振る。 「だめだ、何も思い浮かばない 「もっと、のんびりと時間をかけて考えりや、きっとオレと同じことを思い付くかもしれ ねえな。いいか、オレもおまえも、この映像はテレビカメラ、ようするに機械のレンズに よって撮影されたものと考えていたんじゃねえかい」 「違うのか ? 」

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208 横に立った時にはもう、画面には何も映っていなかったのです。私は、もちろん、彼女が 素早くスイッチを切ったものとばかり思いました。そこまでは、何の疑いも抱かなかった のです。でも・ : : ・」 よど 有馬はそこから先を言い淀んだ。 「どうそ、続けてください」 「私は、山村貞子に、早く帰らないと電車がなくなるよ、なんて言いながら机の上のスタ ンドのスイッチを入れたところ、これがっかない。よく見るとコンセントが入っていない のです。私はかがみこんで、コンセントにプラグを差し込もうとしました。そこで、初め て気が付きました、テレビのプラグもコンセントに入っていなかったことを」 テレビから伸びたコードの先が床に転がっているのを見て、背筋にゾクッと悪寒が走っ たことを、有馬はまざまざと思い出した。 「電源が入ってないにもかかわらず、明らかにテレビはついていた ? 吉野は確認した。 「そうです、そっとしましたよ。思わず顔を上げて、私は山村貞子を見ました。電源も入 ってないテレビを前にして、この子は何をやっていたのだろうと。彼女は私と視線を合わ せず、ただ、じっとテレビ画面を見つめていましたが、そのロもとにうっすらと笑いを浮 かべていたのです よほど印象深かったのか、有馬はエ。ヒソードの細部に至るまでよく覚えていた。