サリバン - みる会図書館


検索対象: 真犯人
39件見つかりました。

1. 真犯人

502 ケットの上にヘレン・グライムズの名札をとめたままの青い制服の上着がざっとたたんで置いて ある。その下には写真の入った大きな封筒があった。マリーノが写真を一枚一枚点検し、私も無 言でそれらに見入った。 「たまげたな」一分おきにマリーノがつぶやく ヒルトン・サリバンが裸で縛りあげられ、ヘレン・グライムズがサディスティックな看守役を 演じている写真が十枚以上あった。サリバンが椅子に座り、ヘレンが後ろから彼の首を腕で締め あげたり、ほかの罰を加えたりしながら尋問するとい、フのが、お気に入りのシナリオらしかっ た。サリバンは息をのむほど美しいプロンドの若者で、やせているがきっと驚くほど力は強いの だろう。敏捷なのは確かだ。ロビン・ネイスミスの血まみれの体が居間のテレビにもたせかけら れている写真と、モルグの解剖台に乗っている写真もあった。だが何よりも私が不気味に思った のは、サリバンの目だった。表情のまったくない、冷たい目だ。おそらく人を殺す時にこんな目 をしているのだろう。 「ドナヒュ ーがなぜサリバンをいたく気に入ってたのか、これでわかるような気がするぜ」封筒 に写真を戻しながらマリーノが言った。「だれかがこの写真を撮ったわけだろ。ドナヒューの趣 味は写真だって、彼の奧さんが言ってたぜ」 「ヘレン・グライムズはヒルトン・サリバンが何者かを知ってるはずだわ」そう言った時、サイ レンの音が鳴り響いた。

2. 真犯人

苦しなきゃならない 「それとサリバンとど、つ関係があるんだ ? 「彼があのマンションに入居したのはいっ ? 「知らないな」 「もし私が自分のルガーでだれかを殺すつもりだったら、犯罪を犯す前に銃を盗まれたと警察に 届け出るのがうまいやり方でしよ。そうすれば何らかの理由で銃が回収されてーーーたとえば警察 の捜査が身辺にせまったので銃を捨てたような場合ーーー通し番号からそれが私のものだとわかっ ても、盗難届を出してあるから、犯行が行われた時にはそれを所持していなかったと言えるわ 「サリバンが盗難届をでっちあげたって言いたいのかい ? 窃盗は彼の打った芝居だと ? 」 「そのことを考えてみるべきだと言ってるの。サリバンが防犯ベルをつけていなかったのも、窓 の鍵をかけ忘れていたのも都合がいいわ。警官に対して鼻持ちならない能をとったのも都合が 彼がマンションを出ていくのを見て警官たちはほっとして、わざわざ見本用に彼の指紋を 採るなんてことはしなかったわけよ。しかも白い服を着ていて、あちこちに粉をふりかけること 人 犯に文句を言ってたし。私が言いたいのは、サリバンのマンションで検出された指紋はサリバンが 残したものではないとなぜわかるかってこと。彼はそこに住んでるのよ。彼の指紋はそこら中に ついてるはすでしよう」

3. 真犯人

ているのが聞こえる。やがて汗をたらし、怒りに顔を赤くしたマリーノが現れた 「信しられねえよ。ノウサギみたいに窓からとび出して、そのまま消えちまった。あんちくしょ うめ。やつのバンは裏の駐車場に置いたままだから、自分の足でどっかに行ったんだ。この地域 ぐい自 5 をつこ、つとあ、疋ぐ。 のバトロール隊に警戒命令を出した」顔を袖でぬ 「あの人、女だと思ってた」私は呆然として言った。 「、疋っ ? マリーノが私を見つめる。 「ヘレン・グライムズに会いに行った時、彼が家の中にいたの。ポーチで話してる間に、一度だ けドアから顔をのぞかせたの。女だと思ったわ」 「サリバンがフン族へレンの家にいたって ? 」マリーノが大声で一一一一口う。 「間違いないわ」 「なんだい、それ。っしつまが合わねえしゃないか」 しかしサリバンのマンションの中を調べ始めると、つしつまが合うことがわかった。部屋はア ンティークや上等のじゅうたんなどで優雅にしつらえてあったが、管理人の話ではそれらはサリ バンではなくマンションの持ち主のものだ、とマリーノは言った。寝室からジャズの音が流れて 人 犯くる。寝室のべッドの上には、きちんとたたんだべージュのコーデュロイのシャッと色あせたジ ーンズの脇に、プルーのダウンジャケットがあった。ランニングシューズとソックスがしゅ、った んの上にある。マホガニーのドレッサーの上にはグリーンの縁なし帽とサングラス、それに胸ポ

