ぶちょう 「だけど、いまからクラブよ。部長に、なんて言いわけすんのよ ! 」 かたぎりぶちょう しっと そのとき部室の戸があいて、片桐部長がはいってきた。 しさく こうさいじ ぶちょう 「あっ、カマキリ部長。いまから詩作のため、虹斎寺にいってきます。」 かたぎり : 。ほう、とうとうレーチくんが、詩を書く気になったの 「ばくはカマキリしゃなく片桐だが : かね。」 しんよう かたぎりぶちょう 片桐部長は、ぜんぜん信用してない言い方だ なまえ れいいち 「おれの名前は、レーチじゃなく麗一ですが : ちあき つづいて千秋の言いわけ。 げんこうしりよう いえ 「家まで原稿の資料をとりにいってきます。 みずの 「水野くんの家は、たしか ころ・さいじ 「虹斎寺です。ー さい′」 最後は、わたしの言いわけ。 しあわ ねが こうさいじ 「虹斎寺に、みんなの幸せをお願いにいってもいいですか ? 「ダメ。 いえ 0 かた 0 まあ、楽しみにしててください たの し か き
ひ がっしゆく かんせい のだ。しかし、そのようなことをいっていては、『それわた』が完成しない。すると、合宿にい くことができない。」 かたぎりぶちょう めがね ここで、また眼鏡をなおす片桐部長。 がっしゆくたの 「ばくは、なにより合宿を楽しみにしてるんだよ。わかったかね、レーチくん。」 なまえ れいいち 「おれの名前はレーチではなく麗一ですが、それはともかく、よくわかりました。」 かたぎりぶちょう 片桐部長ににらまれて、レーチがおとなしくだまる。 「ではこれで部会をおわるが、くれぐれも、しめきりを守るように。以上 , かたぎりぶちょう 片桐部長のことばのあとに、部員たちの深いため息がつづいた。 つか わたしも、ため息をついてから、使いなれたワープロを立ちあげた。 なつやすごうしゅうぎようしき しゅうかんがっこうなつやす きまっしけん 期末試験もおわり、あと二週間で学校は夏休みにはいる。『それわた』夏休み号は終業式の げんこう しゅうかんかんせい はつかん 日に発刊する予定だから、原稿はあと一週間で完成させなくてはならない。 じかん つか じゅぎよう ごぜんちゅうたんしゆく 授業は、すでに午前中短縮になっていて、午後からの時間はフルに使えるものの、このさわ なっ にち はんにち そ やかな夏の一日に、なんで半日もワープロのディスプレイを見てなくてはいけないのか : かんが んなことを考えてたら、またため息がでた。 げ・んこ、つと きぶん ぐちっててもはしまらないわと、気分をかえて原稿に取り組も、フとしたら、 よてい ぶいん ふか た み じ よ 0
だい がっしゆく 大イベントである合宿にいけない。」 ちょうしんかたぎりぶちょう めがねゅび いちじき 長身の片桐部長が、メタルフレームの眼鏡を指でなおす。一時期べっこうフレームにかえてた ひょうばんわる めがね ぎやくさんかくけいかお んだけど、評判が悪くてもとどおりにした、いわくつきの眼鏡だ。やせて逆三角形の顔と、細く ながてあし おも て長い手足は、カマキリを思わせる。 ぜったいじようけん 「つまり、きみたちには、つぎの二つが絶対条件となってくる。すなわち、一つはしめきりを守 う さくひんか ること。二つめが、売れるおもしろい作品を書くこと。」 ぶちょう 0 「おことばですが、カマキリ部長 つうしよう ねんせいぶいんなかいれいいち わたしとおなし一一年生部員の中井麗一ーー通称レーチが手をあげる。いつも寝てばかりで、ぜ げんこうか かたぎりぶちょう ぶんげいぶいん んぜん原稿を書いたりしないけど、いちおう文芸部員。それに、片桐部長のことをカマキリに似 もんだいじ ぶちょう てるからカマキリ部長ってよんだりもする問題児。 う なっとく きよねんせんだ ) しわたなべぶちょう さくひんようきゅう 「去年、先代の渡辺部長に「しめきりでせかされたうえに、売れる作品を要求されるのは納得で ちょう きない。』といったのは、カマキリ部長しゃなかったですか ? なまえ かたぎり 「ばくの名前は、カマキリではなく片桐だが : まえお ぶちょう そう前置きして、部長がつつける。 じゅんぶんがくしこうにんげん じぶんなっとく さくひんか 「たしかに、ばくのような純文学志向の人間は、じっくり自分の納得がいく作品を書きたいも菊 0 て ね ほそ に
