アメリカは形式上、台湾が中国の領土 この地域には、「九段線」に基づく であることを認め、その代わり中国は中国の領有権主張は一一一口語道断だという 台湾に手を出さない。それが「一つの総意がある。中国が東シナ海または南 中国」政策だ。これならアメリカは中シナ海における対立で武力を行使する 国との間に波風を立てることなく台湾ことがあれば、それに対抗すべく、ア を守ることができ、中国としても「一ジアの同盟諸国はアメリカが率いる連 国一一制度」の建前を維持できる。 合に参加する可能性が高い もちろん、誰にとっても理想的な解だが、それはあくまでも防衛的な対 決策ではない。台湾と中国の分離は実応の場合だ。アジア各国は、中国の国 質的に固定されてしまうし、台湾が完力や軍事力に居心地の悪さを感じてい 全な主権を確立する道も閉ざされて いるだろうが、一方で中国と隣り合わせ る。しかし地域の平和と経済発展を維で暮らしていかなければならないこと 持できるという点では、全ての当事者も知っている。成長を続ける中国との の利益になってきた。だから「一つの貿易を続けたいとも考えている 中国」政策は年も続いている 各国がアメリカの軍事力に対して寄 そこへ降って湧いたのがトランプ発せている信頼は、慎重な抑止力として 言。こんな挑発を続ければ台湾をめぐのものだ。アメリカが攻撃的、挑発的 る軍事的緊張が高まりかねないが、そな姿勢を取ることは望んでいない。彼 んなことは誰も望んでいない。 らは米中という 2 つの大国に挟まれた 状態で、双方と貿易ができる今のカの 中国との紛争で日本の出方は 均衡を維持することを望んでいる。ト 日本からオ 1 ストラリアに至るまでランプの挑発のせいで、中国が台湾や の各国は、確かに中国の台頭を懸念し南シナ海で軍事行動を起こす事態にな ているし、中国の「いじめ」を受けてれば、そのとき同盟諸国がどう出るか アメリカへの接近を強めている。バラは分からない ク・オバマ政権時代、日本や韓国、オ中国とのいかなる紛争についても、 1 ストラリアはいずれも、アメリカと国際世論にその正当性を主張し、かっ の軍事的連携を強化した。 地域の米軍基地へのアクセスを確保す 「一つの中国」の見直しを示唆した 新大統領の危険な路線変更 挑発の代償を読み誤れば大きな打撃に ロバート・ E ・ケリー ( 本誌コラムニスト ) アジア ISTOCK Newsweek 35 2017 / 01 / 31
UNITED NATIONS UNIVERSITY Peace and Security 平和と安全保障 GOOd Governance グッド・ガバナンス ( 良い統治 ) 人類のためのシンクタンク、 国連大学には 5 つの研究テーマがあります。 国連大学は、唯一日本 ( アジア ) に本部を置く国連の機関です。東京・ 渋谷の大学本部を中心に世界 13 の研究・研修センターと各国の学 術機関や学者を結び、グローバルに展開しています。人類の重要 テーマに取り組む知の世界ネットワーク・国連大学にご注目ください。 SOCial and Economic Development 経済と社会開発 Environment and Sustainability 環境と持続可能性 Science, TechnoIogy and Society 科学、技術、社会 WWW. unu.edu 国連大学は、国連システムでただひとつの学術機関 ( シンクタンク ) です。人類の平和と繁栄という国連の目的に学術面から寄与するため研究・研修活動を幅広く実施しています。詳細はウェブサイトでご覧ください。
