、リエットはまだ来ない。 あくる日彼は学校までずっと走っていくが時間が早すぎる。 胸がどきど きする。 ロケットもしていよい。 つんとしてい やかてハリエットがやってくるが彼の方を見むきもしない。 る。 ジャンソン先生が見ていないすきにいろいろなことをしてみる。おかしな顔をする。大声で笑う。 腰かけの上に立って尻ふりをしてみせる 。ハロルドにチョークを投げたりもする。でもハリエットは 一度も見むきもしない。きっと彼女は忘れたんだ。あしたはしてくるだろう。廊下ですれちがったの できいてみようとおもって近づくと彼女はものもいわずに彼を押しのける。 校庭に出ると彼女の兄さんがふたり彼を待ちかまえている。 ガスが彼を押す。「このくそ野郎、妺にこんないやらしい手紙を書きやかったな ? チャーリィま、、 しやらしい手紙なんて書かないという。「ぼく 、バレンタインの贈り物をしただけ 高校を卒業するまでフットボールのチームにいたオスカーかチャーリイの胸倉をつかんでシャツの ボタンを二つむしりとる。「おれの妹に近よるんじゃないぞ、このうすのろめ。おまえなんかどだい この学校にいられるしろものじゃないんだ」 彼はチャーリイをガスの方へ押しやるとガスが彼の喉首をつかむ。チャーリイはこわくなって泣き だす。 それから彼らはチャーリイに乱暴する。オスカーが鼻面に。ハンチをくらわす、ガスが地面にけたお して脇腹をける、一一人がかわるかわるける、それから校庭にいた他の子供たちーーー・チャーリ イの友だ ちーーかわいわいやってきて手をたたきながらさけぶ、「喧嘩た ! 喧嘩だ ! チャーリイがやられ
茶色の木綿の手袋の先から指を突きだしている赤い顔の物売りに、とんぼがえりする熊をちょっと だけ抱かせてもらえませんかと頼んでみたいけれども、なんだか恐ろしい。紙袋を持ちあげて肩にか つぐ。彼はやせっぽちだけれど長年の辛い仕事のおかげでカはある。 「チャーリ ィー・チャーリイ , : うすのろ、間抜け , 子供たちが足にかみつく小犬みたいに彼をとりかこみ笑いながら彼をからかう。チャーリイは笑い かける。荷物をおろして遊びたいのだが、そう思っただけで背中の皮膚がピクピクしてもっと年かさ の男の子たちが彼にものを投げるときのあの感じがしてくる。 。ハン屋にもどってくると暗い廊下で男の子が数人立っている。 「おい、チャーリイたぜ」 「よう、チャーリイ。なにもってるんだい ? さいころばくちでもやりてえか ? 」 「こいってば。わるさはしねえってばよ」 だが戸口のところになにかがあるーー・・ー暗い廊下、笑い声、それがまた彼の皮膚をピクリとさせる。 それがなんなのか知りたいのだが彼に思いだせるのは服のいたるところにぬりたくられた汚物と小便、 それから汚物にまみれて家に帰るとハーマンおじさんがわめいたこと、そしておじさんがそんなひど いことをした子供たちをさがしにハンマーをにぎって外へかけだしたこと。チャーリイは廊下で笑っ ている連中の前で後じさりして包みをおとす。それを拾いあげて奥へかけこむ。 「なにをぐずぐずしていたんだ、チャーリィーとジンピイが店の奥に通じるドアのところでわめく チャーリイはスウイング・ドアを押して店の奥へ行き荷台の上に包みをおく。壁によりかかって両 手をポケットにつつこむ。スビナーがあれば、 しいなあとおもう。 , っ ) 」 0
私を納得させてしまった。そのチビの〈ミニイ〉がまったく健康で、品行方正であることを得心して から、私は同意を与えた。彼がメスと相対したときにどう反応するか興味があった。だがミニイをア ルジャーノンの籠に入れてしまうとフェイは、私の腕をつかんで部屋から引きずりだした。 「あんたにはロマンチックな心ってものがないの ? と彼女は語気を強めて言った。ラジオをつけて、 おそろしい剣幕で迫ってきた。「最近のステップを教えたげる」 フェイのような娘を疎ましく田 5 う人間かいるだろうか ? とにかく、アルジャーノンかもう独りぼっちでないのが嬉しい。 六月一一十三日ーー昨夜遅く、廊下で笑い声、それからうちのドアを叩く音。フェイと男が一人。 イ。うちのお 「リロイ、こちらチャーリ 「ハーイ、チャーリィー私を見ると彼女はくすくす笑った。 向かいさん。素晴しい芸術家なんだから。生きているエレメントをもっ彫刻をやってるの リロイは彼女の体を支え、彼女が壁にぶつからないようにしていた。