これらのイメージは単なる古い、ロマンチックな運命」以上の何かをほのめかしています。 二人のあいだには明らかな、いずれ二人が互いの腕の中でぶつかりあうだろうと視聴者に即座 にわかるようなひかれあいが存在します。果たせるかなその「衝突」は、ビッグのリムジンの 車内で起こりますが、それは激しく、決して悪びれるところがありません。 ゝにビッグのスー 、カ . し、カ ー男性性 ( それはもつばらリビド 二人の性的なひかれあいは、キャリー ☆フロイトが仮定した、一種の性的欲動工 ーが「ヌ ーのレベルで働きかける ) に対して無力かということを一小しています。キャリ ネルギー ード・ドレス」を身につけている、この最初のワイルドな出会いからして、それは実にあけっ びろげな性的関係で、彼女は何度も我を忘れて夢中になってしまいます。まるで煙草のように、 ビッグから与えられるめくるめく央感は、彼女にとってコントロールできない中毒になってし まうのです。 シーズン 1 【 6 「秘密の関係」では、自分たちの関係がただのセックスだけの関係で終わっ てしまうのを心配する一方で、キャリーはビッグの与える強烈な麻薬のような快楽を、自分だ けのものにしたいと願います。 そして、シーズン 1 【 7 「一夫一婦制の現実」で、ビッグが「キャリーとっきあう」ことに 同意すると、彼女のファンタジーは高みにのばりつめます。ニューヨークは二人がロマンスを 演じるためのクラシックな舞台と化し、街を歩きながら二人は抱きあい、キスをし、愛に満ち たまなざしを交わします。女友だちをないがしろにするという致命的な罪を犯しながらも、キ ャリーはこの街が自分とビッグだけのものに縮小されたような気分になるのです。 ビッグと 工イダン、 王子様はどっち ?

与えてくれる個人的な幸福感ではなく、ロマンチックな関わりあいなのである。オールドミ スになることを怖れてはいないのだ。 『セックス・アンド・ザ・シテイ』では独身と結婚というテーマをとおして、このような関係 性に対する考え方をはっきり描いています。シーズン 1 【 3 「シングルでなぜ悪い」ノ ズン 1 】川「母親は究極のカルト」、シーズン 2 【 4 「すばらしき独身貴族 ? 」、シーズン 6 【 9 「女の特権、シューズマジック」などで独身生活に対する賛否両論が繰り広げられ、結 婚制度を論じているのです。 シャーロット以外の三人は、結婚にはまったく関心がありません。その無関心ぶりをコミカ ルに描いたものが、シーズン 2 【 7 「ひとめばれで電撃結婚」です。ミランダが初めて新居に 招待した男友だちが、ミランダの部屋のインテリアをコーディネートした女性と恋に落ちます。 その二人の結婚式に出席した四人は、大勢の女性といっしょに花嫁がプーケを投げるのを見て います。そのプーケが偶然、四人を目がけて飛んでくるのですが、四人ともプーケを受け取ろ うとはしません。シャーロットですら、ただ、黙ってプーケがバサッと足もとに落ちるのを見 ているのです。プーケを拾い上げることもせず、プーケに託された象徴的な意味にも無頓着で す。 シーズンが進むとシャーロットだけが結婚しますが、シャーロットの結婚は、夫トレイのイ ンポテンツと、二人の不妊への取り組みの果てに終わりを迎えます。サマンサは結婚には反対 2 Second Love

