お客さん - みる会図書館


検索対象: 若おかみは小学生!
198件見つかりました。

1. 若おかみは小学生!

さきはるやりよかん おんせんがい おお 引っ越し先の春の屋旅館は、この温泉街では、けして大きな旅館ではない。 ひらやふるりよかん 客室が五つほどある、ごくこぢんまりした平屋の古い旅館だ ちい てい まえにわ 小さいけれど手入れのゆきとどいた前庭のじゃりをふみ、おっこは春の屋の正面玄関に た 立った。 ぐら ひる なか 昼でも、なんとなく中はうす暗い。 「こんにちはー げんかんはい こえだ 玄関を入ってすぐにあるフロントで大きい声を出すと、紺の着物を着た仲居のエッコさ んがとんできた。 「まあまあ、おじようさん、よくいらっしゃいました , み ふつくらした白いほおにえくばを見せて、エッコさんは、おっこの手からスーツケース と を受け取った。 ま 「おかみさんが、はなれのほうでお待ちですよ。 りよかん はなれというのは、旅館とろうかつづきの家で、おかみであるおばあちゃんの住居に なっている。 ひ きやくしつ しろ おお いえ こんきものき り・よ。かん はるやしようめんげんかん て なかい じゅうきょ

2. 若おかみは小学生!

ちゃ ちやば きやくさままえだ 茶っ葉を蒸らす。お茶をいれたら、お客様の前に出すのだけれど、そのとき、中腰になっ てはだめ。それから手をのばしてお客様にお茶わんだけを近づけるのではなくて、体ごと ちか 近づけるようにして : りようて つぎ 次から次へとまくしたてるエッコさんに、おっこは両手をあげてギブアップした。 「ちょっと待って ! そんなにいつばい、ゝ しつべんにおばえられないよ ! 」 きもの まるだ 「着物でばんざいする人がありますか ! ひじまで丸出しでしよう。はしたない。」 なにをしてもしかられた。 ちゃ たいへん ( ごあいさっとお茶いれだけでこんなに大変だなんて : おっこは、泣きそうになった。 ちゃだ ゅうしよく じかんき わす 「さあ、お茶を出したら、夕食のお時間を聞くことを忘れずに。そのときのお飲みものは りようり・ ようい しつもん なにをご用意させていただくかもたずねること。それに、お料理についての質問があるか きよ、つ りようーり・ まえ もしれませんから、前もって康さんに今日のお料理はなにか聞いて頭に人れておくこと。 ふろ ばしょ あんない ひじようぐちせつめい それから、非常ロの説明と、お風呂の場所のご案内もすること。そうそう、この近くの観 こうち かんこう 光地のことをたずねられるかもしれないから、そのときは、フロントから観光マップのコ ひと きやくさま ちか あたま ちゅうごし ちか かん

3. 若おかみは小学生!

「なかなかですな。 こう おっこと康さんは、目を見合わせた。 さむ 温かいお菓子が温泉まんじゅう 「ねえ、これ、寒いときなんか、いいかもしれない ! ばっかりじゃっまらないじゃない ? 」 よろこ だ 「なるほどねえ。お客様にお出ししたら、わりと喜ばれるかもしれないなあ。 こ、つ 康さんが、うなすいた。 た あ おっこは、立ち上がってばんざいした。 めいぶつがしかんが 「さすが康さん ! こんなに早く、名物菓子を考えつくなんて、天才じゃないの ! 作り かた とうじっ しゅうこうりよかん 方もそんなにむずかしくないし。これなら当日、秋好旅館であたし、作れるわ。」 ひとりつく 「おじようさんが一人で作るんですか ? どよ、つこ、つ し′」と はるや あきの 「だって、土曜は康さん、春の屋の仕事があるでしよ。それに、秋好旅館だって秋野さん まっき だいひょう しゆっじよう はるやだいひょう ・ : 真月さんが代表で出場するんだもの。春の屋代表として、あたしががんばらなく ちゃ。 むね おっこが、まかせてくれといわんばかりに、胸をたたいた。 きやくさま め みあ はや あたた てんさい しゅうこうりよかん かしおんせん つく つく 143

4. 若おかみは小学生!