そわそわと私を見て、ぶつぶ っ挨拶した。 「スターダスト・ホールでリロイと会ったのーと彼女は説明する。「彼って、すごいダンサー」自分 の部屋の方へ行きかけて、彼を引き戻した。「ねーえ」クックッと笑いながら、「チャーリイを誘っ て、 ーティをやろうじゃない ? リロイは、それかいい考えだとは思わなかった。 私は口実をもうけて引っこんだ。閉めたドアのむこうで、彼らが笑いながら部屋へ入っていく気配 : 白 9 かした。私は本を読もうとしたが、さまざまな情景が頭に割りこんでくる。大きな白いべッド : くて冷たいシーツ、抱き合っている一一人。
てもあなたに話さなくちゃならない」 彼女はコーヒーを飲みながらぼくの話にじっと耳をかたむけていた。ジンピイのごまかしをどうや って発見したか、そのときの自分の反応、そして研究室で得た相反する助一 = 〕。話しおえると彼女は椅 子の背によりかかり、かぶりを振った。 「チャーリイ、あなたには驚くわ。ある点ではあなたはとても進歩したけれども、判断を下すという ようなことになるとまるで子供ね。あなたのかわりに、あたしがきめることはできないわ、チャーリ イ。その答は本では見つからないしー・ー・・他人のところへもちこんでみても解决は得られないのよ。あ なたがこれから一生子供のままでいたいというなら話は別だけど。あなた自身で答を見つけなきゃい けないーー・正しい行為が直感できるようでなければ。チャーリイ、自分を信じることを学ばなくちゃ 、けないわ」 はじめは彼女のお説教が煩わしかったが、そのときーー突如として , ーー理解できたのである。「つ まり、ばく自身できめろというんですね ? 彼女はうなずいた。 「じっさい」とぼくは一一 = ロった。 「こうして考えてみると、ばくはすでに、あるところまで心を決めて いたんだと思う ! ニーマーもストラウスも一一人とも間違っていると田 5 う ! 彼女は目を輝かせてぼくをまじまじと見つめた。「いま何かがあなたに起こっているわ、チャーリ イ。あなたが自分の顔を見られたら」 「あなたの言うとおりだ、何かが起こった ! 目の前に雲がかかっていたのを、あなたが一息で吹き はらってくれた。簡単なことなんだ。吾を信じよ。こんなことが思いっかなかった」 「チャーリイ、素晴しいわ ー 0 2
けられるのはこの世界であんただけなんだ。ほんのちょっとでいいから、中へ入れて、すわらせて」 彼女に催眠術をかけたのは私の一一 = 〕葉より喋り方だった。戸口に立って私を見つめつづけている。な んの気なしに私は血まみれの手をポケットから出し、拳を丸めて哀願した。それを見ると彼女の表情 「怪我しているのねえ : : : 」必ずしも私に同情したのではない。 足を痛めた犬とか、喧嘩をして怪我 イだからではない、チャーリイであ をした猫に対していだく種類の感情だろう。私が彼女のチャーリ るのに他人あっかいをしている。 「入って、手をお洗い。包帯とヨードチンキがあるから」 彼女のあとについて波形の水切り板が置いてあるひびの入った流し台へ行った。昔、裏庭から帰っ てきたときや、食べる前、眠る前に、 ここで顔を手を洗わされたものだ。私が袖をまくりあげるのを 眺めている。「なにもガラスをこわすことはなかったのに。大家が渋い顔をするだろうねえ、修理代 にあてるようなお金はないしねえ」そして、私の洗い方に業をにやしたという感じで横から石驗を取 りあげ、手を洗ってくれる。一心不乱にそうしているので、せつかくかかった魔法をとくのが布さに イ、チャーリ 私は沈黙を守った。ときどき彼女は舌うちをしたり、息をついたりした。「チャーリ イ、いつだって泥んこになってきちゃうんだから。 したいいつになったら自分のめんどうか見られ るの ? 」彼女は一一十五年前にたちかえっていた、私が彼女のかわいいチャーリイだったころに、私の ために世間と闘おうとがんばっていたころに。 血が洗いおとされるとペイ。ハ ・タオルで拭いてくれそれから顔をあげて私を見た、その眼は驚き に見開かれた。「おお、これは ! 彼女は息をのみ、後じさりをする。 私はまた喋りはじめる、怖がることないんだよ、危害を加えたりはしないんだと、おだやかに、噛
