自分 - みる会図書館


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1. リング

295 う。ここは、どうにか自分自身を納得させる他なかった。少しくらいの心のもやもやは 理にでも消し去り、とにかく終わったことなんだと言い聞かせるしかない。 「な、オレはこうして生きている。消されたオマジナイの謎は解けたんだ。もう終わった のさ、この事件は : そして、浅川は突然思い至った。役小角の石像も海の底から引き上げられることを念じ ていたのではなかったのかと。その念が母の志津子に働きかけ、行動を起こさせ、彼女は 新しい力を与えられたのだ。そのことと、似ているような気がしてならなかった。山村貞 子の遺骨を井戸の底から拾い上げることと、役小角の石像を海の底から釣り上げること : ・ 。しかし、どうも引っ掛かるのは、山村志津子に与えられた能力は、皮肉にも彼女を不 のろ 幸にしてしまったことである。しかし、結果からみればの話であり、今回の場合は、呪い からの解放が「与えられたカ、である可能性は充分考えられゑ浅川は無理にそう考えよ うとした。 竜司は、浅川の顔や肩先にチラチラッと視線を飛ばし、目の前の男が確実に生きている グことを確認した上で、二回ばかりうなずいた。 ン 「ま、そのことに関しては問題ないだろう」 竜司はふーっと息を吐きながら、椅子に体を沈めていった。「でもよお : 体を起こしながら、竜司は自分自身に問いかけた。

2. リング

197 に調べ上げることができただろう。自分は東京に残り、竜司からの連絡を待って吉野とふ たりで取材に回ったほうがずっと効率がよかったに違いない。 「やるだけはやってみる。しかしよお、ちょっと、人手が足りなくないかい ? 」 「小栗編集長に電話して、何人か回してもらうよう頼んでみますよ」 「ああ、そうしてくれ」 をししが、浅川には自信がなかった。いつも編集部員が足りないと・ほゃいている 言ったま、 編集長が、こんなことに貴重な人員をさくとは思えない。 「さて、母親に自殺された貞子はそのまま差木地に残って母の従兄弟の世話になることに なった。その従兄弟の家というのが現在民宿をやっていて : : : 」 浅川は、竜司と共に今まさにその民宿に泊まっていることを言おうとしてやめた。余分 なことと思われたからだ。 「小学校四年の貞子は翌年すぐ、三原山の噴火を予言して、校内で有名になります。いい ですか、一九五七年、三原山は貞子の予一一一口通りの日時に噴火しているんですー グ「そいつは、すごい。こういう女がいれば、地震予知連なんていらねえな」 うわさ ン 予一一一一口が的中したという噂が島中に広まり、それが三浦博士のネットワークにひっかかっ リたことも、やはり、ここでは言う必要もないだろう。ただ、ここで、重要なのは : 「そのことがあって以来、貞子はよく島の人々から予言してくれるよう頼まれた。でも、 彼女は決してそれに答えたりはしなかった。まるで自分にそんな能力はないとばかり : とこ

3. リング

106 「おまえの家で、ダビングできるかい ? 竜司が聞いた。職業柄、浅川は二台のビデオを持っていた。一台は普及し始めた頃に購 入したもので、性能はかなり劣るけれど、コ。ヒーを作るくらいなら別段問題はない。 「できるよ」 「そうか、じゃあ、さっそく、オレの分のコビーも作ってくれ。自分の部屋で何度もじっ くり見て研究したいんでな」 : : : 心強い、と浅川は思う。今の浅川は、こんな言葉で簡単に勇気づけられる。 御殿山ヒルズの前でタクシーを降り、あとは歩くことにした。九時十分前。この時間で はまだ、妻と子供が起きている可能性があった。妻の静はいつも九時ちょっと前に娘を風 呂に入れ、上がるとすぐ布団に入り、そのまま添い寝してるうちに自分まで一緒に眠って いったん しまう。そして、一旦寝入ってしまうと、自力で布団から這い出すことはまずできなかっ た。静は夫との語らいの時間をなるべく持とうとしていたので、以前は「起こしてくださ し」という伝言を必ずテーブルの上に残しておいた。仕事から帰った浅川は、その言葉に 従い、起きる意志があるだろうとばかり妻を揺り起こす。しかし、これが、まったく起き ない。それでも無理に起こそうとすると、頭上の蠅を追い払うように両手を振り回し、静 は不機嫌に顔をしかめていやそうな声を上げる。半分は目覚めるのだが、眠ろうとするカ のほうがはるかに強いらしく、浅川は徒労のうちに退散せざるを得ない。こんなことが続 くうちに、伝言を見ても浅川は静を起こさなくなり、静もまた伝言を置かなくなっていっ はえ

