( 『セ・シーマ』の伊藤さんは、カメラを持って走りまわってるけど。 ) かえ 「さて、帰るか レーチが、肩までめくっていた、ゆかたのそでをなおす。 いわさききよう 「岩崎、今日はさそってくれて、ありがとな。 その言い方が、しつに皮肉つばい。 「レーチ・ : やつばりおこってるよね。 「べつにおこってねえよ。 ぶつきらばうにいって、そのまま背中をむけるレーチ。やつばり、おこってる。 わたしはレーチの背中に、なにもことばをかけることができなかった。ちょっと、ため息 えんだま くび 首からかけた五十円玉のネックレスをとりだす。 こんや 今夜、わたしがこのネックレスをつけてきたこと、レーチは気づいてたかな チ 鈍感男が、気づくわけないか。 ) かえ ぶんげいぶ れんちゅう 0 だんだん、みんな帰ってい 文芸部の連中も、クラスメイトも : ・ : ・ さんしまい かわも そして、教授とわたしたち三姉妹だけが、いつまでも川面を見ていた。 レ 0 き きようじゅ かた かた 0 せなか いとう ひ ~ に′、 せなか も み き 0 ・ ( あの 256
し ことばにできないっかれが、あせといっしょにどっとでてきた。 きようじゅと 「教授、解けた ? じしん みつかご ようかん 地震から三日後、洋館をおとずれて、わたしたちはきいた。 ふかいしすうたか ようかんぜんたいしつけ まだ梅雨はあけていない。洋館全体が湿気でしめじめして、不快指数が高い か み きようじゅ かね わたしたちから借りたお金で、すこし身だしなみをととのえた教授は、ソファーに寝ころんで あおみどりいろ いた。 ( それでもまだ、ところどころ青緑色している。 ) 「解けたって、なにが ? 」 あんごう すっかり暗号のことをわすれている。 あんごう あんごう 「ああ、暗号か。むりいっちゃいけないよ、亜衣ちゃん。あの暗号をつくったのがだれだか、 知ってるの ? 」 きようじゅ わたしは教授をゆびさした。 あんごう めいたんていゅめみずきよしろう 「そう、暗号をつくったのは名探偵の夢水清志郎いくらばくが名探偵だって、そうかんたんに は解けないよ。 あんごうと はっきよう : ダメだ。聞いてるだけで、発狂しそうなせりふだ。なんで、自分でつくった暗号の解き方 と き めいたんてい じぶん ね かた
すうじ 「なるほど、ほかにはなにも、かぎとなる数字が残されていませんか。」 せつめい きようじゅおもおも めいたんてい わたしたちから説明を聞いて、教授が重々しくいった。なかなかに名探偵らしいしゃべり方だ けど、そのおなかはステーキでばっこりふくらんでいる かみ 「となると、この紙にすべての手がかりがあるということですね。」 きようじゅそうふ あんごうみ くろ ひょうじよう 教授が宗歩の暗号を見つめる。黒いサングラスをかけているから表情はわからないけど、 ずのうこうそく かいてん おも きっと頭脳は高速で回転しているんだろう。 ( と思いたい。まさか、さっきのステーキはおいし かんが おも かったなんて考えてるんしゃないと思いたい。 あんごう 「おしようさん、しばらくこの暗号を、ばくにあすけてもらうわけにはいきませんか ? 教授がいった。 あん′」うと 「どうぞ。ただ、暗号が解けたら、わたしにも教えてもらいたいんですが。 「もちろん。」 そうふ あんごうまる 宗歩の暗号を丸めると、教授は立ちあがった。 きようじゅ き きようじゅた て おし のこ 0 かた 188
