そとごぜんじ きおん あっ 外は午前十時くらい。だんだん気温があがり、暑くなってくる。 なつやす ごぜんじ べんきようあさ ( 夏休みの午前十時って、かならす、『勉強は朝のすずしいうちにやって、十時までは友だちを あそ なつやす れんそう 遊びにさそいにいかない。』っていう、夏休みのきまりを連想させる。 ) さむ でも地下は、半そででは寒いくらい、すすしい 「すごい冷気ですね。」 きようじゅ れいき 教授が、『冷気』のところを強めていった。 じゅんばん せんとう みずのじゅうしよく 地下におりる順番は、先頭が、 e シャッと短パンに着かえた水野住職、つぎが教授。そのあ じゅん とにわたしたちーー亜衣、真衣、美衣の順。 せんとう みずのじゅうしよく かいちゅうでんとう 先頭にいた水野住職が、懐中電灯のあかりを消した。 やみいちど 闇が一度におしよせてくる かいちゅうでんとう 「もうすぐ、懐中電灯がいらなくなるんです。 みずのじゅうしよく ちかどうさき 水野住職のことばどおり、地下道の先がばんやりあかるくなってきた。そして : かんせい わたしたちは歓声をあげた。 ちかどうぜんたい ひかり いぜんちか 地下道全体が光につつまれていた。以前、地下の池で見たのとおなじヒカリゴケが、地下道全 0 ちか はん ま 0 つよ たん いけみ き きようじゅ 0 とも ちかどうぜん 214
きようじゅ わたしが教授にきくと、水野住職がほほえむ。 「ああ、わたしのひとりごとを、そんなに気にしてたんですか きようじゅせつめい 教授が説明してくれる。 「おしようさんはね、『キガチガウガ、シカタガナイ。』っていったんじゃないよ。正確には、 『レイキガチガウガ、シカタガナイ。』っていったんだよ。 きようじゅ みずのじゅうしよく 教授のことばに、水野住職がうなずく。 おうりんこうえん やこうかいじんあ れいき かん 「ほら、亜衣ちゃんたち、桜林公園ではじめて夜光怪人に会ったとき霊気を感したって、ばくに いったよね。おなじことを、おしようさんにもいった。それから、大イチョウの根もとから地下 ちか におりたとき、すごくすずしかっただろ。おしようさんも、地下がすすしいことを知っている。 こうえん - やこうかいじん れいき ちじよう れいき 公園に夜光怪人があらわれたとき、地下からの冷気もいっしょに地上にでた。その冷気を亜衣 れいき れいき ちゃんたちはかんちがいして、『霊気』っていった。だからおしようさんは、地下の冷気を知ら れいき ずにまちがえて『霊気』っていったのを、『レイキガチガウガ、シカタガナイ。』っていったんだ さいしよぶぶんき 「あのとき、わたしはポソボソつぶやいたから、最初の部分が聞こえなかったんですね。」 ひみつ なんなのよ : 『キガチガウガ、シカタガナイ。』ってことばには、なにかすごい秘密でもあ みずのじゅうしよく おお せいかく 212
かいちゅうでんとうぜんぼうて れつ 列のうしろからわたしがきくと、レーチはことばで答えないで、懐中電灯で前方を照らして こうけい その光景を見て、わたしと千秋はことばをのんだ。 おお レーチが照らした道のむこうに、大きな池がひろがっている。地下道の天井も、それにあわせ てドームのようにひろがっている。 「こんな地下に : : : 池が : くち いけみ かたぎりぶちょう 片桐部長も、ロをあけて池を見つめている。 みず さいしゅうてき ちかどう 「この地下道をつくった水が、最終的にここに集まったんだろうな。そして、こんな池になっ おそらく、レーチのいうとおりだろう。 ほんおも しようがっこう わたしは、小学校のときに読んだ『地底探検』という本を思いだした。あの本には、もっと大 ちかうみ きな地下の海がでてきたわ。 かいちゅうでんとうひかり レーチが、懐中電灯の光を、ひろがっている天井にむけた。 ひか ところどころが光りかかやいてる。 ひかり 「なんなの、あの光 ? み みち ちあき ちていたんけん あっ てんじよう こた ちかどうてんじよう ほん おお 149
