フランク - みる会図書館


検索対象: アルジャーノンに花束を
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1. アルジャーノンに花束を

四月一一十一日ーーぼくは。ハン屋の粉ねり機の生産性をスピードアップする新方式を考案した。労賃 を節約して利潤が増すとドナーさんはいっている。五十ドルのボーナスをくれ週十ドルも昇給してく ジョウ・カープとフランク・ライリイを昼食に連れ出してお祝いしたかったがジョウは奥さんに買 物を頼まれているしフランクはいとこと食事をする約束があるという。彼らがぼくの変化に慣れるに は時間がかかるだろう。 みんなばくを怖がっているようにみえる。ジンピイに何か頼もうと近づいて肩をたたくと彼はとび あがってコーヒーを自分の体じゅうにひっかけてしまう。ぼくが見ていないと思うとぼくをじっと見 つめている。店の者はだれも前のように話しかけてこないし、からかったりもしない。だから仕事を していてもひとりばっちでさびしい。 そんなことを考えていると、ぼくが立ったまま居眠りをしてフランクがぼくの脚をうしろからけと ばした頃のことが思いだされる。ほっかりした甘い匂い、白い壁、フランクが。ハンを移すためにかま どの戸をあけるときの轟き。 経過報告川

2. アルジャーノンに花束を

「うんにや、チャーリイ。もしおまえに必要なら、あの連中の代表だとか陳情なんぞ相手にしない、 そしてみんなからおまえを庇ってやる。だがな、いまじゃみんなおまえさんを死ぬほど怖がっている。 わたしも、自分の家族のことを考えにゃならん」 「もしみんなが気を変えたら ? みんなを説得させてください」私は彼が予想していたよりも強硬た ったようだ。いけないと思いつつも自分が抑えられなかった。「みんなにわかってもらうようにしま すから」私は懇願した。 「わかった」彼はとうとう溜息をついた。「やってみるさ。だがけつきよくは自分が傷つくだけだ 事務室から出ると、フランク・ライリイとジョウ・カープがそばを通りかかった。ドナーが言った ことはほんとうだとそのとき悟った。彼らにとって私が目に触れるのは耐えがたいことなのだ。私は みんなを不快にさせている。 フランクはロールバンをのせた盆をもちあげたところだった。声をかけると彼とジョウが振りむい 一」 0 「なあ、チャーリイ、おれはいそがしいんだ。またあとでーーー」 「いや」と私は食いさがった。 「今ーー ! 今でなくちゃだめだ。あんたたちは二人ともぼくを避けてい る。なぜだ ? 」 フランク、早ロの、女好きの、調停役のフランクがちらっとばくを眺め、それから盆をテープルに 置いた。「なぜだって ? 言ってやろうか。なぜかつつうとな、おめえが、とっぜん、おえらいさん の、物知りの、利ロものになっちまったからよー いまじゃおめえは、ご立派な天才の、インテリだ もんな。、 ( つだって本を抱えてよ いつだってなんだって答えられないことはないもんな。い、ゝ まあ聞けよ。おめえは自分がここにいるおれたちよりえらいと思ってるんだろう ? なら、どっ 料 6

3. アルジャーノンに花束を

いるか、フランクは手のひらを使い、親指は他の指からはなしてピンと伸ばしている。 そんなことに気をとられているので、「さあ、やってみろ」とジンピイに言われても手を動かすこ とかできない。 チャーリイはかぶりを振る。 「見てろよ、チャーリイ、こんどはゆっくりやるからな。おれのやるところをすっかり見てるんだぞ、 それからおれといっしょにひとつひとつやってみよう。 しし力い ? けどまずすっかり頭にたたきこ まにゃあだめだ、たたきこんじまえばあとはひとりでにできるからな。さあやってみよう こんな ふ , つに」 ジンピイが練り粉をちぎって丸めるのをチャーリイは眉をよせて眺める。ためらっているが、やお らナイフをとって練り粉を切りとり台の真中におく。ジンピイがやるように肘をはってそれを丸める。 自分の手を眺め、ジンピイの手を眺めて、彼とまったく同じように親指を他の指にびったりくつつ けーーー手のひらを浅く椀型にする。ジンピイが彼にやってもらいたいとおもっているとおりにちゃん とやらなければならない。頭の中で声がひびく、ちゃんとやれよ、そうすればみんなが好いてくれる。 ・はジンピイにもフランクに、も好かれたい ジンビイは練り粉を丸めおわると後にさがる。だからチャーリ イもそうする。「へえ、こりやすご 、 0 見ろよ、フランク、やっこさん、丸めおったぜ」 フランクはうなずき微笑する。チャーリイは吐息をつく、緊張が高まり体じゅうが震える。こんな ふうに成功するなんてめったにないことだ。 「さあいいかい」とジンピイかいう。「これからロール。ハンをこさえるぞ」ぎごちないが慎重にチャ ーリイはジンピイのあらゆる動きをまねする。ときおり手や腕がひきつってやりかけのものを台なし