しんぞう すこ 言われるとおり用意をしているうちに、はれっしそうにばくばくいっていた心臓が、少 しおさまってきた。 はるや 「ええか、おっこ。春の屋にはお客さんがいたはる。ェッコさんにも康さんにもついてき ひとりきゅうきゅうしゃ の びよういん てもらうわけにはいかん。おまえ一人で救車に乗って、病院につきそうんや。」 言われて、おっこははっとした。 きやくさま はるや そうだ。たしかに、春の屋にはお客様がいる。ェッコさんや康さんをたよるわけにはい かない。 ( あたし一人で。 ) き こころぼそかぜからだなかとお ひゅうっと心細い風が体の中を通りすぎた気がした。 「できるか ? 」 ぼう くうきつつ ウリ坊が、おっこの手をにぎった。すると、ふわんとそこだけひんやりした空気に包ま れた。 「ウ、ウリ坊は。」 き おも 思わず聞いた。 ひとり ・ほ、つ よ、つい て ヤ」、つ ヤ」う

5. 若おかみは小学生!

おっこは、おおいににこにこした。 ふろよろこ きっとこのお客さんたちは、花のお風呂を喜んでくださるだろう。だれのアイデアか、 なんて聞かれるかもしれない。 そうしたら胸はって言うのだ。 わか 「あたしです。ここの若おかみ ( 見習い ) なんです。 みなら ヤ」のヘ去」 見習いは、、 さな声で聞こえないぐらいの大きさで言うのかいいだろう。 きやく かんしん お客さんたちはヘえっと感心する。 わか 「すごいわねえ、たったの十二歳なのに、若おかみだなんて。えらいわねえ。」 はな ふろ わだい ざっし ひょっとしたら、花のお風呂が話題になって、雑誌の取材なんかも来るかもしれない。 はなばたけ ふろ 花畑のお風呂、としようかいされることになるだろう。 しやしん そうしたらそのとき、おっこはどんなかっこうで写真にうつろう ? やつばり若おかみ きもの らしく着物だろうか むらさき おばあちゃんのシンポルカラーが紫だから、おっこはピンクにしようか。でもピンク かさ あか みずいろ だと、ピンふりと重なっちゃうから、明るい水色なんてどうだろう。 ちい むね きやく みなら おお しゅざい わか

6. 若おかみは小学生!

よろこ おおざらみ この、はなやかな大皿を見たら、あの子すごく喜ぶだろうな。 ま すすあし しようがいっ つい、進む足がはやくなった。だいじようぶ、もくれんの間まで障害物はなにもない おも 走ったっていいぐらいだ。そう思ったとたん さき つんっとなにかがつま先にひっかかって、がくっとひざが落ちた。 き き と きもの 着くずれてきた着物のすそをふんだのだと気がついたときには、もう止めようがなかっ と お つばい、ななめに ざらりと盆の上ですべった皿を取り落とさないようにするのがせいい かたち かしいだ皿を胸にかかえた形で、おっこはろうかにひっくりかえった。 「ああっ ! きや 1 っ ! 」 むざんち ひめい 無残に散らばったうすもも色のおさしみを見て、おっこは悲鳴をあげた。 で ェッコさんとおばあちゃんがとんで出てきた。 ま で へや もくれんの間のお客様も、なにごとかと部屋を出てきた。 もう 「ご、ごめんなさいー いえ、申しわけございません ! 」 さら おっこは、皿をだいたまま、ろうかにおでこがくつつくほど頭を下げた。 はし さらむね ぼんうえ きやくさま さら いろ こ み 0 お あたま さ 100

7. 若おかみは小学生!

