このお城には、だれひとり、おまえのめんどうをみてくれる者は、おらなんだのか 。おおっ : 生きておるおまえに、なにも食べさせてはくれなんだのか : かわ しみ、一つに・ おおっ : とうとう、このようにうえ死にしてしもうとは : と、その場になきくずれた。 殿さんはじめ、お城の人たちは、あんまりしんけんな彦市のようすに、だれひとり、も のをいうものは、おらなんたということじゃ。 庭の雨は、まだ、ふりつづいておった。 しろ もの 127
しょ むひつねが 無筆の願い書 むかし、むかし。 どえらいききんがあった年じゃ。百姓たちは、すっかりこまりはててしもうたわい。そ こで、みなみな、ひたいを集めて考えたが、とどのつまりが、 だいかん ねがしょ ねんぐ 「こりゃあ、代官さまに願い書をかくべえよ。なんとしてでも、ことしの年貢は、かんべ んしてもらわにゃあ。 いうことになった。 じ ところが、だれひとり、字の書けるものがおらん。 「やれやれ、なさけない。」 と、ため息をついておると、中のひとりが、 「よしきた。いい 考えがある。わしにまかしときつ。」 と、胸をたたいてひきうけた。 むね あっ ひやくしよう 192
かしこい子ども むかし、むかし。 いくさ ある村に、ひとりのじいさまがおった。はたらきざかりのむすこは、戦にとられて死ん たきち でしまい、のこ 0 た嫁はながの病 ~ とうとう、孫の太吉ひとりをのこして、これも死んで しもうたワ。 ところが、ようしたもんで、この孫の太吉は、村のみんなから、 「日本じゅうさがしても、あんなかしこい子はおらん。」 と、いわれるほどのりこう者 との そのことが、いっか殿さまのお耳にはいって、 ど 「どりや。その小僧をよびつけて、一度ためしてみよう。 いうことになったわい。 ごてん 殿さまは、太吉を御殿によんで、一つのようかんを二つに切って食べさせた。そして、 こぞう よめ もの わ ず た 221
「ほほ一つ : これは、木びきが、木をひいておるところでございますかい。」 「いかにも。」 「だめ、だめ。木をひいておるというに、おがくずがございませぬ。」 きやく ほかの客たちが、ひとりふたりと、そばへよってきた。 絵師は、また、一枚かいて五作にさしだした。 「これは、 しかがでござる。」 見ると、ひとりの男が川からあがってきたところ 「ほほう。なかなかようかけておりますな。」 と、まずはほめたが、五作はことばをつづけて、 しゅぎよう 「おしいことに、あなたさまは、まだ修業がたりませぬ。」 「な、なんともうされる。」 「いや、そうむきになることはござりませぬ。ただ、ほんのちょっぴり、あなたさまは、 ものの見方がたりませぬ。」 こ すつばだかで、 ふんどし一つ。
るすばんめがね むかし。お江戸は神田に、有名なはんこ屋があった。 そこのおやじさんというのは、もう年よりなので、いつもめがねをかけて、仕事をして おった。 ある日のことじゃ。 きやく ひとりの客がやってきた。はんこをちゅうもんして、さきにお金をはらうと、 とうか 「この十日に、きっととりにくるから、その日に、きちんと、わたしておくんなさい。」 かならず、おわたしいたします。」 「はい、しようちしました。十日には、 はんこ屋のおやじさんは、かたく約束して、金をうけとった。 さて、十日という日。 れいのお客が、はんこをとりにやってきた。 ところが、ちょうどおやじさんがるすで、むすこがひとり、店番をしておった。 かんだ ゅうめい やくそく みせばん かね し′」と
鉄砲と財布 むかし、むかし。 ふこう な おかみに不幸があってナ。琴・三味線はもとより、鳴りものいっさいまかりならぬとい う、きびしいおふれが出たわい。 かりゅうど そのころ、ある村に、ひとりの狩人がおった。きつねをとろうと、鉄砲をかついで、山 やくにん をあるいておると、いきなりひとりの役人がとんできた。 「やい、やい鉄砲も鳴りものじゃそ。鳴りものは、 いっさいならぬということ、知らぬ ではあるまい。このふらち者めがつ。」 どなりつけるといっしょに、鉄砲をとりあげてしもうた。 「ど、どうそ、おゆるしくだされ。おかみのおきてをやぶろうなどとは、とんでもござり ません。どうそ、どうそ、鉄砲たけはおかえしのほどを : : : 。」 と、わびたが、役人は、し 、つこうにゆるしてくれん。というて、鉄砲がなければ、暮らし てつばうさいふ もの こと しやみせん てつほう 211
ひとりかご むかし、むかし。 えど だんな お江戸のはずれに、えろうしみったれの旦那がおったわい。金はどっさりあるくせに、 だすこととなると、舌をだすのもおしいくらいじゃった。 こうじまちおお ある日、麹町の大旦那に、いそぎの用ができたが、 ( さーて、よわったそ。はよういかにゃならんが、かご屋のかごでは高くつく。というて、 ごんすけ あるいてもいかれんし : おお、そうそう。あのカじまんの権助に、かつがせて、うち のかごでいくとしよう。 ) げなん さっそく、下男の権助をよんで、 「おまえは、飯もようくうが、力もあるえらいやっちゃ。」 「へえ、旦那さまのめえですが、米なら五俵ぐらいは、わけなくかっげますわい 「それなら、わしひとりかつぐくらいは、わけなかろう。」 した こめ ひょう ちから かね
せんりようばこひるね 千両箱の昼寝 きようみやこ むかし。京の都に、大金持ちがおったワ。 子どものとき、村を出て、京の都にやってきた。そして、食うものも食わず、ただもう、 身代をつくることたけにむちゅう。ためた金は、あっちの人、こっちの人に、くるくるま わしてりそくをとった。 ぎんせんかん こうして、男は、銀八千貫という身代になり、金持ちのおおい京の都でも、一流の長者 こよっこ。 おやこきようだい さて、この男。長者になっても、ただの一度も、親子・兄弟・親類の者を、ひとりとし て京へまねいたことがない。 ところが、どうした風のふきまわしか、ことしは、ぎおんの祭りに、ひとりでもよけい にきてほしいといって、里の者をまねいたのであった。 里の者たちは、 しんだい おおがねも さと ど まっ しんるい もの りゅうちょうじゃ
・もくじ なまけ弁当 よいち 与一の天の・ほり うすお 臼を負うて馬にのる ひとりかご % 言うに言われず 瓜ぬすびと るすばんめがね しようほう くさい商法 そろばんじようず せんりようばこひるね 千両箱の昼寝 もち屋の禅問答 やぜんもんとう べんとう う 0
こえ と、声がする。 すけはち 「あの声は、助八のようだが : 「こ・ほれる、こ・ほれるというからには : 「なにか、持ってきたにちがいない。 「うん。やつにしては、めずらしいことだ。」 「入れてやろうか。」 「よかろう。」 いうわけで、ひとりがかんぬきをはずして、ガラッと戸をあけた。 ところが、助八。なんにも持っておらん。いつものように、にやにや笑って、ぬーと、 中にはいってきたわい。 友だちは、あわてて、 「おい助八」 「なにが、こ・ほれる、こ・ほれるだ。」 と、 わら 136