4. アルジャーノンに花束を

またそれが何なのかわからない。 彼は手をださない。他人のものに手をだすと叱られるからだ。自分の手にのせてくれるものならも ジンピイかそれをさしだすと彼はうなずいてもう一 でもそうでないものはいけよい。 , りってもいい。 甞又につこり ( 夭 , っ 0 「やっこさん、ほしいものは知ってるぜ」とフランクが笑う。「ピカピカ光ってるものをくれてやり ゃいいんだ」ジンピイに実験をゆだねたフランクか興奮してのりだしてくる。「この安びかものがど きっと , つまくい うでも欲しいなら、。ハンの丸め方をおほえりやくれてやるっていえばいいんだ 職人たちが腰をすえてチャーリイに教えこむ仕事にとりかかると店の者がまわりに集まってくる。 フランクは作業台の上を片づけ、ジンピイはチャーリイのために練り粉をほどよい大きさにちぎる。 チャーリイに丸められるかどうか賭ける者がいる ペンダントは作業台の上のチャーリイが見えるところにおく。 「ようく見てろよとジンピイかいし 「よく見ておれたちのやるとおりにしろな。丸め方をおばえたら、このきれいなお守りがもらえるん だぞ」 チャーリイは腰かけにすわって背中を丸めてジンピイがナイフをとりだし練り粉を切りとるのを見 まもる。練り粉を細長く丸めて伸ばし、短くちぎり、ねじって丸くしてときおり手を止めては粉をふ る手つきをじっと見まもる。 「さあ見てろよ」とフランクは、ジンピイのしぐさをくりかえす。チャーリイは頭がこんがらがって しまう。やり方がちがうのだ。ジンピイは練り粉を伸ばすとき鳥の翼みたいに両肘をはるのだが、フ ランクは腕をびったりと体につけている。練り粉をこねるときジンピイは親指も他の指にくつつけて

5. アルジャーノンに花束を

「まったく、あんたのいうとおりね、フランク」とエレンが喉をつまらせた。「どくえん会ってとこ ろね」それから彼女がいった、「さあ、チャーリイ、果物をおたべ」彼女はぼくにりんごをくれたが、 かじってみるとそれは偽物だった。 するとフランクが笑いだしてこういった、「やつが食うっていったろ。蝦でこさえた果物を食うほ どの阿呆がどこにいるかよ ? ジョウかしオ 「こんなに笑ったのはあれいらいだよ、ほらハロランの店でやっこさんに雨が降 ってるかどうか見てきなっていっておいてずらかったことがあっただろ」 そのときほくの心に一枚の画がうかんできた。ぼくが子供のころ近所の子供たちかかくれんばにば くを人れてくれてぼくが鬼になった。指で十を何度も何度も数えてからみんなをさがしにい まいに寒くなって暗くなってしまったのでとうとう家に帰らなければならなかった。 だがぼくにはぜったいみんなが見つからなかったしなぜだかもわからなかった。 フランクのいったことがぼくに思いださせた。ハ ロランで起こったのと同じことだったのだ。そし てそれがジョウや他の人たちがやっていることなのだ。ぼくを笑いものにすること。かくれんばをし た子供たちもぼくをだまして同じようにぼくを笑いものにしていたのだ。 ーティにいる人たちの顔がぼやけたかたまりになってぼくを見おろして笑っている。 「やつを見ろよ。顔が赤いぜ」 「赤くなっていやかる。チャーリイが赤くなった」 「おい、エレン、おまえ、チャーリイになにをしたんだ 「やあ、エレンがやつを興奮させたにちげえねえ」 ぜ」 こ ? こいっかこんな顔するの見たことない

