そのときがきたら、ひとりで行きたいのだとばくはいった。 フェイと話そうとしたけれど、ぼくを怖がっているのがわかる。きっとぼくの頭がおかしくなった尹 とおもっているのだろう。ゅうべ彼女はだれかを連れてかえってきたーー・とても若い男だ けさ大家さんのムーニィさんが熱いチキンスープとローストチキンをもってきてくれた。彼女は、 ぼくがちゃんとやっているかどうかちょっとのぞいてみようとおもってといった。食べるものはいっ ばいあるからといったけれども彼女はどうしてもおいていくといった。おいしかった。彼女は自分の アリス 考えでこうしているのだというふりをしていたけれども、ぼくはまだそこまでばかじゃよい。 かストラウスが部屋をのぞいてぼくが大丈夫かどうか様子を見てくれと頼んだにちがいない。彼女は 人のいいおばあさんで、アイルランドなまりがあって、ア。ハートのひとたちの話をしたがる。ぼくの ししひとたろう。 部屋のひどいちらかりようを見ても何もいわなかった。彼女はまあ、、、 亠さ 十一月一日ーーーまた書くのは一週間ぶりだ。時間がどうしてこんなに早くたつのかわからない。 ようは日よう日だということはわかる、というのは、通りをわたって教会へはいっていくひとたちが 窓から見えるからだ。この一週間ずうっとべッドにねていたとおもうが、ムーニィさんが二、三回食 べものをはこんできてくれて病気じゃないのときいていったのはおぼえている。 この自分をどうするつもりだ ? こんなところでぶらぶらしていて、窓から外ばかりみてなんかい られない。自分をしつかり持ちこたえなくちゃならない。なにかしなくちゃいけないとくりかえしく りかえし自分にいっているけれども、それを忘れてしまうし、ことによると、しなくちゃならないと 自分でいっていることをやらないほうがらくなのかもしれない。 まだ図書館から本を借りてくるけれどもたいていぼくにはむずかしすぎる。ミステリや昔の王様と
とうとうドナーさんかだまれかまどにもどれとどなった。それからドナーさんはチャーリイそうなる には長いとし月がかかるんだよといった。ばん焼きのし事はとても大せつでとてもめんどうくさいか らおまえはそんなことは、いばいせんでいいといった。 ぼくはドナーさんやほかの人たちにぼくのほんもののしじつのことを話してやりたかった。ほんと うにあのしじつがきいてみんなみたいにかしこくなれればいいとおもう。 三月一一十四日ーーーニーマーきょー授とストラウスはかせがこんばんばくのへやにきてなぜきめられ たとおりに研究室へこないのかといった。アルジャーノンときょーそーするのはもういやだとぼくは いった。それならしばらくこなくてもいいかいすれはこなくちゃいけないとニーマーきょー授かいっ た。きょー授はおくり物をもってきてくれたけれどもこれはほんとうのおくり物ではなくてただかし てくれるのだそうです。これはていーちんぐましんというものでてれびみたいなはたらきをする。し ( し ( オしカらかわないでく ゃべったり画がでたりするから眠りそうになったらこれをつけなけれよ、ナよ、。ゝ ださいとばくはいった。眠るのになぜてれびをつけるんですか。でもニーマーきょー授はもしかしこ くなりたければいったとおりにしなさいといった。そこでぼくはちっともかしこくなったような気が しよいといった 0 するとストラウスはかせか近づいてばくのかたに手をのせてチャーリイきみにはまだわからないだ ろうがきみはどんどんかしこくなってきているよといった。きみはしばらくは気がっかないだろう時 計の短い針がうごいていくのが見えないのとおんなしだ。きみの変化もそれとおんなしだ。じよじよ に起こっているのでよくわからない。でもわれわれはてすとやきみの話し方やこーどーや経過報告な んかでその変化を追うことができる。チャーリイきみはわれわれや自分に信らいをもたなければだめ
