つぎひげつようび 次の日。月曜日。 きようかえ 「今日、帰りに秋野さんのところに寄れる人。 せんせい 先生が言った。 あきのまっき がっこうやす 秋野真月は、なぜか学校を休んでいた。 しゆくだい ちか ひと はなし 宿題のプリントを届けに、近くの人がだれか行ってくれないかという話がでたのだ。 あきの ちか 「秋野さんとこにいちばん近いのは : だれからということもなく、みんながおっこを見た。 はるやしゅうヤ」、つりよかん みち たしかに春の屋と秋好旅館は、道を一本だけへだててたっている。 「 : : : あたし ? 秋好旅館で しゅうこうりよかん あきの とど よ いつぼん 0 ひと み 130
しゅうこうりよかん しゆっじよう 「秋好旅館のおじようさんも出場するっていうし、みんなしつかりしてるよね。きみらに あくしゅ 負けないように、ばくもがんばるよ。握手しよう。 あくしゅ おっこはとしおと握手した。 ひと ( よかった、こわい人がとなりじゃなくて。 ) おとな さんか おっこは、ほっとしていた。大人ばかりのコンテストに、真月もいるとはいえ、参加し 「子どもがなんの用だ。」 つめ おも と冷たい目で見られたらどうしよう、と思っていたのだ。 まえゅうじようこうかん 「たたかう前に友情の交換 ? 」 こえ 聞きおばえのある、とげのある言い方、つんとすました声。 まっき ふりむくと、やつばり真月かいた。 きようそ、つ 今日は総レースの白いエプロン、それに合わせて、髪のリポンも白いレースだ。 あきの 「あっ、秋野さん。ひょっとして、おとなり ? しよくざい 「まあね。食材、ここに置いて。 よう しろ かた かみ まっき しろ
さらから 源蔵もなにも言わなかったが、だまって皿を空にしていた。 ( やつばりみんなすごいんだ。 ) しんさいん かお おっこは、審査員たちの「おいしそうな顔」を見ながら、ぐうっと自分で自分の手をに ぎった。 め カ ( どれもすごくおいしそう。勝ち目なんかないかもしれない。 ) か じしん 勝てる自信は今となっては、まったくなかった。 ししよくお へや しんさけつか やがて、試食が終わり、審査員たちが、別の部屋に行った。意見を合わせて、審査結果 だ を出すためだった。 「おっこ ! 」 おばあちゃんがかけよってきた。 ひょうばん 「なかなか評判がよかったじゃないか。ひょっとしたらひょっとするかもしれないよ。 あきのげんぞう 「でも、秋野源蔵さんは、まずまずって言った : ・ き げんぞう 「源蔵さんのまずまずっていうのは、そうとう気に人ってる証拠だよ。」 おばあちゃんがにやっと笑った。 げんぞう わら しんさいん べっ み 0 しよう」 いけんあ じぶんじぶんて 192
はげちょろけたソフアがひとそろいに、いのししのはくせいかそっとひかえめにかざっ はるや てある春の屋のロビーとは段ちがいだ 「あ、あそこにいこ。 さき きよ、つ ゅび いしよう よりこが指さした先には、今日もみごとなピンふり衣装でリポンを髪につけた真月がい なにやら、ソフアのお客様に、あいさっしている。 ズ アット ホ ム えいご ( うつ、英語 ! ) た おっこは、どきっとして立ちどまった。 まっきした まんめんえがお きんばつあおめ 真月が親しげに満面の笑顔であいさっしていた相手は、金髪に青い目のお客様たちだっ あきの えい。こせつきやく 「あ、秋野さんって英語で接客なんてできるんだ。」 きやくさま 。かいこく えいかいわなら 「秋好旅館には、外国のお客様もいらっしやることが多いからって、英会話習ってるみた ゝ しゅうこうりよかん 0 きやくさま ル ( ごゆっくりおくつろぎください。 ) 」 おお かみ きやくさま まっき 132
そ、つげ・い はなゅおんせんずいいちしゅうこうりよかん 「そう。〃花の湯温泉随一・秋好旅館んって、送迎バスにでかく書いてるよ。」 あきの 「その秋野さんになんで気をつけなくちゃいけないの ? しんも りよかんいえ 「ピンふりはね、旅館の家の子には、すごくライバル心を持ってるのよ。 しゅうこうりよかん 「ライバルっていったって、秋好旅館とうちなんかじゃ、ぜんぜん規模もちがうし。」 「そういういやみをいつばい言われるわよ。 「ええ 1 つ、そうなんだ。」 ふたり まっき みしゅんかん まっきめ よりこと二人で真月のほうを見た瞬間、ばちっと真月と目が合った。 まっき 真月は、話していた女の子たちをさっと手で制すると、立ち上がり、おっこのほうに向 ある ある かって歩いてきた。リポンのいつばいついたフリルがわさっとかたまりで歩いてくるよう すは、ピンク色のクリスマスツリーみたいだ。 はるや はるや 「関さんって春の屋さんなんですってねえ。わたし春の屋さんってとても好きよ。 いきなり、そう話しかけてきた。 「あっ、どうも、ありかとう。 おっこは礼を言った。 せき おんな こ