6. アルジャーノンに花束を

その考えはジンビイの興味をひいたらしく彼は振りかえってチャーリイをじっと見る。「そりやい い考えかもしれんぞ。おい、チャーリイ、ちょっとこっちへ来い」 チャーリイは人が自分のことを喋っているときはいつもうつむいて靴の紐を見ている。紐のかけ方 や結び方はちゃんと知っている。ロール。ハンだってできるかもしれない。練り粉をこねて丸めてねじ って小さなロールにすることかできるかもしれない。 フランクが自信なさそうに彼を見る。「こんなことやらねえほうがいいかな、ジンプ。いけねえこ とかもなあ。白痴にやむりだっていうんなら、なにもしねえほうかいいかもしれねえな」 「まかしとけって」フランクの考えに乗り気になったジンピイはいう。「きっとおぼえられるさ。 し、力しチャー丿 ーイ。おまえ、なんかならいたくねえか ? おれやフランクがやってるみたいなロー ル。ハンのこさえ方を教えてもらいたくねえか ? チャーリイは彼を見つめる、笑いが顔から消えうせる。ジンビイの望んでいることはわかる、彼は 窮地に追いつめられたような気がする。ジンビイをよろこばせたい、だがならうとか教えるとかいう 一一 = ロ葉にはなにかがある、きびしいお仕置となにか関係があるんだが、よくおもいだせない っそりした白い手が振りあげられて彼を打つ、彼には理解できないことをおばえさせようとする。 チャーリイは後じさりするが、ジンピイが腕をつかむ。「おい、こら、安心しろ。痛い目にあわせ ようってんじゃねえ。見ろよ、こいつ、いまにもぶったおれそうにぶるぶる震えてらあ。おい、チャ ーリイ、おまえにピカビカ光るきれえな新しいお守りをやろうじゃねえか」彼は片手をさしだし、び かりん・メタル・ポリッシュという広告文句の書いてあるピカピカの真鍮のメダルがついている鎖を 見せる。鎖のはしをつまむと、金色に輝くメダルがゆっくりまわりはじめ、螢光灯の光りを反射する。 そのペンダントの光りにチャーリイは見おぼえがあるけれど、なぜそんなものに見おばえがあるのか、 7

7. アルジャーノンに花束を

っ - 」 0 みんながまわりに集まってきてそのことを話したのでぼくはこわくなった。だってみんな変な顔を してぼくを見るしみんな興ふんしているからだ。フランクが近ごろチャーリイはおかしなところかあ りますよといった。するとジョウカープもうんおれもそうおもうといった。ドナーさんはみんなに仕 事にもどれといってからぼくを店のほうへ連れていった。 チャーリイおまえがどうやってあれをおぼえたのかわからんがどうやらやっとなにかをおばえたよ うだなとドナーさんはいった。気をつけてできるだけがんばってみるんだな。おまえに新しい仕事を やろう給料は 5 ドルあげてやるよ。 ぼくは新しい仕事はいりませんから掃じや配達や友だちのためになにかをするほうがいいのですと いったがドナーさんは友だちのことは気にするなおれはおまえにこの仕事をやってもらいたいのだと いった。しゆっせをのぞまないような人間をおれはえらいとはおもわんな。 しゆっせというのはどういう意味ですかとぼくはきいた。彼は頭をかいて目がねごしにぼくを見た。 そんなことは気にせんでいいチャーリイ。いまからおまえは粉ねり機がかりだ。それがしゆっせとい うものだ。 そういうわけで。ハンを配達したり便所の掃除をしたりごみを捨てたりするかわりにぼくは新しい粉 ねり機がかりになった。それはしゆっせだ。明日キニアン先生に話すつもりである。きっとよろこん ファニイにき でくれるとおもうがフランクやジョウがどうしてぼくにあたりちらすのかわからない。 いたらああいうはかどもにはかまうなといった。きようは四月はかだからわるさか逆にきいてあんた のかわりにあの人たちをばかにしちゃったのよ。 逆にきくわるさってなんだとジョウにきいたらとっととうせやがれといった。ぼくが相像するには 7

8. アルジャーノンに花束を

といった。で、もファニイバ ードンがそばできいていていとこがビークマンの学生でそのひとにきいて くれてビークマン大学に精はく成人センターというのがあると教えてくれた。 紙に名前をかいてくれたのでフランクはわらってそんなに教よーを高めてもらってはおまえの古い 友だちとおしゃべりができんようになるぞといった。、いばいするなよ読んだりかいたりできるように なっても古い友だちとはっきあうようにするからなといった。フランクはげらげらわらってジョウカ ( 友 ープもわらったけれどもそこへジンビイがきてろーるばんをさっさとっくれといった。みんない、 だちなのです。 し事がおわると六ぶろっくばかり歩いて学校へ行ったけれどもぼくはこわかった。ぼくは読み方の 勉強ができるのでとてもうれしくて勉強がおわったら家にもってかえって読もうとおもって新聞をか そこにつくとそこは大きくて細長いへやで大ぜいいた。たれかにまちがったことをいうのがこわい のでぼくは家にかえろうとした。でもどうしてかよくわからないけれどぼくはまたひきかえして中へ 入ていった。 たいかいのみんながかえってしまってから何人かの人がばん屋にあるような大きなタイムレコーダ ーのそばにいたのでぼくはそこの女の人に読み方やかき方をおしえてもらえますかぼくは新聞にかい てあることをみんな読みたいのですといって新聞を女の人に見せた。その人がキニアン先生だったの ですがそのときは知らなかった。あしたもう一どきて登緑してくれたら読み方をおしえることにしま しようとかの女はいった。でも読み方をおばえるまでには長い時間かかります何年もかかりますから それを承知しておいてください。そんなに長くかかるとは知らなかったけれどもでもどうしてもなら いたいいままで何ども人をだましたから。つまり読み方を知っているようなふりをしていたのですが っ」 0

