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検索対象: 七時間目の怪談授業
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1. 七時間目の怪談授業

き おも いまはなし 「今の話を聞いて、先生がおそろしいと思ったのは、軍人さんの亡霊が見えるからでも、 み ばしょ はっこっしたい しんれいげんしようお 心霊現象が起きるといわれる場所から白骨死体が見つかったからでもありません。ただ、 じっさい にんげんどうし くに なんじゅうねんまえ わたし います 私たちが今住んでいるこの国で、ほんの何十年か前に、実際に人間同士が殺しあうという じじっ せんそうおこな 戦争が行われていたその事実です。」 おくめ せんせい 先生はメガネの奥の目をそっとふせた。 かん せんそうはなしせんせい 、悲しみを感じます。」 「そう、戦争の話に先生はおそろしさと : う びしよう すこ それから、少しだけ、微笑を浮かべた。 じだい はなし かた 「きっと、こんなふうにこわい話をみんなで語りあったりできるのは、平和な時代だから じようきよう くうしゅう そら ばくだんお こそ、なんでしようね。いっ空襲があって、空から爆弾が落ちてくるかもしれない状況で のろ はなし かいだん は、どんな怪談よりも呪いの話よりも、現実のほうがおそろしいのではないでしようか。」 ふあん こと・は その言葉を聞いているとはるかは、泣きだしたいくらい不安になってしまった。 ・けこうじこく こうないほうそう と、そのとき、校内放送がかかった。スピーカーから「下校時刻になりました。まだ教 ほ - っそう いんこえき ひとかえよう しつのこ 室に残っている人は帰る用意をしてください。」という放送委員の声が聞こえる。 きよう なに とうどう はなし はな 「東堂さんが話してくれた今日の話は、おそろしいとは何か、ということをいろいろと考え せんせい げんじっ かな ぐんじん ぼうれい み ころ かんが きよう 133

2. 七時間目の怪談授業

きようしつ ・けこうじこく こんど 今度はちゃんと、いつもスピーカーから聞こえる「下校時刻になりました。まだ教室に ほうそう いんこえなが ひとかえよう 残っている人は帰る用意をしてください。」という放送委員の声が流れた。 たの はなしき しゅうかん かえじかん しろいろな話が聞けて楽しかったです。話 「さて、もう帰る時間ですね。この一週間は、 ) はなし せんせい あしたほうかご をしてくれたみなさん、本当にありがとう。では、明日の放課後は、お返しに先生が話を おも したいと思います。 はなし 「それもこわい話ですか ? 」 おも こえ ほんものゆうれい 健吾が手をあげて聞いた。さっきの放送を本物の幽霊の声だと思って大さわぎしていた のに、こりていないようすだ。 はなし 「そうですね。こわいと言えば、先生にとってこれほどこわい話はありません。この話を あした おも せんせい かん かいだん 知っているからこそ、どんな怪談もこわいと感じないのだと思います。明日は、先生がな おも はなし りゅう おも ぜ幽霊をこわいと思わなくなったか。その理由となった話をしたいと思います。 こと・は けんご 先生の言葉に、健吾はうれしそうだった。 とく かおはな かえみちまき 帰り道、真紀は得意げな顔で話しかけてきた。 のこ ゅうれい せんせい ほんとう せんせい ほ - つ、 - っ き かえ おお はなし はなし 223

3. 七時間目の怪談授業

おも じぶん にんぎよう ふしぎ 「そうね。人形って不思議よね。自分はかわいいって思っていても、他の人には気持ちが せんせい おも わる 悪いって思われたりすることがあるのよ。先生にはその気持ちがわかったから、マサオ君 きも かんじよういにゆう よりも妹のユウコちゃんの気持ちのほうに感情移入しちゃったな。」 ふるたせんせい そう言って、古田先生はうふふと笑った。 にんぎよう こうこうせい せんせい 「それに、先生は高校生になるくらいまで、人形とかぬいぐるみって、見てないときは勝 あと しん 手に動いてるものだって信じてました。夜、みんなが眠った後に、こっそりと起きだして 遊んでるって。だから、いつもオモチャ箱のふたは、きっちり閉めないようにしてあげて たの。」 こうこうせい 「え ? マジで ? 高校生って、それはちょっとヤバいよ、先生 : : : 。」 かお じゅんいちろうあき 純一郎が呆れたような顔をする。 たいせつ せんせい 「先生が大切にしていたのは、クマのぬいぐるみだけれど、ほんと生きてるような気がし おも てたもの。もし、動いたって、まったくおかしいとは思わなかったわ。」 すこ それを聞いて、はるかは少しだけうなずいた ( うん、ぬいぐるみなら、こわくない。私もお気に人りのウサギのぬいぐるみ、持ってる あそ てう′」 いもうと うご わら よる わたし ねむ せんせい ほかひと かっ

