殿 - みる会図書館


検索対象: 日本のとんち話
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1. 日本のとんち話

こんなふうで、とうとう彦市は、二貫匁のくじらの肉をみんな殿さんの手からもろうて しまった。もろうた肉は、みんな、ふところの竹の皮に入れた。 「どうも、殿さんといっしよじゃ、河童つりはできん。せつかく、かかると、彦市またか と声をだしなさるもんで、河童のやつがびつくらこいてにげてしまいますわ。おしいこと と、彦市がいうもんで、殿さんは、 「そうか。気のどくしたなあ。やつばり、おまえひとりで、つらんと、河童は、かからん のう。 そういうて、殿さんは帰った。 彦市は、めずらしいくじらの肉で、ふところをいつばいにして、 「殿さん、ありがとうござんした。 しろ にようばう と、お城のほうにおじぎをして、女房の待っておる家のほうへ、そそくさと、帰っていっ たそうな。 115

2. 日本のとんち話

かつば 河童のつり ある日のことじゃ。 ひこいち 彦市が、土手のところで、魚をつっておった。 との すると、そこへ、殿さんが、ぶらりぶらりととおりかかった 殿さんは、彦市が、い っしようけんめい糸を見ておるもんで、そばへよってきて、 「彦市。おまえ、そこでなにをつっておる。」 「ありや、びつくりした。殿さんでしたかい。へえ、わたしやここで : 魚をつつとるといおうとしたが、ひょいと、 かつば 「河童をつつとりますわい 「なに、河童をつつとる : それはおもしろそうじゃ。どれ、わしにもつらせてくれ。 殿さんが、本気にして、となりにこしをおろしたもんで、彦市、 ( ありや、しまった。。 とうしよう。 ) さかな 109

3. 日本のとんち話

ひこいち 「彦市、まだか。」 と、たずねた。 彦市は、 いかにも残念そうに、チョッと舌うちをして、 】い。なんちゅうことなさる。ちょうど、いま、くいっきはじめたものを : との いところじゃった。殿さんが声をかけたもんで、にげてしもうたわ : : : 。」 いいながら、彦市はさおをひくと、また糸をたぐりよせて、 「殿さん。くじらの肉、五十匁ばかり : : : 。」 殿さんの手から、くじらの肉をうけとると、彦市は、それをすぐ、竹の皮の中に、しま いこんだ。 ' そして、川の中にジャブン。石といっしょにつり糸をなげると、さおをつんだ して、いかにもつっておるふりをしておった。 っておった。 ふたりは、また、しばらくだま 「彦市まだか。」 「えーい、残念。殿さん、くじらの肉を五十匁ばかり : ざんねん した たけかわ 114

4. 日本のとんち話

「あっ、いけない。」 ざんねん 彦市よ、 。いかにも残念そうに、チョッと舌うちをして、 「あーあ。おしいことをしたわ。せつかく、そばまできたのに、殿さんが声をかけたもん で、にげてしもうたわい。」 いいながら、糸をたぐりよせて、 「殿さん。くじらの肉五十匁ばかり : : : 。」 殿さんの手から、くじらの肉を手さぐりでうけとると、彦市は、それをすぐ、ふところ からだした竹の皮にしまいこんだ。そして、糸のさきにつけたふりをし、川の中にジャブ ン。石といっしょにつり糸をなげ入れると、さおをつんだして、いかにもつっておるふり をしておった。 ふたりは、しばらくだま っておった。 殿さんは、いまにも河童がつれるかと待っておった。い って、たださおをつんだしておるだけなもんで、 した くら待っても待っても、彦市は、 113

5. 日本のとんち話

かつば ひこいち 河童なんか、彦市だって、一度もつったことはない。でも、殿さんから、「わしにもつら せろ。といわれては、いまさら、でたらめをいったともいえん。そこで彦市、いかにも考 こ一ついうた。 えぶかそうに、 「殿さん。河童をつるにゃあ、くじらの肉がいちばんいいですわい。どうも、くじら肉の えさがなけりや、うまいことつれんもんで、弱っとりますわ。」 くじらの肉といえば、そんじよそこらに、そうやすやすとあるもんではない。殿さんも かえ あきらめて帰るにちがいないと、思ったのじゃ。ところがどっこ、 「おお、彦市。それはちょうどよかった。くじらの肉なら城にあった。」 「肉は、どれほどいるな。」 殿さんが、まじめくさってたずねたもんで、彦市も、しようがない。 「へえ、二貫匁 ( 七・五キログラム ) ぐらい 「二貫匁でよいか。では、すぐ、持ってこよう。」 かんめ よわ しろ との 110

