かえ よ、つに帰ってしま、つからだ。 まど さつぶうけい し本ーかかっているはと時と、窓ぎわ それにしても、なんと殺風景なへやだろう。太 ) 主こ に置かれた古いつくえが、やけに目だつだけだ。 ぐち したそうこ かぎがかけてあるし、店のあげぶた 「どこからはいったの ? 下の倉庫の入り口には、 は、ちょっと見ただけではわかりつこないし。」 おとこひと チイおばさんは、その男の人をにらんだ。 「となりからはいったんしゃ。」 ひと こたつにはいって、やっと人ごこちついたらしい男の人が口をきいた。 あたま なにいってるのよ。見たところ頭はしつかりしてい 「となりからはいったですって ちか るようなのに。うちは、いちばん近いおとなりとだって、五百メートルははなれているの よ。なんでそこからはいれるの ? 」 「ほんとのとなりからしゃ。」 その人は、チイおばさんのことばをさえぎるように、「ほんとのところに力をこめて、 ふたりみ またくりかえした。そして、さあこれでわかっただろう、というように二人を見る。 ひと ふる ふと はしら おとこひとくち どナい みせ ちから
ころかりおりた。 「もうちょっとで、このまま下へ落っこちるとこだったしゃない。 チイおばさんが馬の首をたたきながら、がけをのぞきこんだ。そしてをあげた。 いちば 「すごい、カスミ。市場って、ここよ。火口にできてるのよ。」 チイおばさんは目をまん丸にして、アカネをがけつぶちに引っぱった。アカネも、おそ るおそる下をのぞきこんで目を見はった。 チイおばさんが火口だといったのも、もっともだ。下に見える、すりばち状のきな谷 きよじんこし あかちゃ には、草一本、木一本見あたらない。赤茶けた岩でできた巨人の腰かけるべンチのような ものが、階段のように下へむかってつづいている。まるできなきな野。場どい 0 た きようぎ」じよう そこ こよ、いろいろな色のテントがはってあるのが見 ところだ。底にある競技場のような部。 ( える。そのテントが豆つぶに見えるほどきな谷だ。 チイおばさんとアカネは、また馬車にもどった。さっきの雨でぬれてしまった地図を、 チイおばさんがとりだした。 「市場だけの地図は、裏にのっているんだわ。 くさばんき した ばんみ まる したお ばしゃ かこう 127
あ、早く、どしゃぶりの雨の中で、どろんこになって水と格闘したいよ。」 王子は両手をのばして、きくのびをした。 「そんなに好きなの : あめくに 「そ、フさ。ばくにはしたいことかし ) つばいある。時なし雨の国でなくちやできないことな すいろ みず くに んだ。ほらつ、こんなふうに水路を作ろうと思うんだ。こうすれば、水をどこの国へでも、 ばしやはこ 好きなだけ流してやれるだろう。いまみたいに、 たるにつめて馬車で運ばなくてもいしオ ろう。その水路を、どこまでもどこまでものばすんだ。地の境目までのばしてやる。 おうじ ひろ 王子は地図を広げて、それにたくさんの線を引いてみせた。そして、アカネとチイおば あたま しろくもなか さんが、ここはなんだろ、フと頭をひねったことのある白い雲の中にも線をのばした。 ′、も 「その、雲みたいなところは、いったいなんなの ? 」 ゅび アカネが指さした。 ようせい 「さあ、妖精たちがそこへうつり住んだっていう人もいるけど、たいていの人は、世の中 あく たちいりきんし の悪をそこへ追いはらったんだっていってるよ。だから、魔よけの石をおいて、立入禁止 になってるんだ。」 はや すいろ あめなか つく せんひ ひと とき みずかくとう せん ひと なか 168