INAUGURATION 2011 ASIA オ 1 ストラリアは、ベトナムやイラ 一般論として、もしも中国側が先に るには、同盟諸国の同意が不可欠だ。 リカが同国の空域・海域を使用するこ その際、最も重要な存在はアジアにおとを拒み、国内の米軍基地使用にも抵クでの過去の場当たり的な戦争でも、仕掛けたけんかなら、アジアの同盟諸 すっとアメリカを支持してきた。それ国はアメリカの味方をするだろう。だ けるアメリカの同盟構造の要である日抗するだろう。 フィリピンはど、つかロドリゴ・ド に同国は西洋文化圏にも属している。かトランプか勝手に売り、中国が買っ 本だろう。危機を仕掛けたのはどちら か。この点を日本の世論がどう判断すウテルテ大統領は、中国の南シナ海進そして中国は、オーストラリアにとったけんかであれば、イラク戦争の時ほ るかが重要になる。中国を刺激する可出を容認する姿勢に転じた。同国は昨ても長期的な安全保障上の難題だ。紛どの協力も望めまい 能性の高いトランプの乱暴な言動は、年、同海域での領有権問題をめぐり国争時にアメリカに協力しなければ、実どの国も、無用の戦争は望んでいな 日本の世論に支持されず、国民はそん際法廷で中国に勝訴したが、ドウテル質的にアメリカとの安全保障上のつな い。特に中国のような準超大国を相手 にしたくはないし、トランプのよ、つに な紛争からは距離を置くべきだと考えテは中国の経済援助を引き出すため、がりは断たれる。そしてアメリカとの るだろう。 この問題を封印している。 つながりは、同国が西洋文化圏とつな好戦的で愚かな男のために戦いたいと 一方でアメリカとの安保同盟を重視このままだと、フィリピン政府が実がる上で不可欠だ。 も思わない。紛争のない所にトランプ する日本の保守政治家は、有事に米軍質的に領有権主張を が紛争をつくり出せば、各国はこれを が日本の空域や海域を使用することを取り下げた場所をめ 不愉快な権力の誇示と解釈して、アメ リカと距離を置くだろう。 渋々ながらも認める可能性が高いしぐって、アメリカと かしトランプの挑発で中国との紛争が中国が争うという奇 トランプ ( とその側近たち ) はこの 点を理解していないよ、つだ。同盟諸国 始まった場合、日本が本格的な軍事協妙なことになる可能 力に乗り出すかどうかは疑問だ。 性もある はアメリカの一一一口うこと全てに従う、少 なくとも強リ。 , トランプの挑発的 ーこ従わせることができる 愚か者のための無用の紛争 な一言動が紛争のきっ と考えているのではないか。 韓国の姿勢は、日本よりもさらにアかけをつくった場合 中国を挑発することの代償の大きさ メリカとの距離を取るものになるだろでも、明確にアメリ を、中国とのあらゆる協力がなくなる う。現在の大統領は保守だが弾劾裁判カ支持を表明する可 ことの意味を、トランプが認識してい にかけられており、次期大統領は左派能性が高いのはオ 1 るかどうかも疑わしい。両国関係が悪 系となる可能性が高い。そして韓国のストラリアと台湾だ。 化すれば、中国からの輸入が減り、ア 左派は、どちらかといえば反米的で中台湾は自国の安全 メリカ国内の物価が高騰し、中国に深 国寄りの傾向がある 保障をアメリカだけ く依存しているアメリカ企業のサプラ トランプはそうした傾向をさらに顕に依存している。だ イチェ 1 ンが混乱する。気候変動など 在化させるだろう。韓国はイラク戦争から何があってもア の問題での協調も不可能になる。 時も、国内の米軍基地の使用をめぐっメリカとの絆を切れ トランプのアメリカは、まだ勢いの てジョ 1 ジ・・ブッシュ政権と対立ない。アメリカの戦 ある世界第 2 位の経済大国との関係を した。トランプが相手なら、そうした う相手が台湾にとっ 断ち、袞退に向かう腐敗大国 ( ロシ 対立感情が一段と強まりそうだ。韓国て最大の安全保障上 ア ) に擦り寄るつもりだろうかそれ はアジアにとってもアメリカにとって 政府は中国のミサイルが国内の米軍基の脅威である中国で 地を攻撃してくることを恐れて、アメあれば、なおさらだ。 も、受け入れ難い道だ。 敵に回すと 勢いを増す一方の中国 との協力関係を失う道 を進むのは危険だ 3 4 2 KIM KYUNG 工 OON—REUTERS Newsweek 36 2017 / 01 / 31
