ばん 「それで ? 」 さいしょてまえ 「つまり、『コウダヨシサル』ってことばは、最初に手前のおじぞうさん、つぎにまんなか、三 てまえ じゅん つめにおくのおじぞうさん、最後に手前とおくのおじぞうさんというふうに、おしぞうさんの順 番をしめしているのさ てまえ あたま レーチが、手前のおしぞうさんの頭をポンとたたく。 じめんした おと 地面の下でカチッと、なにかスイッチがはいったような音がした。 「つぎに、まんなか。」 あたま レーチがまんなかのおしぞうさんの頭をたたく。 カチッ。 「そして、おく。」 おと また、カチッとい、フ音。 どうじ てまえ 「最後に、手前とおくのおじぞうさんを同時に 「すると 、いったいなにがおこるの ? 」 わたしがきくと、レーチは、 「さあな ? 「コウダヨシサルだけが知っている』のさ。」 127
やこうかいじんわらごえ 夜光怪人の笑い声がひびきわたる。 やこうかいじん おうごん っぞうみぎて たかだか そして夜光怪人は、黄金にかがやく仏像を右手に持ち、高々とかかげる。 おうごんぶつぞう 「黄金の仏像だ ! 」 そうふ のこ おうごんぶつぞう 「宗歩が残した黄金の仏像だ ! 」 よこくじよう やこうかいじんおうごんぶつぞうて 「予告状のとおり、夜光怪人は黄金の仏像を手にいれてるぞー お 「追えー ! 」 きよくひと けいさつかん ききゅうお テレビ局の人たちとたくさんの警察官が、気球を追いかけて走ってい 「おい、こっちにもいるぞー こえ み やこうかいじんた ゃねうえ わたしは声のしたほうを見た。二階建ての屋根の上、そこに夜光怪人が立っている。 「こっちもだー ろじ 路地のおくで、手をふっている夜光怪人 やこうかいじん 「夜光屋人って : : : こんなにたくさんいたのか ? 」 わたしの横でレーチがいうけど、わたしにも答えられない。 「つかまえろ ! 」 けいさつかん しようてんがい また、警察官の一団が走ってい つづいて商店街のほうから、 よこ て いちだんはし やこうかいじん かいだ 0 0 こた も 0 250
なまえかたぎり 「ばくの名前は片桐だが、それはさておき、かくすにきまってるだろ。 むかしひと 「でしようね。おれだって、そうします。だから昔の人も、こうしてかくしたんですよ。 こうさいじ 虹斎寺で見つかった、ほこらの床から地下へつうじる階段。そしていま、大イチョウの下にか つうろ くされた地下への通路。 おうごんぶつぞう 黄金の仏像は、地下にかくされている。 ゆか かいだん おお した
やこうかいじん みずのじゅうしよく せつめい 首をかしげる水野住職に、わたしは夜光怪人のことを説明した。 やこうかいじん かん れいき こうえんみあたまおお 公園で見た頭の大きな夜光怪人、そのときに感した霊気。 「なるほど : : : 。」 みずのじゅうしよく そして、水野住職はポソリとつぶやいた。 「 : : : キガチガウガ、シカタガナイ。」 みずのじゅうしよく はっきりとは聞こえなかったけど、まるでひとりごとのように、水野住職はつぶやいた みずのじゅうしよく いったい、どうして水野住職は、そんなことをつぶやい 「キガチガウガ、シカタガナイ。」 たんだろう ? った ぶつぞう 「だけど、おしようさん。仏像をかくした地図の言い伝えがあるのなら、ひょっとしてこの紙 ばしょ おうごんぶつぞう が、黄金の仏像のかくし場所をしるしたものなんじゃないですか ? だから、わからないように あんごう 暗号にしてあるんですよ。」 こうふん レーチが興奮していったけど、 あんごう ばしょ おうごんぶつぞう 「まさか。おとぎ話じゃあるまいし、黄金の仏像のかくし場所をしるした暗号なんて : くちょう みずのじゅうしよく と、水野住職はさめた口調だ。 くちょう みずのじゅうしよくめ でもわたしは、このときの水野住職の目を見た。それは、口調とはうらはらに真剣な目だ。 ばなし み しんけんめ 0 かみ 109
