相沢 - みる会図書館


検索対象: ハードラック
47件見つかりました。

1. ハードラック

「やってない 若林が、先ほど自分がしたであろうと同じ反応を返した。 「ああ : : : 神谷家に強盗に入ったのは事実だが、自分は殺してもいないし火もつけていないと。自分 は仲間に嵌められたんだと言ってた」 「そんなバカな : : : あれだけの証拠が残っているのに」 若林が一笑した。 「そ、つだな : : : 」 勝瀬はとりあえずそう答えておいたが、内心では、相沢の話に深い関心を抱いていた。 彼が話していたことは、まったく筋が通らないものだとは言い切れないからだ。 朝の捜査会議で、相沢の携帯の利用状況についての報告があった。 相沢は事件の二日前に闇の掲示板を使って仲間を募ったと言っていた。二日前ということは、それ あきひろ 以降に相沢の携帯に連絡したことが確認されている鈴木明宏、牧村哲司、坂口邦彦、前園ゆかりの四 人がその仲間なのだろうか この四人はそれまでに相沢の携帯に連絡をしていない。 相沢は仲間のひとりが神谷家の襲撃を持ちかけてきたと言う。 もし、相沢の話を信じるとするならば、この四人の中に事件を首謀した者がいるということだろう 実際、相沢はひとりで軽井沢に向かったのではないことが確認されている。 相沢が借りたレンタカ 1 は事件当日の昼にも高速を通っていて、碓氷軽井沢インターを通過したと きの映像があったのだ。運転席の相沢の隣には女性が写っていた。 256

2. ハードラック

それが、自分が抱いた違和感だった。 相沢の話を信じるとするならば、勝瀬が抱いてきたそれらの違和感が簡単に説明できる。 相沢は何者かによってスケープゴートにされたということだ。 たか、いくら相沢の話と勝瀬の推論が一致したからといって、証拠がなければどうにもならない いくら誰かに嵌められたのだと訴えても、その証拠がないかぎり、相沢は捕まれば殺人の容疑で起 訴されるだろう。 相沢が犯人だと指し示す物証や目撃証言はいくつもあるのだから。 真犯人を見つけたら、自分が犯した本当の罪を償うために警察に出頭します 相沢が殺人を犯したのかどうかは今の自分にはどうとも言えない。だが、ひとつだけ言えることが あるとすれば、相沢はどうしようもない親不孝者だということだ。 おえっ 勝瀬が事情を聞いている間中、母親は苦しそうに嗚咽を漏らしていた。 相沢は四年ほど前に、実家を出て埼玉県の狭山にある工場に働きに出たそうだ。 母親が語るには、再婚相手の連れ子であった兄弟と何かと比較されて、家に居づらかったからでは ない、カ ) い、つ 誰も頼る者がいない見知らぬ土地で、相沢はずっと苦しんでいたのではないかと母親は涙してい 犯罪に手を染めてしまうまでに追い詰められていたのに、息子はきっと cooco を発していたはずな のに、そのことにちっとも気づいてやれなかったと、母親は自分のことを責めていた。 、どんな理由があろうと、犯罪に手を染めることなど許されないのだ。 2

3. ハードラック

「それにしても : : : 相沢はどうしてあんなところにいたんでしようね」 勝瀬は運転席の若林に目を向けた。 この数日、何度も行き来している高速道路の光景を見つめながら、勝瀬も同じことを考えていたの ヾ、」 0 「さあな : : : 」 昨日からずっと考え続けているが合理的な答えがいまだに出てこない。 相沢があの周辺にいたことが単なる偶然とは思えない。相沢と一緒に歩いていたのはおそらく北代 舞だろう。もうひとりの足を引きずった男が誰なのかはわからない。一緒に神谷家を襲撃したという 仲間だろ、つか 何のために相沢は被害者と思われる成海俊のマンションに行ったのだろうか 相沢の言葉を信じるならば、被害者の住居から事件の首謀者を捜そうとしたということか。そうだ とすれば、相沢は成海のことを知っていたということになる。成海の名前がニュースで初めて報じらッ れたのは昨日の夕方からだ。相沢とマンションの前で遭遇した時点では成海の名前は公表されていなド 、 0 相沢は仲間のひとりから神谷家を襲撃する話を持ちかけられたという。そのときに神谷夫妻だけで幻 なく、成海のことも聞いたのだろうか。 2