ぐち ひとみ チイおばさんもそういいながら、うさんくさそうにその人を見た。 どの 「なに、ヒボクラテス殿のお弟子だというのか ? ヒボクラテス殿はどうしたのだ。もう いちば 市場の門は閉しられてしまったというのに。 いゆす その人は、チイおばさんのマントのえりもとをつかんで、チイおばさんをぐい りだした。 このマント、気にいってるんだから。」 「なにするの ! はなしてよ , おとこひと ひとて チイおばさんは、その人の手をふりほどいた。男の人は、そのはずみで、よろめくよう あいきどうだん に、しりもちをついてしまった。チイおばさんの合気道三段というのは、まんざらうそで 、もないらしい ふたり 「まったく変わった弟子ばかりとるお方だ。小人のつぎは、この二人ときている。 た ひと その人は、ぶつぶついって立ちあがった。そして、 したい、ど、フい、つことだ。まわりのテントからは、ヒボクラテスはロをたたきすぎ て、こわくなってにげたとか、身のほど知らすのうそっきだの、ひきよう者だのと、陰 めどきくに もの 口をきかれるしまつだ。そのおかげで、われわれ木の芽時の国の者は、ロをきいてももら もんと ひと どの かた こびと くち 142
男の人は、うれしそうに声をはりあげた。 しんばい 「心配いたしました。いま、まいります。」 したこえ こた 下の声は、そう答えた。しばらくすると、 ししよう 「お師匠さま、この戸をあけてくださいませ。 こえ ちか かおみあ と、近くで声がする。チイおばさんとアカネは顔を見合わせた。 「すまんが、戸をあけてやってくださらんか。」 ちか 男の人が、戸口にいちばん近かったアカネにたのんだ。 みみ アカネは、おそるおそる戸をあけてみた。そこにはだれもいない。そら耳だったにちが いない。あんな声をだす人間が、いや、ほかの動枷にしろ、いるなんて考えられない。だ おと かいだん しいち、あのギシギシいう階段が、ギーとも音をたてなかった。アカネが戸をしめてふり むいたとたん、 「お師匠さま、どうなすったのでございます。そんなおすがたでは、おかぜをめしますの こえ また、あの声がした。へやの中は、さっきと変わりがない。 おとこひと ししよう とぐち なか
) ッさんとかおっしやる方は、どこにおいでになるのかな ? 」 その人は何度もうなすいてみせて、チイおばさんにたすねた。 ねんまえし 「リッおばさんなら三年前に死んだわ。」 おとこひと それをきいた男の人は、ひどくあわてだした。 「それじゃ、ここはいま、だれのものなんしゃ。」 うえすぎ 「上杉チェ。すなわち、わたしのものよ。月さいころから、わたしがもらうことになって たんだもの。 「なんとい、つことじやろ、フ。まったく。こんなところまできて、こんなことになろ、つとは その人は、、つなるよ、フにそ、フい、フと、きゅ、つに立ちあがった。まゆをよせ、、つでをく こたつのまわりをまわりだした。 み、動枷園のくまのように、 「すわってよ。すわってちょうだい。 せまいところをそうドスドス歩きまわられたん しや、ほこりがたってしようがないしゃない。どうしたっていうの ? 」 その人は、むすかしい顔でチイおばさんを見おろしていたが、 ひとなんど ひと ひと かた かお ある
ドーンと地面へころがった。 ネの重みで、章からするずるとぬけだしてきて、 まほうつか 「ふう。ひどいめにあったもんしゃ。あのばあさんときたら、わしは魔法使いなどという きゅうしき 旧 1 八なものとはちか、フんしやと、いくら いいきかせても、わかりおらんのしやから。負け ずぎらいなばあさんしゃ。 と、ヒボクラテスは、いたそ、フに腰をのばした。 井戸のまわりでがやがやしていた人たちが、きゅうに静まりかえった。いよいよ、しす ぎしき く切りの儀式がはじまるらしい まえ アカネとヒボクラテスとピボの三人は人ごみをかきわけて、いちばん前にすえられた特 等席へはいっていった。・ ヘンチにふんぞりかえっていたチイおばさんが、 「あーら。ヒボクラテスしゃない。どこへいってたのよ。わたしはてつきり、カマドウマに な おも ぬまち かまがえるにでも変えられて、沼地でゲコゲコ鳴いているのかと思っていたのに と、目を丸くした。ヒボクラテスの讎に、かみなりのような青すしが走り、体かわなわな とふるえだした。 とうせき ど ひと にんひと しず じめん 213