4. 七時間目の怪談授業

そこまで言って、先生はふと、いたずらっぽい笑みを浮かべた しゅうかんほうかご 「それでは、こうしたらどうでしよう ? これから一週間、放課後に希望者だけ残ってこ はなし わい話をしてもらいます。」 あっけ よそう ふるたせんせい 予想もしていなかった古田先生の言葉に、はるかは呆気にとられた。 はなしせんせい 「そして、もし、あなたたちの話で先生をこわがらせることができたら、携帯電話を羽田 かえ 野さんに返します。 ふるたせんせい 古田先生の目がはるかとあう。 はなし せんせい 「どうぞ、あなたたちが知ってるとびきりこわい話をして、先生に『幽霊はいるかもしれ おも せんせい ない。』って思わせてください。そうすれば、先生もサッちゃんの霊がこわくなって、携 はたの かえ たいでんわ 帯電話を羽田野さんに返すでしよう。」 ふるたせんせい そう言って、古田先生はにつこりと笑った。 はなし 「いいですよ ! わかりました。こわがらせる話ができたら、ちゃんとケータイを返して くださいね ! 約束ですからね ! 」 せんせい 真紀はにらむようにして、先生を見る。 やくそく せんせい わら ゅうれい きぼうしゃ けいたいでんわ のこ かえ はた

5. 七時間目の怪談授業

よ さいしょ じぶんおも すこ ほんき それどころか、最初にこのメールを読んで本気でこわがっていた自分を思って、少しお かしいような気持ちになった。 ( サッちゃんの霊、か : : : 。 ) こころなか 心の中でつぶやいてみる。 し まえじこ なまえおんな しようがっこうにゆうがく 小学校に入学する前に事故で死んでしまったサチコという名前の女の子は、もしかした ほんとう ら本当にいたのかもしれない そと くるまき かあ まえ お母さんは、 ) しつも外に行く前にうるさいほど、「車に気をつけなさいよ。」と注意する。 かな たの にゆうがくしきまえし ( 楽しみにしてた入学式の前に死んじゃったら、とってもとっても悲しいだろうな : むね かんが サッちゃんのことを考えると、はるかはこわさよりも、きゅっと胸が痛くなるようなさ びしさがわきあがってきた。 ( サッちゃんも、学校に行きたかったよね : : : 。友達、千人、作りたかったよね。 ) こころ もじみ かた ケータイの文字を見ながら、心でそう語りかける。 こた じゅんいちろう はるかは純一郎から、イヌはこわくないのか、とたずねられたとき、こう答えた。 なかよ : イヌとは仲良くなれるから : がっこう 0 ともだち にんつく こ ちゅう 255

6. 七時間目の怪談授業

だれ すずのわかぎわ 涼乃は別れ際、ここでイヌを飼ってるってことはぜったいに誰にも一言わないでね、とは やくそく るかたちに約束させた。 廃病院の裏口から出ると、真紀はもう一枚、パシャリと写真を撮った。 あしたあさも 「じゃ、いちおう、写真は現像してみて、明日の朝持っていくね。霊は写ってなさそうだ そして、はるかのほうを見て、つぶやく あした はなし 「明日のこわい話、どうしようね : おも それを聞いて、はるかも思いだした。 はなし あした せんせい ( そうだった、明日がこわい話をして先生からケータイを取りもどせる最後のチャンスな んだ。でも : : : 。 ) おも はいびよういんみ そう思って、廃病院を見あげる。 ばしよさんざんある ゅうれい ( なんか、幽霊が出るって噂の場所を散々、歩きまわって、しかも泣くほどこわい目に かん あと のろ あって、怪我までした後では、呪いのメールなんて、もうそんなにこわく感じなくなって はいびよういんうらぐち しやしんげんぞう うわさ しやしんと うつ 203

7. 七時間目の怪談授業

ひっしおも こころき はるかは必死の思いで、そう心に決めたのだった。 ほうかご 小林健吾は、わくわくしながら、放課後を待っていた。 はやほうかご 「あー、早く放課後にならねーかなー すせ けんごおも 椅子の背にもたれて、背伸びしながら、健吾は思わず一人でつぶやく さんすう たいいく きゅうしよく じかん じかん 算数の時間も、体育の時間も、給食の時間までも、早く終わって放課後になってほしい おも と思いなから、すごした。 けんごなに かいだんす 健吾は何よりも、怪談が好きなのだ。 よ ほん かいだん べっ 本なんてほとんど読まない健吾だけれど、怪談だけは別だった。図書室にあるこわい話 よ じぶん どくしやみ ほんとう かいだん は、ほとんど読んでいたし、自分でも『読者は見た ! 本当にあったおそろしい怪談』の も か シリーズをおこづかいで買って持っていた。 はなしす 「小林って、こわい話、好きなのか ? こえ せきかとうじゅんいちろう となりの席の加藤純一郎が声をかけてくる。 す 「おう ! むっちゃ好きー こばやし こばやしけんご せの じかん 0 ま はやお ひとり ほうかご としよしつ 0 はなし