4. ハードラック

「相沢は : あたりを見回しながら上杉が言った。 「近くにいるはずだ。公園の中と周辺を手分けして捜してくれ」 捜査員に指示を出したときに遊歩道の向こうから人影が近づいてくるのが見えた。 勝瀬の視線に気づいたのか捜査員たちもそちらに目を向ける。ゆっくりとこちらに向かってくる男 に勝瀬も近づいていった。 「相沢仁だね」 勝瀬が訊くと目の前の男が頷いた。片手に何かの映画のを持っている。無言で勝瀬に渡した。 「これは ? 」 「後で観てください」 相沢はそう言うと神妙な眼差しで両手を差し出してきた。上杉に目配せした。 「相沢仁ーーー強盗殺人と放火の容疑で逮捕する」 上杉が相沢に手錠をかけた。他の捜査員とともに相沢を公園の外に連れて行く。 しばらく相沢の背中に向けていた視線を手もとのに移した。よく見ると成海俊の部屋にあっ たのと同じ映画だ。 ク いったい何だろう 勝瀬は意味がわからないままケースを開けた。隙間に何かが入っている。取り出してみるとド メモリ 1 だった。

5. ハードラック

車は大型のだった。その映像では相沢と女性以外の人物の姿は確認できなかったが、もしか したら他にも仲間が乗っていたのかもしれない。 だが、相沢の話をあまり鵜呑みにするべきではないと、先ほどから頭の中で警戒音が鳴り響いてい る。 もちろんそうだ。現時点で、神谷夫妻ら殺害に関して確固たる証拠があるのは相沢だけなのだか ら。 それでも、相沢から聞いた話と照らし合わせて考えてみると、事件発生直後に抱いた違和感に少し 一 = 明かっくような気かするのだ。 この事件の犯人は三人を殺害し、屋敷に火を放っている。周到で、残虐な犯人像が浮かび上がって くる。だがそのくせ、ずさんな点もあちこちに散見された。 まず、犯行の痕跡を消すためにわざわざ火を放っているというのに、指紋のついた凶器を敷地の中 に忘れている。これだけの大胆な犯行をしながら、凶器に指紋がつくという最も初歩的なことに犯人 は留意しなかったのだろうか。だいいち、あれだけ寒い中軽井沢で、手袋もせずに強盗を行うという ことが不自然に思、んる。 そして、相沢をこの事件の主犯と考えるならば、そのあまりの無防備さが気になるのだ。 相沢は、他人名義のとばしの携帯ではなく自分名義の携帯で闇の掲示板で仲間を募り、連絡を取りッ 合ったということになる。しかも、相沢は自身の免許証でレンタカ 1 を借りているのだ。 現場に残された指紋と、レンタカーによって、事件発生後三日にして相沢が容疑者として浮上したハ のだ。 どうにも出来過ぎている

6. ハードラック

「訪ねればわかりますよ。どうしますか ? 仁は森下の横顔を見た。ロもとをかすかに歪めて笑っているように思えた。 ク / 2 「相沢は出頭する気はないんですか 運転席の若林が訊いてきた。 「ああ : : : そのつもりはないようだな」 勝瀬は相沢のことを考えながら溜め息を漏らした。 こんな状態で逃げ回りながら相沢は何をしようというのだろう。いったい自分ひとりで何ができる とい、つのだ。 もし、相沢が感じているとおり、鈴木という人物が事件の首謀者であったとしたなら、そばにいる のは極めて危険なことだろう。 鈴木という人物を警察に保護させて、あとは我々の捜査に委ねるべきなのだ。 成海俊と祖母が住んでいた水戸市内のアパートにたどり着くと、とりあえず隣の部屋のベルを鳴ら した。 しばらくするとドアが開いて、年配の女性が顔を出した。 「長野県警の者ですが : : : 以前、隣に住んでらっしやった成海さんのことをお訊ねしたいんですが」 ゆが ゆだ

