考え - みる会図書館


検索対象: 真犯人
71件見つかりました。

1. 真犯人

ハ一フ。ハラと紙をめくる音がした。 「両腕に擦過傷を認めた、とここに書いてある。左右の上膊の内側だな」と、グルーマンが言 「そのとおりです」 「それで、その内側というのは、正確にはどこのことだね ? 」 「腕の内側の前肘窩の上のところです」 いいかね。いま、わた 一一一一口葉が途切れた。「ほう、前肘窩ねえ」感心したように言う。「えーと、 しは手の平を上に向けて肘の内側を見ている。つまり、腕が曲がる場所を見ているわけだ。これ で間違いないかな ? つまり内側というのは腕が曲がる側で、したがって前肘窩とは腕の曲がる 場所だと考えていいんだね ? 「そう考えて間違いないでしよう」 「ふむ、ふむ、よくわかりました。ところで、ミスター・ワデルの腕の内側にこういった傷がっ いたのは、 ) しったい何が原因だとお考えかな ? 」 「おそらく拘束具のせいでしよう」私はつつけんどんに答えた。 「拘束具 ? 「ええ。たとえば電気椅子についている革の拘束帯とか」 「おそらく、と言われたね。おそらく拘束帯のせいだろうと」

2. 真犯人

凶悪犯と面接している間に記入されたものだ。 リこ田ーしてよこ 「自分でこれを見てごらん」ウェズリーは言って、ワデルのプロトコールを私の ~ 月ー才 した。「これ以上私が意見を一一一口う前に、きみの考えを聞きたい」 ウェズリーがロニー ・ジョー・ワデルを面接したのは六年前、メクレンバーグ郡の死刑囚監房 の中でだった。プロトコールは予想通り、客観的な記述から始まっていた。ワデルの態度、精神 状態、身体的な癖、しゃべり方などから、彼が興奮し、混乱していることがわかった。その後ウ 工ズリーが質問する機会を与えると、ワデルは一つだけ尋ねている。「窓のそばを通ったとき、 つばい見えたけど、雪がふってるのか、それとも焼却炉の灰 ? 」 小さな白いものかい プロトコールの日付を見ると、八月になっていた。 殺人が避けられたかどうかについての質問は、まったくらちがあかなかった。もし現場が人家 の密集した地域だったら被生暑を殺していたか ? 目撃者がいたらどうだったか ? 何らかの条 件があれば殺さなかったか ? 死刑は殺人を思いとどまらせる要素になったか ? 「テレビに出 てくる女の人」を殺したことはおばえていない、とワデルは答えていた。犯行をおばえていない のだから、どうすればそれが防げたかなどわからない。唯一おばえているのは、体が「べとべ 人 犯と」したことだ。まるで夢精したあと目がさめた時みたいだった、とワデルは言った。べとべと していると彼が感したものは精液ではなかった。それはロビン・ネイスミスの血だったのだ。 「ワデルが経験しているトラブルって、ごくありふれたことばかりみたいだけど」私は考えを声

3. 真犯人

ージタウン大学」 「お父さんは医者だったんですか ? 「父はマイアミで小さな食料雑貨店を経営していました」 「それだけの学費を払う身にはなりたくないよな」 数人の陪審員が小声で笑った。 「幸い、奨学金をもらいましたから」と、私は言った。「高校からすっと」 たそがれ 「僕の叔父がノーフォークのトワイライト葬儀店に勤めているんだけど」と、だれかが言った。 「まさか、ハー 。そんな各則の葬儀屋があるわけないだろ」 「いや、本当だとも」 硬直した 「そんなの大したことないよ。ファイエットビルにスティッフって一家が経営してる葬儀屋があ る。何て名前かあててごらん」 「まさかねえ」 「ここのご出身ではないんですか ? 」 「マイアミの生まれです」私は答えた。 「するとスカーベッタという名前はスペイン系 ? 「いえ、イタリア系なんです , 「へえ。イタリア系の人はみんな肌が浅黒くて髪も黒いのかと思ってたけど」

