なみ 子どもたちは、いそいで浜辺にもどろうとしましたが、波にもまれて、 おもうようにはいきません。ポートは木の葉のようにゆれました。 ピカッ、ヒカッ、ズダーンー 「あー、たすけて ! 」 「水が : なみ 子どもたちはポートごと、つぎつぎと、大きな波にのみこまれていき ました。ニーナは、むちゅうでポートのヘりにしがみつきました。その とき、なにかが、 ニーナのからだの上にふわっとかぶさるような : ニーナは、たしかに、そんな気がしたのです。が、そのあと、気をうし なってしまいました。 はまべ こ 5 6
あらしのあと、浜辺にうちよせられたのはニーナのポートだけでした。 そして、たすかったのは、ニーナ、ただひとりでした。 しやしんげんぞう スイスにもどってから、ニーナがとってきた写真を現像すると、ふし ぎなものがうつっていました。あの、ポートにのるまえに三人でとった しやしん 写真には、二枚とも、ニーナをだきしめるような白いかげがうつってい かみ たのです。白いかげは、ながい髪をした女性のようにもみえました。 「ニーナ、これはかあさんだよ。おまえのかあさんがたすけてくれたん だよ ! 」 ちちおや 父親が、写真をみておどろいていいました。 しやしん はまべ じよせい 7 6
たのは、この子がのりうつっていたからなのですね。 こっかい じよせいと 「青い黒海で」ポートにのった女生徒たちが、とっぜんあらしにみまわれ、ポートは なみ 波にのまれ、たすかったのはニーナただひとりでした。ニーナだけがたすかったわけ は、ポートにのるまえにとった写真からあきらかになります。 しんれいしやしん とうじよう はなししゅじんこう 「心霊写真さがし」に登場する写真の中の女は、この話の主人公たちとは、なんの じっさい しんれいしやしん ぐうぜん えんもない人です。実際、心霊写真のおおくは、偶然にうつるこうした霊がはとんど しやしん です。それにしても、この写真の女、ふりむいて、なにがいいたかったのでしようか はながら よ よ げんじっ せかい 「花柄のプラウスかー」は、あの世とこの世という、現実には大きくへだたった世界 ろうふうふ はなし たましい にすみながら、心をかよわせる老夫婦のふしぎな話です。死んだ人の魂がチョウや よ はなし ガ、セミなどにすがたをかえて、この世にやってくるという話はよく耳にします。 げきじようゆうれい ろくおん こ、ん 劇場に幽霊がでるとか、そこで録音されたテーフに、みような声がはいったとい はなし と′、てい えんもくじようえん はなし った話はよくあります。また、特定の演目を上演すると、たたるといった話もあり ならく げきじようし おおどうぐ ます。「奈落」では、かってこの劇場で死んだ大道具のべテランの霊が、ときどきす こころ しやしん しやしん し 1 4 〇
うれしくなりました。 「ね、ポートのそばで、三人で写真をとろうよ」 ちちおや ャーナかいいだしました。ニーナは、父親から、カメラをかりてもっ ていたので、先生にとってもらいました。 せんせい しやしん
「はい、もう一枚ー 先生は、一一枚、うっしてくれました。 おき 「あまり、冲のはうにでてはいけませんよ . なみ こえ 波うちぎわにあった七そうのポートは、子どもたちのはすむ声をのせ うみ うみ おき て、かろやかに海にこぎだしました。海は、冲のほうまで白くひかって うみ さお ないでいます。空も海も、まっ青です。 うみ きみ くろくも ところが、しばらくたっと、海の上に気味のわるい黒い雲があらわれ くろくも うみ ました。黒い雲は、あっというまに、大きくなって、海の上をおおい ヒカッ、。 ヒカッと、 いなすまがはしりました。雨がはげしくふりだし、 うみ くろ 青かった海は、まっ黒です。 せんせい 4 6
がしすかで、青いペンキをとかしたような、きれいな色をしていました。 うみ くろうみ 「こんな青い海を、黒い海なんていうのは、どうしてかしら」 力し 子どもたちはそう いいなから、浜辺で貝をひろったり、およいだりし ひかり てあそびました。水がすんでいるので、ゆらゆらした光の中をうごきま さかな さかなむ わる小さな魚がみえます。手をのはして魚の群れをおったりしているう なんにち ちに、何日かたちました。 うみ あさ その日は、海が、朝からとてもしすかでした。 「みなさん、きようはポートにのりましよう。三人すつにわかれて : : : 」 しめい みんな、先生のことはに、どきどきしながら指名されるのをまちまし た。ニーナは、なかよしのヤーナとリーダといっしょの班になったので、 せんせい はまべ いろ はん
とうきよ、つ 東京ディズニーシーへきたー ひろし 弘たち三人のほほが、しぜんにゆるむ。ゲートをとおったとたんに、 ひろし すしん、とかたがおもくなった弘は、 「よせよ」 えがお あきらしげき と、笑顔でふりむいた。明か茂樹が、ふざけてかたにとびついた、とお もったから。 ディズニーシーへ いきたい もりしたまり 森下真理 8 4
くろ しんろうしんぶ した男が、黒いフロックコートをきて、新郎新婦、つまりリヒャルトと にいづま 新妻をみていたのだ。あれから三十年もたっているのに、男の年かっこ ふくそう う、服装はそのままだった。 きみよう しかも奇妙なことに、 この男は、みなにおくった写真にはいないのに、 リヒャルトの手もとにある写真にだけうつっていた。 し」と でんげん それから数日後、仕事をおえたリヒャルトが、コンピュータの電源を がめん きったときだ。くらくなった画面にあの男かうつって、リヒャルトにわ らいかけた。おどろいてあたりをみまわしたが、だれもいなかった。 うんてんちゅう また、べつの日には、運転中のバックミラーに、あの男かうつった。 あわてて車をとめて、うしろをみるが、男はいなかった。 すうじつご しやしん しやしん とし 1 〇 2
しんい力し さんれつ リヒャルトは、そこに参列する人たちを、ひとりひとりみていた。 げんき そふぼ まも元気な親族たちをおもいう 祖父母はすでになくなっていたが、い かべて、かつぶくのいいあの伯父にも、こんなにやせたときがあったの か、などとおもいなからみていくと、しらない男がひとりいるのに気が ついた。 リヒャルトは、自分がこの男をしらないというだけでなく、この男か、 しんろうしんぶ ふしぜん 不自然によこをむき、しっと新郎新婦をみているのが気になった。 こいつはだれだろうと、当日とったほかの写真をみてみるが、この写 あたま 真以外にはうつっていなかった。すこし頭のうすくなった、目のぎよろ くろ せいそう りとした男で、正装の、黒のフロックコートをきていた。 じぶん とうじっ しやしん しんぞく しゃ 9 9