NewsweekCONTENTS 2017 / 01 / 田 P E R 旧 C O P E 首都を怒りが占領した日 8 UNITED STATES GLOBALIZATION 「ダボスマン」の揺らぐ足元 10 GAMBIA ガンビアの居座り大統領がようやく退陣へ・ 11 NETHERLANDS 極右政党を牽制するオランダ首相の無力 BY THE NUMBER 本当の戦争になった麻薬戦争 BRITAIN 英 EU 強硬離脱の勝算は 12 NATO 「 NATO は時代遅れ」なのか 韓国にポピュリスト政権誕生の懸念 13 SOUTH KOREA ・ 14 SYRIA 平和の到来を待ち望むシリア MYANMAR ロヒンギャ弾圧に広がる非難 HONG KONG 香港行政長官選に中国が露骨な介入 US. Affairs 大統領の健康はどのみち内緒 アマゾン 10 万人雇用増はトランプとは無関係 Offbeat 機内の女性専用席でインドの旅は安心 ? トランプ支持者用出会い系の実態 lnternationaList ASia 16 調査報道スノーデンが犯した許されざる「大罪」 48 52 映画評 0 ・ストーン監督が描く愛国者の裏切り 医療黒死病との闘いはまだ終わっていない 55 新技術光合成する電池で温暖化をストップ 56 17 18 S P E C ! 今い尸唇 PORT F E AT IJ R E S & A N A LYS 旧 トランプの EVAN VUCCI—POOL 、、 'GETTY IMAGES 第 45 代米大統領に就任したドナルド・トランプは 引き裂かれたアメリカと困惑する世界をどこへ導くか 恫喝と迷言のツィッター政治 就任式新たな「主役」を迎えたその日、首都ワシントンは・・・ 演説アメリカ・ファースト、この時代へようこそ 安全保障人事難航で生じる空白 アジア中国との戦争などアジア諸国は望まない 日米外交不毛な日本叩きは自主防衛の好機 中東そう簡単でない S 旧掃討作戦 雑誌 25255-1 / 31 ニューズウィーク日本版 2017 年 1 月 31 日号 ( 第 32 巻 4 号、通巻 1531 号 ) ONewsweek LLC 2017 @CCC Media l--lcx-se Co. , Ltd. 2017 無断転載・複製を禁じます。編集部へのお問い合わせは〒 153-8541 東京都目黒区目黒 1 -24-12 株式会 CCC メディアハウスニューズウィーク日本版編集部へ TEL : 03-5436-5750 FAX : 03-5496-7561 NEWSWEEK 」 APAN (ISSN 12-2 側 1 ) is published wækly except for three combined issues year mailed in April, August and D em 「 . respectively. Annual subsc 「 iption rate is US $ 3 . Second CIa postage paid at New York, N. V.. and at additionalmailing offic . 凵 FE/STYLE 58 Music バンク魂はトランプ時代も生まれるか HeaIth 「週末限定アスリート」の健康効果 60 62 Fashion 米アマゾンに潜む偽物に要注意 ! Movies 直球リメーク「マグニフイセントセプン』・・ 64 65 Movies 女性活動家を演じた H ・ B ・カーターに聞く 66 Movies 「タンジェリン』は下品で笑えてほろ苦く 20 アメリカ 爪 A U G IJ RATI O N 2017 DEPARTMENTS 26 . 68 . 70 Perspectives .5 Letters Superpower Satire .41 RearView . 42 Picture Power. 37 38 COVER: lllust 「 ation by Yukako Numazawa-Newsweek 」 apan. 日本 ABC 協会加盟誌 ( 新聞雑誌部数公査機構 ) Newsweek 7 2017 / 01 / 31