4. 真犯人

「それにとても易しいわ」 「それなら難しくするために自分で何かしなきゃね」 「授業を休めば難しくなるわ」と、ルーシーは言った。 翌朝八時半に、ローズに電話した。廊下を隔てた部屋でスタッフ会議が開かれている時間だ。 ということは、べン・スティープンズはそれに出ていて私が電話したことに気づかないはすだ。 「どう、具合は ? と、ローズに尋ねる。 「最低です。ドクター・ワイアットがロアノーク局から出てこられなくて。山に雪が積もってい て、道路の状態が悪いものでね。それで昨日はフィールディングが手伝いなしで四件解剖したん です。その上、法廷に出頭することになっていて、さらに現場からも呼び出されて。もう彼と話 されました ? 」 「気の毒なフィールディングがなんとか電話に出る暇を見つけたら、相談するわ。この際、昔こ こで働いていた人たちに連絡をとって、しばらくの間手伝いに来てくれないか、あたってみるの 力いいかもしれないわ。ジャンセンがシャーロツツビルで病理学者として独立して仕事をしてい るの。彼に連絡して、私に電話するように頼んでくれる ? 「わかりました。それはいい考えですね」 「スティープンズはどうしてる ? 」

5. 真犯人

チョコレートは好き ? みたい気分だわ。ホット・ 「コーヒーを、もら、フよ」 私はコーヒーをいれるために立ち上がった。頭の中でさまざまな考えが、秋のイエバエのよう にのろのろと飛び交う。やり場のない怒りがこみあげた。マリーノが気づかないことを祈りなが ら、カフェインレスコーヒーをいれる。 「血圧はどうなの ? 」と、訊い 「本当のことを知りたいかい ? もし俺がやかんだったら、日によっちゃピーピー鳴ってるだろ うよ」 「あなたってはんとにどうしようもない人ね」 マリーノは炉床の端に腰をおろした。火が風のような音をたて、真鍮に映った炎が踊ってい 「そもそもね」と、私は続けた。「あなたはここに来てはいけないんしゃないの。厄介な目に会 ってほしくないわ」 「ちえつ、検事もリッチモンド市も知事も、なにもかもくそくらえってんだ」突然怒りをあらわ 人 にして一一一一口、つ。 「マリーノ、ここで降参するわけにはいかないわ。殺人犯が何者なのか、だれかが知っているの バーツって人」 よ。刑務所を案内してくれた看守と話してみた ? ロ る。

6. 真犯人

まま放ってあった。ルチェロが電話を受けてからすぐピートがそれを手に入れてね。バンダーが もう照合した。きっかり三秒で一致するのが見つかった」 「またワデルね」 ウェズリーがうなずいた。 「サリバンのマンションはスプリング・ストリートからどれぐらい離れているの ? 「歩いて行ける距離にある。犯人がどこから逃げたのか、察しはつくな」 「最近釈放された囚人を調べてるの ? 」 「ああ、もちろん。だけどだれかのデスクの上の書類にそいつの々翌則があるわけしゃない。ドナ ヒューがそんな軽率なことをするはすはない。残念ながら、彼はもう死んでるし。おそらくドナ ーがこの囚人を自由にしてやったんだろう。で、そいつはまずマンションに侵入して、それ からたぶん車を手に入れたんだ」 「なぜドナヒューは囚人を釈放したりしたのかしら ? 「私の考えでは、ドナヒューは何か汚い仕事をやる必要があったんだろう。そこで自分の手先と なってそれをする囚人を選んで、そいつを自由の身にした。だが、彼はちょっとした戦術上のミ 人 犯スをした。選ぶ男を間違えたんだ。この一連の人殺しをしている男は、人の命令をきくようなや つじゃない。ドナヒューはだれかが死ぬことになるとは田 5 っていなかったんじゃないかな。それ でジェニファー・デイトンが死体で見つかると、バニックに陥った」

7. 真犯人

に、きみは苦境に陥っている。ただ誇りが高すぎてそれを認められないだけだ」 私は黙っていた。心の中では二つの考えが激しくせめぎあっている。 「きみがそれを求めるなら、助けてあげられる」 もしグルーマンの言ったことが本当なら、こちらも本当のことを一言う必要がある。開けっ放し のドアに目をやった。だれでもいとも簡単にここへ入ってこられるだろう。足を引きずって車に 向かうグルーマンの前に立ちはだかるのも、難しいことではない。 「たとえば、きみを中傷するような記事がもし今後も新聞に載るようなら、こちらも戦略を練っ 私は彼の一言葉をさえぎった。「ミスター・グルーマン、ロニー ・ジョー・ワデルに最後に会っ たのはいつですか ? 」 グルーマンは話をやめて天井をにらんだ。「最後に会ってから、少なくとも一年はたっている と思うね。大体いつも話は電話でしていたから。さっきも言ったように、ロニーのほうがそれを 許せば、最後は一緒にいてやりたかったんだが」 「それでは、ワデルがスプリング・ストリートで死刑執行を待っていたはすの時には、彼に会っ 人 犯たり話したりしてらっしやらないんですね」 「待っていたはすの時 ? 妙な言い方だね、ドクター・スカーベッタ」 「十一一月十三日の夜に処刑されたのがワデルだったのかどうか、 はっきりしないのです」