、と思い始めたとた ゃべりを楽しいと感じ、男性とのつきあいより女同士で話している方がいし んに、救いようのないものになっていく」と言っています。ドラマの中のキャリ ーたちの会話 はまさにそ , つい , っふ , つになっていき士す・。キャリ ーたちはセックスや男について、何でもオー プンに話しあいますが、この会話こそがドラマの見せ場であり、これがなくてはドラマは成立 しないと言えるでしよう。 プランチの席であれ、 ーティ会場やアパートメントの中であれ、そこで繰り広げられるキ ャリ ーたちの会話は、一人が意見を述べ、ほかの三人がそれそれの考えを言うことで問題を解 決していくという展開になっています。 これを最もよく表しているのが、シーズン 2 【 1 「女と男の別れのルール」です。ミランダ は、男以外の話をしようとしないと言って、ほかの三人を激しく非難します。「話題になるの はビッグかタマか極小ペニスだけ。知性のある女が集まってする話じゃない。 まるで中学生よ。 考えることはほかにないの ? 男の話にはうんざり。話題が変わったら、また私を呼んでよ ね」と。 このように、四人の関係がギクシャクしたり、そのうちの二人がケンカして気まずくなった りする状況を描いたエピソードはほかにもたくさんあります。 『セックス・アンド・ザ・シテイ』には、四人の内面的葛藤も、困難な状況を乗り越えるとき に味わう精神的苦痛も描かれています。例えば、シーズン 5 【 4 「魅惑のカバーガール」のテ ーマは、こうした内面の葛藤です。ここでは、キャリーとサマンサが、誰かれかまわずセック 2 Second Love 4

ムだと定義するために、「第二の波」の考え方は独善的であり、限界のあるものだと批判した のです。 「第三の波」に属するライターのレベッカ・ウォーカーはこう書いています。「私たちは、フ エミニストとは、個性や個人差をまったく考慮しない生き方をし、そのためのアイデンティテ イを確立しようとする人だと思ってきた」。そして、新しい世代のフェミニストは、前の世代 の主張に異議を唱えようとしている人たちであり、世の偏見を乗り越える力と矛盾をはらんで いる、とも一一 = ロっています。 「第二の波」の主張を批判する「第三の波」の人たちは、特定のフェミニスト像を築くことは せずに、その代わりに個性を引き出し、それそれの個性にあったフェミニズム観を育てる道を 選びました。それは「第三の波」の世代が好んで書く自伝的なエッセイにも見られます。「第 三の波」の世代を動かしているのは個人主義の考え方だという意見もありますが、個人主義は 政治的な矛盾を抱えています。というのも、ウーマンリプが政治的な目標を達成するためには、 ある程度の団結が求められるからです。 「先代の女性が勝ち取った権利と自由のおかげで、私たちの世代の女性はいろいろな考え方を し、個人を大切にするようになった。共通の関心によって結びついてはいても、女性同士の連 帯感は私たちの世代には見られない」とレネ・デンフェルドは一九九五年にその著書で書いて います。『セックス・アンド・ザ・シテイ』でも、「連帯」が描かれることはめったにありま せん。 2 Second Love

き出します。ほかのエピソードと比べてみると、このシーズン 2 【Ⅱ「恋愛の進化形」では、 人間の持っ男らしさや女らしさを描く方が、キャリーやサマンサが指摘したようなさまざまな セックスを描くより、はるかにタブー視されていることがわかるのです。 「タイム」の表紙を飾った四人のヒロイン フェミニズムは終わったと宣言してから二年後に、再び「タイム」誌は四人の白人女性を表 紙に載せて、またもや挑発的な問いを発する特集を組みました。その四人の女性は『セック ス・アンド・ザ・シテイ』のスターで、その問いとは「誰が夫を求めている ? 」というもので 特集記事は、自らの選択で独身でいる女性たちが、アメリカではますます増えていることに 焦点を当て、そのような女性たちを「ウーマンリプの娘たち」と呼びました。つまり、これま おうか でのどの世代の女性たちより自立心が強く、選択肢が多く、自由なセックスライフを謳歌して いる女性、ということです。このような女性たちが増えてきたために、『セックス・アンド・ ミランダ、シャーロット、サマンサをこ ザ・シテイ』を利用して、「タイム」誌はキャリー の世代の女性の代表と見なしたのです。 おこ フェミニズムが興って四十年、アメリカの文化にさらされて内容もずいぶん変化したとはい しまもなお脅威と見られているのです。 え、女性の性欲、とりわけ自立した女性の性欲は、、 「第三の波」のライターであるライザ・ジョンソンは、「女生が自由になったと言っても、世 2 Second Love

