マンション - みる会図書館


検索対象: ハードラック
21件見つかりました。

1. ハードラック

現在ちがう班が確認に向かっている。 「あれじゃないでしようか」 若林が目の前にあるマンションを指さした。 マンションの前で停まると、勝瀬はすぐに車を降りた。後ろに停まった車から上杉と中軽井沢署の 刑事も降りてくる。 「なかなかいいマンションですねー 上杉の言葉に勝瀬はマンションを見上げた。白いレンガ造り風の八階建てのマンションだ。このマ ンションの八〇六号室に三年前まで神谷は住んでいた。 「行こ、つか 上杉たちを促してエントランスに入った。オートロックのドアがついている。 「オートロックか : : : 」 近隣住民から聞き込みをしようと思っていたが、ひと手間かかりそうだ。 「管理人室がありますよ」 上杉がドアの斜め前にあった小窓を指さした。 のぞ 近づいて中を覗いたが、管理人は不在のようだ。だが、部屋の電気がついているということはマン ションのどこかにいるのかもしれない。 とりあえすエントランスから出て周辺を探すと、マンションのゴミ置き場を掃除している中年の男 性を見つけた。 「あの、ちょっとよろしいでしようか」 声をかけると、掃除をしていた中年の男性がこちらを向いた。 203 ハードラック

2. ハードラック

「このマンションの管理人さんでしようか」 勝瀬が訊くと、男性が頷いて近づいてきた。 「少しお話をお聞きしたいのですが」 警察手帳を示すと、男性は驚いたように少し腰を引いた 「失礼ですが、ここの管理人をどれくらいされているんでしようか」 「十年くらいかな。どうしてだい : 勝瀬は手短に、中軽井沢で発生した事件と、事件の被害者が三年前までこのマンションに住んでい たことを告げた。 「八〇六号室にいた神谷信司さんというかたなんですが、覚えてらっしゃいませんか」 神谷の写真を示しながら訊いた。 管理人は写真を見つめながらしばらく考え込んでいる 「いやあ : : : 覚えがないなあ。もちろんこのマンションに住んでいたってことは、すれ違ったりした ら挨拶ぐらいはしているだろうけど : : : でも、覚えてないなあ」 首をひねりながら答えた。 「そうですか : 勝瀬が言うと、管理人は軽く頭を下げてゴミ置き場に戻っていこうとした。 「あっ、あと : : ここのマンションの管理をしている不動産会社を教えてもらえませんか。それから、 住人のかたからもお話を聞きたいのでオートロックを開けていただきたいんですが」 管理人とともにエントランスに戻った。 「じゃあ、二手に分かれようか。おれたちは偶数階を回るから」 2

3. ハードラック

勝瀬が指示すると、他の三人が「わかりました」と頷いた 管理人がオートロックを開けると、まっすぐエレベーターに向かった。 「いやあ : : : なにぶん三年前に転居されているんでしよう。契約書なんかはすでに破棄しちゃってい るんですよねー 不動産会社の従業員がカウンター越しに申し訳なさそうな顔で言った。 「何か覚えていることはありませんか。どんな関係の仕事をされていたとか : 勝瀬は粘って訊いたが、相手は困惑の表情を浮かべながら唸るだけだ。 マンションでの聞き込みの成果がゼロだったから、何とかここで少しでも神谷に関する情報を引き 出したい。 マンションには六十五世帯が住んでいる。在宅中で話を聞けたのが三十七世帯。しかし、その中の 十八世帯は神谷が中軽井沢に移ってからあのマンションに越してきたのだという。残りの十九世帯に 関しても、神谷夫妻のことを知っている人物はいなかった。 「まあ : : : あのマンションを契約できたということは、収入の面でも保証人の面でもしつかりしてい たということでしようか : ・・ : それ以上のことは : ・・ : 」 従業員は、もう勘弁してくれと言わんばかりの顔でひたすら頭を下げる。 「どうしますか」 上杉が目で訴えてきた。 「妻のほうを当たってみようか」 妻の綾香は三年前に神谷と結婚するまで目黒にひとりで住んでいた。 205 ハードラック

