190 竜の夜 そせん しそん われらの祖先、そして、もはや生まれてくることのない、われらの子孫のために」 はいいろうみ ぜんそくりよく トパーズの竜はダッととびだすと、灰色の海の上を、全速力でアクノ った。 けんぬ ーフは剣を抜き、ひりひりといたむ目をぎゅっとつぶった。すると、まぶた 、つら よ いっせつ おそ の裏に『デルトラの書』の一節がうかんできた。そこを読むたびに、恐ろしさに あら 」よ、つふ ふるえたものだったが、 いまそれが、新たな恐布をリーフに投げかけてくる。 : 影の大王、きつねのごとく狡猾にして、あきらめることを知らす。 しっと っしゅん そのケダモノの怒りと嫉妬においては、千年の時も一瞬にすぎない】 『デルトラの書』は、影の大王を「ケダモノ」とよんでいる。あれを書いた人は、 ばくが今まではっきりと理解していなかったことを、わかっていたんだ。 ざんこくどくさいしゃ はじまりはどうだったにせよ、影の大王はいまや、魔法を使える残酷な独裁者 だいおう こ、つかっ せんねんときい つか ヾヾい ~ ↓む , か し 283
ちめいてき はばくに、最後の致命的な一歩をふみださせるための、だめおしだったんだー ・こいお、つさいしょ でも、いまそんなことに気づいても、もう手おくれだ。影の大王は最初から、 ことを運んでいたんだ。 何が起ころ、つともデルトラをわかものにできるよ、つに、 ほのおも ) 、はげしい怒りの炎が燃えあかった。 リーフの、いに、手のつけようもなし 「ばくたちは知らないうちに、どうやってデルトラを死にいたらせるか、その方 たの ーフはつぶや 汝を選ばされてた。それをみて、影の大王は楽しんでいたんだ」リ たび いた。「ばくたちが旅のとちゅうでたおれれば、デルトラはじわりじわりと死に いたる。ばくたちが『四人の歌姫』を退治すれば、死はたちまちにしておとずれ る。どちらにせよ、影の大王の勝ちなんだ」 かわも びき しゅんかん さかな ーフがそう言った瞬間、死んだ魚が一匹、膜の張った川面にうかんだ。そし あらわ きた ぶきみ ノハか現れた。 讐て、不気味な雄たけびとともに、北の空に七羽のアクヾ えら 279
ちょ、っせんじよ、つ 「そうだね ーフはばそっと言った。「これは、影の大王からの挑戦状だ。石 ちょうはっ ちずだんべん 碑の下をみてみろと、ばくを挑発してるんだよ。前にも、地図の断片をさがして みろって、挑発してきたじゃないか」 す・いしよ、つ だいおう ーフの耳に、水品からもれくる、影の大王の声がよみがえる。 よげん え 予言の王がみつけることはあり得まい。わざとさがさせて、早く死に追い やってやるのも一興だがな し でも、とリーフは思った。地図の最初の断片をみつけても、ばくは死ななかっ さいご 。へん た。二つ目、三つ目、そして最後の一片。それでもばくは、まだ生きている。 でも : : : でもだ。影の大王は、ばくが生きてここにたどり着くことも、計画に しよ、つめし 入れていたんだ。石碑の言葉が、それを証明している。 ーし、カど、 く重にもはりめぐらした計画 こなごな 「人をばかにして ! こんなもの、粉々にしちゃえばいいのよ ! 」 ゆか てつばう 「どいてろバルダは立ちあがると、床にころがる鉄棒に手をのばした。 え いつ、ごよ、つ 0 0 こえ だいおう し せき 172