いるか、フランクは手のひらを使い、親指は他の指からはなしてピンと伸ばしている。 そんなことに気をとられているので、「さあ、やってみろ」とジンピイに言われても手を動かすこ とかできない。 チャーリイはかぶりを振る。 「見てろよ、チャーリイ、こんどはゆっくりやるからな。おれのやるところをすっかり見てるんだぞ、 それからおれといっしょにひとつひとつやってみよう。 しし力い ? けどまずすっかり頭にたたきこ まにゃあだめだ、たたきこんじまえばあとはひとりでにできるからな。さあやってみよう こんな ふ , つに」 ジンピイが練り粉をちぎって丸めるのをチャーリイは眉をよせて眺める。ためらっているが、やお らナイフをとって練り粉を切りとり台の真中におく。ジンピイがやるように肘をはってそれを丸める。 自分の手を眺め、ジンピイの手を眺めて、彼とまったく同じように親指を他の指にびったりくつつ けーーー手のひらを浅く椀型にする。ジンピイが彼にやってもらいたいとおもっているとおりにちゃん とやらなければならない。頭の中で声がひびく、ちゃんとやれよ、そうすればみんなが好いてくれる。 ・はジンピイにもフランクに、も好かれたい ジンビイは練り粉を丸めおわると後にさがる。だからチャーリ イもそうする。「へえ、こりやすご 、 0 見ろよ、フランク、やっこさん、丸めおったぜ」 フランクはうなずき微笑する。チャーリイは吐息をつく、緊張が高まり体じゅうが震える。こんな ふうに成功するなんてめったにないことだ。 「さあいいかい」とジンピイかいう。「これからロール。ハンをこさえるぞ」ぎごちないが慎重にチャ ーリイはジンピイのあらゆる動きをまねする。ときおり手や腕がひきつってやりかけのものを台なし
ことがわかったんだから。ではママにこう一一一一口うんだよ、利口になったような気がするって、そうすり やママは週に二度、きみを超短波脳改造機にかけに連れてきてくれるぞ。そうすりやきみは利口にな巧 る、どんどん利口になるぞ」 チャーリイはニッと笑う。「ぼく、うしろに歩ける」 「ほんとうか ? じゃあ見せてくれ [ とガリノは言い、興奮を装いながら紙ばさみを閉じる。「見せ てくれ」 ゆっくり、非常な努力をして、チャーリイは数歩うしろにさがり、診察台にぶつかってよろめく。 ガリノは笑顔でうなずく。「これはたいしたものだぞ。ああ、待てよ。きみはな、しまいまでやらな しうちに、近所でいちばん利ロな子供になるぞ」 チャーリイは、この賞讃と注目が嬉しくて頬を染める。人が彼に笑顔をむけ、よくやったと賞めて くれることはそう多くはない。 機械の恐ろしさも、台に縛りつけられる恐ろしさも薄れはじめる。 「近所でいちばん ? その考えが彼の胸で大きくふくらんで、いくら息を吸っても肺の中に十分な空 気が人らないように思われた。「ハイミイより利口になれる ? 」 ガリノはまた笑顔を作ってうなずく。「ハイミイより利口になるさ」 チャーリイは新たな畏敬のまなざしで機械を見つめる。この機械はぼくを、一軒おいた隣りに住む ハイミイよりも利口にしてくれる、ハイミイは祝み聿日きも知っているし、ポーイ・スカウトにも入っ ている。「これはおじさんの機械 ? 」 「またそうじゃよ、。、 オししまは銀行のものだ。だがじきにわたしのものになる。そうすればきみのよう な子供を大勢、利口にしてやれるぞ」彼はチャーリ イの頭をぼんと叩いて言う。「きみは、ここにや アイキュ ってくる正常な子供たちよりよっぽどいい子だ、あの手合いの母親は、やつらの知能指数をあげさえ
そらく許可をくれるだろうと思う。 しかしもうこれ以上ひとりぼっちではいられない。アリスにこのことを話さねばならない。 六月一一十五日ー・・・ー今日アリスに電話した。気がたっていて、きっと辻褄のあわぬことを言ったと思 うが、彼女の声が聞けてうれしかったし、彼女も私の声を聞いてうれしそうだった。彼女は会うこと に同意し、私はタクシーでアップタウンに向かったが、車ののろさがもどかしかった。 ノックをしないうちにドアが開き、彼女が飛びついてきた。「チャーリイ、みんなとても心配して いたのよ。どこかの路地で死んでいるんじゃないか、記憶を失って浮浪者のたまり場をうろついてい るんじゃよ、ゝ オしカって、そんな恐ろしい想像ばかりしていたのよ。どうして無事を知らせてくれなかっ たの ? それぐらいはできたでしように」 「責めないでくれ。しばらくひとりになって答を見つける必要があったんだ」 「キッチンにい , りつしゃい。 コーヒーをいれるわ。