が入ってたね。ちょっと普通の感覚じゃないでしよう ? 東京じやどうかわかんないけど、ここらへ んの人間からしたらちょっと怖いよね、そういう人は。おごってくれるのはありがたいけど : : : 陰で はあまりよく思っていない人もいたんじゃないかな。亡くなった人のことをこ、ついう風に言うのはア レだけど : 「神谷さんはそうとうなお金持ちだったんですかね」 「一度だけ、わたしと常連客の何人かでお宅に行ったことがあったけど、すごい豪邸だったわ。ねえ ーベキューのときだろ」と言って深く頷いた。 ママが同意を求めるように上田を見ると、「バ 「嘘か本当かわからないけど、自宅の金庫にはつねに数千万円の金が入っているってここでもよく自 慢してたね」 上田が言うと、ママが「そうだったわね。と少し渋い表情になった。 「悪い人じゃなかったけど : : : そういうわけで、みなさん神谷さんとは適度に距離を置いてたからも のすごく親しいって人は : : : 」 ママがそれから先の言葉を飲み込んだ。 自宅の金庫には数千万円の金が入っている ク 書斎のクロ 1 ゼットの中にあった空つほの金庫を思い出した。 少なくとも、このスナックの客のほとんどが神谷の自宅に大金があることを知っていたということド 「昨晩は神谷さんご夫妻はいらっしゃいましたか」 「いえ。一昨日は飲みに来ましたけど昨日は来ませんでした。そういえば : : : 一昨日の帰り際に、明
「神谷さんはどのようなお仕事をされていたんでしようか」 「さあ、詳しいことはわかりません。綾香もご主人の仕事のことは何も言っていませんでしたし。た だ、いつも使われる金額が半端ではなかったので何か会社を経営されているのかと思っていましたけ ど」 「会社を経営 : : : ですか」 神谷にはそんな形跡はない。しかし、間違いなくそうとうな資産を持っていたはすだ。中軽井沢の 屋敷も現金で買っている。いったいそれだけの資産をどうやって得たのだろうか。 「ご自身だけではなく、よく若い人たちを大勢引き連れて遊びに来てくださいましたよ」 「若い人たち : ・ 昨夜、舞夢のママから聞いたことを思い出した。 今は若い人に任せてここで隠居生活を送っていると神谷が言っていたと。 「その人たちとどんな話をされていたか覚えてらっしゃいませんか」 「そう言われましても : ・・ : 」 責任者が困ったような顔で言葉を濁した。 ささい 「どんな些細なことでもけっこうですので」 「そう言えば : ・・ : 役者がどうとか : ・シナリオがどうとか : : : 若い人たちと話していたことがありまッ したね」 「役者に、シナリオですか : その言葉をどう受け止めていいのかわからなかった。 「もしかしたら : : : 芸能プロダクションでもやってるかたなのかなとちらっと思ったのを覚えていま
「このマンションの管理人さんでしようか」 勝瀬が訊くと、男性が頷いて近づいてきた。 「少しお話をお聞きしたいのですが」 警察手帳を示すと、男性は驚いたように少し腰を引いた 「失礼ですが、ここの管理人をどれくらいされているんでしようか」 「十年くらいかな。どうしてだい : 勝瀬は手短に、中軽井沢で発生した事件と、事件の被害者が三年前までこのマンションに住んでい たことを告げた。 「八〇六号室にいた神谷信司さんというかたなんですが、覚えてらっしゃいませんか」 神谷の写真を示しながら訊いた。 管理人は写真を見つめながらしばらく考え込んでいる 「いやあ : : : 覚えがないなあ。もちろんこのマンションに住んでいたってことは、すれ違ったりした ら挨拶ぐらいはしているだろうけど : : : でも、覚えてないなあ」 首をひねりながら答えた。 「そうですか : 勝瀬が言うと、管理人は軽く頭を下げてゴミ置き場に戻っていこうとした。 「あっ、あと : : ここのマンションの管理をしている不動産会社を教えてもらえませんか。それから、 住人のかたからもお話を聞きたいのでオートロックを開けていただきたいんですが」 管理人とともにエントランスに戻った。 「じゃあ、二手に分かれようか。おれたちは偶数階を回るから」 2
