言葉 - みる会図書館


検索対象: ハードラック
118件見つかりました。

1. ハードラック

「申し訳ありませんが : : : 出てきていただけませんか」 そう一一一一口うと、外門を開けてドアに向かった。上杉と若林がドアの両脇に立った。ドアが開いて中年 の女性が出てきた。 「いったい何でしようか : : : 」 女性が戸惑うように言った瞬間、上杉が手でドアを押さえた。 「警察の者ですが : : : 相沢仁さんのお母さんでしようか」 あぜん 勝瀬が警察手帳を示すと、女性は唖然としたように見つめ返してきた。 「相沢仁さんのお母さんですか ? 」 もう一度訊くと、我に返ったように頷いた 「彼は今どちらにいますか」 いったい : ・ : 警察のかたがどうして : 「東京にいると思います : : : 仁が ろ、つばい 女性は狼狽しながら言葉をつないでいる。 「彼に逮捕状が出ています。これから家宅捜索をします。お母さんからもいろいろとお話を聞かせて いただきますので」 女性に令状を見せると、そばにいた捜査員に目配せした。捜査員たちが家の中に入っていく。女性 ク はその様子を見ながら茫然と立ち尽くしている。 「いったい何なんですか : : : ちょっと待ってください : : : 仁がいったい何をしたっていうんですかド 逮捕状って : : : 何かの間違いでしよう」 目の前の勝瀬に必死に訴えかける。 「中軽井沢で発生した強盗殺人放火事件をご存知ですか」

2. ハードラック

現在ちがう班が確認に向かっている。 「あれじゃないでしようか」 若林が目の前にあるマンションを指さした。 マンションの前で停まると、勝瀬はすぐに車を降りた。後ろに停まった車から上杉と中軽井沢署の 刑事も降りてくる。 「なかなかいいマンションですねー 上杉の言葉に勝瀬はマンションを見上げた。白いレンガ造り風の八階建てのマンションだ。このマ ンションの八〇六号室に三年前まで神谷は住んでいた。 「行こ、つか 上杉たちを促してエントランスに入った。オートロックのドアがついている。 「オートロックか : : : 」 近隣住民から聞き込みをしようと思っていたが、ひと手間かかりそうだ。 「管理人室がありますよ」 上杉がドアの斜め前にあった小窓を指さした。 のぞ 近づいて中を覗いたが、管理人は不在のようだ。だが、部屋の電気がついているということはマン ションのどこかにいるのかもしれない。 とりあえすエントランスから出て周辺を探すと、マンションのゴミ置き場を掃除している中年の男 性を見つけた。 「あの、ちょっとよろしいでしようか」 声をかけると、掃除をしていた中年の男性がこちらを向いた。 203 ハードラック

3. ハードラック

「も、っ切りますーーー」 仁は母への未練を断ち切るように電話を切った。すぐに森下に電話をかける。 「相沢ですけど、わかりましたか」 森下が電話に出るとすぐに訊いた。 「だいたいのところはね。もうすぐ公園に着きますよ」 電話を切ってしばらく待っていると森下の車がやってきた。ドアを開けて助手席に乗り込むとすぐ に車を発進させた。 「ダッシュポードの中に入っていますー 仁はダッシュポードを開けた。中に紙が入っている。ワープロで打たれた成海俊に関する情報だ。 成海の生年月日と、これまでの住所歴と、小中高の学校名が記されている。 生まれが茨城県土浦市となっている。その後、水戸市、世田谷区松原、新宿区天神町と移り住んで いる 水戸市内の高校を卒業した後の項目に目が留まった。劇団サードハウスとある。 「この劇団サードハウスというのは : 仁は訊いた。 「成海は高校を卒業した後、そこの劇団に所属していたようですね。役者として」 役者として その言葉を聞いて、今まで不可解に感じていたひとつの事柄が解きほぐされていくようだった。 成海は自分と同じ二十五歳だ。だが、鈴木の外見や振る舞いを見ていてどうしてもその年齢には えないでいたのだ。だが、役者の経験があるというのなら、年齢よりも老けて見せるのも難しくない