9. アルジャーノンに花束を

かねじくれかえっていまにもばく発しそーですぐに行かないと : : : かまんしていられないから。 どーかおねかいですからはなしてください便所にいかなくてわならないといったけれども彼わただ尹 わらているだけなのでぼくわどーしていいかもうわからない。それで泣きだした。はなしてくれ。は 彼わよう なしてくれ。そしてやてしまった。。ハンツに流れだしてひどいにおいかしてぼくわ泣いた。 , やくはなしてくれて吐きそおな顔をしてそれからこわがっているようにみえた。ちかてもいいおれわ なにもするつもりじゃなかったんだチャ ーリイと彼わいった。 そのときジョウ・カープがやてきてクラウスのしやつをつかんでこいつに手をだすなこのうすぎた ないやろーめさもないと首のほねをへしおてくれるぞといった。チャーリイわいいやつだからだれも む責任にこいつをおどかしたりしないんだ。ぼくわはずかしいとおもて便所にかけこんで洗って服を とりかえた。 ばくがもどってくるとフランクがそこにいてジョウかあのことを ' 請しているとそこへジンピイが入 てきたのでジンピイにあのことを話すとクラウスを追いだせといった。ドナーさんにやつをくびにし ろと、 、こ、くといった。それでほくわくびにしなくてもいいでしよう彼にわおくさんや子どもかい るから別の仕事をめつけなくてわならないといった。あんなことをいったけれども彼わぼくにしたこ とをすまないとおもているのです。ぼくかばん屋をくびにされて出ていかなくてわならなかたときと てもかなしかったのをおもいだす。クラウスにもう一度きかいをあたえてやてくれもうぼくに悪いこ とわしないとおもう。 あとでジンピイが悪い足をひきずてきてチャーリイもしだれかがおまえを困らせたりだましたりし たらおれかジョウかフランクをよべおれたちがかたをつけてやるからなといった。おまえにわともだ ちがいるってことをおぼいといてもらいたいなそれを忘れるなよといった。ありがとうジンピイとぼ

10. アルジャーノンに花束を

にしてしまうが、ほどなく彼は練り粉をちぎってロール。ハンをこしらえることができるようになる。 ジンピイのかたわらで彼は六箇のロール。ハンを作り、粉をふりかけ、粉を敷きつめた大きな盆に注意 深くジンピイのと並べていく。 「よしよし、チャーリ イ」ジンピイの顔は大まじめだ。「こんどはおまえがひとりでやってみな。最 初からやったことをぜんぶ思いだすんだ。さあ、やってみな」 チャーリイは大きな練り粉の塊りを見つめ、ジンピイが手に押しこんでくれたナイフを見つめる。 するとふたたび恐怖が彼を襲う。最初になにをやったのかな ? 手はどんな恰好にしたのかな ? は ? どんなふうに丸めたのかな ? ・ いろいろな考えがごっちゃになって一度にわっと浮かんでき フランクやジンピイをよろこばせて、自分 て、彼はぼんやり笑って突ったっている。彼はやりたい、 大きな練 ジンピイがくれると約束したびかびかのお守りをもらいたい。 を好きになってもらいたい、 しくじるんじゃないかと心配で、練 り粉の塊りを何度もころがすのだが、どうしても手が動かない。 り粉の塊りが切れない。 「もう忘れてらあ」とフランクがいう。「頭に入ってないんだ」 彼は頭に入れたいとおもう。眉をよせて思いだそうとする。まずはじめに小さい塊りを切りとる。 それを丸める。でも盆にのっているみたいなロール。ハンをこさえるにはどうすれはいいのかな ? こ いつはえらいことだ。もっと時間をくれれば思いだすだろう。頭のこのもやもやが晴れれば思いだす。 ほんのしばらくのあいだでもい もうちょっとすればわかるんだ。ならったことはおぼえていたい いから。彼は、いからそう願っている。 「ようし、チャーリイ」とジンピイはためいきをもらし、彼の手からナイフをとりあげた。「もうい いよ。心配するな。どうせおまえにできる仕事じないん」」 匕日