きみわ知っているだろうがこの実けんがしとにどんなえいきようをあたえるかわからないのだいまま でわ動ぶつだけしか実けんして、よ、ゝ ( オしカらね。キニアン先生もそういっていましたけれどもぼくわ痛 い目にあってもかまわないのですぼくわじよおぶだしいしよけんめやるつもりですからとばくわいっ かしこくしてくれるならかしこくなりたいのです。ぼくの家そくのきょ化をとらなくてわいけよい けれどもぼくの世わをしてくれたハーマンおじさんわ死んだしほかの家ぞくのことわおぼいていない。 きっとみんなも ぼくのお母さんにもお父さんにも小さい妺のノーマにもずっとずっとあっていない。 死んでるかもしれない。 みんなどこに住んでいたかとストラウスはかせにきかれた。プルクリンだと おもう。もしも見つかればあうつもりですとはかせわいった。 このけえかほおこくわあまりたくさんかかないですむといいなとおもうどおしてかとゆうとうんと 時間かかかるので夜おそくにねるので朝になって仕事に行くとくたびれてしまう。かまどにはこんで いくろおるばんのいつばいのつかったおぼんをおことしたのでジンピイにどなられた。ばんわどろが ついたのでジンピイわやくまえにふかなければならなかった。ジンピイわほくが何かわりいことをす るといつもどなるけどぼくの友だちなのでぼくのことが好きなのです。もしもぼくの頭がよくなった らジンピイわびつくりするだろうな。
「ぼくが間違っていると思っているんだね ? 」 「つまりきみは長い道程を急ぎすぎたんだよ」と彼は言った。「きみはいまとびきりの頭脳をもち、 はかりしれない知能と、大方の人間が一生かかって吸収するよりもたくさんの知識を得た。だがきみ こんな一 = ロ葉は使 はアンバランスだ。きみは物事を知っている。物事が見える。しかし理解力とか いたくないがーーー寛容とかいうものが未発育のままなんだよ。きみは彼らをいかさま師だというか、 あの二人がいつ、自分たちが完璧な超人だと言ったかい ? 彼らは凡人だ。きみは天才だ」 彼はふっと黙りこんだ、私に説教していることにとっぜん気づいたのだ。 「続けてくれ」 「ニーマーの奥さんに会ったことがあるか ? 「彼がなぜしじゅうピリピリしているか、実験室の方や講義がうまくいっているときでも、なぜピリ ーサ・ニーマーという女を知る必要がある。彼に教 ピリしているのかという理由が知りたいなら、 ーグ財団の補助金を 授の地位を与えてやったのは彼女だってことを知っているかい ? 夫にウエルバ そして今度は、この学会で時 とらせるためにお父上のご威光を借りたってことを知っているかい ? 機尚早のあの発表をやれといって尻を叩いているのさ。きみもああいう女に鼻面を引きまわされてみ なきや、そういう女房をもった男の気持は理解できないよ」 私はなにも言わなかった。彼がホテルに戻りたがっているのがわかった。一一人とも黙念として帰路 についた。 私は天才なのか ? そうは思わない。 とにかくまだ〈「は。ヾ トがいつも一一 = ロうように、教育学の婉
WF 十 A DdF—Ad orig. WF— A SF 十 0 三 それにしてもこんなテストは意味がない。見えもしないものをいろいろと考えだす人間だっている かもしれない。 ぼくが想像しもしないことをいって彼らをだましていないとどうしてわかるだろう ? ストラウス博士が心理学の本を読ませてくれるようになったらきっとわかるのだろう。他人がこの 報告書を読むとおもうと自分の考えたこと感じたことを洗いざらい書きとめることがだんだんむずか しくなってきた。しばらくは報告の一部を非公開にしておけたらいいとおもう。ストラウス博士に頼 んでみよう。なぜこんなことがとっぜん気にかかりだしたのだろうか ?