ますが、こうした女性の友清についてはまったく無関心です。 四人一緒のときも、一対一のときも、四人の関係は一番大事な社会であり、大事な家族とし て描かれていて、いたわり合い、気遣いあうばかりか、経済的援助をするときもあるのです。 ・「独身女の査定価格」に出てきます。キャリーがアパート その典型的な例が、シーズン 4 . メントを購入できたのは、シャーロットから三万ドルのティファニーの婚約指輪をもらったか らでした。 三十分の物語の中で何が起ころうとも、最後には四人で笑いあい、話しあい、助けあって終 ー」でも同じです。ポーイフレンドのポーンがセ わります。シーズン 2 【巧「恋人のファミリ ックスのときあっという間にイってしまうので、キャリーは話しあって解決しようとするので オーンの家に招待されたキャリーは、息子の欠 すが、拒否されてしまいます。そんなおりに、 : 点を知っている母親ウオリスになだめられます。けれど、ポーンとのギクシャクした関係は変 わらず、キャリーは結局ポーンと別れることにします。 そのとき、「ウオリスの言うとおり、大事なのは家族だ。ときには憎らしい日もある。でも 帰るのは結局、家族のもとだ。自分が生まれた家庭か、自分が選び取った家族のもとへ」とい , っキャリ ーのナレーションが流れるのです。 そして、サマンサたち三人がカフェにいるのを偶然見つけたキャリーはそこに合流し、四人 で笑っているところでこの話は終わります。キャリーがどういう家族像を抱いているかは、誰 が見ても明らかです。 2 Second Love

るフォーラムとしての機能を存分に発揮していると一言えるでしよう。 一九六〇年代後半に起きたフェミニズム第二の波以来、フェミニズムの考え方がドラマに登 場しないときはありませんでした。『プライム・タイム・フェミニズム』を書いたポニー・ド ーは、ホームドラマは「女性が中心になって、女性について語り、それに賛成するフェミニス トたちが登場する番組だ」と言っています。 ・タイラー ドーはフェミニズムを描いたアメリカの主なドラマとして、『メアリー ア・ショ ー』『モード』『ワン・ディ・アット・ア・タイム』『デザイニング・ウィーメン』 『ローズ・アンとマーフィー・プラウン』などをあげています。『デザイニング・ウィーメン』 を別にすれば、どのドラマも一人の女性をフェミニスト、もしくは自立した女性として描き、 その人物をとおしてウーマンリプを語ったものです。 ところが、『デザイニング・ウィーメン』と同じように『セックス・アンド・ザ・シテイ』 は四人の女性に焦点を当てながら、それぞれを現代の女性の典型として描いています。 シャーロット役を演じるクリスティン・デーヴィスは、四人の登場人物についてこう語って います。「私は四人がまったく違っているところがとても気に入っているの。それに、私たち にはさまざまな選択肢があって、決めるときにいちいち『これよ、、 ししし』とか『これはよくな い』などと口にしなくてもいいんですもの。そういう点がとてもいいのよ」と。 ともあれ、『セックス・アンド・ザ・シテイ』は、フェミニストの独身女陸を描いたかって のドラマとは違って、ヒロインをとおして現代女性の四通りの生き方を示していますが、この 2 Second Love 0

アニズムは、男根崇拝的なセックスのグロテスクなまね事でなければ、まったく相いれないセ ックスだからです。 ナレーションでは二人の別れを、ホットなセックスよりもレズビアンたちの温かい風呂やお が「女性の射精を目の当 しゃべりの優先のためと説明していますが、視聴者はすでにキャリー たりにした」と表現する、このプラジル人女性の潮吹きのシーンでげんなりさせられています。 サマンサはすぐに立ち直るでしようが、このいささかやり過ぎともいえるシーンは、視聴者の 楽しみに水をさす場面の一つだと言えます。 ドラマのレズビアン的くすぐり ーに関するキム自身のコメントが、女優にと もし疑問が残っていたとしても、このストーリ ってもキャラクターにとっても、レズビアニズムが不可能であることをいっそう明白にしてい ます。「男性であれ、女性であれ、誰だって一度は同性とセックスしたらどんな気分なのか考 えてみたことはあるでしよ。私自身はこのエピソードを演じてみて、自分が間違いなくへテロ セクシュアルの女性だということを確信したけどね」。 そしてさらにこうもつけ加えています。「もしどこかに違和感があったとしたら、それは私 オし力しら。ちっとも感じなかったから、私は たち二人がヘテロセクシュアルだったからじゃよ、ゝ レズビアンじゃないみたい。それとも彼女がタイプじゃなかったのかしら」。 真偽はともあれ、一年後、この性的にどんな役割でもこなす女優は、ディビッド・マメット 『セックス・アンド・ ザ・シテイ』は 男と女の愛の物語 ? 179

