「文男だな ? こんなことするやつは ! 」 みちたろう 「こらあ、また道太郎か ! フフォーツ よしき 「良樹ー いいかけんにせんか、フフォーツ はないき フフォーツー と、ネコかおこったときのような鼻息をたてるのか、 よしき はないせんせい かんかんにおこったときの、花井先生のくせだ。だから良樹たちは、か せんせい げではハナイキ先生といっていた。 でんとう ふたばしようさいご そっぎようせい 「伝統ある双葉小の最後の卒業生になるんだからな。いい ~ いつばいつくろう」 ふみお じ、も 出で を 5 5
そっぎようしきれんしゅう 卒業式の練習がはしまった。 ふたばしようさいご そっぎようしき がっこうそっぎよう 双葉小の最後の卒業式だから、この学校を卒業したおとなも、いっ 。はい / 、るらし よしき さすかの良樹たちも、きんちょうして練習をくりかえした。 じゅく よしき ろじ そんなある日のタぐれどき、塾がえりの良樹は、家のまえの路地へ はないせんせい かな 入ったところで花井先生にあった。ゼッタイゼッメイ。金しはりにあっ よしき たようにつったっていたら、先生はうんうんとうなすいている。良樹は こえ こえ 声をふりしばって、やっとのことで声をかけた。 し 「せ、先生は、死んだんしゃないんですか ? 」 はないせんせい 花井先生は、はっとしたようにからだをゆらせ、 せんせい せんせい れんしゅう 3 6
「 : : : そうだ、死んだんだな」 じてんしゃ そういってうなすくと、ふわっと自転車にのり、かえっていった。良 せなか 樹はその背中にむかってさけんだ。 せんせいそっぎようしき 「でも先生、卒業式にはきてくださーい」 よしき そっぎようしき 良樹たちの卒業式はぶしにおわった。 しき はないせんせい 花井先生は、式にきてはくれなかった。 はないせんせい それから、花井先生をみかけた人はいない。
と、そんな気がしてきた。 「生きのこったわしはよ、とてもつらいさ。でもな、はなすことが、死 くよ、フ んでいった人への供養だとおもっているんだよ」 とおかだい あたまけ たけだ そういうと、頭の毛のうすい武田さんがたちあがって、三月十日の大 くうしゅう 空襲にあった話をかたりだした。 と、つきよ、つ そっぎようしき 「わしら六年生が、卒業式にでるために東京にかえった、その晩だっ たんだよなあ。わしは家にかえって、ふとんがこんなにかるくて、あた ここのか たかいのかって、つくつく、ありかてえとおもったね。九日の夜はよ、 き ズボンにゲートルをまいて、着のみ着のままでねむったんだ。 ねんせい はなし き よる ばん し 3 7
ハナイキ先生 ふたばしようがっこう がくねん 良樹たちのかよう双葉小学校は、一学年ひとクラスしかない けんちょうしやくしょ 県庁や市役所などのすぐちかくだけど、子どもたちのすむ家はどん こ、つ力し ちゅうしん がっこう どん郊外にいき、町の中心にとりのこされたようなふるい学校なのだ。 しよしき ねんせ、 へいこ、つ かきゅうせい それで、 , ハ年生の良樹たちが卒業すると閉校になり、下級生は、すぐ とう′」う よこたしようがっこう となりの横田小学校に統合されることになっていた。 さい′」 がっき にちょうびあさ たんにんはないせんせい その最後の三学期。ある日曜日の朝、 , ハ年担任の花井先生が、とっぜ よしき せんせい そっぎよう もちづきまさこ 望月正子 5
れんらく カっ」 , フ すぐに学校にも連絡が入りました。それまで、どことなくはなやいで しよくいんしつ っしゅんかたまりました。こんなにつらくかなしい いた職員室が、い よてい にゆうがくしきえんき ことはありません。でも、入学式の延期などできるはすもなく、予定 どおりおこなうことになりました。 たんにん 女の子のクラスの担任ときまっていた先生は、 「なぜ、どうして」 し、カ とさけびたいのを、こらえるのがやっとで、ほとんど怒りにちかい気持 しき ちで、式をむかえました。 にゆ , つかくしき 先生たちは、もうしあわせをして、事故のことは、入学式のきよう せいと ごけは、生徒にはだまっていることになっていました。百二十名ほどの せんせい じこ せんせい 9 8