4. ハードラック

「じゃあ、ペットの仕事を依頼した奴が今回の強盗殺人事件の首謀者だと ? 」 「あくまで想像でしかないけど : : : 彼の部屋にそのマンションの手がかりがないだろうかと思って 「たぶんないと思う。マンションの住所はあいつが持っている携帯の受信メールの中だろうから」 「そうか」 仁が落胆の溜め息をつくのと同時に、ケンが「もしかしたら : と立ち上がった。 「一度だけどうしてもピザが食べたくなって出前を頼んだって言ってた。外出は禁止されてるけど出 前ぐらいいいだろうって : : : そのときの伝票があればマンションの住所も書いてあるかもしれない」 「探してもらえますか」 ケンが立ち上がったまま頷いた ライブハウスから出ると大通りに向かってタクシーを探した。 「おれはこの人たちとアパートに行くから」 ケンが告げると、他のメンバーは不安そうな表情で「大丈夫か ? ーと声をかけた。 タクシーを捕まえると仁たちは後部座席に乗った。 ひかわだい 「練馬区の氷川台まで」 助手席に乗ったケンが運転手に告げる。 車内には重苦しい沈黙が流れている。氷川台までの道のりが途方もなく長く感じられた。 「そこで : : : 」 ケンが声をかけると、タクシーが停まった。 285 ハードラック

5. ハードラック

あのアパ 1 トに踏み込まれたら、自分はもう逃げ場がない 「テレビのニュ 1 スを観たか ? きみは公開指名手配になっている。もう逃げ切れない。きみが人を 殺していないというなら早く警察に出頭するんだー それはできないーー真犯人が見つからないかぎり、鈴木が真犯人であるという証拠がないかぎり、 自分は四人を殺害した罪で裁かれるのだ。 「とにかく鈴木明宏を捜してください。もし、その人物と自分が知っている彼が別人なら一緒に出頭 します。早くアドレスをッ ! 」 仁の勢いに気圧されたようにカッセがアドレスを教えた。携帯番号にドメインをつけただけの簡単 なアドレスだ。 とうしてきみたちは昨日被害者 「待ってくれ ! まだ切らないでくれ。ひとつだけ訊かせてほしい。。 と思われる人物が住んでいるマンションの近くにいたんだ。成海俊の何を調べようとしてたんだー 被害者と思われる人物が住んでいるマンション 「被害者のことなんか知らない。成海俊という名前は昨日ニュ 1 スで初めて知ったんです」 「じゃあ、どうしてあそこにいたんだ」 「仲間のひとりが神谷家を襲撃する前にあのマンションの部屋でペットの餌やりのバイトをしてたん です。事件の首謀者が関与しているかもしれないと思って行っただけです」 「ペットの餌やり ? きみが訪ねようとしたのはどの部屋なんだ」 「ローズヒルズの六〇一ーーーもう切ります ! 」 仁は電話を切ると、重い溜め息を吐き出しながらその場にしやがみ込んだ。 気持ちが鎮まってくると、先ほどカッセが言っていたことが頭の中によみがえってくる。

6. ハードラック

んだ中年の男性が入ってくる。 「荒木ですが : 両耳に大きなピアスをつけた荒木が戸惑うような表情で近づいてきた。マンションの申込書に書か れていた年齢は勝瀬と同世代だが、身なりから十歳は若く見える。 「警察のかたが何か : 「成海俊さんのことでお話を聞かせてほしいのですが : : : マンションの保証人になってらっしゃいま すよねー 「俊のことでって : 荒木はそこまで言って何かを思いついたように表情を曇らせた。 「長野県警って : : : まさか、中軽井沢で起きた事件の : 「そうです」 うなす 勝瀬が頷くと、荒木は全身からカが抜け落ちてしまったようにソフアに崩れた。 「今朝のニュースを観て同姓同名だと思ってたんですが : : : まさか : : : 被害者というのは本当にあの 俊なんですか : それ以上言葉が出てこない様子でうなだれている。 「まだ断定はされておりません。現在、彼の QZ< 鑑定を行っているところです。ただ、所持してい た携帯が彼のものなのでおそらく・ : 「そうですか : 「失礼ですが、成海さんとはどういうお知り合いなんでしようか」 勝瀬が訊くと、荒木はゆっくりと顔を上げた。言葉を探すように視線をさまよわせている。 325 ハードラック

7. ハードラック

「それにしても : : : 相沢はどうしてあんなところにいたんでしようね」 勝瀬は運転席の若林に目を向けた。 この数日、何度も行き来している高速道路の光景を見つめながら、勝瀬も同じことを考えていたの ヾ、」 0 「さあな : : : 」 昨日からずっと考え続けているが合理的な答えがいまだに出てこない。 相沢があの周辺にいたことが単なる偶然とは思えない。相沢と一緒に歩いていたのはおそらく北代 舞だろう。もうひとりの足を引きずった男が誰なのかはわからない。一緒に神谷家を襲撃したという 仲間だろ、つか 何のために相沢は被害者と思われる成海俊のマンションに行ったのだろうか 相沢の言葉を信じるならば、被害者の住居から事件の首謀者を捜そうとしたということか。そうだ とすれば、相沢は成海のことを知っていたということになる。成海の名前がニュースで初めて報じらッ れたのは昨日の夕方からだ。相沢とマンションの前で遭遇した時点では成海の名前は公表されていなド 、 0 相沢は仲間のひとりから神谷家を襲撃する話を持ちかけられたという。そのときに神谷夫妻だけで幻 なく、成海のことも聞いたのだろうか。 2

