きゅうきゅうしやく 「救急車が来るまで、動かさないほうがいい。 れいせい と、冷静に声をかけた。 おっこは、それでやっとおばあちゃんをゆすぶるのをやめた。 こわかった。 おも おばあちゃんがこのまま、目を開けなかったらどうしよう。そう思ったとき、 「落ちつけ。おばあちゃんはちゃんと皂してるから。 ぼうこえ ウリ坊の声がした。 ぼう かおあ 顔を上げると、ウリ坊がそこに立ちはだかっていた。 ばあい ようい びよういんひつよう 「病院で※要なもん用童せえ。泣いてる場合とちがうぞド びよういんひつよう 「病院で必要なもの・ : おし 「ええからついてこい。教えたる。」 ・はう 言われておっこは立ち上がり、ウリ坊にいざなわれるまま、居間にもどった。 ほけんしよう ちゃ みぎ ほけんしようしろ 「茶だんすの右はしのひき出しに、保険証。白いカードに保険証って書いてあるから。そ れからサイフ。」 こえ
しつばい しつばい 「でも、失敗は失敗だからね。おばあちゃんの一一一一口うとおり、あいさっとか、お茶をいれる きほん とか、そういう基本がちゃんとできるようにならないと、だめなんだよね。きっと。」 きよ、つ 「そしたら、おっこはもう、今日はひきさかってしまうんか ? 」 ぼううでぐ ウリ坊が腕組みして目をむいた。 きよ、つ 「だって、もう今日はなにもするなって言われて : : : 。」 「それで、ただ落ちこんで、泣くのをがまんしてるだけ ? そんなんおっこらしくないで。 「じゃあ、どうしたらいし ゝって言うの ? 」 じぶんかんが 「それは自分で考え。なんかおっこにできることが、まだあるかもしれへん。 ぼうすがたけ そう言って、ウリ坊は姿を消した。 へやなかはい おっこが部屋の中に入らないでと言ったことを、どうやら守ってくれているようだ。 かお おっこは、ひざに顔をうすめて、ううーんとうなった。 じようたい おっこにできること。今のこの状態でなにかある ? きやくさま おも あんなにおこらせてしまったお客様に、少しでもなにか、春の屋に来てよかったと思っ ていただくこと。 すこ はるや 104
おっこがそう一言うと、 かんが 「じゃあ、ばくも、なにかがんばって考えてみるよ。 へや あかねはそう言って部屋にもどった。 あん あした しかし、その明日になっても、なかなかいい案はうかんでこなかった。 おも ちゅう・はうはい かえ がっこう 学校から帰ってくると、すぐに厨房に入ったが、なにも思いうかばないものはしかたが し′」と ナんになさい。康さんの仕事のじゃまばかりして。」 「いいかに おばあちゃんにしかられた。 きぶんか すこさんぽ 「少し散歩でもして、気分を変えたほうがいいですよ。 ある こ、つ おんせんどお 康さんに言われて、おっこは温泉通りをぶらぶら歩いてみた。 はなゅおんせん 花の湯温泉らしいもの。 それで、きれいなもの。 はるはな 春の花でもかざろうか ? た でも、食べるのにじゃまになるし。 155
まゆ ぼううでぐ ウリ坊が腕組みして、眉をつり上げておこったように言った。 「ちえつ、ダメか。 しただ おっこは舌を出した。 からだかる 「のりうつられてるときって、ふわあっと体が軽くなって、なんだかすごくいい気持ちで みかた 言いかけたおっこは、はっと身を固くした。 さいちゅう めいぶつがし ぼう 名物菓子コンテストの最中に、頭によみがえりかけたことーー・ウリ坊がとりついている 、、かんかく はじ おも つよおも が、ふいに強く思いだされた。 あの感覚が、初めてのことではないと思ったこと ぼう 「ウリ坊、聞きたいことがあるの。 せいざ おっこは、そうじ機をわきに置いて、ざしきで正座した。 「な、なんや、あらたまって。 ぼう まえ ウリ坊はとまどいながらも、おっこの前にあぐらをかいた ぼう まえ 「ウリ坊、コンテストのときよりも前に、あたしにのりうつったことってある ? きゅう 「ど、どないしてん。鬼に。」 あたま 207
お菓子の。 「ねえ、なにかいいアイデアない ? そうだん そうだん 「おれに相談するよりあかねくんに相談したほうが、たよりになるんとちがうの。 かお ぼう ウリ坊は、ぶっとむくれた顔つきで、そっほをむいた ・はう 「あれつ、ウリ坊。なにすねてるの ? ぼうかお おっこはウリ坊の顔をのぞきこんだ。 ししよくふたり 「べつにすねてなんか、おれへん。ゅうべ、えらい仲よさそうに、プリンの試食、ニ人で してたやないか。」 ね こうすいせんせい それにウリ 「それは幸水先生がもう寝てらしたから、たまたま二人になっただけで : ししよく た ぼうよだ 坊呼び出したって、試食してもらえないじゃないの。ューレイは食べられないんだから。」 「それはそうやろけどな : : : まあ、おれがいたいのはや。」 こえひく つづ そして、ふいに声を低くしてこう続けた。 きやく はるや なか 「いくら仲よくなったって、あいつはお客やってことや。どうせしばらくしたら、春の屋 から行ってしまうんや」 かた その言い方に、おっこはかちんときた。 なか ふたり 0 158