8. 七時間目の怪談授業

とう ひつついてくるはるかに、お父さんはうれしそうに言う。 へん そうだん ( お父さんに、変なメールが来たことを相談しようかな : おも はるかは思ったが、なんとなく言いだせなかった。 とう かあ はや はんたい ( でも、もともと、お父さんもお母さんも、ケータイを持つなんて早すぎるって、反対し はなし こども へん てたもんなあ。だから、変なメールの話をしたら、ほら、やつばり子供はケータイなんて 持たないほうがいいのよ、とか言われそうだし : : : 。 ) かんが そう考えて、ため息をつく ふろ つづ 「ほら、お姉ちゃんがお風呂あがったから、あんたも続いて入りなさいね。 こえ お母さんの声に、はるかはつぶやいた。 ひとり 「一人で入るの、やだなあ : : : 。」 ひとり あのメールを読んでから、はるかは一人になるのがこわかった。 A 」う すると、お父さんは言う。 とう 「だったら、父さんと入るか ? 」 「えーっ、もう五年生なんだよ ? はずかしいもん。 レ」 - っ かあ ねえ ねんせい ひとり しいよ、一人で入ってくるよ。

9. 七時間目の怪談授業

のこ いちろう おれ 残されたはるかと純一郎は、ゆっくりと歩く。足をかばって歩くはるかのペースに、純 一郎もあわせていた はたの 「俺さ、羽田野がイヌにおそわれそうになったとき、すっげーこわかった。 じゅんいちろう ぼつりと純一郎が言った。 と はたの 「羽田野がもし、取り返しのつかないことになったら、どうしようって、マジ、あせった じっさい たいけん みぢかだれ から : : : 。身近な誰かが、そんなふうになるってこと、実際に体験したら、こわかったん かとうくん 「加藤君・ : わら じゅんいちろうて はるかが見あげると、純一郎は照れたように笑った。 はなし きようか おも はなし 「それでさ、ちょっと思いついた話があるから、今日、書いてみる。たぶん、この話な おも ふるたせんせい ら、古田先生もこわいって言うと思うんだ。」 「うん、ありがとうね おも たんさく あいかわらず足はズキズキと痛かったし、もう一一度と廃病院なんて探索したいとは思わ きよう いちにち じゅんいちろうえがおみ なかったけれど、純一郎の笑顔を見たはるかは、胸がきゅんっとして、今日はいい一日 み 0 あし じゅんいちろう かえ 0 ある あし にどはいびよういん むね ある じゅん 205

10. 七時間目の怪談授業

ゅうれいなかま ふるたせんせい : 、だから霊なんてこわくない : ( 古田先生が幽霊の仲間・ : くび 首をかしげて、はるかは考える。 ゅうれい ゅうれい がわ がわ しゆかん しゆかんきやっかん ( 主観と客観 : : : 主観 : : : あっち側とこっち側 : : : 幽霊の主観 : : : 幽霊の気持ち : ゅうれい ぶん 分がもし幽霊になったら、霊なんてこわくないのかな ? それでも、やつばり幽霊はこわ わら おなゅうれい じぶんゅうれい いんだろうか ? 自分も幽霊なのに、同じ幽霊をこわがってるなんて : : : ちょっと笑え こころなか ゅうれい じぶんそうぞう 自分の想像した幽霊の姿に、はるかは心の中でくすっと笑った。 ゅうれいなかま おも ゅうれい じぶんゅうれい ( 自分が幽霊になったら、もう幽霊をこわいとは思わないだろうな、たぶん。幽霊は仲間 ちから ゅうれい なんだから。幽霊ってどれくらい力があるものなのかな ? 幽霊になったら何をするんだ せいと おんがくしつ だれ ろう ? 誰もいない音楽室で、ピアノをポロロンポロリンって鳴らして、生徒をびつくり がっこうかいだん させたりすればいいのかな ? そして、学校の怪談として有名になるんだ。 ) おも すこ そんなことを思うと、はるかは少しおもしろくなった。 かんが ふるたせんせいじっゅうれい 古田先生が実は幽霊 : : : 、そう考えてみても、はるかは先生のことは、まったくこわく なかった。 すがた かんが しゆかん わら ゅうめい せんせい ゅうれい なに ゅうれい 211