しナ′ わたしたちは、レーチのゆびさす根もとを見た。 ぶぶん ちょっと見ただけではわからない。木の根もとのある部分が、すこしだけ色がかわっている。 ぶぶん レーチが、そばに落ちていた石ころをひろって、その部分をたたく。 カーン、カーン : ひょうめん おと 木の表面をたたいたのでは、ぜったいにでない、よくひびく音がした。まるで、木の下に大き あな おとはんきよう おと な穴があいていて、そこで音が反響しているような、そんな音。 いわさきかんが おお した あな むかし おお 「岩崎の考えてるとおりだろうな。この大イチョウの下には、大きな穴があいている。それを昔 いろ ひと の人がコンクリートかしつくいでふたをして、イチョウとわからないような色をつけてカモフ ラージュした。」 いろ 「どうして、色までぬって、カモフラージュしたんですか ? 」 「レーチくん、きみはどう考える ? かたぎりぶちょう 片桐部長にきかれて、レーチは答える。 たから なまえれいいち 「おれの名前は麗一ですが、それはさておき、ぎやくにききます。カマキリ部長、あなたは宝の ぐちみ かくされた入り口を見つけたとき、そのままにしておきますか ? かんが こた ぶちょう したおお 136
きん なう ようじゅっし きん そうふ やがて宗歩は、石から金をつくる妖術師として名が売れた。それにともなって、めったに石を しんびてき そうふ 金にかえようとはしなくなった。それがますます宗歩を神秘的にしていった。 そうふ いしおうごん なぬしだいみようとのさま 名主や大名、殿様にいわれたときだけ、宗歩は石を黄金にかえ、献上した。 おうごん おうごんおお そうふ こうして宗歩は、すこしの黄金で多くのほうびを手にいれた。それは、はしめに見つけた黄金 かね をすべてお金にかえても手にはいらないくらい、多くのはうびだった。 ひと 「かしこい人だったんですね。 あたまわるさぎし 「頭の悪い詐欺師はいないよ。」 そしつ 詐欺師になれる素質たつぶりのレーチがいう。 かいしん 「だけど、詐欺師も改心するときがくるんだ : ぶちょう 部長がつづける。 そうふ 年をとった宗歩は、やがてさびしさをおばえるようになった。 そんけい ようじゅっし 妻も子もいない。友だちもいない。妖術師として尊敬はされたが、それ以上におそれられて、 とし つまこ いし とも おお けんじよ、つ いし
くすりえきたい りよがりの徘徊』ってやつだ。 むかしばなしそうふ かまなかさいしよみず 「まず、さっきの昔話で宗歩は、釜の中に最初、水しかいれてないってことがわかります。っ かまなかおうごんしこ かま まり、はしめから釜の中に黄金を仕込むことはできなかった。つづいて、釜にいれたのは粉末の 薬と液体だけ。 くすりいしおうごん 「だから、その薬が石を黄金にかえたんじゃないの ? りようて かた レーチが、わたしのことばに肩のところで両手をひろげる。 ( この「あきれてものもいえな いっか、やりかえしてあげる ! ) い」ってポーズ、おばえとくからねー なんかい やくひん そうふ 「何回もいうように、ほかの薬品から金をつくることはできない。となると、宗歩はいったいど いしほんものいし おうごん そうふ こから黄金をだしたか ? ほかに宗歩が釜にいれたものは石だけ。つまり、石は本物の石ではな おうごん 、黄金だったのです。」 なんにん ひと 「でも、何人もの人が石をたしかめたんでしょ ? 」 おうごんひょうめん そうふ てつぶん 「黄金の表面に、宗歩は鉄粉をまぶして、のりでかためたんだよ。いや、のりを使ったとはかぎ ゅ やくひん せっちゃくざいっか らないな。とにかく、お湯や薬品でとける接着剤を使ったのさ。 き ぶちょう 部長が、レーチのことばをニャニヤして聞いている。 いし にこ おうごんひょうめん 黄金の表面から鉄粉がとれたら、釜をひっくりか 「あとは、しばらく石をお湯で煮込めばいい。 はいかい ゅ きん かま いし てつぶん かま つか ふんまっ