ね いる。ジュン爺まで、わたしの足もとで寝ている。 「なんで : ・ た 立ちあがったジュン爺が、レーチの足もとにいって、すりすりする。 にあ がく 「いやいやレーチくん、なかなかに、ゆかたが似合うしゃないか。いつものだらしない学ランも きみらしいけど、そのだらしなく着たゆかたも、きみらしくていいよ ちょうはっ かたぎりぶちょう 片桐部長がレーチを挑発する。 なまえ ぶちょう それはともかく、カマキリ部長たち、ど、フし 「おれの名前は、レーチしゃなく麗一ですが : てここにいるんです ? 」 しゅうごう なまえ いわさき っ それはともかく、岩崎くんから集合がかか 「ばくの名前は、カマキリではなく片桐だが あっ にんずうあっ てね。とにかく、できるだけたくさんの人数を集めたいってことで、みんなこうして集まったっ てわけさ。 はんのう すでにレーチは反応しない。 わたしは、あわてていった。 「気にしないでよ。それよりみんなで、お祭りを楽しみましようよ ! 」 き き れいいち かたぎり あし ま 0 0 たの 0 241
かたぎりぶちょうちあき そうだん けつか わたしたちーーーわたし、レーチ、片桐部長に千秋ーーは、相談した結果、大イチョウの根もと あな に穴をあけ、地下におりることにした。 ちあき かたぎりぶちょうだい わたしと千秋、レーチは、地下におりることに反対だった。でも、片桐部長が大の乗り気で、 ) 、つこ。 なにがなんでもおりるんだとししー ぶちょう そうび 「でも部長、わたしたち、なんの装備もないんですよ。」 ちあきはんたい ちょう 千秋の反対のことばも、部長にはつうしない。 かえ 「ちょっとのぞいて、あぶなくなったら、すぐに帰ってきたらいいじゃないか。 たんけん じかん 「それに、 いまから探検している時間はありませんよ、しめきりがあるんですから。 かんしんぶんげいぶいん しめきりを気にする感心な文芸部員のわたしのことばも、 「いまだけは、しめきりをわすれようしゃないか。」 たいまくたい ちょうさ 第九幕第三の調査 き はんたい おお 138
かたぎりぶちょう せつめい レーチの説明に、うなすいてる片桐部長。 じようしき おどろき ! 常識なしのレーチでも、知ってることがあるんだ。 どう なまり きんきんげんし 「だいたい、金は金の原子が集まってできてるんだぜ。鉛やすずや銅をとかしてまぜあわせて げんし げんし さんそ きん も、金ができるわけがない。金にかぎらず、水素だって酸素だって、その原子をほかの原子から じようしき これって常識だろ。 つくることはできない じゅぎよう み なんだかレーチが、とてもかしこく見えてきた。でも、授業をろくに聞いていないくせ に、なんでこんなことだけはくわしいんだろう。 ぶちょうれんきんじゅっしちゅうせい ハの話でしよ。この日本にもいたんです 「でも、カマキリ部長。錬金術師は中世のヨーロッ カ ? ・ さんか レーチも会話に参加してきた。 なまえ かたぎり それはともかく、この地方には、日本でただひ 「ばくの名前はカマキリではなく片桐だが : さいとうそうふ はなしった れんきんじゅっし とりの錬金術師といわれた、斎藤宗歩の話が伝わってるんだ。」 むかしばなし ぶちょうはなし そして部長の話をまとめると、つぎのような昔話になる。 きん し すいそ 0 はなし ちほう にっぽん き につぼん