みほとけ そうふ みほとけ 泉への戸はひらき、御仏あらわる。われは宗歩。御仏をかくす者なり。」 きようじゅかみよ みずのじゅうしよく 水野住職が、教授の紙を読んだ。 と よみ なつまっ 「夏祭りの夜、さらなる黄泉への戸はひらき : ・ おなし部分を何度もつぶやく ぶぶん 「あなたがいちばん知りたかった部分ですよ、おしようさん。 きようじゅ 0 教授がいう おうごんぶつぞうよみ あんごうと そうふ 「あなたは、宗歩の暗号が解けないものの、黄金の仏像が黄泉ーーっまり、地下にかくされてい あんごういがい そうふ るということまでは、わかっていた。宗歩の暗号以外にも、『コウダヨシサルが知っている』と くでん い、フロ伝もありましたしね。」 みずのじゅうしよく きようじゅ 教授のことばは、水野住職にむけられたままだ。 はんにん・してき まるで、犯人を指摘するときのようなするどさで、教授がつづける。 おうごんぶつぞうみ 「あなたは、ほこらのとびらをあけ、地下におりた。しかし、黄金の仏像は見つからない。なぜ よる なつまっ ねん おうごんっぞうみ なら、黄金の仏像を見つけることができるのは、年に一度、夏祭りの夜だけだからです。 はんのう みずのじゅうしよく 水野住職は、なんの反応もしめさない。 と よる ぶんなんど し 0 0 きようじゅ ど もの ちか し 207
「おっかしいな : あんごう あんごうと 教授は、さっきから首をひねりつばなし。たしかに、暗号を解いていて、またまたちがう暗号 きぶん にぶつかってしまった気分よ。 さんしまい あんごう おも わたしたち三姉妹は、せつかく暗号が解けたと思ったのに、ぜんぜん解けてなかったので、 あんごうきようじゅ はっきりいって、あきてしまった。もうこんなややこしい暗号は教授にまかせて、わたしたちは よ つづ 寝ころんで、まんがの続きでも読むことにしよう。 なぞ よ ちょうはっしゅじんこう そしてーーーーわたしの読んでるまんがで、長髪の主人公が、「謎はすべて解けた ! 」といい、真 よ はんにん よ めがね しようがくせい といい、美衣の読んでる 衣の読んでるまんがで、眼鏡をかけた小学生が、「犯人はおまえだー きようじゅおおごえ やまだ がくしゅう がくせい まんがで医学生が、「すこしは学習したまえよ、山田くん。」といったとき、教授が大声をだし 「ああ、ばくはバカだったー なぞと 「こんなかんたんな謎も解けなかったなんて、ばくは大バカだよー きようじゅ きようじゅぜっきよう 教授が絶叫しなくても、教授がバカなことくらい、わたしたちはよく知っている もの 「ほんと、フに、ばくはおろか者だった ! ああ、はずかしいー きようじゅ と おお し と と 0 ま 194
かいちゅうでんとうぜんぼうて れつ 列のうしろからわたしがきくと、レーチはことばで答えないで、懐中電灯で前方を照らして こうけい その光景を見て、わたしと千秋はことばをのんだ。 おお レーチが照らした道のむこうに、大きな池がひろがっている。地下道の天井も、それにあわせ てドームのようにひろがっている。 「こんな地下に : : : 池が : くち いけみ かたぎりぶちょう 片桐部長も、ロをあけて池を見つめている。 みず さいしゅうてき ちかどう 「この地下道をつくった水が、最終的にここに集まったんだろうな。そして、こんな池になっ おそらく、レーチのいうとおりだろう。 ほんおも しようがっこう わたしは、小学校のときに読んだ『地底探検』という本を思いだした。あの本には、もっと大 ちかうみ きな地下の海がでてきたわ。 かいちゅうでんとうひかり レーチが、懐中電灯の光を、ひろがっている天井にむけた。 ひか ところどころが光りかかやいてる。 ひかり 「なんなの、あの光 ? み みち ちあき ちていたんけん あっ てんじよう こた ちかどうてんじよう ほん おお 149