4. 真犯人

「自分の家族からだ。どこかに隠してあったんだろう。とにかく、刑務所の記録を調べ . ていろん な人と g したところ、ヒルトン・サリバンとはジョージア州オールバニー出身のテンプル・プル ックス・ゴールトのことらしいとわかった。父親がべカンの農園を持っていて、どっさり金があ る。ゴールトはある面では典型的な犯罪者の特質を備えている。銃やナイフ、武術、暴力的なポ ルノに異常に興味があるとか、利己的といった点だな」 「典型的でないのはどういう点 ? 」 「行動バターンを見るかぎりでは、まったく予測不可能な性格だ。どんな犯人像とも一致しない んだよ、ケイ。この男は分類不能だね。何かを思いつくと、それを実行する。自己愛がきわめて 強く、うぬばれ屋だ。たとえば髪の毛だがね。自分でプロンドに脱色するんだ。マンションでプ 丿ーチやリンス剤なんかが見つかっている。彼の性格上の矛盾には、奇妙としか言いようのない 面があるわ」 「たとえばどんな ? 「ゴールトはあるべンキ屋が昔持っていたおんばろのバンに乗っていたんだが、一度もそれを ヒースを殺したあともだ。それで車から 洗ったり中を掃除した形跡がない。車の中でエディー・ 人 ヒースと同じ型の血液が見つかっている。こ 犯かなり役に立ちそうな微細な証拠類や、エディー・ れはかなり無計画なやりかただ。しかし一方では、噛んだあとを消したり、自分の指紋の記録を 変えたりしている。これはきわめて計画的だ」

5. 真犯人

た。ガソリンカードはいつもそこへ入れておくのだ。マリーノは車をおりて、私の車の窓のそば へやってきた。 「今ラジオで聞いたよ」笑顔を抑えきれない様子で一一一一口う。「グルーマンはどこだ ? 握手してや りたいよ」 「私が出てきた時はウェズリーと一緒に裁判所にいたけど。どうしたの ? 急に頭がくらくらし 「知らないのか ? 」マリーノが信しられないという顔で訊く。「おいおい、先生。どうしたもこ うしたもない、あんた無罪放免になったんだ。大陪審が起訴しないことを決定したなんて、俺が この仕事を始めてから一一度ぐらいなものだぜ」 わたしは深呼吸して首を振った。「大喜びでダンスでもするべきなんでしようけど、そんな気 にならないわ」 「俺だってたんそうだろうよ」 「マリーノ、アイダー・ダウンのベストを盗まれたって男、何て別だった ? 」 「サリバンだ。ヒルトン・サリバン。なぜだ ? 「私が証一一一一口した時、バターソンが途方もない言いがかりをつけたの。スーザンを撃つのに武器鑑 定室の銃を使ったかもしれないって。つまり、自分の銃を使うとつねに危険が伴うわけよ。もし 銃が調べられてそれが問題の弾を発射した武器であることが立証されたら、説明するのに四苦八 た。

6. 真犯人

418 ものが得られたのは翌年の一月三日になってからだった。 その日の朝リッチモンド・タイムズ・ディスパッチが、高価なアイダー・ダウン製品が泥棒に ねらわれているというおとりの記事を掲載した。午後一時四十分に、架空の捜査の責任者を装っ ているトム・ルチェロ刑事のもとに、三本目の電話がかかってきた。 「やあ。俺の各則はヒルトン・サリバンだ」大声が響いた。 「どういったご用件でしようか ? 」ルチェロの太い声が尋ねる。 「あんたが捜査してる事件のことだがね。泥棒が目の色変えてねらっているとかいうアイダー ダウンの衣類やなんかのこと。今朝の新聞に記事が載ってた。あんたが担当刑事だって ? 「そうです」 「警察があんまりとんまなんで、頭にくるんだよね」声がさらに大きくなる。「新聞によると感 謝祭以 , ッチモンドと周辺の商店や車や住宅からいろんなものが盗まれたとある。羽ぶとん に寝袋、スキージャケットが三枚になんとかかんとかってね。それで被害にあった人の話が出て る」 「何がおっしやりたいんですか、ミスター・サリバン ? 」 「記者は当然被生暑の名則を警察から聞きだしたわけだよな。つまり、あんたからよ」 「それは公の情報ですから」 「そんなことはどうでもいいんだ。俺が知りたいのは、なんでここにいるこの被害者の名前をあ

7. 真犯人

500 「上に行く必要はありません。このフロアですから」管理人は東のほうを指さした。「この廊下 をまっすぐ行って、最初の角を左に曲がります。一番奧の角部屋。十七〕要亠です」 建物は落ち着いた豪華さを備えてはいたが、いささかくたびれていた。部屋が狭く装飾が暗い 感じで少々すり切れているため、もはやだれも泊まりたがらなくなった古いホテルのようだ。深 紅のじゅうたんにはたばこの焼けこげの跡があり、羽目板のしみは黒すんでいる。角にあるヒル トン・サリバンの部屋のドアにはという小さな真鍮の表示がついている。のぞき穴はない。 マ 丿ーノがドアをノックすると、足音が聞こえた。 「だれだい ? 」という声がする。 「管理の者です」と、マリーノが言った。「ヒーターのフィルターを取り替えたいんですが」 ドアが開いた。そこにプルーの射るような目が見え、その目がこちらを見たとたん、私はわ ず息をのんだ。ヒルトン・サリバンはドアをびしやりと閉めようとしたが、マリーノがいち早く ドア枠との間に足をはさんだ。 「脇に寄るんだ ! 」私にむかって叫びながらすばやくリポルバーを取りだし、開いたドアからで きるだけ遠くへ身をそらす。 私は廊下を走ってそこを離れた。マリーノが突然ドアを蹴る。ドアは大きく開いて、内側の壁 にぶつかった。マリーノはリポルバーをかまえて中へ入っていき、私はどきどきしながらもみあ う音や銃声が聞こえてくるのを待った。数分が過ぎた。マリーノが携帯無線に向かって何か言っ