いったい何をしていたの ? 」 「昼間はーー考えたり、読書したり、書きものをしたり、それから夜はーーー自分を探し求めてさまよ い歩いた。そしてチャーリ イかぼくを見張っていることを発見したんだよ 「そんな言い方をしないでちょうだい」彼女は体を震わせた。「見張られているとかいうのは、現実 じゃないのよ。あなたが頭の中でこしらえあげたものだわ」 「ばくはぼくじゃないっていう感じかしてならないんだ。ぼくは彼の場所を奪い、彼らがばくをパン 屋から締めだしたように、彼を締めだしたんだ。つまりぼくが言いたいのはね、チャーリイ・コード ンは過去において存在していたし、その過去も現実なんだよ。古い建物をこわさなくては、その跡に 新しい建物を建てるわけにはいかない、だが昔のチャーリイは消してしまうことはできないんだ。彼 21 0
だして彼女の手を握ると一 = ロ葉がとひだしてきた。「ぼくはあなたがとても好きだ」こう言ったあとで、 彼女が笑いだすのではないかと危惧したが、彼女はうなずいて頬笑んだ。 「あたしもあなたが好きよ、チャーリイ つまりぼくが言いたいのは : : : おお、畜生 ! 自分でもなんだ 「でもただ好きっていうんじゃない。 かよくわからないんだ」顔が赤くなるのがわかったが、どこを見たらよいのか、手をどうしたらよい のかわからない。 フォークをおとしたので拾おうとするとコップをたおしてしまい、水が彼女の服に こぼれた。不意にまたしどろもどろになって、あやまろうとすると舌がロの中でふくれあがっていた。 「いいのよ、チャーリイ」と彼女はぼくを慰めようとする。「ただの水ですもの。そんなにあわてる ことないのよ 帰りのタクシーの中で、ばくたちはずっと黙りこんでいた。そのうちに彼女がハンドバッグを脇に 置き、ぼくのネクタイをまっすぐにして、胸ポケ・ツトのハンカチを直した。「今晩のあなた、ひどく とりみだしていたわね、チャーリイ」 「おかしな気分なんだ」 「あたしがあんなことを言ったせいね。そのせいで自意識過剰になってしまったのね」 「そうじゃよい。 自分の感情を一 = ロ葉に言いあらわせないのがもどかしいんですー 「ああいう感情は、あなたにははじめてのものですものね。なにもかも : : : 一一 = ロ葉に言いあらわす必要 はないのよ 「だめよ、チャーリ ぼくは彼女のほうににじりよって手をとろうとしたが彼女は手をひっこめた。 イ。こんなことは、あなたのためにならないと思うの。あたし、あなたの気持を乱してしまった。そ れはマイナスの効果をおよぼすかもしれない」
の上でおどりをおどったりしてあそんだのでみんなわらった。 それからジョウカープがばん屋の便所をどんなふうにそうじするか女の子たちに見せてやれといっ てモップをもってきた。ぼくはみんなに見せてやってドナーさんがおまえはこれまでおれがやとった 中でいちばんのざっえき夫だ仕事はよろこんできちんとやるしちこくはしないししじつのときのほか は一日も休まないからなといったというとみんなわらった。 キニアン先生はチャーリイあなたはじぶんの仕事をほこりにしていいわ仕事をよくやっているのだ からといつもいいますよとばくはいっこ。 みんなわらってそれからフランクがそのキニアン先生はチャーリイなんかにおべんちゃらっかって よっぽどいかれたやろうたなというとジョウかおいチャーリ イおまえその女とできてるのかいといっ た。それはどういう意みなのかとばくはいった。みんなは酒をいつばい飲ませてくれてチャーリイは よっぱらうとおもしろいぞとジョウがいた。つまりみんなはぼくが好きだといっているんだろう。 なかなかたのしかったけれどもぼくも早く新友のジョウカープやフランクライリイみたいにかしこく なりたいものだ。 ーテイかどういうふうにおわったのか覚えていないけれどもみんながあの角をまがって雨がふつ ているかどうか見てきてくれといったので見てきたらもうだれもいなかった。きっとぼくをさがしに いったのだろう。ばくはおそくまでみんなをさがしまわった。しかし道かわからなくなってしまって 迷子になってしまった自分かなさけなかったアルジャーノンならこんな道は百回もいったりきたりし てもぼくみたいに迷子になんかならないだろうから。 それからよく覚えてはいないのだけれどもフリンさんの話では新切なおまわりさんがばくを家まで 連れてきてくれたそうだ。