4. ハードラック

居をお断りしてるのよ」 祖母の吐き捨てるような言葉を、女性は複雑な表情で聞いている。 「あの : : : 警察のかたってお聞きしたんですけど成海さんがいったい何を : 「ある事件の被害者の可能性があるんです」 「ある事件の被害者って : : : もしかして殺人ですか ? 勝瀬が頷くと、女性は目を見開いて表情を強張らせた。 今にも泣き出してしまいそうな女性の顔を見続けているのが辛くて、勝瀬は軽く頭を下げると斉田 家を後にした。 「ええ、成海のことはよく覚えていますよ 劇団サードハウスで演出をしている久米という男性が答えた。 「うちの中でも特に才能のある役者だったからね」 久米はそう言うと正面のテープルから稽古場を見回した。 勝瀬もつられて目を向けた。 五十畳はあるだろう広い板張りの稽古場で、十人ほどの劇団員たちが柔軟体操や発声練習をしてい る。だが、 突然の刑事の訪問に気が散っているようだ。久米の隣に座っている勝瀬や若林をちらちら と見ている。 「それにしても、成海がそんな事件に巻き込まれてしまったかもしれないなんて : : : 」 久米が感慨を引きずるように腕を組んで呟いた。 劇団サードハウスの稽古場と事務所があるここを訪れてすぐに、代表である久米に成海俊が殺人事 346

5. ハードラック

動しているおれたちも危険にさらされる。なあ ? 」 鈴木が同意を求めるように舞を見た。舞は何も言葉を返さず仁を見つめたままだ。 いっかはこういうときが来ると覚はしていたが、いざ現実になると、目の前に映るすべてのこと を受け入れられないでいる。 「続いてのニュースです : : : 本日未明、アパ 1 トで人が死んでいるようだと男性から一一〇番通報が あり警察官が駆けつけると、北区東十条六丁目「松沢荘』一一〇三号室に住む菅野剛志さんの遺体が発 見されました : ・ 仁は我に返ってテレビに目を向けた。 画面には「死亡菅野剛志さん ( 』とテロップが出ている。顔写真は出ていない。 それとなく鈴木に目を向けると、ニュ 1 スが変わって興味をなくしたという素振りをしている。 「菅野さんは背中をナイフで刺されて死亡しており、警察では殺人事件として捜査を始めています 仁はニュースを聞きながら、鈴木の挙動に注目していた。 「どうした : 仁の視線に気づいたらしく鈴木が訊いてきた。 「この事件の被害者がバーポンですー 仁が告げても、鈴木は意味がわからないというようにほかんとしている。 演技だろうかーーそれとも、本当に意味がわからないのか 「何だよ、この事件って : ・ 鈴木の表情が徐々に変わっていく。

6. ハードラック

「ずっと身を隠している間にひとっ思い出したことがあったんだ : 「思い出したこと ? 」 「ファミレスで話をしているときにバーポンはよく煙草を吸ってただろう。マッチでさ。そのマッチ に書かれていた文字を思い出したのさ」 鈴木に言われて仁も今さらになって思い出した。たしかに、バ ーボンはどこかの店のマッチで火を つけていた。どが、 オ何と書かれていたのかまでは今でも思い出せない 「たしかグロスって名前だった」 「グロス : : : 」 「どうして今頃になってそんなことを思い出すのよ ! 」 舞の言葉にはあきらかに鈴木に対する不信感が含まれていた。 「どうして今頃って言われてもしようがねえだろう。ずっと狭いところに隠れててやることもねえか らいろんなことを思い返してたんだよ。そしたらふっとそんなことを思い出しただけだ。たまたま立 ち寄っただけの店かもしれねえし、 ーボンにつながる手がかりとまでは言えねえかもしれないが : : : 何もないよりはいいだろう」 仁はテープルに置いてあったノートパソコンを開けてインタ】ネットにつないだ。グロスという店 名を検索した。美容室や洋服店などいくつかの店の中にそれらしいものを見つけた。 東十条にあるショットヾ ノ 1 だ。美容室や洋服店が店のマッチを用意しているとは思い・ つらいカノ ーであれば不思議ではない。 「これからここに行ってみませんか ? ハソコン画面を覗き込んでいた舞と鈴木に声をかけた。 314

7. ハードラック

「おれたちとショウゴは闇の掲示板を介して知り合ったんだ」 仁は鈴木の抗議をとりあえず無視して、この五日間に起きた出来事を話した。 仁が書き込んだ求人を見てショウゴが連絡してきたこと。五人がファミレスに集まり、その中のひ とりが話した家に強盗に入ることにしたこと。鈴木を除く四人で強盗に入ったが、その後ショウゴと は連絡が取れなくなってしまったこと。 メンバ 1 は息を呑むように仁の話を聞いている。 : ショウゴが強盗だなんて : : : 」 「信じられない : ケンがうなだれるように呟いた。 「信じられないかもしれないけど本当のことなんだ」 「どうしてそんな馬鹿なことを : : : 」 がくぜん タクャも愕然とした表情で言う。 「バンドの OQ を作るために金がほしいと言ってた。みんな才能のある仲間だから、 OQ を作って多 くの人たちに曲を聴いてもらえたら自分たちに目を留めてくれる人が現れるかもしれないって : 仁が答えると、「そんな : : : 」とメンバー全員が嘆息を漏らした。 「おれたちが強盗に入ったのはまぎれもない事実だ。だけど、強盗には入ったけど人は殺してない。 きっとサトウショウゴもおれたちと同じように : 「そのバ 1 ポンという男に嵌められたと ? 」 ケンの言葉に仁は頷いた。 「ああ : : : そうでなきや、自分の身元につながるような話をしたりはしないだろう」 「自分の身元につながるような話って : 278