し′」と はるや そう、春の屋の仕事はいくらでもあるのだ。 ばやばやなんかしてられない ・はう 「ウリ坊、行こ ! げんき 元気よく言ったおっこに、おばあちゃんが、 「え ? 今なんて ? 」 かおき と、けげんな顔で聞きかえしたが、おっこはもう、ふりかえらなかった。 ようりよう ・ほう ぼう あいだ 「ねえ、ウリ坊。この間、のりうつったときのウリ坊って、てきばきしてて、要領よく ・ほ、つ て、なかなかよかったよ。どうかな。やまぶきの間のそうじも、ウリ坊かのりうつって やってくれない ? そうじ機をかかえて、やまぶきの間に入りながら、おっこはふざけてそんなことを言っ にんげん 「アホ ! そんなしよっちゅう、生きてる人周にのりうつったりできるか ! とくべっとくべつきき 子がええねんから。あれは持別の持別。危機のときだけや。」 ほんまに調 ちょう 206
すから、うれしくて、つい。」 あんしん 「おかみさんもこれで安心ですね。 」、つ 康さんまで、もらい泣きをしている。 ( し、しまった。 ) まえ こんど はるや おも 思ってももうおそかった。春の屋のあとつぎになると、みんなの前で、今度こそはっき せんげん り宣言してしまった。 「よう ( 一。うた。」 ぼう ウリ坊がほんばんと、おっこの頭をたたいた。 はるや 「それでこそ春の屋の予ゃ。」 しゅうこうりよかん 「秋好旅館さん。わざわざばくのことを気にかけてくださってありがとうございます。で はるや も、今のを聞いたらますますばくは、春の屋をはなれられないなあ。おっこちゃんがどれ だけりつばな若おかみになるか楽しみですから。ですから、今日はおひきとりください。」 こうすいせんせい 「幸水先生がそうおっしやるならしかたありませんけど : しゅうこうりよかん しぶしぶ、秋好旅館のおかみは、立ち上がった。 わか こ たの あたま
「 : : : おっこ、そしたらな、おれにまかせてくれ。」 と て ・ほう ウリ坊がおっこの手を取った。 と あいだいき 「ちょっとの周、皂を止めててくれ。ューレイにはユーレイにしかでけへんことかあるか らな。」 そう言うなり、ウリ坊の姿が、すうっと白くなり、もやもやっとけむりになってくずれ はっとして、身をひくと、けむりはおっこの手にくるくると糸のようにまきついた。 どうじ ゅびさき くうき つめ うできゅうかる 同時に、指先から、しゆっと冷たい空気が入ってきて、腕が急に軽くなった。 うでく、つき まるで腕が空気にとけたみたいだ。 いた ( 痛みがなくなったか ? ) ぼうこえ ちよくせつあたま ウリ坊の声が、直接頭にひびいた。 からだちゅう かる きぶん ふわあんと、体が宙にういたみたいに軽い。なんだかとてもいい気分だ。 ( いったいどうなったの ? ) こころこえ ぼうこた おっこの心の声に、ウリ坊が答えた。 み ぼうすがた しろ て 177
かんが 「そこまで、考えてくれていたのかい。」 なみだ おばあちゃんが、ほろほろと涙をながした。 りよかんし。こと 「おばあちゃんうれしいよ。そうだね、旅館の仕事はたしかに大変だけど、でも、おっこ まいにちせいかっ きぶんか にとっても、 いいかもしれないね。毎日の生活ががらりと変わって、気分が変わるよ。そ かな おもだ れにいそがしくしていたほうが、悲しいことも思い出さないかもしれないし。」 「あら、おかみさん、どうなさったんですか。 こえ 居間をのぞきにきたエッコさんが、泣きぬれているおばあちゃんにおどろいて声をあげ りよかんしごとたいへん 「エッコさん ! 聞いてちょうだい。おっこがねえ、旅館の仕事が大変だろうからって手 つだ 伝ってくれるって一一一一口うんだよ。そのうえ、あとつぎのことまで。」 はる わか 「ええつ、おっこちゃんが、この春の屋の若おかみになってくださるっていうんです か ? 」 ェッコさんが大きく反った。 はなし 「まあまあまあ、なんてうれしいお話なんでしよう ! おかみさん、よろしゅうございま おお たいへん
「だいじようぶですかねえ。まあ、ひとつひとつ、ていねいに手順どおりやっていけば、 おも まちかいはないと思いますか : こ、つ ふあん ちゅうぼうで 不安そうな康さんをよそに、おっこは上きげんで、厨房を出た。 で であ こうすいせんせい ろうかに出たところで、幸水先生にばったり出会った。 わか しゅぎよう 「やあ、おっこちゃん。がんばってるそうだね。若おかみ修業はうまくいってるの ? はな こうすいせんせい 幸水先生がにこやかに、話しかけてきた。 「ええ、がんばってます ! 」 へんじ おっこも、にこにこと返事した。 どようびしゅうこうりよかんおこな はなゅおんせんめいぶつがし おうぼ 「あたし、土曜日に秋好旅館で行われる、花の湯温泉名物菓子コンテストに応募したんで すよ , 「それはなんだい ? 」 しゅうこうりよかん おっこは、秋好旅館に行ったときのことを話した。 だいじ おも しようらい はなゅ 「あたし、すごくそれって大事なことだと思って。だって、将来の花の湯をになうものと はなゆかっせいか せつきよくてきさんか おも して、花の湯の活性化のためにも、そういうイベントに積極的に参加しなくちゃって思っ 0 じよう てじゅん 144