じかん 夕食を運ぶ時間になるまで休んでいていいと、エッコさんに言われて、おっこは自分の 部屋にもどった。 ぼう ウリ坊はいなかった。ついてこようとしたので、 へやかって 「あたしの部屋に勝手に入ってこないでよー と、しかったのだ。 としちかおとこ ・ほ、つとし いくらユーレイとはいえ、年の近い男の子だ。 ( そういえば、おっこはウリ坊に年を聞 みかん せたか としちか いたことがなかった。しかし、見た感じ、背の高さがいっしょぐらいだから、年が近いと おも 思っている。 ) きらく へやはい そんなにほいほい気楽に部屋に入ってきてもらっては困る。 ゅうしよく はなばたけ 8 花畑のあ風呂 ふろ やす ヤ」ま じぶん
しじ お客様が部屋にもどったあと、おっこは、おばあちゃんの指示でろうかのそうじをした。 いちどきやくさま 「あたし、もう一度お客様にあやまりに行ったほうかいいかな : じぶんへや 「もう、今日はおまえは、自分の部屋におかえり。」 おばあちゃんがため息をついた。 「からまわりする日というのがあってね、いっしよけんめいしてもだめなことがあるんだ しゆくだい よ。そういう日は、よけいなことをしないこと。もう着がえて、宿題でもしておいで。 じぶんへや おっこは、うなだれて自分の部屋にもどった。 きもの 着物をぬいで、トレーナーに着がえると、どうっと疲れがおそってきた。 いちにち まったく、なんて一日だったんだろう。 よろこ はなばたけゅ ″花畑の湯〃で、うっとりと喜んでもらうはすのお客様には、こんな気持ちの悪い風呂に だいす は入れないと言われ、一刻も早く、大好きなおさしみを運んであげようとしたお客様に おおな は、大泣きされた。 きやくさまよろこ お客様に喜んでいただくというのは、なんてむずかしいことなんだろう。 きやくさまへや はや きやくさま つか わるふろ きやくさま 102
はるや おっこは二人を連れて、春の屋に向かった。 おも 「うちはお部屋はたしか空いてると思いますから : はるや はや へいじっ あべや 春の屋は、はっきり言ってそう流行っている旅館ではない。平日はたいてい空き部屋が ある。 ふたり ふあん とはいうものの、おばあちゃんがこの二人を泊めてくれるかどうかは不安があった。 きやく おかえ おばあちゃんは、気に人らないお客さんだと、追い返してしまうことがあるのだ。 「ただいま。 しようめんげんかん 正面玄関から入って、おばあちゃんを呼んだ。 「おばあちゃん、この人たち、泊まるところをさがしてたから、うちに来てもらったの。 4 あ客様とけんか きやくさま ふたりつ ひと り・よかん
ゅ かごいつばいの花を、お湯にぶちまけた。 ゅ はなしろ ばらばらと、花が白いお湯にういた。 「すてき ! はくしゅ おっこは、ひとり拍手した。 ま あとはお客様がいらっしやるのを待つばかりだ。 じぶんへや おっこはうきうきと、自分の部屋にもどった。 きやくさま ゅうがた わかじよせ ) しふたりづ 夕方になって若い女性の二人連れがあらわれた。今日チェックインのお客様だ。 も かたち ェッコさんの補助という形で、おしばりを持って、お部屋にごあいさつに行った。 なかい 「ああら、かわいらしい仲居さんねえ。」 めほそ おんなひと きものすがた 女の人たちは、着物姿のおっこに目を細めた。 みなら 「まだ見習いなんです。よろしくおねがいします。」 「えらいわねえ。 」あいさつは一つまくいった。 ゅうしよくまえ 「タ食の前に、お風呂に入りたいわ。 きやくさま ほじよ ふろはい
おびようい 何種類ものきれいな色のゆかたや帯を用意し、お客に選ばせるところ。 きねん かわいいポーチを宿泊の記念にプレゼントしてくれるところ。 ふろ ープティーをサービスしているところなどなど。 お風呂あがりに冷たいハ はるや ( 春の屋でも、なにか、おしゃれでかわいいサービスできないかなあ。 ) おっこは考えた。 はるや きやくさますく わかじよせい そうでなくても、春の屋は若い女性のお客様が少ない。秋好旅館などはヘルシーメ き りようり にんき ニューの料理が目玉のレディースプランが人気だと聞く。 わか ( あたしも、なにか考えられないかなあ。いちおう、若おかみ見習いなんだし : : : 。 ) はなやど おも ざっし そんなことを思いながら雑誌のページをめくると、「花の宿ーというのが目に入った。 、つ やど かんさい かんない 関西の宿で、とにかく館内のあちこちに花がかざってあるというのが売りらしい はなやど 「花の宿かあ。これならまねできそう。」 おっこは考えた。 へやまえ かくへや 各部屋にはいちおう花がかざってあるけれど、それだけじゃなくて、部屋の前、ろうか いちりん お のところに一つずつ一輪ざしを置くとか : なんしゆるい めだま しゆくはく いろ 0 きやくえら しゅうこうりよかん みなら めはい