女王様のことを書いた本をたくさん読む。自分を騎士だとおもって友だちと二人でおいばれ馬にのつ て出かける男の話をよんだ。でも彼はなにをやっても最後はひどい目にあう。風車をドラゴンと思い こんだりしたときもそうだ。はじめぼくはこれはばかばかしい本だとおもったというのはもし彼が気 ちがいでなければ風車がドラゴンじゃないとわかるだろうし魔法使いや魔法のかかった城なんていう のもないとわかるはずだがそのときぼくはこれにはきっとほかになにか意味があるのだということに 気がついたーーー話には書いてないけれどもどこかに暗一小をしてあるのだ。ほかの意味があるんじゃな いかな。でもそれが何かわからない。 前のばくはそれを知っていたはずなので腹がたった。でもばく は読書と毎日新しいことを学ぶことをつづけているのでこれがぼくを助けてくれるとおもう。 これの前にもう少し経過報告を書いておかなければならないのはわかっていたそうすればぼくにな にがおこっているかみんなにわかるだろう。しかし書くことがだんだんむずかしい。かんたんな一 = ロ葉 でも辞書を引かなくてはならないしそんな自分に腹がたってしまう。 十一がっ 2 日ーーーきのうの報告の中に通りのむこうのビルの一階下の部屋にいる女のことを書くの をわすれた。先週うちの台所の窓から彼女を見た。名前は知らないし首から上のほうがどんなふうか もわからないけれどもまいばん十一時ごろになると風呂に入りにバスルームへいく。窓のシェードを おろさないのでこちらの電気をけすと窓から風呂を出て体をふくときに首から下が見える。 それをみるとぼくは興ふんするけれどもその婦人が電気をけしてしまうとぼくはがっかりして淋し くなる。ときどきどんな顔をしているかきれいかどうか見れたらなあとおもう。ああいうかっこうを ぼくが見ていることを している女のひとを見るのはよくないことだけれども見ないではいられない。 知らないならばかまわないとおもう。
だからたとえぼくが利口になり新しいことをたくさん学んだとしても女についてはまだ子供だと博 士は考えている。 変な気持がするけれどもぼくのこれまでの生活についてすべてを解明するつもりだ。 四月十五日ーーー近頃ずいぶん本を読むし、読んだことはほとんど頭に入っている。歴史や地理や数 学のほかに外国語もはじめたほうがいいとキニアン先生がいう。ニーマー教授が睡眠中にかけるテー プをまたくれた。ぼくはいまだに意識と潜在意識がどう働くのかわからないがストラウス博士はまだ そのことは考えなくてもよいという。一一、三週間のうちに大学の課程を学ぶようになるまで心理学の 本は読まないとぼくに約東させたーーっまり博士が許可をあたえるまでは読むなというのだ。読めば 頭が混乱し、自分自身の考えとか感情のかわりに心理学の理論について考えるようになってしまうと いう。だが小説なら読んでもよいという。今週は『華麗なるギャッビー』、『アメリカの悲劇』、『天 使よ、故郷を見よ』を読んだ。男や女がこういうことをするとはちっとも知らなかった。 四月十六日ー・ー今日はだいぶ気分がいいか、それでもみんながぼくを笑いものにしたりおもしろが っていたのかと思うと腹が立ってくる。ニーマー教授のいうようにぼくの知能が増大して、七十とい うほくのが一一倍になればきっとみんなぼくを好きになって友だちになってくれるかもしれない。 いずれにしろとはなにかよくわからない。 ニーマー教授によれば知能がどれだけあるかをはか るものだそうであるーー・店屋で目方をはかるはかりのようなものだ。だがストラウス博士は教授と大 議論をして—C は知能をはかるものではないといった。—O はどれだけの知能を得られるかを示すも のであって計量カップの目盛りのようなものである。カップには中味を入れなければならない。
ておわりにいってしまわないようにした。それから電木棒をくれてそれを列のあいだにどういうふう におくかおせえてくれて棒わ板からはなさないで小さなみぞをたどっていくと棒がそれいじよおうご かなくなるところがあってそこでちょっとびりつとします。 ートわとけえを出してそれをかくそおとした。だからそっちを見ないようにしたけれども気にな ってたまりませんでした 一何けとバ トかいったので行こうとしたけれどもどこへ行たらよいかわからない。どの道をとおれ ばよいかわからないのです。するとそのときアルジャーノンがきーきーと泣く声がしてもう走ってる よおな足が板をひっかく音がきこえた。ぼくも進もうとしたけれどもちがう道へ入てしまって行きど まりになて指先にびりつときてそれでまたはじめにもどったけれどもやるたんびにちがう道に行てし まうので行きどまりになてびりつとくる。