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検索対象: 怪人二十面相
159件見つかりました。

1. 怪人二十面相

かかりちょう ーいカん こど、ばうせんと顔を見あわせるほかはありませんでした。 の警官も、あまりのことに、 しゅじん 「それから、警部さん、主人があなたにおわたししてくれといって、こんなものを書いて いったんですが。」 と とらきち コックの虎吉が、十徳の胸をひらいて、もみくちゃになった一枚の紙きれを取りだし、 係長の前にさしだしました。 なかむらかかりちょう 中村係長は、ひったくるようにそれを受けとると、しわをのばして、すばやく読みくだ むらさきいろ ふんぬ しましたが、読みながら、係長の顔色は、貭怒のあまり、紫色にかわったかと見えました。 もんごん そこには、つぎのようなばかにしきった文言が書きつけてあったのです。 った 小林君によろしく伝えてくれたまえ。あれはじつにえらい子どもだ。ばくはかわい ハ本君のためだって、ば くらカわししノ・不 くてしかたがないほどに思っている。だが、い しよう」り・ いっしんぎせい くの一身を犠牲にすることはできない。勝利によっているあの子どもには気のどくだ うで しようしようじっせけんきようくん が、少々実世間の教訓をあたえてやったわけだ。子どものやせ腕でこの二十面相に敵 たい 対することは、もうあきらめたがよいと伝えてくれたまえ。これにこりないと、とん ーいかんしょこ、つ だことになるぞと、伝えてくれたまえ。ついでながら、壑 = 官諸公に、少しばかりばく いじよう の計画をもらしておく。羽柴氏は少し気のどくになった。もうこれ以上なやますこと こばやしくん じ つ ノし、く む ね めんそうてき 103

2. 怪人二十面相

けいぶ のですね。二十面相がこんなきたねえ男だと思っているんですかい。警部さんも目がない ねん。ゝいかげんにわかりそうなもんじゃありませんか なかむらかかりちょう 中村係長は、それを聞くと 、ハッと顔色をかえないではいられませんでした。 「だまれツ、でたらめも ) しいかげんにしろ。そんなばかなことがあるものか。きさまが二 こばやししようねん レようめい 十面相だということは、小林少年がちゃんと証明しているじゃないか。」 わら 「ワハ それがまちがっているんだから、お笑いぐさでさあ。あたしはね、べっ になんにも悪いことをしたおばえはねえ、ただのコックですよ。二十面相だかなんだか知 とらきち らないが、十日ばかりまえ、あの家へやとわれたコックの虎吉ってもんですよ。なんなら、 おやかた コックの親方のほうをしらべてくださりや、すぐわかることです。」 ろうじんへんそう 「その、なんでもないコックが、どうしてこんな老人の変装をしているんだ。」 「それがね、いきなりおさえつけられて、着物を着かえさせられ、かつらをかぶせられて しまったんでさあ。あたしも、じつは、よくわけがわからないんだが、おまわりさんが、 しゅじん ゃねうらべや ふみこんできなすったときに、主人が、あたしの手をとって、屋根裏部屋へかけあがった のですよ。 とだな いしよう あの部屋にかくし戸棚があってね、そこにいろんな変装の衣装が入れてあるんです。主 ぼうし 人はその中から、おまわりさんの洋服や、帽子などをとりだして、手早く身につけると、 わ めんそう よ、つふく きもの み

3. 怪人二十面相

小林君は、キッパリと答えました。 どうだね、きみ、子どもの眼力にかかっちやかなわんだろう。きみが、な んといいのかれようとしたって、もうだめだ。きみは一一十面相にちがいないのだ。」 かいと、つ なかむらかかりちょう 中村係長は、うらみかさなる怪盗を、とうとうとらえたかと思うと、うれしくてしかた ましようめん こういって、真正面から賊をにらみつけまし がありませんでした。勝ちほこったように、 「ところか、ちがうんですよ。こいつあ、こまったことになったな。わしは、あいつが有 名な二十面相だなんて、少しも知らなかったのですよ。」 しんし 紳士に化けた賊は、あくまでそらとばけるつもりらしく、へんなことをいいだすのです。 「なんだって ? きみのいうことは、ちっともわけがわからないじゃないか。」 かだまっか 「わしもわけがわからんのです。すると、あいつがわしに化けてわしを替え玉に使ったん お ) おゝ、ゝ ) かげんにしたまえ。いくらそらとばけたって、もうその手には乗らん せつめい 「いやいや、そうじゃないんです。まあ、落ちついて、わしの説明を聞いてください。わ しは、こういうものです。けっして二十面相なんかじゃありません。」 こばやしくん がんりき めんそう ゅう 1 6 9