6. 日本のとんち話

ひこいち いうと、彦市は、 「と、とんでもない。あれは、この店の宝ですわい。手ばなすことはなりませぬ。」 「そこを、なんとか : か 「なんとかも、かんとかもありませんわい。あれを買いにみえた方は、いままで何百人おっ との たかしれませぬが、みなおことわりしておりました。いくら殿さんじやからというて、店 の宝を売るわけにはまいりませぬ。」 と、」っぱりことわった。 しろ 家来は、すごすごと城に帰って、そのとおりもうしあげた。 ことわられると、よけいほしくなった殿さんは、 かね 「金はいくらでもだす。・せひ手に入れてまいれ。」 「ははーっ。」 家来は、また彦市の店にやってきて、殿さんのいうたとおりをつたえて、ぜひ売ってく れとたのんだ。ところが彦市は、あいもかわらず、 けらい みせたから 118

7. 日本のとんち話

「ふむ : : : 。」 「ごらんなされ。むこうの山も、あのとおりみごとな花ざかり。 あの山の花をながめながら、お帰りになっては : 「なるほど、それはよいことに気がついたな。」 殿さんは、おおよろこびで、さっそく家来たちにいうた。 「せつかくここまできたのじゃ。むこうを山ごえして帰るそ。まだ日も高いし、ゆっくり、 あちらの花もながめて帰ろうと思うが、どうじゃ。 いくのはいやじゃった。 家来しゅうは、もう、つかれているので、そんな、よけいな山へ しかも、きたときとおなじように、みんな荷物をかついで、これからむこうの山をこえる なんて、まっぴらじゃと、思うたが、殿さんのことばには、さからえん。 「おともいたしましよう。」 と、しんみように、頭をさげた。そこで彦市、 「では殿さん。ご案内をーーー。」 あんない しカかでしよう。ひとっ 131

8. 日本のとんち話

なか しいえ。せつかくのことなら、え 1 と、晩に持ってきてくだされ。河童は、夜 中のほうが、ようつれますんで : ・ : ・晩にここで待っとりますけん。 「そうか、では、晩に、くじらの肉、二貫匁持ってくるから、ここでまたあおう。」 こんなやくそくをして、ふたりはわかれた。 くろ お日さまがしずんで、あたりが暗うなった。 彦市は、竹の皮をふところに入れて、ひるまの土手のところへやってきた。しばらくす ると、殿さんがきて、 「彦市、持ってきたそ。持ってきたそ。」 と、うれしそうに、くじらの肉を彦市の鼻さきにつんだした。 「やあ、殿さん。これならつれますわい。」 彦市と殿さんは、土手にならんですわった。彦市は、さっそくつりのよういをした。 くら あたりは、もう、暗かった。 こんや 「彦市、今夜は、えろう暗いのう。 たけかわ どて ばん 111

9. 日本のとんち話

と、みんなのさきにたった。 けらい ひこいち 殿さんが家来たちを見ると、みんな荷物を持っておる。から身なのは、殿さんと彦市だ け。どうもふしぎじゃと思うてたずねたもんだ。 「これ、彦市。おまえの荷物は、どういたした。 すると彦市、につこりわろうて、 「はい、わたしの荷物は、みなさんの、おなかの中にございます。」 にもっ 132

10. 日本のとんち話

かえ かるい帰り道 春じゃ、春じゃ。 やっしろとの 八代の殿さんがのう、お花見にでかけることになったワ。 ひこ おそばにつかえる、二十人ばかりの家来しゅうをおともにつけていくが、その中に、彦 市も入れてもろうた。 花見の荷物がそろうて、いよいよ出かけるというときじゃ。殿さんが、おとものものを 見まわして、こういわれた。 「さて、きようは、みんなに花見の荷物を、はこんでもらおう。どれでもよい。てんでに、 すきなものを持っていくがよいそ。 家来しゅうは、 ( よしきた。それではなにを持っていこうかな。 ) と、まえにならんだ荷物を、ぐるっと見まわした。 にもっ 128