「おれたちとショウゴは闇の掲示板を介して知り合ったんだ」 仁は鈴木の抗議をとりあえず無視して、この五日間に起きた出来事を話した。 仁が書き込んだ求人を見てショウゴが連絡してきたこと。五人がファミレスに集まり、その中のひ とりが話した家に強盗に入ることにしたこと。鈴木を除く四人で強盗に入ったが、その後ショウゴと は連絡が取れなくなってしまったこと。 メンバ 1 は息を呑むように仁の話を聞いている。 : ショウゴが強盗だなんて : : : 」 「信じられない : ケンがうなだれるように呟いた。 「信じられないかもしれないけど本当のことなんだ」 「どうしてそんな馬鹿なことを : : : 」 がくぜん タクャも愕然とした表情で言う。 「バンドの OQ を作るために金がほしいと言ってた。みんな才能のある仲間だから、 OQ を作って多 くの人たちに曲を聴いてもらえたら自分たちに目を留めてくれる人が現れるかもしれないって : 仁が答えると、「そんな : : : 」とメンバー全員が嘆息を漏らした。 「おれたちが強盗に入ったのはまぎれもない事実だ。だけど、強盗には入ったけど人は殺してない。 きっとサトウショウゴもおれたちと同じように : 「そのバ 1 ポンという男に嵌められたと ? 」 ケンの言葉に仁は頷いた。 「ああ : : : そうでなきや、自分の身元につながるような話をしたりはしないだろう」 「自分の身元につながるような話って : 278
人生をやり直したかったのたネットカフェ難民相沢仁は、闇の掲示 板で募った仲間と軽井沢の金持ちの屋敷に押し入っただが物色中 仁は何者かに頭を殴られて昏倒ようやく独り逃げた彼は報道で、 屋敷か全焼し、三人の他殺体が発見されたと知る家人には危害を加 えないはすか、おれは仲間にはめられた。三人殺しでは死刑は確実 正体も知らぬ仲間を、仁は自力で見つけねはならなくなった・ 仲間求む。 今の生活にもがきしんでいる人たち。 発逆転を狙って一緒に 大きなことをやりませんか。 こんとう
「あなたみたいなあくどい人間に使われるのはうんざりだったんでね」 仁が言うと、森下は「そうですか」と鼻で笑った。 「今度は求職ではなく、求人の欄に書き込みをしたんですー 仁は闇の掲示板に書き込みをしてからのことを森下に話した。 その書き込みを見て集まってきた四人のこと。その中のひとりであるバーポンと名乗る男の発案で、 中軽井沢にある一軒の屋敷を襲撃したこと。だが、襲撃の最中に何者かに頭を殴られて気絶してしま ったこと。 「気がつくと外に倒れていて、目の前で屋敷が燃えさかっていたんです : 「このお金は ? 」 「おれの前に置いてありました。百万円の束が : そう答えると、森下が鼻で笑った。 「まんまと嵌められたってわけですね : : : お人よしの相沢くん : 蔑まれているとわかっていても、返す言葉がなかった。 そうだー・・ー。自分はいつも誰かに騙されている。どうして自分のまわりにはそんなあくどい人間ばか りいるのだ。 「それにしても、まったくひどいことをする奴らだ。四人の人間の命を平気で奪うなんてねー 「遺体が発見されたのは三人ですー 「そしてもうひとり・ : ・ : あなたの命ももうすぐ奪われるんですよ」 その言葉にぎよっとして、森下の目を見つめた。 「捕まったら間違いなく死刑でしようね」 だま 193 ハードラック
「神谷信司さんはここに移り住む前には東京で暮らしていたらしいですが、どんな仕事をしていたと か、そういう話をされたことはありませんでしたか ? 」 昼間の捜査会議では、中軽井沢にやってくるまでの神谷の仕事や生活などは判明していなかった。 しぶや 今現在わかっているのは、中軽井沢に転入する前は東京の渋谷区内に住んでいたということだけだ。 「そういえば : : : 以前は会社をやられてたけど今は若い人に任せてここで隠居生活を送ってる : : : み うらや たいなことを言ってましたよ。常連客の人たちと羨ましいご身分だわねってよく話してました」 「どういった仕事をされていたとかは」 「さあ、そこまでは : : : 」 「神谷さんと特に親しかったというかたはどなたでしよう」 「特に親しかった人って言われてもね : : : うちに来るお客さんのほとんどは神谷さんのことは知って いるだろ、つけど : ・・ : 」 「ほとんど店だけの付き合いだったんじゃないかな。ちょっと変わった人だったし : : : 」 上田がビ 1 ルを飲みながら言った。 「どう変わっていたんですか」 勝瀬が訊したが、 、 ' 上田は言いよどんですぐには答えない 「聞かせていただけませんか」 かたぎ 「何て言ったらいいんだろう。どこか : : : 堅気じゃない雰囲気を感じてたんだよね」 上田の話によると、神谷夫妻は気前のいい人物だったという。この店の従業員だけではなく、一緒 にいた客にもかなりの金額をご馳走していたそうだ。 「神谷さんはいつもセカンドバッグを持ってるんだけど、その中には常に二、三百万円ぐらいの札束 ノ 56