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232 浅川は不服そうな顔をしていた。 「なあ、少しは自分の頭で考えろや、おまえさん、ちょっと人に甘え過ぎだぜ。もし、オ レになにかあって、おまえ一人でオマジナイの謎を解くハメになったらどうする ? 」 そんなことは有り得ない。浅川が死に、竜司ひとりでオマジナイを解くことはあるかも しれない、しかし、その逆のパターンはない。浅川はその点にだけは確信を持っていた。 通信部に戻ると早津が言った。 「吉野って方から電話がありましたよ。外からなので、十分したらもう一度かけ直すって 言ってました」 浅川は電話の前に座り込み、いい知らせであることを祈った。ベルが鳴った。吉野から であった。 「さっきから何度も電話してるんだが : : : 」 吉野の声にはささやかな非難が含まれている。 「すみません、食事に出ていてー 「それでと、 : ファックス届いたかい 吉野の口調がわずかに変わった。非難の響きが消え、その代わりに優しさが含まれる。 浅川はいやな予感がした。 「ええ、おかげでとても参考になりました」 浅川はそこで受話器を持つ手を左から右に代えた。

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199 直接問題になってくるのは、もちろん山村貞子の半生である。 「娘のほうから頼みますよ 「わかった。じゃあ、明日さっそく劇団飛翔の事務所にでも顔を出すか」 浅川は腕時計を見た。まだ午後の六時を少し回ったところだ。劇団の稽古場なら充分に 開いている時間だろう。 「吉野さん、明日と言わず、今晩頼みますよ 吉野は大きく息をついて首を軽く振った。 「なあ、浅川。考えてくれよ、オレにだって仕事があるんだ。今晩中に書き上げなければ ならない原稿が山ほどあるんだよ。本当は明日だって : : : 」 吉野はそこで言葉を止めた。これ以上言うとあまりにも恩着せがましくなる。彼はいっ も男らしい自分を演出することに細心の注意を払っていたのだ。 「そこをなんとか頼みますよ。いし 、ですか、僕の締め切りはあさってなんです」 この業界の内幕を知っている浅川には、とてもそれ以上強く一言えなかった。ただ、無言 グで吉野の返事を待っ他ない。 : って、いってもよお。しようがねえなあ。わかった、なるべく今晩中にどうにかす るよ、ま、約束はできんが 「すみません、恩にきます 浅川は頭を下げて受話器を置こうとした。

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325 これからの歴史 接潜り込む。これがどういう結果を生むか、今はまだ知りようがない。 に、いや人類の進北にどう係わってくるのか : : オレは、家族を守るために、人類を滅ぼすかもしれない疫病を世界に解き放とう としている。 浅川はこれからやろうとすることの意味を恐れた。ほんのかすかな囁き声もあるには ある。 ・ : 妻と娘を防波堤にすれば、それですむことじゃないか。宿主を失えばウイルスは 滅ぶ。人類を救うことができるんだそ。 しかし、その声はあまりに小さい。 車は東北自動車道に入った。混雑はなかった。このまま行けば、充分に間に合う。浅 川は肩に力を込め、ハンドルにしがみつく格好で車を運転していた。「後悔なんてしな 。オレの家族が防波堤になる義理などどこにもない。危機が迫った以上、どんな犠牲 を払ってでも守らねばならないものがある」 グ決意を新たにするためもあり、浅川はエンジン音に負けぬ声でそう言った。果たして ン竜司ならば、こんな場合どうするか。その点について、彼は自信があった。竜司の霊は 浅川にビデオテープの謎を教えたのだ。つまり、妻と娘を救え、と示唆したことになる。 そのことが心強い。竜司ならこう言うだろう。 ・ : 今、この瞬間の自分の気持ちに忠実になれ ! オレたちの前にはあやふやな未来 ささや

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250 て全て知ってるのですからね」 竜司はまず浅川を指差し、それからその指を自分の目にもっていった。 「そんな、ばかな : 目撃しただと、そんなことはありえない。あの茂みにはだれもいなかった。第一、 このふたりの男の年齢は : 、当時・ : 「信じられないのも無理ねえな。でもよお、オレたちふたりとも、あんたの顔、よーく知 ってんだぜ 急に竜司の言葉遣いが変わった。「なんなら教えてやろうか、あんたの肉体的特徴 : ・ その右肩にはまだ傷跡が残ってんじゃねえのか、ええ ? 」 長尾の両目が大きく見開かれ、顎のあたりががくがく震えた。竜司は充分に間を置いて、 一 = ロった。 「あんたの肩の傷が、なぜ、そこにあるのか言ってやろうか」竜司はにゆっと頭を突き出 して、長尾の肩先に口を運ぶ。「山村貞子に噛みつかれたんだろ ? こうやってよお , 竜 司はロを開け、白衣の上から噛むふりをした。長尾の顎の震えは一段と増し、彼は必死で なにか言おうとしたが、歯と歯がうまく噛み合わず、言葉にならない。 「な、わかっただろ。 いいかい、オレたちはあんたから聞いた話を絶対だれにも喋らない。 約束する。ただ、知りたいのは、山村貞子の身に起こったことの全てだ」 つじつま とても思考力の働く状態ではなかったが、長尾にはどうも話の辻褄が合わないように思 しゃべ