8. ハードラック

タクシ 1 はアパートの向かいに停まった二台の車の横をすり抜けて行く。しばらく行ったところに あった五階建てのマンションの前でタクシーを停めてもらった。 仁は残り少なくなった血痕のついていない一万円札を運転手に渡し、釣りをもらうとタクシーから 降りた。 「あれ : : : 警察の車かな ? 」 タクシーから降りると舞が小声で訊いた 「わからないけど : : : そうかもしれない」 仁は坂口のアパ 1 トのほうを見ないようにしながら、マンションのエントランスに入っていった。 エレベータ 1 はついていたがそれには乗らず階段を探した。外付けになっている階段を、壁に身を隠 かが すように屈みながら上っていく。 「こんなところを住人に見られたら怪しまれるね」 こつけい 舞が自分たちの滑稽な姿を笑うように言った。 「しかたがない」 これだけの距離があれば、仁の顔をすぐに認識されることはないだろうが、用心に越したことはな 三階の踊り場まで来ると、少しだけ壁から顔を出して外の様子を窺った。坂口のアパートの前には 二台の車が停まったままだ。ちょうど車の中から背広姿の四人の男たちが出てきてアパ 1 トに向かっ ていく。 「ど、つ ? 」 舞が訊いてきた。 2

9. ハードラック

2 アパートの部屋に駆け込むと、仁は肩で息をしながら玄関にしやがみ込んだ。 すぐに起き上がって鍵を閉めようとしたが、手が震えていてなかなかうまくいかない。何とか鍵を り・よ、つひじ 閉めると靴を脱いで台所に上がった。椅子に腰を下ろすとテープルに両肘をついて頭を抱えた。 心臓が早鐘を打ち鳴らしている。冷静になれと必死に念じたが、心臓を激しく揺さぶり続ける動揺 を抑えることができなかった。 今日の昼過ぎに、舞と鈴木とともに神楽坂にあるマンションに向かった。サトウショウゴがペット の餌やりの仕事をやっていたという部屋だ。 だが、マンションの前に三台連なって停車している車を見て、頭の中で警告音が鳴り響いた。次の 瞬間、車の中から数人の男たちが飛び出してきた。仁はその場から駆け出して路地を逃げ回り、男た ちを撒いてここまで戻ってきたのだ。 舞や鈴木のことを気にかけている余裕はなかった。ただ、途中で数人の男たちに追われている舞が 走っていくのを見た。大きなポストンバッグを抱えながらの逃走だから、おそらく男たちに捕まって しまったのではないだろうか。鈴木にしても足が不自由だから捕まってしまったかもしれない。 あの男たちは警察官だろう。だが、どうしてあそこに警察官がいたのだ 偶然か。いや、とても偶然とは思えない。それではどうして : やはりあの部屋はバーポンが借りていたのだろうか。警察の捜査が想像以上に進んでいて、中軽井 309 ハードラック

10. ハードラック

「一週間、マンションの部屋に閉じこもってペットに餌をやったり糞の始末をするだけの仕事だって。 、つさんくさ それで日給が三万円 : : : 話を聞いて胡散臭い仕事だと思ってやめとけよって言ったんだけど 「それで」 仁は先を促した。 「仕事自体は楽だったって言ってた。ただ、そのペットがワシントン何とかに引っかかる違法なもの だから一週間はいっさい外出してはいけないと指示されたって。近隣住民に顔を見られたらやばいっ てことで : : : 部屋には日用品や食料が置いてあって不自由はしなかったけど、とにかくやることがな くて一日中テレビと映画を観てたって」 「その仕事を依頼したのはどんな人物なんですか」 その仕事に興味を覚えて訊いた。 「いや : : : わからない。ただ、サカイと名乗ってたって。メール上で簡単な審査があって : : : 名前と 住所と血液型を教えたら即決で仕事をすることになったと話してた」 そんな怪しげな仕事を依頼するぐらいだから、サカイというのもとうぜん偽名だろう。 ふと、森下の顔が脳裏によぎった。 「審査で血液型を訊くってどういうことよ。何か仕事に関係あるわけ ? 」 鈴木が口をはさんだ。 「さあ : : : ショウゴも不思議がって笑ってたけど。それで、メールに書いてあったマンションに行っ て隠してあった鍵で中に入ったら仕事の段取りを書いた紙が置いてあったって」 「お金はどうやって受け取ったんだろう」 「仕事が終わる一週間後にまたメールがきて、そこに書いてあったとおりクロ 1 ゼットの天井裏を覗 ふん のぞ 2 2