いえもん 「おまえには、三度も、この家の門のまえであったな。こんどたすねて むじんいえ きてみたら、この家はだれもすんでいないはんとうの無人の家になって しもうた。このまま家をほうっておいたら、ペんべん草がはえてしまう いえ きに、わしは家へかえることにした」 そういったかとおもうと、とざされた門の中へスーツときえていって しまったのです。 エーくんゅめ それからはもう、君は夢の中にあらわれなくなりました。 エーくん ただ、君の家のそばをとおるたび、わたしには、中に君がいるよ うな気がするのです。 工 1 くん もん
ばんゅめ その晩、夢の中に君があらわれ しんちく ました。新築したはかりのかれの家 もん の門のまえに、ばんやりとつったっ ているのです。 「君じゃないか。きみの家へどう してはいらないんだいー 「うん、せつかく一年ぶりでかえっ てきよったというのに、門かきつく しまっていて、中へはいれんのだ」 もん 門などしまっていないのに、へん エーくん エーくん もん 3 9
る両親の家にとまったんです。 あか あがた 明け方、四時か五時ごろですか、すこし明るくなりかけたころなんで すけど、 いきなりパッとなにかがむねの上にのってきたんです。 ( また、子どもがのってきたな ) とおもいました。 当時、二歳と四歳のばうすがいて、よくそんなことがあったもんです から。 ばん でも、「まてよ、とおもったんです。その晩は、うちじゃなくて、ひ いえ とりで親の家にとまってたんですからね。 あたま それで、おそるおそる目をあけてみると、しらが頭の小さなおはあさ りよ、つしん じ おや さい さい 4 8
みたき たき がわ よ。滝のうら側をあるけるで、〃うら見の滝みというだね」 いえ たき 「その滝を、この家にいた、着物をきた子どもたちといっしょにとんで、 くぐってきたの」 いえわらし 「ほうかい、あんたあっただかよ。そらあ、この家の童子だろ、まあ、 うん 運のいいこと」 ふみ子はあきれた顔をしていたけど、わたしは湖のわきにあったカ ぞう ッパの像のことをはなした。 だいみようじん 「あの石像かい。あれは〃カッパ大明神〃といって、水の神さまだい ね」 。う力しと、目をほそめてわらうのだった。 おば癶、んは、は、つ力し せきぞう かお きもの みずうみ かみ 6
なことをいうなとおもって、ふとみると、 < 君はとばとばと西のはうへ むかってあるいていってしまったのです。 エーくんははおやろうすい びよういん それから三か月ぐらいたったころ、 < 君の母親は老衰のため、病院 せわ にはいりました。 << 君のおくさんがほとんどっきっきりで世話をしてい ゅめ そんなころ、また夢の中に君があらわれたのです。家のまえにばん やりたっていました。 「ばんやりたっていないで、中へはいったらいい じゃないか 「いいや、こうしてはるばるやってきよったのに、母も妻も家におらん。 ふたりかかえってきたら、わしかきていたというてくりよ。たのんだよ。 エーくん エーくん 工 1 くん ははつま にし 4 9
いえ 自分がすんでいた家がさびれていくのをさびしくおもうのは、生きているものだけ ゅめ むじん ししゃれい ではないようです。死者の霊が、無人になったわが家にすみつく「夢の中のおとず しゅうちゃくおも いえ れ」には、家にたいするふかい執着と思いがこめられています。人の体内にはたま ゅめ しぜんご しいがやどっていて、死の前後にはそれがぬけでるとしんしられてきました。「夢で たいけん ゅめ ばしょ そうなんしゃ みた場所」は、遭難者のたましいのさけびを夢の中できいたというふしぎな体験をえ がいたものです。 ゅめげんじっ じけんみぜん ゅめ 「夢とちがうじゃないか」は、夢と現実のわすかなすれが、おそろしい事件を未然に ゅめ じんぶつ ふせぎます。それにしても、まったくおなじ夢をみていたもうひとりの人物がいたと とも ゅめ ヤ」と・は こえ きみよう いうのは奇妙です。「声だけの友だち」も、あまい言葉をかけて夢の中にあらわれる はなし ははおや ききいつばっ こえぬししようたい 声の主の正体をしった舞が、危機一髪のところで母親をたすける話です。 じん たいない 1 42
ばしょ 場所がみえたような気がした。 にし 西の山だー よるのうふ つぎの夜、農夫はシャベルをも って九時に家をでた。なんとして たから あくま も悪魔がくるまえに宝を手にいれ なけれはならない からだはしぜんに山のほうにむ かった。山についたときは十時に もなっていなかっただろう。 ここだとかんじたところをむち 9 7
はなやまこうえん をわきにかかえると、いっきにかけました。花山公園まできて、 「ここまでくれは、もうだいしようぶ , 息をはすませなから、うしろをみたとたんプルッとふるえました。十 くろふく メートルはどはなれたところに、黒服の男がたって、しっとこちらをみ ていたのです。 「やつばり、ねらわれてる」 いえでんわ こうしゅうでんわ ゆみこ 由美子さんは、ちかくの公衆電話にとびこむと、いそいで家に電話 をかけました。 「もしもし、おかあさんー 「どうしたの。あわてて」 1 1 3
ここでやかれた、何万という人たちのたましいが、ただよっているよ へや うな、気かするからだ。なによりもこわいのは、むかいの部屋に、ほか いえ したし あんち の家の遺体がふたっ、安置されていることだ。 こえとり とっぜん外で、ギャーツとひと声、鳥がないた。部屋のあかりがすこ しくらくなって、わたしかスーツと、くらやみにひきこまれるような、 気がしたときだ。 「ごめんください。しつれ いいたします」 こえ ろうかでひそやかな、男の人の声がした。 「はい、 どうぞおはいりくたさい」 ママの声に、はいってきたのは、わかい女の人と、おしいちゃんくら こえ そと なんまん 8 3
おおごえ 「どうしたのよ、きゅうに大声なんかだして . かお へや おかあさんが、心配そうな顔をして部屋にはいってきました。 ゅめ かっこ、つ とてもこわい夢をみたせいなのか、学校でもなんとなくからだがだる じゅぎようちゅうせんせいはなしあたま ほ、つか′」 ぶれん くて、授業中の先生の話も頭にはいりません。放課後はテニス部の練 しゅう 習をやすんで、はやくかえることにしました。友だちに、さよならとい こ、つもん みち くろ って、校門をでたところて : 、ツと息をのみました。道のわきに、黒 ふく 服をきてサングラスをかけた男がたっているのです。 「まさか , よかん いえ いっしゅん、いやな予感がしましたが、そのまま家にむかいました。 しんばい とも 1 1 6