あいつは今どうしているのだろうか 人の心配などしている場合ではないが、指名手配になったのがもし自分だったらと思うと、身の毛 がよだってくる。 警察に捕まってしまったらジンはどうなるのだろう。三人を殺害した容疑だからおそらく死刑にな ってしま、つだろ、つ。 ジンは人殺しをしていないと確信している。このまま黙ってジンを死刑にさせてしま、つよ、つなこと になれば自分もサカイと同じ人殺しとい、つことになるだろ、つ。 ニュースを観ながら、どうすればいいのだろうと悩んだ。 警察に自首しようか 今までにあったことをすべて警察に話せば、少なくとも菅野やジンが殺人には関与していないこと を示せるのではないか。 だが、たとえ人は殺していないとはいっても、神谷家を襲撃したのは事実だ。菅野は逮捕され刑務 所に入れられるだろう。そうなれば、美鈴との生活をやり直すどころか何年も会えなくなってしまう のだ。美鈴ばかりではなくこれから生まれてくる子供にも。 へたをすれば、 それに、菅野がいくらサカイの話をしたとしても、警察が信じるとはかぎらない 菅野は殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう。そして、三人を殺害した罪で死刑になってしまうッ かもしれない。 仮に警察が菅野の話を信じて殺人の罪を免れたとしても、それで終わるとは思えない。 菅野たちが神谷の家を襲撃したのは事実だ。刑務所に入ってから、もしくは刑務所を出てから、神 2 谷の仲間から報復をされる可能性だってある。
勝瀬はすぐに車から降りて走り出した。若林も後ろからついてくる。三台の車に乗っていた六人の 捜査員たちで走っていく三人の背中を追った。三人が通りから路地に入っていくのが見えた。勝瀬が 路地に入ったときには三人の姿はなかった。 「相沢たちはツ 立ち止まってあたりを見回している上杉に訊いた。 「見失いました。でも、まだここらへんにいます , 勝瀬は焦燥感に駆られながら迷路のように入り組んだ路地を歩き回った。 「女を見つけましたツ ! 」 通りのほうから別の捜査員の声が聞こえてきた。 しゅんじゅん 勝瀬は逡巡を振り払って声がしたほうに向かった。通りに出ると百メ 1 トルほど先に三人の捜査 員が走っているのが見えた。勝瀬と上杉と若林はその捜査員たちの背中を追って走った。前を走って いた捜査員が地下鉄の出入口に駆け込んでいく。女はあそこに入っていったのだろう。 「おれたちはちがう出入口に行こう」 神楽坂駅にはふたつの出入口しかない。歩道を走ってもうひとつの出入口に向かう。階段を駆け下 りていくと改札口があった。 「上杉はここにいてくれ」 上杉を改札口に残すと、駅員に警察手帳を示して中に入った。 構内図を見ると神楽坂駅は地下二階と地下三階の二層にホームがあった。若林に地下二階のホーム を確認させ、勝瀬はさらに階段を下りて地下三階のホ 1 ムに向かった。 ホームに降り立っと電車を待っ乗客に鋭い視線を向けながら前に進んだ。だが、先ほどの女の姿は 301 ハードラック
ても無駄だし、もしかしたら、もう他の派遣でも働けないかもね」 いたぶるようなスタッフの言葉に、目の前が真っ暗になりそうになった。 仁はこの派遣会社でしか登録していない。他の派遣会社でも働けないというのはどこまで本当かわ からないか、いずれにしても新しい派遣会社に登録に行く金もないし、仮に登録できたとしてもいっ 仕事が回ってくるかわからない。ここで仕事を回してもらえないのは、今の仁にとって絶望的なこと だった。 「まあ、せいぜいうちなんかよりもマシな仕事を探すんだね」 あざ笑うように言うと、相手は無情に電話を切った。 何も食べないまま夜になってしまった。 仁はしんと静まり返った神田川沿いの遊歩道をさまよっていた。 肩にかけたポストンバッグがずしりと重い。べンチで休みたかったが、じっとしていると寒さがこ コインロッカ 1 に預ける金さ、ん たえる。せめてこのポストンバッグだけでもどうにかしたかったが、 惜しかった。 このままではどうにもならないと何軒かの消費者金融に飛び込んでみたが、派遣会社から仕事を干 された仁に金を貸してはくれなかった。 くる 遊歩道の草むらに目を向けると、段ボールに包まって寝ている人がいる。自分と同じように重そう な荷物を抱えてさまようホームレスらしき人たちとすれ違った。 あの人たちの所持金と、今の自分の所持金はどちらが多いだろうか。あの人たちは日々、どうやっ て生きているのだろうか