ッグが母親とともに参列することをキャリーは知る。彼の。ハートナーとして認めてもらいたく て、キャリーはミランダを引き連れてミサに行く 日曜の礼拝にふさわしいと思う服を着て。 キャリ ーが選んだのは、緑と白の派手なストライプ柄でハイウエストのシャッドレスで、仕 だらん 上げにつば広の帽子をかぶっていた。一方、ミランダの服装は二〇年代を思わせた としたオレンジ色のドレスにべらべらのべージュのジャケット、プローチにクローシュの帽子。 マンハッタンの上流人士なら、こういう場にはこういう格好がふさわしいと思うだろうと二人 は考えたのだが、 その服装はまるで屋根裏部屋の衣装箱から引っぱり出してきたようで、ビッ グの上品な母親に、キャリー まただの「友だち」と紹介されたのはあまりにも当然だった。 このエピソードを皮切りとして、四人の主役たちが上流の社交界に進出しようとする場面は、 その後何度も描かれている。お定まりの舞台設定を強調しているのが、それにまさるとも劣ら ないお定まり、四人勢ぞろいの芝居がかったご登場である。四人はしばしば腕を組んで堂々と 姿をあらわし、友好的とはいえない人種の縄張りに足を踏み入れて、何とか受け入れてもらお うとする。彼女たちはどうしても「見られる対象」にならざるをえない。保守的なシャーロッ トを除いて全員が場違いな格好をしているので、どうしても人目をひいてしまい うまく周囲 に溶け込めずに悪目立ちしてしまうからだ。 シャーロットのたっての願いで、避暑地ハンプトンの別荘に滞在することになったとき、四 ハンプトンとマンハッタンを結ぶ長距離 【「若し 人は勇んでハンプトン・ジトニーに乗り込む ( シーズン 2 バス 女の特権」 ) 。成り上がろうと野望を燃やすニューヨーカーにとっては、これもりつばな社交の場。 マ 6 Sixth Love 210

の立場で、結婚制度にはまったく興味がないと公言してはばかりません。ミランダはスティー プから結婚を申し込まれても相手にせず、未婚のままスティープとの子どもを産むことにしま す。そしてスティープとはその後も、くつついたり離れたりしているのです。 結婚をめぐる議論の中で一番おもしろいシーンが、シーズン 4 【貶「結婚は正しい選択 ? 」 ーにプロポーズをするところです。キャリー に登場します。キャリ ーの恋人工イダンがキャリ は、エイダンのバッグに入っている婚約指輪を見つけたとたん、バスルームに駆け込んで吐い てしまうのです ! そしてキャリーはすぐにそれを三人に打ち明けます。 シャーロット「婚約するのね ! 」 キャリー 「指輪を見て吐いたのよ。ヘンでしよ」 サマンサ「結婚に対する私の反応と同じよ」 しばらく吐き気と闘った後、ようやくキャリーは、エイダンのプロポーズと指輪を受け入れ ます。 その後のシーズン 4 【「幸福と拘束の約束」で、ミランダはおもしろ半分にキャリーをプ ライダル・ストアに弓 ーっ張っていき、二人でウェディング・ドレスを試着します。試着室から ーが。ハニック状態にお 出てきた二人は鏡に映ったドレス姿の自分を見つめます。するとキャリ ちいり、「苦しい」と叫んで呼吸困難になってしまいます。半狂乱になってドレスを脱ごうと 女も セックスは 大好き 83