別に痛くわないけどもただちよととひあがってしまうので それわぼくがまちがいたからそれをおしえてやるためだといわれた。板の半分ぐらいのところにくる とアルジャーノンのほうわさもうれしそうにきーきー泣いたのでアルジャーノンがきよおそーに勝っ たとわかりました。 それから十回もやったけれどもいつもアルジャーノンの勝ちでぼくわおわりとかいてあるところへ 行く道がどおしてもわからなかった。でも気ぶんわわりくなかったというのわぼくわアルジャーノン のやるのを見物してどうやってめえろをとおりぬけるか時間わたくさんかかってもいいからその方法 をベん強した。 ねずみがこんなにりこうだとわ知らなかた。
「めざましい進歩だわ」と彼女は言った。 「混乱してしまうんだ。この先どんなことを知るようになるんだろうか」 「心配しなくていいのよ」と彼女はきつばり言った。「あなたは物事を洞察し、理解しはじめたの よ」七番街へわたるとちゅう、彼女はまわりのネオンの輝きのすべてを抱きかかえるかのように手を ひろげた。「物事のうしろに隠れているものが見えてきたんだわ。部分部分がびったりと整合しなく ちゃいけないという話・ーーなかなかよい洞察ね」 「いや、どうだか。何かをなしとげたという感じがしない。自分自身とか自分の過去が理解できない。 ぼくは両親の居所も知らないし、彼らがどんな顔をしているかも知らない。記憶の断片とか夢の中に 出てくる両親の顔はいつもぼやけている。彼らの表情が見たいんだ。顔が見えなければ、ぼくには理 解できない、彼らの、いに何が 「チャーリイ、落ち着いて」みんなが振りかえってぼくを見る。彼女はぼくの腕に手を通して、ばく これだけは忘れないで、あなたはひとが一生かかってやる を鎮めようと引き寄せる。「辛抱なさい。 ことを数週間でなしとげたということをね。あなたは知識を吸いこむ大きなスポンジよ。もうじきあ なたは、さまざまな事柄を関係づけるようになるわ、そして学問のさまざまな分野がいかに関連しあ っているかがわかるようになるわ。巨大な梯子の段々のように、それぞれの段階で。あなたがそれを 一段ずつのぼっていくにつれてまわりの世界がもっともっとひらけてゆくのよ 四十五番通りのカフェテリアへ入り盆をとりながら、彼女は勢いよく喋りまくる。「普通の人には ほんのちょっぴりしか見えないのよ。だれでもいまよりたいした変化は起こらないし、もっと高いと ころにのほることもできないわ。でもあなたは天才だから。どんどんのぼりつづけて、もっともっと 見えてしまう。そして一段ごとに、これまで存在していたことさえ知らなかった世界があらわれてく
している。そこでチャーリイはこ , つい , つ、「ほくもハリエットにバレンタインをやる ハリイかいう、「おまえ、どこから贈り物をもってくるんだい ? みんなが笑う、 「きれいなの、もってくる。みてろな」 たが彼は贈り物を買う金がないので自分のロケットをハリエットにあげることにした。店のウイン ドーにかざってあるバレンタインのカードみたいなハート型のやつ。その晩母親の簟笥からティシュ ーをとってきて長いことかかってそれをくるんで赤いリボンでしばる。それからあくる日の昼休みに それをハイミイ・ロスのところへもっていき手紙を書いてくれと頼む。 こう書いてくれとハイミイにいう。『愛するハリエットあなたは世界でいちばん美しいとおもいま す。ぼくはあなたがとても好きです。愛しています。ぼくのバレンタインの恋人になってください。 あなたの友だち、チャーリイ・ゴードン』 ノイミイはげらげら笑いながら紙に大きな字をとてもていねいに書いた、それからチャーリイにこ ういう、「ひやーっ、 こりや、あの子が目玉をひんむくぞ。あの子か読むのがおたのしみ チャーリイは怖いけれどもハリエットにロケットをおくりたいので学校の帰りに彼女の家まであと をつけていき彼女が家の中に入るのを待つ。それからこっそり玄関へ近づいてドアのノブに包みをぶ らさげる。ベルを一一度鳴らし通りのむこう側に走っていって木のかげに隠れる。 ハリエットが出てきてだれがベルを鳴らしたのかとあたりを見まわす。それから包みに気づく。彼 女はそれをもって二階へあがっていく。チャーリイは家に帰る。すると無断で母親の簟笥からティシ ューとリボンをもちだしたといってしかられる。でも彼は平気だ。あすになったらハリエットがあの ロケットをしてきてみんなにチャーリイからもらったのよというだろう。そうすればみんなにわかる んだ。