ひとそんけい たことをよく考えれば、『コウダヨシサルが知っている』っていうことばの意味がわかるって。 こうさいじ あっ 虹斎寺へいくとちゅう、レーチがいう。暑いので、わたしはだまったまま、うなずくだけ。 あいて としうえ ゅめみずせんせい レーチは、教授のことを『夢水先生』とよぶ。 いくら相手が年上でも、それだけではけっして きようじゅ そんけい 人を尊敬しないレーチにしては、めすらしいことに、教授だけは『先生』っきで尊敬してよんで おも 「だから、おれも思いだしてみたんだ。虹斎寺で見たもののなかに、不思議なものはなかった かって。そしたら、一つあった。」 、しだん こけ みどりいろ わたしたちは、墓地の横の石段をおりる。ところどころに緑色した苔がついている いしだんした まえ れつ 石段の下には、三人のおしぞうさん。一列に「前へならえ」している。 れつ 「これだよ。この、横じゃなく、たて一列にならんだおじぞうさんが不思議なんだ。 おしぞうさんのうしろには大きなマキの木が立っていて、すずしい日かげをつくってくれてい 「このおじぞうさんが、どうかしたんですか ? 」 ちあき 千秋がレーチにきく。 「ふつう、おしぞうさんって、道に面して横にならんでるもんだろ。なのに、虹斎寺のおしぞう かんが きようじゅ にん よこ よこし おお みちめん こうさいじ よこ せんせい こうさいじ 124
おも れつ さんは、たてに一列にならんでる。おかしいと思わないか ? ちあき まいにちみ だけど、毎日見なれている千秋は、あいまいな笑みをかえすだけだ。 なぞ ちあき 「そこで、『コウダヨシサル』の謎になる。千秋のおやしさんはいってたな。このことばは、ロ でんのこ 伝で残されてきたって。 ちあき こんどはすなおにうなずく千秋。 かんじ かみか 「紙に書いてあったら、すぐにわかったんだよ。「コウダヨシサル』には、漢字があてられてい た。こんなふうにな。」 じめん こよノよしさる こえだ ひろった小枝で、レーチが地面に『甲田由申』と書く。 「これで、『コウダヨシサル』って読める。」 みも かんじ それは、わたしにもわかる。でもこの漢字が、なんの意味を持ってるのよー こう さいしょ いちかんけい かんじ 「位置さ。この四つの漢字は、おしぞうさんの位置関係をあらわしてるんだ。最初の『甲』の てまえ したぼう 字。これは、いちばん下に棒がでていて、いちばん手前のおじぞうさんをあらわす。つぎの うえ した 「田』の字は、上にも下にもでていない。だから、まんなかのおしぞうさん。三つめの『由』は、 さる うえした うえ 上がでているから、いちばんおくのおじぞうさん。最後の「申』の字は、上も下もでてるから、 どうじ てまえ 同時に手前とおくのおしぞうさんをあらわしてる。 126
ばっ ちあき 「千秋のところってさ、なんていうか、ほんとうにお寺なんだな。」 ほんどうみあ 本堂を見上げるレーチ。 レーチのいいたいことはわかる。ふだんのわたしたちの生活に、お寺って場所はあんまり関係 しゅ , つがくりよこうきようと ないものね。 ( せいぜい、修学旅行で京都にいったときくらいかな。 ) とら′ ちあき 「でもさ、千秋のお父さんって、どんなおばうさんなんだ ? そうぞう 「あんまり想像しないほうがいいよ。 どあ わたしは、まえに一度会 0 たことがあるけど、あまりにおばうさんらしくない人だ 0 た。 ( そうぞう 髪のおほうさんって、想像できる ? ) ちち 「すみません、ちょっと父はでかけてるみたいで。 ばくおんき 千秋がもどってきたとき、石段の上から爆音が聞こえてきた。 おと なんの音 ? こた いしだん 答えはすぐにわかった。石段をおりてきたのは大きなオートバイだった。 くちおお 口を大きくあけておどろいているのは、レーチ。 はしかた 「なんで : : : カワサキの N Ⅱでオフロードみたいな走り方をするんだよ : : : 。」 わたしは、ぜんぜんオートバイのことにくわしくないので、どうい、フことかレーチにきいた。 ちあき ゼッツ 1 いしだんうえ おお てら せいかっ てら ひと かんけい ち