せつめい と説明しなくても、みんながうなずいた き せき 「ねえ、関さん。ピンふりには気をつけたほうがいいわよ。」 やすじかん みみう いけづきわがしてん 休み時間に、こっそり耳打ちしてくれたのは、池月和菓子店の池月よりこだ。 「ピンふりって ? 「ピンクのふりふりよ。 さ おやゅびた きようしつなか そう言って、よりこは細い目をさらに細めて、びっと親指を立てて、教室の中ほどを指 した。 いみ そう言われれば、すぐにその意味はわかった。 き ぜんしん あかかみけ 全身わさわさのフリルのピンクのワンピースを着た、赤い髪の毛をくりんくりんにカー おんな きようしつ ルさせた女の子が、教室のまん中に座っている。その子のまわりには、やはりフリルっほ と ま おんな はな わら いかっこうをした女の子たちが取り巻いていて、なにごとかを話してはくすくす笑ってい る。 むすめ あきのまっきしゅうこうりよかん 「秋野真月。秋好旅館のひとり娘よ。 しゅうこうりよかん 「秋好旅館って ? えーっとあのでつかい ? 」 こ ほそめ なかすわ ほそ こ いけづき
しゅうこうりよかんだいえんかいじよう めいぶつがし かいじよう 秋好旅館の大宴会場が、名物菓子コンテストのメイン会場だった。 かいじよう おおぜいひと 会場には大勢の人がつめかけていた。 き おおぜいひと ( すごい 。こんな大勢の人が来てるなんて。 ) きしゃ ひと ひと どこかの記者らしい人やカメラをさげた人もいる。 おも た せなかまっきお 思わず立ちすくむおっこの背中を真月が押した。 しんさいんよこ 「なにびびってるのよ。ほら、審査員の横に行って。」 かかりいん しゆっじようしゃ しんさいんせき なら た 係員が、おっこたち出場者を、審査員席のわきに並んで立たせた。 しんさいんせき つぎつぎ 審査員席には、次々と、出場者の作った菓子が運ばれていた。 しんさいんなか きび しゅうこうりよかんせんだいあきのげんぞう 審査員の中でいちばん厳しいのは、秋好旅館の先代秋野源蔵だった。白いひげに白い けつかはっぴょう 結果発表 しゆっじようしやっく しろ しろ 188
「なかなかですな。 こう おっこと康さんは、目を見合わせた。 さむ 温かいお菓子が温泉まんじゅう 「ねえ、これ、寒いときなんか、いいかもしれない ! ばっかりじゃっまらないじゃない ? 」 よろこ だ 「なるほどねえ。お客様にお出ししたら、わりと喜ばれるかもしれないなあ。 こ、つ 康さんが、うなすいた。 た あ おっこは、立ち上がってばんざいした。 めいぶつがしかんが 「さすが康さん ! こんなに早く、名物菓子を考えつくなんて、天才じゃないの ! 作り かた とうじっ しゅうこうりよかん 方もそんなにむずかしくないし。これなら当日、秋好旅館であたし、作れるわ。」 ひとりつく 「おじようさんが一人で作るんですか ? どよ、つこ、つ し′」と はるや あきの 「だって、土曜は康さん、春の屋の仕事があるでしよ。それに、秋好旅館だって秋野さん まっき だいひょう しゆっじよう はるやだいひょう ・ : 真月さんが代表で出場するんだもの。春の屋代表として、あたしががんばらなく ちゃ。 むね おっこが、まかせてくれといわんばかりに、胸をたたいた。 きやくさま め みあ はや あたた てんさい しゅうこうりよかん かしおんせん つく つく 143
「ありかとう ! まっきておも おっこは真月の手を思わずにぎった。 めいぶつがしかんが 「かんちがいしないで。あなたがどんなおかしな名物菓子を考えるのか、見てみたいだけ て まっき 真月はおっこの手をふりはらった。 はるや むかし 「おじいちゃんはね、昔から春の屋さんにはあまいからね。きっと、喜ぶわよ。あなたの しゆっじよう 出場を。 まっきことば くび 真月の言葉に、おっこは首をかしげた。 しゅうこうりよかんそうぎようしゃ はなゅおんせんがいいち あきのげんぞう 真月のおじいちゃん、秋野源蔵といえば、秋好旅館の創業者であり、花の湯温泉街一の 実力者である。 げんぞう はるや その源蔵が、春の屋にあまいとはどういう意味なんだろう。 とうじったの 「まあ、せいぜいがんばってちょうだい。当日を楽しみにしてるわ。 きやくさま あたら まっき 真月はそう言いすてて、また、新しく着いたお客様のほうに走っていった。 まっき じつりよくしゃ よ。 っ み よろこ み 138
しゆくだい ね。 トリップ ア ナイス 「 (-) ・ ( よいご旅行を。 ) えがおき み まっきかお そう言って、こっちを見た真月の顔から、すっと笑顔が消えた。 て おっこは、しかたなく、ちょっと手をふった。 ある まえ まっきおお 真月が大またで、おっこの前にずしすし歩いてきた。 はるや り・よかん りよかんけんがく 「なに ? うちの旅館の見学がしたいのかしら ? 春の屋をりつばな旅館にするために。」 えがお べつじん きやくさまみ み まっき 真月がじろっとおっこを見すえた。お客様に見せていた愛くるしい笑顔とは別人のよう 「宿題のプリントを持ってきただけよ。ほら。」 と よりこが、プリントをかばんから取り出して、真月の手に押しつけた。 「ああ、どうも。 ありがとうとも言わず、真月はプリントを小さくたたんで、ポケットにつつこんだ。 がっこうやす せつきやく あきの 「秋野さん、すごいんだね。学校休んで、接客なんて。 きやくさま ばあい がっこう 「まあ、大事なお客様のときはね。学校なんかに行ってる場合じゃないこともあるから プ だいじ も まっき ちい まっきて お 134