いれている。ヒボクラテスまで、ハンカチで額をふいている。ピポは、いすの背にいこか おも と思うと、ランプシェードに飛びうつってみたり、テープルに飛んできてみたりしている。 あっくる 「ピボ、ぎよ、フぎがわるいぞ。すこしおちつくんしゃ。暑苦しくてかなわん。」 ヒボクラテスが、かみなりを落とした。 「申しわけございません。どこへ足をつきましても、まるで、フライバンの七にいるよう と、ピポはやっと、テープルのふちへ腰をおろした。 「おばっちゃま、おばっちゃま。お客さまでございますのに、そんなかっこうで : 「なに、ばあや、ヒボクラテスだろう。かまわん、かまわん。 こえ からだおとこ しいあらそう声がして、ドアがいきおいよくあけられた。そして、ころころした体の男 の人が飛びこんできた。 その人は、アカネたちかいるのを見ると、こまったように立ちどまった。 「おや、ご婦人ガもごいっしよか。それでは、このかっこうでは失礼だったかな。」 ひと たまご あたまさき あか その人は、ゆで卵みたいな、はげあがった頭の先まで赤くなった。そうなると、その人 ひと ひと ふじん・、た きやく ひたい ひと
あたま ポポはまた、頭のてつべんまでしわをよせていた。 、いなくなったって ? 「ええっ ふたり と、アカネは、とりちらかったへやを見まわした。そういえば、二人のすがたが見えな たいふうとお そうこ かえ 「倉庫から帰ってみると、まるで台風が通りすぎたような、こんなありさまで、ヒボクラ れんきんじゅっし テスとピポが、どこをさがしても見あたらん。きっと錬金術師のだれかが、さらっていっ たのだろう。」 なかまどうし 「どうして、仲間同士でさらったり、さらわれたりするの ? 」 ポポのことばに、アカネは目を見はった。 れんきんじゅっし せきにんかんつよ 弖し、フでの りつばな錬金術師だが、いばりたがるのと、おこ 「あれは責任感の虫、、 まはうつか てきおお りつばいので、敵が多い。このあいだも、魔法使いと、ものすごいけんかをしたらしい この国までうわさがきこえてきた。」 まほうつか 「なんで魔法使いと、けんかなんてするの ? 」 アカネの目が、さっきよりきくなった。どうして、ここに魔法使いかでてくるんだろ くに め み まほうつか み
アカネは目をかがやかせた。 「そりや、できるわい いまだって、契約してあるから、かべかあるように見えるもの の、こっさえわかれば、わしのように、すうっとでてこれる。しやが、わしらは、こんな あいだか けいやくしょ ところへこようとは思わんしやろうな。友だちの間で貸し借りするだけのことに契約書が おも いるような世に、だれがきたいと思うものか。」 けいやくしょ いんし ねんがっぴ 「なにが、こんなところよ。なにが契約書よ。年月日も印紙も、なにもないしゃないの。 契約書の内容ときたら、『わたくしことアントムは杉リツの友として、できるだけのこ そうこ とをすることをちかいます。』ただ、これだけよ。どうして、これでリッおばさんが倉庫 の伝の地所を借りていたことになるの ? あたま おとこひと チイおばさんがモップ頭をふりたてて、男の人にかみつかんばかりにまくしたてた。 「じゃが、契約書のあることはみとめるしやろうが。これはリッさんかいいだしてった けいやくしょ 契約書じゃそうしゃぞ。いかにもこちらの世恭らしいやり方しやわい。」 やく 「こんなもの、なんの役にもたちはしないわ。」 かみ チイおばさんは持っていた紙をほうりなげた。 けいや とも せか、 かた