4. 怪人二十面相

なんだかへんだなとは思いましたが、とにかく先方のいうままになるという約束ですか うんてんしゅ ら、わしはすぐ運転手に、フル・スピ 1 ドで走るようにいいつけました。 わせだだいがく それから、どこをどう走ったか、よくもおばえませんが、早稲田大学のうしろのへんで、 じどうしゃ あとから追っかけてくる自動車があることに気づきました。なにがなんだかわからないけ れど、わしは、みようにおそろしくなりましてな。運転手に走れ走れとどなったのですよ。 しようち それからあとは、ご承知のとおりです。お話をうかがってみると、わしはたった五十円 かだまっか めんそう の礼金に目がくらんで、まんまと一一十面相のやつの替え玉に使われたというわけですね。 いやいや、替え玉じゃない。わしのほうがほんもので、あいっこそわしの替え玉です。 ふくそう まるで、写真にでもうっしたように、わしの顔や服装を、そっくりまねやがったんです。 しようしんしようめいまっしたしようべ それがしようこに、ほら、ごらんなさい。このとおりじゃ。わしは正真正銘の松下庄兵 衛です。わしがほんもので、あいつのほうがにせ者です。おわかりになりましたかな。」 松下氏はそういって、ニューツと顔を前につきだし、自分の頭の毛を、カまかせに引っ ばってみせたり、ほおをつねってみせたりするのでした。 なかむらかかりちょう ああ、なんということでしよう。中村係長は、またしても、賊のためにまんまといつば けいしちょう きようぞくたいほ いかつがれたのです。警視庁をあげての、凶賊逮捕の喜びも、ぬか喜びに終わってしまい ました。 れいきん しやしん もの よろこ やくそく 173

5. 怪人二十面相

き しようねんだん あけちてい そして、一同は少年団のように、足なみそろえて、明智邸の門外へ消えていくのでした。 午後四時 にん よかりよう そうさく しようねんたんていだん 少年探偵団のけなげな捜索は、日曜、月曜、火曜、水曜と、学校の余暇を利用して、忍 たいづよ 耐強くつづけられましたが、いつまでたっても、これという手がかりはつかめませんでし しかし、東京中の何千人というおとなのおまわりさんにさえ、どうすることもできない むのう しようねんそうさくたい ほどの難事件です。手がかりがえられなかったといって、けっして、少年捜索隊の無能の 3 てがら せいではありません。それに、これらの勇ましい少年たちは、後日、またどのような手柄 をたてないものでもないのです。 あけちたんてい ふめい 明智探偵ゆくえ不明のまま、おそろしい十二月十日は、一日一日とせまってきました。 とうなんよこく けいしちょう 警視庁の人たちは、もういてもたってもいられない気持ちです。なにしろ盗難を予告され めんそうじけんかんけい そうさかちょう こっかほうもっ しなもの た品物が、国家の宝物というのですから、捜査課長や、ちよくせつ一一十面相の事件に関係 しんばい なかむらかかりちょう している中村係長などは、心配のためにやせほそる思いでした。 せけん もんだい ところが、問題の日の二日前、十二月八日には、またまた世間のさわぎを大きくするよ と、つきようじゅう なんじけん ごじっ

6. 怪人二十面相

士と、さも仲よしのように、ずっと、さいせんから手をにぎりあったままなのです。 むいみ 「ホウ、無意味でなかったって ? それはいったい、どういうことなんだね。」 めいたんてい けいしそうかん 警視総監が、 ふしぎそうに名探偵の顔を見て、たすねました。 「あれをごらんください。 あけちまど はくぶつかんうらて ゅび すると明智は窓に近づいて、博物館の裏手のあき地を指さしました。 「ばくが十二月十日ごろまで、待たなければならなかった秘密というのは、あれなので にほんだ はくぶつかんそうりつとうじ そのあき地には、博物館創立当時からの、古い日本建ての館員宿直室が建っていたので ふよう すが、それは不用になって、数日前から、家屋のとりこわしをはじめ、もうほとんど、と ふるざいもく りこわしも終わって、古材木や、屋根がわらなどが、あっちこっちにつみあげてあるので す。 かんけい ふるや 「古家をとりこわしたんだね。しかし、あれと二十面相の事件と、いったい、なんの関係 があるんです。」 けいじぶちょう 刑事部長は、びつくりしたように明智を見ました。 。どなたか、お手数ですが、中にいる中村 「どんな関係があるか、じきわかりますよ : ひる けいかん けいぶ 警部に、きよう昼ごろ裏門の番をしていた警官をつれて、いそいでここへ来てくれるよう し 0 なか うらもん かおく めんそう じけん ひみつ かんいんしゆくちよくしった なかむら

7. 怪人二十面相

きもの 今まで着ていたおじいさんの着物を、あたしに着せて、いきなり、『賊をつかまえた』と みう・」 どなりながら、身動きもできないようにおさえつけてしまったんです。今から考えてみる けいぶ めんそう と、つまり警部さんの部下のおまわりさんが、二十面相を見つけだして、いきなりとびか ぐら しぼい ゃねうらべや かったという、お芝居をやってみせたわけですね。屋根裏部屋はうす暗いですからね。あ のさわぎのさいちゅう、顔なんかわかりつこありませんや。あたしは、どうすることもで きなかったんですよ。なにしろ、主人ときたら、えらいちからですからねえ。」 なかむらかかりちょう むごん たくじよう 中村係長は、青ざめてこわばった顔で、無言のまま、はげしく卓上のベルをおしました。 おもてぐちうらぐち けいかん とやまがはらはいおく そして、警部が顔を出すと、けさ戸山ヶ原の廃屋を包囲した警官のうち、表ロ、裏口の見 った はり番をつとめた四人の警官に、すぐ来るようにと伝えさせたのです。 やがて、はいってきた四人の警官を、係長は、こわい顔でにらみつけました。 たいほ 「こいつを逮捕していたとき、あの家から出ていったものはなかったかね。そいつは警官 ふくそう の服装をしていたかもしれないのだ。だれか見かけなかったかね。」 おう その問いに応じて、ひとりの警官が答えました。 「警官ならばひとり出ていきましたよ。賊がっかまったから早く一一階へ行けと、どなって かいだん はんたい おいて、ばくらがあわてて階段のほうへかけだすのと反対に、その男は外へ走っていきま した。 しゅじん 101