やがて、わたしたちは池についた。 ちかすいしんしよく 「レーチくんがいったんだっけ ? 地下水の浸食で、この地下道ができたんだろうって。 きようじゅ 教授にきかれて、わたしはうなずいた。 かんさつりよく ちかどうしんしよく みず いけあっ 「やつばり、レーチくんは観察力がするどいね。地下道を浸食した水は、この池に集まる。そし あっ みず なが そうふ みずのじゅうしよく て年に一度、集まった水は、さらに地下に流れる。宗歩が見つけたのか、水野住職のご先祖が し さいこうばしょ 知っていたのか、なにかをかくすには最高の場所ですね。 わたしは池をしつくり見た このあいだ見たときより、水位がかなりさがっていて、池の中央ーーー水面から、なにか小さ み な屋根のようなものが見えている。ほこらの屋根のようだ。 おうごんぶつぞう 「あそこに、黄金の仏像があるんでしようね。 きようじゅ 教授がいった。 そうふ おうごんぶつぞう 「さて、おしようさん。どうしますか ? 夏祭りの夜、ここにくれば、宗歩の残した黄金の仏像 を手にすることができますよ。 じゅうぶん 「いや、もうこれで十分です。 きようじゅ みずのじゅうしよく 水野住職が、教授におじぎする。 て ねん ど み み すい なつまっ よる ちかどう み いけちゅうおう すいめん のこ せんぞ 216
おうごんぶつぞう 「あなたは、やみくもに地下で黄金の仏像をさがした。黄泉の国は光の国ーー・あなたはヒカリゴ ちかどうやこうかいじん ケがふる地下道で夜光怪人になった。 きようじゅゅびみずのじゅうしよく 教授の指が水野住職をさす。 やこうかいじん 「あなたが、夜光怪人です。」 とき なったいよう えーっと : しばらく時がとまったみたいだった。外ではギラギラした夏の太陽ががんばっ ほんどう てるし、セミだってジャワジャワやかましい。なのに、この本堂だけは、みようにしすかで寒 じぶんやこうかいじんなの 「べつにわたしは、自分で夜光怪人を名乗ってるわけではありませんけどね : みずのじゅうしよくわら ほんどうくうき ようやく水野住職が笑った。本堂の空気がふっとなごむ。 「わかってますよ。それどころか、あなたは夜光怪人になろうと思ってなったんじゃない。それ もわかってます。 きようじゅ てら 教授のいう意味がわかったのは、このあと、みんなでお寺のほこらから地下におりてからだった。 「どうもあなたは、すべてをわかっているようだ。それなら、教えてほしいこともあります。わ やこうかいじん たしには不思議だったんですよ。夜光怪人といわれるのはしかたがないとしても、やれ首がとれ 0 0 そと よみ おし くにひかりくに ちか 0 さむ
やこうかいじんくび 「じゃあ、しゃあ、夜光怪人の首がとれるのは ? 」 きようじゅみずのじゅうしよく しつもんむし 美衣の質問を無視して、教授は水野住職にきいた。 の 「おしよ、フさんは地下におりるとき、オートバイに乗るかっこ、フをしてたんしゃないですか ? 「そうですが くろ みずのじゅうしよく トバイに乗るかっこ、フー・ーー黒のライダースーツに、頭にはフルフェイスのヘ 水野住職がオー レメッ ヘルメット : すがた 「おしよ、フさんは、ライダースーツにヘルメットをかぶって、地下におりる。その姿にヒカリゴ ぜんしんひかやこうかいじん ケがふり、全身が光る夜光怪人になる。そして地上にでてきたおしようさんは、ほっとひと息つ したあたま とうぜん いてヘルメットをとる。当然、ヘルメットの下の頭にヒカリゴケはついていない。光るヘルメッ くび トがとれるようすが、首がとれるように見えたんだよ。」 やこうかい あたまみ はんめんひか やみなかひか 闇の中で光るヘルメットは、よく目につく。反面、光らない頭は見えにくい。だから、夜光怪 み じんくび 人の首がとれたように見えたんだ。 やこうかいじんくび 「夜光怪人の首がとれたり、踊ったりした謎はわかったけど : : : おしようさんのいった『キガチ ガウガ、シカタガナイ。』ってのは、どういう意味 ? み ちか 0 おど み なぞ ちじよう み あたま ひか 211