のこ あたま 頭のうしろで手を組んで寝っころがったレーチが、ため息をついた。 おうごんぶつぞう まさか、黄金の仏像にたどりつくまえに、あんなばけものにでくわすなん 「まいったよな : そら なっ なが 長かった夏の一日がおわり、空がオレンジとダークプルーのグラデーションをえがきはしめ 「なにいってんのよー そうふ て レーチは、あきらめたようなことをいってるけど、わたしにはまだ手がある。それは、宗歩の と おうごんぶつぞうて やこうかいじんあ あんごう あんごう 残した暗号だ。あの暗号さえ解ければ、夜光怪人に会わずに、黄金の仏像が手にはいるはずだ。 あんごうと そして、暗号を解くには きようじゅ 教授ー ゅめみずきよしろう しやかいふてきおうしゃ きおくりよく ひじようしき 非常識でいしきたなくて、記憶力ゼロの、どうしようもない社会不適応者だけど、夢水清志郎 きようじゅ あんごうと めいたんてい は名探偵だ。教授なら暗号が解けるー る。 0 て にち 0 ね 0 160
第十ニ幕解読 あんごう きようじゅ ようかんかえ 洋館に帰ってきた教授は、さっきからずっと、暗号とにらめつこしている。 かず かみ それまでは、あぶりだしになってないかと紙をしらべたり、文字のならんでる数をかぞえた り、いろいろしらべてたんだけど、とうとうしらべる手がっきたみたい。 きようじゅ さんしまい で、わたしたち三姉妹は、そのわきで寝ころんでる。教授のしやまをしないようにしてるの おも きようじゅと さいしゅうてき あんごう と、どんな暗号でも、最終的には教授は解くことができると思ってるからだ。 でんき たいよう やがて太陽がしずみ、ホールの電気をつけようと、わたしが立ちあがったとき 「ああ、そうか : : : 。」 きようじゅ 教授がいった。 「解けたのー あわてて、わたしたちは教授のそばにかけよる。 と たい まく きようじゅ て た 0 189
くろ しき まえでんわ 目の前の電話。ブッシュホンしゃないダイヤル式の、いまではめすらしい、まっ黒けの電話。 うちのおふくろはカバーをかけたりするのがきらいだから、ほんとうにそっけないプラスチック くろびか のボディーが、黒光りしている。 かいだんよこ 数日まえから、家族がではらってしまう時間は ここは階段の横で、いま家にはだれもいない。 しらべてあったんだ。 かえ さて、時計を見ると、あと二十分であねきが帰ってくる。つまり、ばくにはあと二十分しか電 じかん 話をかける時間がないってことだ。 じゅわき 左手を一度ズボンにこすりつけて、あせをぬぐってから受話器を持つ。 ゅび みぎて ひと ふるえる右手の人さし指を、ダイヤルにつつこむ。 ほーら、できたー かんたんしゃないかー あとは、ダイヤルをまわすだけー まっ いえでんわ じぶんじしん 自分に自信がないのは事実だ現にばくは、亜衣の家へ電話をかけて、祭りにさそうことがで でんわ じしん きない。ほんとうに自信があったら、なにもまよわずに電話をかけられるんだろうな。あーあ ひだりて じじっ いえ ぶん すうじっ かぞく ぶん じかん でんわ でん 233
かんじ 「あのね、真衣に美衣。教授が、わたしたちの知らなかった「衽』なんてむずかしい漢字を、 おも 知ってると思、フ ? くびよこ おと きおいで首を横にふ これを聞いたふたりは、プルンプルンという音がするくらい、すごいい よわ きようじゅかんじ よわ ときどき、「ねーと「わ」をまちがえ そう。教授は漢字に弱い。ひらがなにも、すこし弱い。 あんごうこた かんじ きようじゅ じん る。こんな教授が、「衽」なんてむずかしい漢字を、暗号の答えに使うわけがない。 かんが 「ね、わたしたち、むずかしく考えすぎてたんじゃない ? 美衣がいう きようじゅ たんじゅんしこうきようじゅかんがあんごう 「単純な思考の教授が考えた暗号だもん、教授とおなしレベルで考えたら、解けるんじゃな しこう きようじゅ いちり なるほど、美衣のいうことにも一理ある。でも、教授とおなじ思考 : ちのうしすう それは、あるていどの知能指数のあるわたしたちには、とてもむすかしいことだった。 あんごうかいどくさぎようざせつ こうして、わたしたちの暗号解読作業も挫折して、また一週間がすぎた。 いつのまにか梅雨の季節はおわり、かわいた南からの飃が、わたしたちの町を吹きぬけるよう きようじゅ しゅうかん じん つか かんが