せい AJ かい 新入生と、それをむかえる生徒会などの代表がならんで、式ははしま りました。 なまえ こうちょうせんせい ばめん しんにゆうせい 校長先生が、新入生の名前をひとりひとりよみあげる場面となりま ばめん にゆ , フがく した。たいせつな場面です。よまれた子だけが入学をゆるされるので し なまえ くろ す。死んだ女の子の名前は、黒ぐろと線でけされてありました。 なまえ せいと その子の名前がとはされたことに気づいた生徒はいないようでした。 しき きようしつ 式がおわって、新入生はそれぞれ、きめられた教室に入りました。 し きよ、つしつ せいと 死んだ女の子が入るはすだった教室でも、生徒たちはうれしそうに、 こえ ちゃくせき がわ 声をあげながら着席しました。ろうか側のいちばんうしろに、ひとっ くうせき 空席がありました。 しんにゆうせい しんにゆうせい せん だいひょう しき 9
空席 がっしようぶ じよしこうこ , っ′」うかく き・ほ , フ オし合唱部に入 その女の子は、希望した女子高校に合格して、ぜっこ ) るんだと、はりきっていました。 にゆうがくしき まちにまった入学式の日。 「いってきまあすっ」 女の子は、声をはすませて家をでました。もともと、はしゃぎすぎの ところはありましたけど、なんとその日は、いつもの倍もはしゃいで、 / ) っせき こえ みずたにしようぞう 水谷章三 7 8
せんせい 先生は、おもい口をひらきました。 く , っせき 「そこに空席がひとつあります。欠席ではありません」 く、っせき せいと っせいに空席に目をやりました。 生徒たちは、い にゆうかくしき 「みんなのクラスメイトになるはすだったのに、この入学式のきよう になって : : : 」 せんせい 先生が、とちゅうで話をとめました。 どこかで、コトッ、コトッ、コトッ、とかすかな音がしはしめたので せいと す。しすまりかえっていたので、よくきこえました。先生も生徒もきょ ろきよろしました。カタカタ、カタカタ、音はすこし大きくなってくる ようです。 はなし けっせき せんせい 3 9
かぐ 語。「さわがしい霊」という意味で、わけもなく家具がうごいたり、音をたてたりす げんしよう にゆうがくしき る現象のことをいいます。ここでは、よろこびいさんで入学式にむかうとちゅう事 じよせいと 故にあった女生徒がすわるはすだったいすが、ひとりでにうごきます。このように、 ばあい じこく いきなりお あるきまったものが、つごく場合もあれば、あるきまった時刻に、つごく、 じしん へや そってくる地震のように、部屋のあらゆるものがうごくなど、さまざまです。 はなし たいカく だいがく 「イベントホールの地下トイレ」は、ドイツのある大学での話です。大学とはいえ、 とち れきし しゅうどういん その土地はたいへんな歴史をもっていたようです。もともと修道院のあったところ ぐんえいしゃ だいにじせかいたいせんご に、一九三六年ヒットラーによってドイツ軍の営舎がたてられ、第二次世界大戦後は ぐんきち たいカくこうしゃ さいきん フランス軍の基地に、そのあと大学校舎となったわけです。そして最近になって、も びよういん たかいそう びよういんちか との病院がイベントホールその他に改装されたのでした。病院の地下にはっきもの れいあんしつ どだい はなしはっせい の霊安室もあったはずです。そのような土台があり、この話が発生するわけです。 がっこう おんがくしつ しようぞう 学校には、ふしぎがおこるところがいろいろあります。音楽室もそうです。肖像 が おんがくしつ 画のべートーベンの目がひかったり、だれもいないのにピアノがなったり。「音楽室 ご こ 14 〇