そこまで言って、先生はふと、いたずらっぽい笑みを浮かべた しゅうかんほうかご 「それでは、こうしたらどうでしよう ? これから一週間、放課後に希望者だけ残ってこ はなし わい話をしてもらいます。」 あっけ よそう ふるたせんせい 予想もしていなかった古田先生の言葉に、はるかは呆気にとられた。 はなしせんせい 「そして、もし、あなたたちの話で先生をこわがらせることができたら、携帯電話を羽田 かえ 野さんに返します。 ふるたせんせい 古田先生の目がはるかとあう。 はなし せんせい 「どうぞ、あなたたちが知ってるとびきりこわい話をして、先生に『幽霊はいるかもしれ おも せんせい ない。』って思わせてください。そうすれば、先生もサッちゃんの霊がこわくなって、携 はたの かえ たいでんわ 帯電話を羽田野さんに返すでしよう。」 ふるたせんせい そう言って、古田先生はにつこりと笑った。 はなし 「いいですよ ! わかりました。こわがらせる話ができたら、ちゃんとケータイを返して くださいね ! 約束ですからね ! 」 せんせい 真紀はにらむようにして、先生を見る。 やくそく せんせい わら ゅうれい きぼうしゃ けいたいでんわ のこ かえ はた
しんぞう ちぢ おも ひめい 心臓がぎゅっと縮みあがり、はるかは思わず悲鳴をあげた。 おおいわせんせい ひとさゆび すると、大岩先生があわてて、伸ばしていた人差し指を口にあてて「しずかに。 , の ポーズをする。 じゅくちょうおこ 「しーっ、しーっ ! あんまりさわいだら、また塾長に怒られる ! 」 あ あたまじゅくちょうせんせい かおだ と、そこにガラリとドアを開けて、ハゲ頭の塾長先生が顔を出した。 じゅくあそばしょ 「こ 5 ら—、塾ではしずかに、っていつも言ってるだろうがあ ! 塾は遊ぶ場所じゃない んだぞ ! 」 じゅくちょうせんせい まゆ そして、塾長先生は、大岩先生の姿を目にして、眉をひそめた。 おおいわせんせい せんせい 「なんだ、大岩先生もいたんですか。まったく、先生がいながら ! 「す、すみません : : : 。」 まえ おおいわせんせい かたお はるかたちの前で、大岩先生はしょんぼりと肩を落としていた。 じゅく おおいわせんせい た め くち 154
おも おも はなし こわいと思ってしまう話をされるなんて思っていませんでした。」 おくめ ふるたせんせい 古田先生はメガネの奥の目をまだうるませたまま、じっとはるかを見つめた。 たいせつ 「そう : : : 、先生にとって、いちばんこわいのは、大切なあなたたちになにかあること、 こころ はなし かんが せんせい です。そのことに気づいてこんな話を考えるなんて、先生、心から驚いています。 せんせい 「あの : : : 、先生 おも はるかは思いきって言った。 はなしかんが わたし かとうくん 「この話を考えたのは、私じゃないんです。加藤君が : ひっし いまてもともど あんなに必死で取りもどしたかったケータイが今は手一兀に戻ってきたのに、ちっとも気 あか 持ちが明るくならなかった。 びしようみ せんせい 先生は、わかってる、というように微笑を見せた おも はたの はたの せんせい 「でも、羽田野さんは先生がこわいと思うものをわかってくれたのでしよう ? 羽田野さ しん しゅうかんとくべつじゅぎよう んには、先生がこの一週間の特別授業で言いたかったことがちゃんと伝わっていると信じ ています。 こうないほうそう と、そのとき、校内放送がかかった。 せんせい せんせい おどろ った 222