ちゅうぼう おっこがばんばんにふくらんたビニールぶくろをかかえて厨房にかけこんできたので、 かお 康さんは、おどろいた顔をした。 へや 「おじようさん。お部屋のほうにいなさいっておかみさんに言われたでしよう ? こ はやね おとこ ・ : : ・さしカら早く寝ちゃ 「わかってる ! だけど、いそいで作らないと、あの男の子 うでしよう。」 おとこ つく 「なにを作るんです ? あの男の子 ? もしかして、さっきのお客様のことですか ? 」 たんじようび たんじようび 「そうよ。お誕生日をだいなしにしてしまったんだもの。せめて、お誕生日をお祝いする おも かし お菓子でも作ってあげようと思ってね ! 」 たまごぎゅうにゆう おっこはコンビニのふくろから、卵、牛乳、コンデンスミルク、ももの缶づめ、さくら ヤ」、つ あたたかい気持ち つく きも こ きやくさま かん

8. 若おかみは小学生!

くんとおじぎをしないこと。 きやくさま もくれんの間のお客様にもせいいつばいの「ありがとうございました。」を言った。 もくれんの間のお客様がおっこに話しかけてきた。 「おかみさんから聞いたんだけど、ゆうべのあのプリン、あなたが作ってくれたんだっ おっこはどきんとして、あわててたすねた。 くちあ お口に合いましたでしようか。」 「はい。あの : うし ちい かあ おおごえこた おとこ すると、あの小さな男の子が、お母さんの後ろからびよこっと顔を出して大声で答え 「プリンおいしかったよう ! 」 にぎ ちい ひらひらふる小さな手には、おっこのあげたバースデーカ 1 ドがしつかり握られてい よろこ たんじようび 「すっかりこの子か喜んじゃって。どうもありかとう。いい誕生日になったわ。 「ありかと一つ」ざいます。 きやくさま こ かおだ つく 118

9. 若おかみは小学生!

おっこがそう一言うと、 かんが 「じゃあ、ばくも、なにかがんばって考えてみるよ。 へや あかねはそう言って部屋にもどった。 あん あした しかし、その明日になっても、なかなかいい案はうかんでこなかった。 おも ちゅう・はうはい かえ がっこう 学校から帰ってくると、すぐに厨房に入ったが、なにも思いうかばないものはしかたが し′」と ナんになさい。康さんの仕事のじゃまばかりして。」 「いいかに おばあちゃんにしかられた。 きぶんか すこさんぽ 「少し散歩でもして、気分を変えたほうがいいですよ。 ある こ、つ おんせんどお 康さんに言われて、おっこは温泉通りをぶらぶら歩いてみた。 はなゅおんせん 花の湯温泉らしいもの。 それで、きれいなもの。 はるはな 春の花でもかざろうか ? た でも、食べるのにじゃまになるし。 155

10. 若おかみは小学生!

源蔵が深いひげの奥から、にやっと笑った。 「よかったねー かた としおさんがおっこの肩をたたいた。 「あ、ありがとうございます。」 しん 信じられなかった。 しようじようじゅよ ・ほ、つ 賞状の授与のとき、おっこはウリ坊に言った。 と 、つ ぼう 「いっしょに受け取って ! ウリ坊がいなかったら、賞なんてもらえなかった。」 「ええ ? そんなん、はずかしいなあ。」 ・ほ、つ て ウリ坊ががらにもなく、照れた がいひと み 「どうせ、あたし以外の人には見えないんだから、はずかしいもなにもないでしよ。」 「それもそうや。」 ・は、つなら しようじよう ということで、おっことウリ坊は並んで、賞状を受け取った。 ぼう しんさいんかいじよう きやくあたま ウリ坊はいちおう、おっこといっしょに、審査員や会場のお客に頭を下げていた。 そのあとも、たいへんだった。 げんぞうふか おく わら しよう さ 196