いいたけのこと。 ま。だったら、わたしたちがなんとかすれば ゃぶ蚊が、フーンフーンと、フるさい。 くらやみせかいすいぎんとう 月あかりもなし : ほとんどまっ暗闇の世界。水銀灯のあかりがなっかしい : おうりんこうえんじこくご′」 ここは桜林公園。時刻は午後十一時をすこしまわったところ。あいかわらず人気がない。 こうほくがくえんおお やこうかいじんあ 虹北学園の大イチョウから地下にもぐって、夜光怪人に会ってもよかったんだけど、やつばり ちかどう にげるににげられない。だからわたしたち あの地下道はこわい。それに、地下ではなかなか、 おうりんこうえんやこうかいじんま は、桜林公園で夜光怪人を待っことにしたの。 このあいだとおなじように、はたらき者のクモが、かすかな飃にをとばしている。 こうえんなか わたしたちは、公園の中でもまったくあかりのとどいていないやぶの中に身をひそめている。 やこうかいじん 「うちは、まだ見てへんのやけど、ほんまに夜光怪人は、でるんやろね : : : 。」 いちがん やかんさっえいようこうかんど 伊藤さんは、一眼レフのカメラをかまえている。フィルムは夜間撮影用の高感度のもの。伊藤 きあ さん、気合いはいりまくり ! 「いちおう、ストロポ使うたほうがええやろね。予備のフィルムは、ぎようさんあるし。さあ、 じゅんび 準備はオーケー いつでてきても、ええよ ! 」 いとう こうふん 伊藤さんは、さっきから興奮して、しゃべりまくっている。 いとう つき っこ よび なかみ ひとけ いとう 167
あなみ 「レーチ、どうしたのよ ? さっき、ほこらの穴を見つけたときは、ぜんぜん地下へおりようと しなかったくせに、なんでいまは乗り気なのよ ? 」 わたしがきくと、 どうじせい 「同時性かな : ・ と、レーチがつぶやいた。 どうじせい 「なによ、『同時性』って ? おお すがた ゆか 「さっき、ほこらの床があいて、地下へのとびらが姿をあらわした。そしていま、大イチョウの どうじ つうろ した 下に、地下への通路があることがわかった。同時に、地下へのとびらが二つあらわれたことにな ぐうぜん る。なんだか、偶然にしては、あまりにできすぎてるような気がする。まるで、神さまみたいな もんがいて、どうしてもおれたちを地下にいかそうとしてるみたいな気がするんだ。 しん 「レーチ、神さまを信してるんだ。」 すつごく意外ー うちゅういし 「神さまっていうか、宇宙の意思みたいなもんかな ? とにかく、一日に二つも地下へのとびら が見つかった。こうなったら、いくしかないんしゃない ? ぶちょうちあき ウインクするレーチ。そして、部長と千秋にむかっていった。 かみ にち かみ 141
なまえかたぎり 「ばくの名前は片桐だが、それはさておき、かくすにきまってるだろ。 むかしひと 「でしようね。おれだって、そうします。だから昔の人も、こうしてかくしたんですよ。 こうさいじ 虹斎寺で見つかった、ほこらの床から地下へつうじる階段。そしていま、大イチョウの下にか つうろ くされた地下への通路。 おうごんぶつぞう 黄金の仏像は、地下にかくされている。 ゆか かいだん おお した
ちじよう しんびてきひかり とっても神秘的な光だ。地上では、あんまり見たことのないような光。イメージ的には、ほた ひかりなんびきあっ ひかり るの光を何千匹も集めたような光。 いっしゅ 「ヒカリゴケの一種だろうね。 かたぎりぶちょう 片桐部長がいった。 ヒカリゴケ : てんじよう ゆき 見ていると、ときたま天井から雪のようにヒカリゴケが落ちる。ゆらゆらと光りながら落ちて すいめんひかりき きて、やがて水面で光が消える。 「きれい ひとりごとのように、千秋がつぶやし おも げんそうてきこうけい 幻想的な光景。これが見られただけでも、わたしは地下におりてきてよかったと思う。 こけみ 「さて、ひきかえそうか。この池をわたるのはむりだし、苔を見ててもしようがない。」 うつく ふうけい りかい レーチにこの美しい風景を理解しろというほうが、むりだということがわかった。でも、よく しじんなの このデリカシーのなさで、詩人を名乗れるわねー 「行くぞ。 わたしたちは、きた道をひきかえすことにした。 み 0 0 みち ちあき み み ちか お ひかり ひか てき お