「でも、先生 ! 私は見たんです ! 夢じゃないです ! 」 しずか 静香はくちびるをとがらせて、すねたように言った。 「でもね、ずっと幽霊のことを考えてすごしていれば、何を見ても幽霊と関連づけて考え てしまう、ということもあるんじゃないかな ? 」 先生の落ちついた笑みは変わらない。 せんせい 「たとえば、先生はネコを飼っているのですが、そのネコがどこかから、ノミをもらって きてしまったのです。 はなし まえ まゆげ へいあんきぞく 先生の飼っているネコの話は、前にも聞いたことがあった。平安貴族みたいな眉毛のも なまえ ようをしてるから、名前は「まろ」というのだ。 たいへん へや 「ノミは部屋にまでひろがってしまって、大変でした。先生はノミを見つけるたびに、ガ ムテープでべタッとはりつけて、つかまえていました。」 はなしさきおも はな ふるたせんせい じぶん そこまで話すと、古田先生は自分だけ話の先を思い浮かべて、くすりと笑った。 くろ おも ひっくえうえちい 「そんなある日、机の上に小さな黒いものを見つけて、あらやだ、またノミだわ、と思っ て先生はガムテープでペタリとやりました。でも、よーく見てみると、そのガムテープに せんせい せんせい せんせい せんせい わたしみ ゅうれい かんが ゅめ なにみ せんせい ゅうれい わら かんれん かんが
き るような気がした。 ぐちひら たんにんふるたせんせい そこに、ガララッと教室の入り口が開き、担任の古田先生が入ってきた。 せき 「おはよう、みなさん。そろそろ、席につきましようね。」 ふるたあきこせんせい すこ としした 古田亜希子先生は、はるかのお母さんよりは少しだけ年下で、やさしいお姉さんのよう せんせい せたか な先生だ。背が高くほっそりしていて、フチなしのメガネをかけている。 う びしよう せんせい いつも微笑を浮かべていて、めったに怒ることのない先生だけれど、はるかのケータイ め を目にすると眉をひそめた。 さんじよう はたの 「三条さん、羽田野さん、それはなあに ? 「ケータイです。 こた おずおずと、はるかは答えた。 ふるたせんせい こえ すると、古田先生はおだやかな声で言った。 も がっこうけいたいでんわ 「学校に携帯電話を持ってきてよ ) ナよ ) 、 。し。オしってこと知ってるわよね ? 「はい。 こた はるかがうつむいて答えると、古田先生はケータイを取りあげた。 まゆ きようしつ ふるたせんせい かあ おこ し と ねえ
あうでしよう。』 ともだちそうだん てがみも がっこう なつみさんはこわくなって、学校にその手紙を持っていって、友達に相談しました。 たんにんあらたせんせい み と、それを見とがめたのが、なつみさんの担任の荒田先生です。 てがみよ あらたせんせい 荒田先生は、その手紙を読むと、なつみさんに言いました。 しん てがみ 「こんな手紙はデタラメです。信じちやダメです。」 てがみと せんせい 先生は手紙を取りあげました。 かえ せんせい 「返してください、先生 ! ひっし なつみさんの必死のうったえも聞いてはもらえません。 わたしのろ こわいよ一つ : 「どうしよう ? 私、呪われちゃうよう : しゅうかんきようふ なつみさんはそれから一週間、恐怖におののきながら、すごしました。 き しん あらたせんせい でも、荒田先生は信じていないので、まったく聞いてはくれません。 しゅうかんごあらたせんせい ちょうど一週間後、荒田先生はそのなつみさんから没収した手紙を校庭の焼却炉にほう りこみました。 ほか 手紙は、他のゴミといっしょに、めらめらと炎の中で燃えていきました。 てがみ き ほのおなかも ぼっしゅう てがみこうてい しようきやくろ 215
はな はるかはしかたなく、サッちゃんの霊のメールのことを話した。 ぼっしゅう わたし 「 : : : だから、私がメールを送るまで、没収は待ってください ふるたせんせい てはな うで 腕から手を離さないままで、はるかは古田先生を見あげた。 ふるたせんせい ( 古田先生はやさしいから、頼みを聞いてくれるよね。 ) おも はるかは思っていた まえ だんし ( 前に、男子がゲーム機を学校に持ってきて没収された時に「このポスを倒すまでセープ せんせい できないから待って。」と一部ったら、先生は一時間くらい待ってあげてたもん。 ) くびよこ ことば ふるたせんせい なのに、はるかの言葉を聞いた古田先生はゆっくりと首を横にふった。 けいたいでんわかえ はなし しいえ。その話を聞いてしまったら、ますます携帯電話を返すわけにはいきません。 わたしのろ せんせい 「なんでですかっ ? 先生は私が呪われたっていいって言うんですか ? 」 あさかい こえ はるかが泣きそうな声で言ったとき、朝の会がはじまるチャイムが鳴った。そのころに はなしきようみしんしんき せいと はもう、ほとんどの生徒はやってきていて、はるかと先生の話を興味津々で聞いていた。 せき 「さあ、みんな。席につきなさい。」 きようだんうえ 古田先生は、はるかのケータイを持ったまま、教壇の上にあがった。 ふるたせんせい きがっこう おく たの ぼっしゅう じかん せんせい とき たお