以上の存在だ いや、独裁者以下と = 一一口うべきかもしれない。 あかしるし むかし はるか昔、やつはおそらく、影のマントを身にまとい、赤い印のついた灰色の し 」よ、つふ 士ほ、つつか 帆の小舟にのった、ただの魔法使いだったのだ。やつは恐布というものを知り、 ぎんうみ とち あら せいふく にがい敗北を味わった。そして、征服すべき新たな土地をもとめて、『銀の海』 ひがし を東にむかった。 にんげん だいお、つ ) まはもう、人では 影の大王は、その当時は人間だったかもしれない。だか、し しっと むかしゃ あく ない。やつの人間性は、嫉妬と贈しみと悪意とに、とうの昔に焼きつくされ、灰 おもで になってしまった。のこったのは、思い出だけだ。 かて 人が、ケダモノに変わった。魔力を糧として、目の前のものすべてを破壊し、 あくちから 堕落させる、悪の力に。けっして枯れることのない力に。 いく重にもはりめぐらした計画 わたしにはたくさんの計画があるのだ : かな フ .- はい ~ ど、つしてほくは、影の大王をたおせるだなんて思ったんだろ、つ ? リー いじようそんざい こぶね 0 ーこ、つド ) どくさいしゃ み え はいいろ 284
18 ◇復讐 力いカんお 波を逃れた人びとも海岸に追いやられ、土手に追いつめられたネズミのように、 十つよ、つド」よ、つ もの やまのほ あらそ ふね 船をめぐって血みどろの争いをくりひろげるだろう。山に登った者は、頂上でふ るえながら、仄色の波がせまってくるのをまっことになる。 だいち ハしよ、つド ) よ、つ ・ものいキ」 いろいろな生き物が息づき、さまざまな表情をもつ、デルトラの大地。たくさ 、つーレか んの不思議も秘めていた。そのすべてを失って、デルトラは、冷たい仄色の、だ だっぴろい死んだ大地になってしまうのか。 ・こ、ハね、つ ふ / 、しゅ、つ これが、影の大王が予告していた復讐にちがいない。予言の王が立ちあがり、 せんせい もとどお デルトラのベルトを元通りにして、デルトラを専制から解放したことに対しての。 ーしカノ \ わたしにはたくさんの計画があるのだ こくお、つ よ あたら 影の大王は、読んでいたのだ。予言された新しい国王が、デルトラと影の王国 亠まほ、つす・いしよ、つ との最後のつながりだった魔法の水晶を、かならず破壊しにくるだろうと。デル トラのベルトの力があれば、その国王は、きっとそれを成しとげるだろうと。 うたひめ だからやつは、水晶がこわれるときに『四人の歌姫』の計画をもらすよう、仕 0 し 277
3 ◇デル ・をなだめる人質として、われらがシャーン皇太后様は、数カ月もトーラで , 、、過ごされるはめとなったー 真実 ! ーレよ、つめい か洋リおにいお、つ、ー ) んこう・ 。、トーラ族が裏切り者であることは、歴史が証明している。影の大王が侵攻 こくお、つ ちゅうせいちか ゃぶ してきたとき、トーラ族はデルトラ国王への忠誠の誓いを破った。そのせ 。どれい いで、われらは影の大王の奴隷となったのだ。 真実 ! わか かんだい じゅんすいい リーフ国王は、若さゆえの純粋さと寛大さから、トーラ族の裏切りをおゅ るしになり、魔法の街にもどしてやった。 真実 ! おん 。〉トーラ族はその恩もわすれ、こっそりデルを亡きものにしようとくわだて ている。トーラ病こそ、その証拠だ ! 、つ、らぎ、 ひとじち もの まち れきし 「を」こうないごうさま すうげつ
20 0 完全なる輪 しようねんおも むかし たごをながめた。昔、城の庭を走りまわっていたふたりの少年を思いだし、ほほ えみながら。 おさ けんめい お、つこく ーフはデルトラ王国を長く、賢明に治めた。だがリ ジャスミンに支えられ、リ しんらい ちからみなもと わす じぶんしよみんみかた ーフは、自分は庶民の味方であることを忘れず、人びとの信頼がカの源であるこ きもめい とを肝に銘じていた。 お あたまお ・こ、 4 、つ そして、影の大王のことも、いつも頭に置いていた。デルトラからは追いはら てき ったが、敵は息絶えたわけではない。 し こ、つかっ 影の大王、きつねのごとく狡猾にして、あきらめることを知らず。そのケダモ せんねんときいっ ノの怒りと嫉妬においては、千年の時も一瞬にすぎない ーフは、デルトラのベルトをつねに身につけ、目のとどかぬところに置くこ とは、けっしてなかった。 ささ にわはし ( シリーズⅢ完 ) 309