8. 怪人二十面相

いっせつな きかい 一刹那、ふしぎに人々の目が賊をはなれたのです。賊にとっては絶好の機会でした。 めんそう まんしん なかむらかかりちょう 一一十面相は、歯を食いしばって、満身の力をこめて、中村係長のにぎっていたなわじり を、パッとふりはなしました。 「ウム、待てツ。 係長がさけんで立ちなおったときには、賊はもう十メートルほど向こうを、矢のように きみようすがた 走っていました。うしろ手にしばられたままの奇妙な姿が、今にもころがりそうなかっこ うで森の中へとんでいきます。 さんば 森の入り口に、散歩の帰りらしい十人ほどの小学生たちが、立ちどまって、このようす をながめていました。 一一十面相は走りながら、じゃまつけな小僧どもがいるわいと思いました。森へ逃げこむ には、そこを通らぬわけにはいきません。 なあに、たかのしれた子どもたち、おれのおそろしい顔を見たら、おそれをなして逃げ だすにきまっている。もし逃げなかったら、蹴ちらして通るまでだ。 とっしん しあん 賊はとっさに思案して、かまわず小学生のむれに向かって突進しました。 ところが、二十面相のおもわくはガラリとはずれて、小学生たちは、逃げだすどころか、 ワッとさけんで、賊のほうへとびかかってきたではありませんか。 こぞう ゼっこう 237

9. 怪人二十面相

こばやししようねんすがた ぐら がんで、うす暗い地下室をのぞいていたひとりが、小林少年の姿をみとめて、 「いる、いる。きみが小林君か と呼びかけますと、待ちかまえていた少年は、 「そうです。早くはしごをおろしてください とさけぶのでした。 ぞくすがた かいか いつばう、階下の部屋部屋は、くまなく捜索されましたが、賊の姿はどこにも見えませ めんそう 「小林君、二十面相はどこへ行ったか、きみは知らないか。」 なかむらかかりちょう いようころもすがた やっと地下室からはいあがった、異様な衣姿の少年をとらえて、中村係長があわただし 9 くたすねました。 「つい今しがたまで、このおとし戸のところにいたんです。外へ逃げたはすはありません。 二階じゃありませんか。」 小林少年のことばが終わるか終わらぬかに、その二階からただならぬさけび声がひびい てきました。 「早く来てくれ、賊だ、賊をつかまえたぞ ! ろうかおくかいだんさっとう それっというので、人々はなだれをうって、廊下の奥の階段へ殺到しました。ドカドカ へや こばやしくん そうさく

10. 怪人二十面相

「きみたち、そいつを自動車へ乗せてくれたまえ。ぬかりのないように。」 かかりちょうめい けいかん ろうじん 係長が命じますと、警官たちは四方から老人をひったてて、階段をおりていきました。 あけち こばやしくんおおてがら 「小林君、大手柄だったねえ。外国から明智さんが帰ったら、さぞびつくりすることだろ あいて めんそう おおもの う。相手が一一十面相という大物だからねえ。あすになったら、きみの名は日本中にひびき わたるんだぜ。」 なかむらかかりちょうしようねんめいたんてい かんしゃ にぎりしめるのでし 中村係長は少年名探偵の手をとって、感謝にたえぬもののように、 こばやししようねんしようり さいしょ かくして、たたかいは、小林少年の勝利に終わりました。イ ( 。 ム象よ、最初からわたさなく てすんだのですし、ダイヤモンドは六個とも、ちゃんとカバンの中におさまっています。 くしん 勝利も勝利、まったく申しぶんのない勝利でした。賊は、あれほどの苦心にもかかわらす、 かんきん すく かれ 一物をも得ることができなかったはかりか、せつかく監禁した小林少年は救いだされ、彼 じしん 自身は、とうとう、とらわれの身となってしまったのですから。 めんそう 「まく、なんだかうそみたいな気がします。二十面相に勝ったなんて。 こうふん しん 小林君は、興奮に青ざめた顔で、何か信じがたいことのようにいうのでした。 たいほ しようねんたんてい わす しかし、ここに一つ、賊が逮捕されたうれしさのあまり、少年探偵がすっかり忘れてい たことがらがあります。それは二十面相のやとっていたコックのゆくえです。彼は、いっ いちぶつ も、つ じどうしゃ ぶつぞう かいだん