8. ハードラック

「警察のかたが : : : どんなお話ですか ? 」 ゆかりは警戒するように言った。 「あなたが契約している携帯電話についてですー 「ケイタイ : 何か思い当たることがあるようで、少し顔を伏せた。 「この後予定があるのであまり長い時間は : : : 」 「それほど時間はかからないと思います」 「じゃあ、車の中で : : : この駐車場に自転車を置いているので」 勝瀬はゆかりを促して一緒に後部座席に乗り込んだ。岡本が助手席に、若林が運転席に座り、逃げ られる心配はないだろうが一応もうひとりの刑事が車の外で待機した。 「我々は九日の夜に長野県内で発生したある事件の捜査をしてまして、一応、型通りの質問からさせ ていただきます」 事件という言葉に、ゆかりが身を硬くしたのがわかった。 「前園さんは九日の夜にはどちらにいらっしゃいましたか」 「九日っていえば木曜日ですよね。それだったらここでバイトしてました。夕方の六時から深夜の十 二時まで : ・ 「確認させてもらってもいいですかー 「ええ。わたしがその事件というものに関係がないと店長に説明してくださるのなら : 幵事がファミレスに向かっていく。 助手席の岡本が窓を開けて外にいた刑事に説明した。リ 「前園さんは二台の携帯を持っていますよね。 090 と 080 から始まるふたつを。 080 から始ま 261 ハードラック

9. ハードラック

「スナックはこの近くにあるんですか ? 」 マイム 「ええ。中軽井沢駅の近くにある『舞夢』ってスナックですー 「案内していただけますか」 「それはいいですけど : : : 」 上田が言って、腕時計を見た。 「ただ、そのスナックは七時からなんで、ちょっとママに連絡を取ってみますよ」 「お願いします」 上田が携帯電話を取り出してママに連絡をした。おそらく電話に出たママはすでに事件のことを知 っていたのだろう。しばらく上田が興奮したように事件のことを話している。 「今、警察の人と一緒でそっちに行きたいそうなんだけど : : : 」 上田がこちらを見て、何度か頷いた 勝瀬は三人分の会計を済ませると店を出た。車の後部座席に上田を乗せ、勝瀬はその隣に座った。 「とりあえず中軽井沢駅のほうに向かってください 上田の言葉を聞いて、若林が車を出した。 五分ほどでスナック舞夢に着いた。ドアの外に看板が出ていたが明かりはついていない 上田に続いて店内に入った。カウンターとテ 1 プルが三つのこぢんまりとした店だ。店の奥には大 きなカラオケの機材が置いてある。 「リョウちゃん、その人が : カウンターの中にいた年配の女性が声をかけてきた。おそらくママだろう。 154

10. ハードラック

「何人でしたつけ」 勝瀬が訊くと、平沢が「三人だ」と指を三本出した。 「男女の見分けもっかないほど損傷が激しいそうだ。どうやら灯油かガソリンなんかの可燃物をかけ られて火をつけられたみたいだな。まったく、ひどいことをする : 「まったくですね」 次々と運び出されていく遺体を見ながら勝瀬は呟いた。 「まだ鑑識の最中で中に入れないそうだ」 「そうですか : 平沢の言葉に勝瀬は方向を変えて、建物のまわりをゆっくりと歩いた。平沢もついてくる。 「そこの草むらからナイフが発見された。血痕らしいものがついていたそうだ」 平沢が指さしたほうに目を向けた。草木が生い茂っている。この家には外門以外に塀というものは ないから、それが山道と敷地とを隔てる役割をしているようだ。 あんなところにナイフが 「どうかしたか」 平沢が見つめてくる。どうやら顔に出てしまったみたいだ。 犯人はおそらく犯行の痕跡を消すために火を放ったのだろう。殺人放火事件の多くはそうだ。だが、ツ そのくせ凶器と思しきナイフをあんなところに捨てている ずさん 何とも杜撰というか、間が抜けていると思ったのだ。それとも 「いや、何でもありません」 とりあえずそう答えてふたたび歩き出した。建物の裏手に回ると真っ白い雪の上に角ばったものが