あたま 「なかなか頭のいいやつだな」ジョーカーがつぶやく。 かんしん 「おい、感心してどうする ! ーとバルダ。 さいの、つ ジョーカーはをしかめた。「パフか、才能をよいことに使 0 てくれれば、わ みぎうで きいろ れらの右腕になっていたのにな。パフのマットの下に、黄色いビラの残りがかく ーしカ′、、 - ね してあった。パフは、どんなときも計画を練っていたんだな。最後には、ジョセ じっかげ だいおうてした フは思いこまされていたにちかいない。 このおれが、実は影の大王の手下だと」 「わたしも、そうかもしれないと思ったわよ、ジョーカー」ジャスミンがしずか に一一一口った。 まゆ 「何 ? 何でそうなるんだ ? 」ジョーカーか眉を上げる。 かいてんはや ジャスミンが肩をすくめた。「リーフが言ったのよ。『南の番人』は回転が速 しろ かしこ くて、すごく賢いって。この城でそんな人って一一一一口えば、あなたでしよ」 「ほ、つ、そりやど、つもジョーカーはそっけない。 ゅび かぞ お、つこく 「ほかにもあるわよジャスミンは指おり数えはじめた。「あなたは影の王国に みなみばんにん つか 238
くろす ひとみ ると、バルダの黒く澄んだ瞳が、 ーフをじっとみつめていた。 じゅうぶん 「も、つ : : : 十分かい ? 」リーフはつつかえながら言った。 「いまはも、ついい」ハルダはそう一言うと、リ ーフの言葉をまった。だがリーフは、 しよ、つげ」 あまりの衝撃に、話すこともできない。 ジャスミンがしずかにたずねた。「何がみえたの、 リーフ ? ・」 かげお、つこく ーフはぐっとつばをのみこんだ。「たぶん、あれは影の王国だと思う。七羽 かん のアクハバが見えた。手のつけられない怒りを感じたよ。燃えるようなーーー . 」 いじよ、つ ぜんしん リーフはそれ以上話せなかった。全身がふるえる。 てき ごよ、つ 「それはきっと、敵の怒りですよ。今日ここで起きたことを知ったときの。あな みらい たがみたのは、影の大王の未来でしよう」 となりからおだやかな声がして、 ーフは、はっとふりかえった。ゼアンー セアンか、ショールにくるまり、リ ンダルの怪我をしていないほうの腕にもたれ 、」、つ瓣リ、 て、立っている。未来の光景にむちゅ、つで、そばにきたのに気づかなかった。 うで 220
こんやまんげつ だいおうすいしようも リーフの体がふるえだした。今夜は満月になる。影の大王の水品を燃やした、 そせんれい あらわ すべてが始まったあの夜とおなじだ。あのとき、祖先の霊たちが現れて、ばくに かれ 力をくれた。そしていま、彼らがふたたびやってきた。でもこんどは : ひび あらあら こ、えたいりせき かべ 霊たちの声が大理石の壁から響いてきたと思うと、荒々しくさけびだした。何 かお を言っているのかはわからない。だが、ばんやりとうかびあがった顔はおそろし く、怒りに満ちている。きっと、使命を投げだしたばくを、いくじなしと責めて いるんだ。でも、もう知るもんか がねいきお 「こんなもの、はずしてやる ! 」さけぶと、ベルトの留め金を勢いよくはずす。 「死ぬときくら、 し好きにさせてくれー そのときリーフは、影のなかにジョセフをみつけた。何かを訴えかけるよ、つに、 / 、十っ・もと 腕をさしだしている。口元が動いているが、何もきこえない。 「ジョセフ、きこえないよ ! 」 ーフはさけんだ。「ジョセフ : : : 」 しゅんかん フは、はっとふり・か、んった。 その瞬間、チャベルのドアが開き、リー うで よる 156