8. 真犯人

498 「ではワデルの指紋と一致したよな」 「そうよ」 「それしや、おとりとして新聞に載せたあのアイダー・ダウンの記事を読んでサリバンが警察に 電話してきたのは、何のためだ ? 」 「べントンが一三ロうように、この男はゲームをするのが大好きなのよ。人を振り回すのが好きな の。わざと危険なことをしてスリルを楽しむのね」 「ちくしよう。電話を貸してくれ」 マリーノは助手席のほうへまわって、車に乗りこんだ。番号案内を回してサリバンが住んでい るマンションの代表電話番号を聞き出す。管理人が電話に出ると、ヒルトン・サリバンがいっマ ンションを購入したのかを尋ねた。 「しや、だれなんだ ? そう訊いてメモ帳に何か走り書きする。「何番地で、どの通りに面して る ? わかった。車はどうだ ? ああ、もしわかったらな」 マリーノは電話を切ると私を見た。「なんだ、あいつはあのマンションを所有しちゃいないん だ。どっかのビジネスマンが所有しててそいつが貸してる。サリバンは十一一月の最初の週から借 り始めた。正確に言うと、六日に保証金を払ってる」車のドアを開けながら言い足す。「それか ら、車はシポレーのバン。色はダークプルー。窓のない古いやつだ」 マリーノは私の車のあとについて本署へ戻り、私の車は彼の駐車スペースに入れた。それから

9. 真犯人

まま放ってあった。ルチェロが電話を受けてからすぐピートがそれを手に入れてね。バンダーが もう照合した。きっかり三秒で一致するのが見つかった」 「またワデルね」 ウェズリーがうなずいた。 「サリバンのマンションはスプリング・ストリートからどれぐらい離れているの ? 「歩いて行ける距離にある。犯人がどこから逃げたのか、察しはつくな」 「最近釈放された囚人を調べてるの ? 」 「ああ、もちろん。だけどだれかのデスクの上の書類にそいつの々翌則があるわけしゃない。ドナ ヒューがそんな軽率なことをするはすはない。残念ながら、彼はもう死んでるし。おそらくドナ ーがこの囚人を自由にしてやったんだろう。で、そいつはまずマンションに侵入して、それ からたぶん車を手に入れたんだ」 「なぜドナヒューは囚人を釈放したりしたのかしら ? 「私の考えでは、ドナヒューは何か汚い仕事をやる必要があったんだろう。そこで自分の手先と なってそれをする囚人を選んで、そいつを自由の身にした。だが、彼はちょっとした戦術上のミ 人 犯スをした。選ぶ男を間違えたんだ。この一連の人殺しをしている男は、人の命令をきくようなや つじゃない。ドナヒューはだれかが死ぬことになるとは田 5 っていなかったんじゃないかな。それ でジェニファー・デイトンが死体で見つかると、バニックに陥った」

10. 真犯人

一緒にプロード・ストリートをフランクリンに向けて、フルスピードで車を走らせた。 しいがねマリーノがエンジンの音に負けないよ、フ亠尸を張り上 「管理人がやつに知らせてないと、 スピードを落とし、八階建てのれんが造りの建物の前でとまる。 「あいつのマンションは裏手にある」あたりを見回しながらマリーノが説明した。「だから俺た ちのことは見えないはずだ」座席の下に手を伸ばして九ミリ口径銃を取りだす。これが左脇のホ ルスターに入れた三五七口径銃を補助するのだ。銃をズボンの後ろに差しこみ、ポケットに予備 の挿弾子を入れると、ドアを開けた。 「撃ち合いになりそうなら、私は車で待ってるけど」と、私は言った。 「もし撃ち合いになったら、俺の三五七口径とスピードローダーを投げてやるよ。。ハターソンが 言ってたような射撃の腕前を発揮してくれよな。どんな時でも俺の後ろにいるんだぞ」階段を登 りつめたところでドアベルを鳴らす。「たぶんやつはいないだろうな」 すぐに鍵がかちっと音をたてて開き、ドアが開いた。白くなりかけたもしやもしゃの眉毛をし た年配の男が、さきほどマリーノと電話で話した管理人だと名乗った。 人 犯「サリバンはいるかね ? 、マリーノが訊く。 「さあ、わかりませんね」 「上に行って調べてみるよ」