8. リング

浅川は、フリーザーから取り出した氷でグラスを満たし、買ってきたウイスキーを半分 ほど注いだ。その後、水道の水をつぎ足そうとしたが、一瞬ためらい、オンザロックが飲 みたかったのさ、と自分を納得させて蛇口を締める。この部屋のモノを口にする勇気はま だなかった。しかし、フリーザーの氷に不用心なのは、微生物は熱と氷に弱いという先入 観が働いたためであった。 ソフアに深々と体を沈めて、テレビのスイッチを入れる。新人歌手の歌声が流れ出した。 東京でもこの時間帯同じ番組をやっている。浅川はチャンネルをかえた。見るわけでもな いのに、音声を適当に調節し、バッグの中からビデオカメラを取り出し、テー。フルの上に 置く。異変が生じた場合、起こったことを逐一録画するつもりだった。 ウイスキーを一口すすった。ほんの少しではあるが、肝がすわったように感じる。浅川 いきさっ は、今までの経緯をもう一度頭の中で追う。もし、今晩、ここで、何の手がかりも得られ なければ、書こうとしている記事は暗礁に乗り上げることになる。しかし、逆に考えれば、 そのほうがいいのだ。なんの手がかりも得られないとは、つまり、例のウイルスを拾わな いということだから、妻と子を持っ身で、妙な死に方はしたくない。浅川はテーブルの上 に足を投げ出した。 果たして、オレは何を待っているのだ ? 恐くないのかい ? おい、恐くないのか 死神に襲われるかもしれないんだそ。 落ち着きなく視線をあちこちに飛ばし、浅川はどうしても壁の一点に目を据えることが

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ガラス 床の間にあるおじいちゃんの仏壇。八畳間のカーテンは開いていて、硝子窓の向こうに草 こうしじま の生えた宅地とマンションの明りが格子縞に小さく見えるはず、ただそれだけのはず。 二杯目のコーラを半分飲んだところで、智子はまったく身動きがとれなくなってしまっ た。気のせいですますには、あまりに気配が濃密であった。今にも何かがニ = ッと伸び、 自分の首筋に触れそうでならない。 : もし、アレだったらどうしよう。 それ以上考えたくはなかった。このまま、こうしていたら、あのことばかりが思い起こ され、肥大した恐怖に耐えられなくなってしまうだろう。もうとっくに忘れていた一週間 前のあの事件。秀一があんなこと言い出したからいけないんだ。みんな、あとに引けなく しんびよう なってしまって : でも、都会に戻ると同時に信憑性がなくなっていった例の、鮮明な 映像。誰かのイタズラ。智子は、他のもっと楽しいことを考えようとした。もっと、別の でも、もしアレだったら : ・ アレが、本当のことだったら、そうよ、だって、電 話がかかってきたじゃない、あの時。 ああ、 パとママったら何してるの。 「早く帰ってきてよ ! 」 智子は声を上げた。声を出しても不気味な影は一向に引く気配を見せない。じっと後ろ でうかがっている。機会が来るのを待っている。 十七歳の智子には恐怖の正体はまだよくわからない。しかし、想像の中で勝手に膨らん

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136 早めにメモしておかなければいけないなと自分に言い聞かす。それにしても、彼の死はど んな呼ばれかたをするのだろう。病死 ? 事故死 ? それとも他殺 ? ・ : とにかく、生命保険の内容をもう一度確認しておかねば。 ここ三日間、眠りに落ちる時はいつも悲観的な気分になった。浅川は自分のいなくなっ た世界にまで影響を及ぼそうとあれこれ思い悩み、遺書めいたものを残そうと考えるのだ っこ 0 十月十四日日曜日 翌日曜日、起きるとすぐ浅川は竜司の電話番号を回した。かすれた声で「 : : : ま、 をし」と 答える竜司。いかにも、この電話で起こされたという声。浅川は昨夜からのいらいらを思 どな い出し、つい電話ロで怒鳴ってしまった。 「ゆうべ、どこに行ってたんだ ! 」 「あ、 : ・あ、なんだ、・ : : ・浅川か 「電話をよこすはずじゃなかったのかー 「いやあ、飲み過ぎちまってな。最近の女子大生は酒も強いしアッチも強い、参った、参 った」 ふっと、この三日間のことが夢と感じられ、拍子抜けがする。深刻に生きている自分が