8. 真犯人

繝うとしていたようわ」私は言った。 「だんだんわかってきたぞ」ウェズリーが一言う。「もしスーサンが預金したりクレジットの支払 いをしたことが事実なら、彼女はかなりの額のお金を手に入れたわけだ。ということは、だれか に何かをしてやったんだ。それと同じ頃に、だれかがきみのコンピューターに侵入し、スーザン の人柄が変わった。神経質で信頼できなくなり、なるべくきみを避けようとするようになった。 きみと顔を合わせるのが苦痛だったんだと思うよ、ケイ。きみを裏切っていることを自分で知っ ていたからだろう」 私はうなずき、冷静になろうと努めた。スーザンは何かにかかわり、やがてのつびきならなく なってしまったのだ。彼女がエディー ・ヒース、そしてジェニファー・デイトンの検屍を避けた 本当の理由はそのあたりにあるのかもしれない、と気がついた。急に感情的になったのは魔術を こわがったためや、ホルマリンのガスを吸って気分が悪くなったためではない。スーザンはおび えていた。それでその二つの検屍に立ち会いたくなかったのだ。 「なるほどね」私の考えを聞くと、ウェズリーは言った。「スーザン・ストーリ ーが提供できた ものは何かといえば、情報だ。もし検屍に立ち会わなければ、情報はないわけだ。スーザンがク リスマスの日に会うことになっていたのは、おそらく彼女から情報を買っていた人物だろう」 「何千ドルというお金を払って、さらに妊娠している女性を殺してまで手に入れたい報って、 いったい何かしら ? 」ルーシーがずばりと訊く。

9. 真犯人

ルグにいる間に指紋を採らなかったのは確かだ。でも俺はほとんどすっといたんだ。だから、遺 体が運ばれてきた直後にやったんでなけりや、やってないね」 「それじゃ、やらなかったんだわ」ますます不安になってくる。「刑務所の人たちはすぐ出て行 ったの。なんだかあの時はすごくざわざわしててね。時間が遅くてみんな疲れてたし。スーザン は指紋のことを忘れてしまったのね。私は自分のしていることに気をとられて、それに気づかな かったんだわ」 「彼女が忘れたんだと思いたいんだろ」 私はコーヒーに - 十を伸ばした。 「あんたの話からすると、スーザンはこのところ様子がおかしいらしいじゃないか。彼女を全面 勺に一三ロ用しないほ、つ力いし 、と思うね」 目下のところ、私も同じ考えだった。 「べントンと話をしたほうがよさそうだな」マリーノが言う。 「ワデルが解剖台に乗っているのを見たでしよう、マリーノ。彼が処刑されるのも見たのよね。 あれがワデルだったと言えないなんて、信じられないわ」 「でも言えないんだよ。ワデルの顔写真とモルグで撮った写真を比べても、やつばり一言えない ね。俺がワデルを見たのは、十年以上前にやつがっかまった時以来だ。電気椅子のところに連れ て来られた男は、三、四十キロ体重が増えてた。あごひげとロひげと髪の毛は剃り落とされてい

10. 真犯人

「じゃその時に、ジェニファー・デイトンの病歴について訊いてみてくれる ? 精神病の既往が なかったかどうかといったこと。それから主治医がだれか知りたいわ」 「あと二、三分でその家へ行く。一緒に来て自分で訊いたらいし 家で私を待っているルーシーのことを考えながら、引き続き部屋の中を調べた。居間の真ん中 あたりのしゅうたんに小さな四角いくばみが四個ついているのが目にとまった。 「俺も気がついたよ」と、マリーノが言う。「だれかがここに椅子を運んできたみたいだな。た ぶん食堂からだろう。ダイニングテープルのまわりに椅子が四脚ある。どれも脚は四角い形だ」 「もう一つやったはうかいし 、と思うのはね」私は考えていることを口にした。「彼女のを チェックすること。何かを録画するようにセットしてあったかどうかを調べるの。そのことで彼 女についてもっと何かわかるかもしれないでしよう」 「そいつはいい考えだ」 私たちは居間を出て、オーク材のテープルと背のまっすぐな椅子が四脚置かれた狭い食堂を通 ほとんど踏まれていないように った。硬材の床の上の、三つ編みのひもを巻いたラグは新品か、 見える。 「彼女はほとんどの時をこの部屋で過ごしてたみたいだな」廊下を横切ってオフィスとして使わ れていたらしい部屋に入ると、マリーノが言った。 部屋にはちょっとしたビジネスを営むのに必要な備品が所狭しと並べられている。その一つが