INAUGURATION 2017 」 APAN U. S. MARINE CORPS—REUTERS トランプ米政権が今月日、発足し「民主化」策動を進めてきたネオコン「破綻国家アメリカ」という論説を発場で大儲け」というものだ。問題は、 説得だけで彼の意見を正すのは非現実 た。アメリカや世界がこれで大変動す ( 新保守主義 ) 派もそうだ。トランプ表する始末だ。 アメリカがこのざまなら世界は大混的、ということだ。 るのでは、と恐れられている。だがこではロシアのウラジ 1 ミル・プ 1 チン トランプと正面から議論するより、 れから始まろうとしていることは、ト大統領打倒という最大目標を追求でき乱になるかというと、そうでもあるま 。オバマ時代直前に混乱を生んだリ日本にも有利な結果になるような取引 なくなるため、生存を懸けた戦いをト ランプ弾劾の大一番なのではないか。 ーマン・ショック後の世界不況が回復をするのが有効だ。「日本は日米安保 ドナルド・トランプ大統領を恨むのランプに挑んでいる。 にただ乗りしている」と言われたらど トランプは脇が甘いビジネスをめに向かっているからだ。アメリカは完 は米民主党、異端者に組織を乗っ取ら れてしまった米共和党本流、さらに最ぐって、公私混同疑惑が次々に明らか全雇用の水準にあり、もドイツをうするか。既に「思いやり予算」は十 筆頭にデフレ傾向から脱出しつつある。分に支払っている。これを増額するよ 半面、これまで米主導の国際秩序にり、次世代戦闘機、巡航ミサイル、艦 ワ・ し 挑戦してきた中国は、国内の経済不振対艦ミサイル、早期警戒機などを大量 Z ー な に足を取られている。毎月の資本国外に輸入して、米経済と日本の自主防衛 流出は 500 億トルに及び、資金不足に能力を同時に向上させる、といったや ナ 陥った国内では金利が高騰。株・不動り方だ。こうした動きを首相が敏速に 交産価格も不安定ななか、市民はねすみ英語でツィ 1 トして、米世論の支持を 講にさえ手を出している。外貨準備の取り付けるのだ。 日本のメディアはトランプの片言隻 ニ急減もあり、あれだけ騒がれたアジア ・首よ ラ の得 インフラ投資銀行も、単句をあげつらっては日本との対立をあ コ り説 日 - = 誌独の融資案件はこれまでわずか 3 件とおり、視聴率を稼 ) 」うとするだろう。 乗は本 し、つ亠めりさま。 だが外交では、いなすほうが賢い場合 角哲 ロシアも原汕価格の低迷に悩み、こがある。米中ロという軍事大国に挟ま 0 2 の川年で倍増させた国防費をついに削れた日本はトランプの悪罵にキレて、 河 減の方向にある。中ロ両国とも米主導自暴自棄になったらおしまいだ。孤立 古 して完膚なきまでにたたきのめされ、 の世界秩序に挑戦するどころではない だろ、つ 米中ロ韓に寄ってたかってむしられる。 トランプ政権も永久に続くわけでは ツィートで米世論に働き掛けを 1 ティー ない。対外関係の多くは政権スタッフ になるだろう。「ロシアに ( 女性問題 近共和党を牛耳るティ 1 ( 草の根保守派連合 ) 派だけではない。で ) 弱みを握られ、ロシアの選挙介入安倍晋三首相はトランプと真っ先にに委ねられるだろうから、世界の安定 ヒラリ 1 ・クリントン民主党候補を担のおかげで大統領になれた男」とい、つ会談した。だがトランプはそんなことか破壊されることもなかろう。日本は いだ OZZ やニュ 1 ョ 1 ク・タイムズイメ 1 ジを決定づけるリークが相次ぐ。 には構うことなく、日本に要求を突きトランプの圧力を利用して、自主防衛 紙などの既存メディアもトランプ勝利トランプにリストラされるのを恐れる付けてくるだろう。トランプは日本に能力を高める好機だ。世界経済のプロ で居場所を失った。今やトランプ引き諜報機関がそのリ 1 クを助ける。このついて現実とは懸け離れた古い誤解をック化や保護主義化を防ぎ、何よりも 混乱ぶりに、政治学者フランシス・フ信じ込んでいる。「日本は米軍にただ日本の経済の繁栄や自由な社会の維持 降ろしに照準を定めている。 ブッシュ、オバマ両政権で途上国のクヤマは、「歴史の終わり」ならぬ乗りして、自国市場は閉じたまま米市を図っていくべきだろう。 7 一挙両得米戦闘機の購入は有力な取引材料 日米外交 Newsweek 3 フ 2017 / 01 / 31