かいちゅうでんとう レーチが懐中電灯で、まわりを照らす。 みず むかしちかすいしんしよく 「すっと昔に地下水の浸食があって、そのあと水はなくなり、こんなじようぶなトンネルが残っ たーー・そんなとこだろう。」 かたぎりぶちょう 片桐部長が、うれしそうだ。 どうくつほらあなたんけんす おとここ ぶちょう レーチにしろ部長にしろ、どうして男の子って、こんな洞窟や洞穴の探検が好きなのかな ? やがて、道が二つにわかれているところにでた。どっちにいくか : ぶちょう 「部長、どうします ? 」 みぎ みち 「とりあえす、わかれ道にきたら、かならす右にいくことにしよう。そうすれば、帰りは左の道 をえらべば、まよわずもどってこられるだろ。」 かたぎりぶちょう しようねんたんていだん なるほど、さすが少年探偵団ファンの片桐部長。 みぎみち だけど、右の道をえらんだのは、ひょっとすると、とてつもない失敗だったのかもしれない。 みち ほそ 道は、だんだん細くなって、やがてレーチが、 ストップだ。 と、わたしたちをとめた。 「どうしたのよ、レーチ。」 みち て しつばい 0 かえ ひだりみち のこ 148
かたぎりぶちょう 片桐部長がわたしのほうをふりあおぐ よこく ぶちょうせなか しゅんかん その瞬間わたしは、なんの予告もなく、部長の背中をけりこんだ。 まえすす ぶちょう おと ひめい 「ワギャギャギャギャ ! 」という悲鳴と、はでな音をたてて、部長とその前を進んでいたレーチ かいだん カ階段をころがり落ちていく。 「だいしようぶですか ? 」 じかん ちょうたい すうびようかいだんそこ 数秒で階段の底についたレーチと部長に対して、わたしと千秋、ジュン爺は、ゆっくり時間を しんちょう かけて慎重におりた。 いわさき ほね 「あぶないじゃないか、岩崎くん。骨でも折れたら、どうするつもりだ。」 ひ もんく かたぎりぶちょう 文句をいう片桐部長に、わたしは冷ややかにいった。 「スカートのぞいたら、けりをいれるって、いってあったでしよ。」 「のぞいてない ! 」 じようきようしようこ 「さっきふりかえったでしよ。状況証拠は、それで十分です。 しんばい 部長とちがって、レーチは心配のしかたがちがう。 かいちゅうでんとう 「よかった、懐中電灯はこわれてない。 ひじよろ・ かいちゅうでんとうしんばい 自分のからだより懐中電灯の心配をしている。たいしたもんだ。ほんとうに、レーチは非常 ぶちょう じぶん お お じゅうぶん ちあき じい
じゅんばん かたぎりぶちょう ちあき けつきよく順番は、レーチ、片桐部長、わたし、千秋ということに決まった。 かたぎりぶちょう なか 「レーチに片桐部長 ! もしふりかえってスカートの中をのぞいたら、けりをいれるからねー ちかん 「おれは痴漢しゃない ! 」 しんよう レーチがどなるけど、信用できない。 あな こんなふうに、ひともんちゃくあったものの、なんとか穴におりることになった。 穴にはい「てすぐに思 0 たのは、すごくすすしい 0 てこと。階段の下のほうから、冷たい飃カ かすかに吹きあげてくる。 かいだん 」け 階段は、すこし苔がついていて、すべりやすくなってるけど、慎重におりるぶんには、あぶな っち こけ くない。まわりは土のかべで、そこにも苔がはりついている。 かいちゅうでんとう ちあき 明かりは、レーチの懐中電灯だけ。うしろをふりむくと、わたしのあとを、こわごわ、千秋 かついてくる。そして、そのうしろ おと ジュン爺がカチャカチャとつめの音をたてて、わたしたちのあとからおりてくる。 るすばん 「あれ、ジュン爺 ? ついてきたらダメでしよ。お留守番ー かお わたしが手でしっしっとやっても、ジュン爺は知らん顔。へいきでついてくる。 「もうすぐっくぞ。 じい じいし しんちょう 144
なまえかたぎり 「ばくの名前は片桐だが、それはさておき、かくすにきまってるだろ。 むかしひと 「でしようね。おれだって、そうします。だから昔の人も、こうしてかくしたんですよ。 こうさいじ 虹斎寺で見つかった、ほこらの床から地下へつうじる階段。そしていま、大イチョウの下にか つうろ くされた地下への通路。 おうごんぶつぞう 黄金の仏像は、地下にかくされている。 ゆか かいだん おお した