くろ しんろうしんぶ した男が、黒いフロックコートをきて、新郎新婦、つまりリヒャルトと にいづま 新妻をみていたのだ。あれから三十年もたっているのに、男の年かっこ ふくそう う、服装はそのままだった。 きみよう しかも奇妙なことに、 この男は、みなにおくった写真にはいないのに、 リヒャルトの手もとにある写真にだけうつっていた。 し」と でんげん それから数日後、仕事をおえたリヒャルトが、コンピュータの電源を がめん きったときだ。くらくなった画面にあの男かうつって、リヒャルトにわ らいかけた。おどろいてあたりをみまわしたが、だれもいなかった。 うんてんちゅう また、べつの日には、運転中のバックミラーに、あの男かうつった。 あわてて車をとめて、うしろをみるが、男はいなかった。 すうじつご しやしん しやしん とし 1 〇 2
と、どこだったろう ? あっ、あのときのきれだ。しゃあ、この人は : : : ) 四日まえの午後のことだ。 きんじよ ぼち けいすけ 啓介はクラスの子と、近所の墓地でおにごっこをした。墓石のまわり はかいし け . い亠 9 け・ をはしりまわっているうちに、啓介は墓石のすぐわきの、やわらかい土 の中へ、足をつつこんでしまった。 あな けがはしなかったが、足をひっこぬいたら、おわんぐらいの穴かあい はかいしはんぶん ている。すぐわきの墓はふるいらしい。墓石が半分土の中にめりこんで、 かたむいている。墓石にきざんである文字も、すりへっていてよめなか つ、」 0 ーカしし は。かい 1 レ 2 4
あらしのあと、浜辺にうちよせられたのはニーナのポートだけでした。 そして、たすかったのは、ニーナ、ただひとりでした。 しやしんげんぞう スイスにもどってから、ニーナがとってきた写真を現像すると、ふし ぎなものがうつっていました。あの、ポートにのるまえに三人でとった しやしん 写真には、二枚とも、ニーナをだきしめるような白いかげがうつってい かみ たのです。白いかげは、ながい髪をした女性のようにもみえました。 「ニーナ、これはかあさんだよ。おまえのかあさんがたすけてくれたん だよ ! 」 ちちおや 父親が、写真をみておどろいていいました。 しやしん はまべ じよせい 7 6
をにらんでいるー こえ よこから写真をのぞいていた美咲も、ふるえる声でいった。 まお 「真央、女の人がこっちむいてるー うしろむきだったのに ! 」 みさき しんれいしやしん 「美咲、これ、ほんものの心霊写真だよ」 「こんな気持ちわるい写真もってたらたいへんだ」 ふたりは写真を神社へもっていき、おがんでもやしてもらった。 よ あれは、この世にうらみをもったままなくなった、女の人だったのだ までもわからないま ろうかどうしてあの写真にうつりこんだのか、い しやしん しやしんじんじゃ しやしん しやしん みさき 8 7
しん : この女の人、お墓をもとにもどせって、いってるんだ , 「そ、つか : しちごさんしゃ ゅめ きものがら 夢の中では、こわくて着物の柄なんかみなかった。でも、七五三の写 真のように大きくのはした写真では、よくわかる。カラーだし。たしか にあのきれだ。 けいすけ 啓介はおもいきって、かあさんにわけをはなした。 ゅめ あな はかば 墓場でのこと、穴の中の布のこと、そして夢のことなどを。そしたら かあさんに、 「だから、お墓であそんしゃいけないって、いってるでしよ。お墓はな 、ぼ , っ くなった人の家なのよ。なくなった人がねむっている家を、棒ではしく しやしん ぬの
けっこん それからまもなく、リヒャルトは結婚した。両親とおなじ、町の教 」カし きようかい しやしん 会で式をあげたので、おなしように、教会をバックに写真をとった。 そふぼ りようしん しん 祖父母こそかけていたが、両親のときとおなしような親せきが、三 ねんげつ 十年の年月をへて、そこにならんだ。 しんこんりよこう しやしん 新婚旅行からかえって、できた写真をみたリヒャルトは、おどろいた。 りようしん 両親のときとおなじように、あの男が、そう、あの目のぎよろりと リヒャルトは、男が礼服をきていることから、たまたまうつったとは ちちおやくちょう いじよう おもわなかったが、父親の口調から、これ以上せんさくしてはいけない ような気がして、この男のことはそのままになった。 しき れいふく りようしん きよ、フ 1 〇 1
それからというもの、リヒャルトは、たえずみられているような気か でんしゃ した。あるいているときも、電車にの「ているときも、どこからか視線 をかんしていた。 ほどう そんなある日、バスの中から外をながめていると、歩道をあるくあの しやしん 男が目にとま「た。男はふるい写真そのままのいでたちで、歩道をある き、バスの中のリヒャルトに手をふった。 、やしい そと 1 〇 3
ちちおや 男がリヒャルトの父親だったというのは、ほんとうだった。男は、か じこ ははおやこんやくしゃ ふりよ ってリヒャルトの母親の婚約者だったのだが、不慮の事故でなくなった ははおや のだという。しかし、そのとき、母親はリヒャルトを身ごもっていた。 きぞく ちちおや しそん あの男、リヒャルトのしつの父親は、貴族の子孫で、小さな城と、か ざいさん なりの財産がのこされていた。 だが、それをうけつぐものか、おまえしかいない べんごしれんらく どうか、これをうけついでほしい。わたしの弁護士に連絡をとりなさ れんらくさき とあって、連絡先がかかれていた。 み しろ 1 07
リヒャルトはおどろいたが、こわいよりも、いったいなんなのだ、自 おも 分になんの用かあるのだ、という田 5 いのほうかつよかった。 リヒャルトはみうしなうまいと、目で男をおいかけながら、あわてて てい つぎのバス停でおりた。そして、男をおった。 どお みち 男はしばらくバス通りをあるくと、よこ道にはいり、どんどんすすん でいった。でも、ときどき、うしろからくるリヒャルトに手をふり、合 図をした。 はかば 男のあとをあるいていくと、まもなく墓場にたどりついた。リヒャル あたま トはぎくりとしたが、もうついていくことしか頭になかった。 あんない あいず 男ま ) ヒャルトを案内するかのように、角かどで合図をして、とび ぶん よう かど 1 04
きろく おくられてきました。記録とし ほぞん しやしん て保存するだけの写真ですが、 す、つまい 数枚のそのなかに、せりの上で かしゅしやしん うたう、あの歌手の写真があり ました。なにげなく手にとって、 ばくは息をのみました。 歌手のやさしいかたのところ ちからしごと に、カ仕事をする男の手のよう けつかん かたて な、血管のうきでた片手が、ま ざまざとうつっていたのでした。 かしゅ