おも はなし おとなむ ほん としよかん か。図書館だったら大人向けの本もたくさんあるし、もっとこわい話があると思うんだ。 ふるたせんせい 「そうだね。けど : : : 、古田先生をこわがらせることなんかできるのかな ? 」 - っ えがおおも はるかは先生のおだやかな笑顔を思い浮かべて、ポツリとつぶやく はなし なにい 「何言ってるのさ ! そのために、こうやってがんばってこわい話をさがしてるんじゃな 「でもさ : : : 、古田先生って : : : ほんとに、まったく何もこわがったりしなさそうなんだ もん。 な もし、サッちゃんの霊が出てきても、先生は「はいはい、チャイムが鳴ったから席につ どう ゅうれいあいて きましようね。 , と昏って、いつもの微笑をくずさず、動じることなく幽霊の相手をする き ような気がするのだ。 なかよ こくばん そして、黒板に『みんな仲良く』なんて、どこかズレたことを書く : そうぞう ほんものふるたせんせい はるかがそんなことを想像していると、本物の古田先生が教室に入ってきた。 な 「ほらほら、チャイムは鳴りましたよー。」 せんせい えがおみ そのやさしげな笑顔を見ると、はるかはますます、先生をこわがらせることなんてでき せんせい ふるたせんせい せんせい びしよう なに きようしつはい か 0 0 せき
ほうかご せいとかえ 放課後になっても、ほとんどの生徒が帰らなかった。 はなし せんせい みんな、先生の話がはじまるのを待っていた。 ならごと 「あらあら、たくさん残ってるのね。みんな、習い事とかクラブ活動はいいの ? 」 わら かお ふるたせんせいすここま 古田先生は少し困ったような顔をして、やさしく笑いながら言った。 おそ かあ たいせつじゅぎよう 「いいんです ! ちゃんとお母さんにも、大切な授業があるから、帰るの遅くなるって 言ってあります。」 て 健吾がいきおいよく手をあげて言った。 はなし 「そうなの ? それじゃ、話をはじめるとしますか。」 せんせい きようしつみ 先生はぐるりと教室を見まわした。 み はるかは、先生が自分のほうを見て、微笑んだような気がした。 かた そして、先生は語りはじめた。 せんせい せんせい ワ」 じぶん のこ ま ほほえ き かつどう かえ 236
「これでいいんだろ。」 まきせきまえく な 途中、真紀の席の前に来ると、投げやりなようすで健吾はつぶやいた ふるたせんせい 真紀はうかかうように、古田先生のほうを見ていた はなし かおま こわすぎる話に、はるかの顔は真っ青になっていた ふるたせんせい 古田先生はぐるりと教室を見まわした。 きのう じゅんいちろうはなし きようふ 昨日のおもしろいオチがあった純一郎の話のときよりも、圧倒的にみんなの顔には恐怖 いろう の色が浮かんでいた きよう はなし しげきつよ 「今日の話は、ちょっと刺激が強かったかもしれませんねー。小林君の話し方は、とても しんせま じようず . 真に迫っていて上手でした。 せんせい 「先生もこわかったでしよう ? ふるたせんせい ・ひしよう 真紀がそう言って、古田先生を見た。だが、先生はにつこりといつもの微笑を浮かべ る すこ にんぎよう 「うーん、こわい、というのとは少しちかいますね。先生はどちらかというと人形などが にんぎようきもわる おも 好きで、もともと人形を気持ち悪いと思わないタイプですし。 す 0 とちゅう きようしつみ み さお せんせい せんせい 0 あっとうてき こばやしくんはなかた 0 かお - っ