「ばっちゃんのほうも、あまりたくさんめしあがらないそうです。 、」う 「そう、康さん、ではメニューの検討をしましよう。 しじ てきばきと、おばあちゃんはその日しなければいけないことを指示した。 おっこはほけえっとおばあちゃんのようすを見ていた。しやっきりしていて、なんて かっこいいんだろう。そうか、これかおかみなのか ちょうしよくはこ きもの あるかた へやはい 「おっこは、朝食運びはまだだめだね。着物のときの歩き方やお部屋の入り方がなってな いカら・ まずは、エッコさんといっしょにふとん上げと部屋のそうじ。それがすんだ しかた ちゃだかた おし ら、お客様へのごあいさつの仕方、お茶の出し方をェッコさんに教えてもらいなさい。」 言われて、おっこはちょっとほっとした。 じゅうろうどう きやくさま 重労働のふとん上げはともかく、お客様へのあいさつぐらいなら、かんたんなことだ。 せいざ きちんと正座して、頭をひくく下げればいいだけのことなのだから : おも と思ったのがあまかった。 いぜん あかた あいさつに人る以前にふすまの開け方がよくないと、まず注意された。 からだ 「ふすまは体の三分の一ぐらいをまず開けて、それから両手で、ゆっくり体のはばまで開 きやくさま ん あたま けんと、つ りようて ちゅうい からだ かた
けるんですよ ! 」 まはんたいがわあし 「床の間と反対側の足から入ること ! 」 ちゅうい そんなこと、エッコさんやおばあちゃんが注意してやってるとはぜんぜん知らなかっ へやはい 部屋に入るまでに、七回ぐらいしかられた。 へやはい たいへん 部屋に入ってからも大変だった。 あたまさ ゆっくりと頭を下げてごあいさつ。そのときに腰がういたとおしりをたたかれ、たたみ いち まえ おも についた手の位置が前すぎるとたたみをたたかれ、やっとあいさつが終わったと思った はこあしど きかいにんぎよう ちゅうい ら、おしばりを運ぶ足取りがぎくしやくしてて、機械人形みたいだと注意された。 ちゃ あし やっとお茶をいれるところまですすんだときにはもう足ががくがくして、ひざが笑って ちゃ まえ きようしゆく やどちょうか 「お茶をいれる前に、宿帳を書いていただくのよ。『お疲れのところさっそくで恐縮でご やどちょう ねが きやくさまやどちょうか ざいますが、宿帳をお願いいたします。』って言う。お客様に宿帳を書いていただいてい ちゃ ちゃ なか る間にお茶をいれる。まずお湯でお茶わんをあたためて、そのお湯できゅうすの中のお とこ あいだ こし つか わら
せてもらったりしている。 はるや おっこは、春の屋が好きだ。 むらさき きものすがた おばあちゃんが紫の着物姿でいそがしくお客さんをさばいて、しやきしやきと立ち働 ゅうしよくじ ちゅうぼ、つ かっき いているようすも、夕食時の煮えくり返るようにあわただしい厨房も、活気があって好き じぶんす はなし ただし、それはそこに自分が住むようになるまでの話だった。 めはるや ぐら いざ住むと決まった目で春の屋を見てみると、どこもかしこもうす暗くて、ばんやりと きいろ いんき 黄色つほい明かりが陰気に見えた。 A ) 、つ かあ にんす と、つきよう まど 父さん母さんと三人で住んでいた東京のマンションは、七階で見晴らしがよかった。窓 たかばしょ かぜ とお を開ければ、高い場所をふきぬける風がびゅうっと通った。 へや あか おっこの部屋には、ピンクのじゅうたんと赤いチェックのカーテン、よごさないように かあ ちゅうい しろ だいす しようねん と、母さんにいつも注意されていた白いかべには、大好きなアイドル少年のポスター へや よじようはん それのどれも、ここの部屋には持ってこなかった。ここの四畳半には、じゅうたんのサ まどおお イズが合わなかったし、窓の大きさもちがった。アイドルのポスターは、あわただしくし かえ きやく はたら
てしまいました。 おっこちゃんはなんども失敗しますが、でもへこたれないで、がんばりつづけます。 ちか 。え、四十近くなった現在のわたしでも、とてもできないこ 十一歳だったわたしには、ゝ とです。 おっこちゃんみたいに、むずかしいことに挑戦してがんばっている子は、わたしにとっ てあこがれです。 おも おうえん せいちょうみまも これからも、おっこちゃんを応援しつつ、その成長を見守っていきたいと思います。 二〇〇三年三月 ひあ 日当たりのいい仕事部屋より しつばい ちょうせん ねんがっ こ しごとべや 215
おばあちゃんにしかられたあと、おっこは、もう一組の家族連れのお客様にタ食を出す てつだ 手伝いをした。 てばや きやくさまた ェッコさんみたいに、手早く、お客様の食べやすいように、きれいにセッティングする ことはなかなかできなかったけれど、それでも、 いっしよけんめいやった。 も あ 「おさしみの盛り合わせはまだ ? 」 き お客様が、エッコさんに聞いた。 ついかちゅうもん りよう - り・ そのお部屋のお客様が、追加で注文した料理だった。 「おさしみ、おさしみ ! 」 ちい 小さな男の子が、にこにこ笑ってばんざいした。 9 からまわりする日 きやくさま おとこ こ きやくさま ひ わら ひとくみかぞくづ きやくさまゆうしよくだ