よっや 「あのう、お客さん、四谷のどのへんですか」 へんじ 返事がありません。あわててミラーをのぞくと、女の人の姿がうつり ません。 きぶん ( あれ、気分でもわるくなって、シートによこになっているのかな ) 「もしもし、だいじようぶですか にしやま 西山さんは車をとめて、うしろの席をのぞきました。ふしぎなことに、 女の人はちゃんとすわっていました。 きやく よっや 「お客さん、そろそろ四谷ですよ」 と、西山さんかいうと、 にしやま きやく せき すがた
はやくとおりぬけようと、アクセルをふんだとたん、くらかりから白 いワンピースをきた女の人がでてきて、手をあげました。 よっや 「四谷へおねがいします , こえ のりこんできた女の人は、ほそい声でいいました。 西山さんがそっとミラーをのぞくと、女の人は、じっとシートにもた れていました。 かおいろ : どこかわるいのかもしれないなあ ) ( それにしても、顔色がさえなし なんとなく気になり、ちらちらっとミラーをのぞきましたが、女の人 いってん は、一点をみつめたきりでした。 しんや 西山さんは深夜の雨の中をいそぎました。 にしやま にしやま 2 5
あおやまぼち 「青山墓地です , きよねんこ、つつうじこ 「やつばり : : : そうでしたか。じつは、むすめは去年、交通事故で亡く しゅうき なったのです。きようが、ちょうど一周忌だったんです」 「そうでしたか : : : 」 タクシー代をもらって、西山さんは車にもどりました。うしろのシー トをみると、ぐっしよりぬれていました。 たい にしやま 8 5
雨の夜の えん 雨の夜でした。 うんてんしゅにしやま あおやま タクシー運転手の西山さんは、赤坂から青山へぬける道を、車をはし らせていました。 みち いっ・か′、 この道はとちゅうに一画、木がくらくしげり、その下に古い墓がなら と、つきよう んでいるところがあります。そこが、東京でもいちはん古い三つの霊 あおやまぼち 園のひとつ、青山墓地です。 よる よる きやく あかさか いわさききよ、つこ 岩崎京子 みち ふる ふるはか 5
いえ 「あ、そこです。その門灯のついている家です。いま、お金をとってき ますので、まっていてください」 もん 女の人は、タクシーをおりると、門の中へはいっていきました。とこ ろがそのまま、なかなかでてきません。 いえ 西山さんは車をおりて、その家のよびりんをおしました。するとおく さんらしい人かでてきました。 ふじん 「あのう、いま、わかいご婦人をおおくりしてきたのですが、お金をと りにいかれたままもどっていらっしやらないので : : : 」 ふじん 「わかいご婦人 ? そんな人、きませんよ」 いえ 「いえ、たしかにこちらの家にはいっていかれました にしやま もんと、つ 6 5