7. ハードラック

あると話した。 前園ゆかりに関する報告を終えると、今度は実家に電話をかけてきた相沢と話したときのことを説 明した。 自分は人を殺していないし、屋敷に火もつけていない 相沢から聞いた話をすると、本部内が一瞬ざわっいた。 ざわっきの中に失笑のようなものも混じっているのを勝瀬は聞き取っている 勝瀬は自分の予断はいっさい差し挟まず、相沢が語った言葉だけを淡々と話した。 よたばなし 本部内の空気を感じ取っているかぎり、どうやら相沢の与太話に付き合っている捜査員は自分しか いなそうだった。 「以上ですーーー 報告を終えて席に座ると、今度は正面に座っていた刑事課長が立ち上がった。 「今まで身元の手がかりがっかめていなかった第三の遺体について報告がある・ーー・・」 神谷邸で発見された三つの遺体のうち、リビングと書斎にあった二体に関しては、すでに神谷信司 と綾香夫妻だと確認されている。夫妻が通っていた歯科医院に保管されている歯型が二人のものと一 致したのだ。だが、 もうひとつの遺体に関しては、それが男性であること以外、身元につながる手が かりが得られていなかった。 この数日、他の捜査員たちが神谷家の周辺や軽井沢駅での聞き込みをし、駅の防犯カメラなども確 認しているが、神谷信司のもとを訪ねてきたという人物を特定できずにいたのだ。 勝瀬は机の上に開いたメモ帳に目を向けた。 ピアス女 ? 男』と書かれている。 267 ハードラック

8. ハードラック

仲間求む。 今の生活にもがき苦しんでいる人たち。一発逆転を狙って一緒に大きなことをやりませんか 一発逆転を狙ってーー何とも浅はかな行動をしたものだ。 しようす・い 母親の憔悴しきった姿を思い出して、相沢に対して腹立たしさがこみ上げてくる。 この書き込みがされた後、相沢と連絡を取り合っていた携帯の名義人である坂口邦彦の身柄が確保 されたと報告があった。本人から事情を聞くと、相沢と連絡を取り合っていた携帯は、小遣い稼ぎの ために何台か契約したものを闇の業者に流したのだという。坂口は事件への関与を否認し、また事件 当夜のアリバイも確認されたとのことだ。 牧村哲司という五十六歳の男の身柄も本日確保されたが、こちらも闇金の借金苦から契約した携帯 を闇の業者に売り渡したのだと話したそうだ。牧村に関しても、事件当夜のアリバイは確認されたと 報告された。 この二つの携帯に関しては闇の業者を介しているため、現在の所有者を特定するにはかなりの困難 を伴、つことが予想される。 鈴木明宏に関しては、登録している住所。 ( こよ現在住んでおらず、まだ所在が確認できないでいると のことだ。 続いて、勝瀬も立ち上がった。 まずは前園ゆかりから聞いた北代舞に関することから報告した。 ゆかりが代わりに携帯を契約した北代舞ーー偽名である可能性も高いと思われるーーーが、料金所で 撮影された助手席の女性に間違いないとの証言を得られたこと。 また、相沢は北代舞を捜してゆかりのもとを訪ねており、現在一一人は一緒に行動している可能性が 2

9. ハードラック

「我々はそろそろ失礼します 勝瀬は告げると、リビングのソフアから立ち上がった。 : この後、警察署に来ていただいてお話を伺うことになると思いますので、よろしくお願い 「ただ : します 目の前のソフアでうなだれるように座っている相沢の母親は放心していて、勝瀬の言葉にもまった く反応しない。代わりに父親が、「こちらこそ、ご迷惑をおかけいたします」と気丈に対応した。 抜け殻になったみたいな母親を残していくことに若干の不安とためらいがあったが、夫が一緒にし ればとりあえずは大丈夫だろう 勝瀬たち刑事は両親に一礼すると、相沢家から出て行った。 まさかこの状態で、相沢が実家に立ち寄るとは思えなかったが、一応数人の捜査員を家の周辺に残 して、勝瀬は車に乗り込んだ。 運転席に座った若林が車を出すと、数台の車が後に続いた。ここに残していく捜査員以外は、これ から東京で捜査をしている班と合流する。 「さっき、被疑者と何を話してたんですか ? 若林が訊いてきた。 「自分は殺ってない : : そう言ってきた」 7 255 ハードラック

10. ハードラック

2 勝瀬は車から降りると他の捜査員が出てくるのも待たずに公園の中に駆け出していった。 いったいさっきの銃声のような音は何なのだ 十分ほど前に相沢からこの公園にいると連絡があった。しばらく相沢と成海の会話に耳を傾けてい ると突然銃声のようなものが耳に響いたのだ。そして電話が切れた。 焦燥感に駆られながら木々が生い茂る薄闇の中を進んでいった。 すぐ向こうの地面に倒れている人影があった。 相沢ーーー 駆け寄っていくと背広姿の男が倒れていた。右手に拳銃を握り締めている。すぐに男の脈を確かめ たがすでに死んでいた。 男の顔を見てすぐに成海俊であるとわかった。 事件当日に軽井沢駅の防犯カメラに写っていた背広姿の男 その映像を巻き戻していくと、男女兼用の障碍者用のトイレに入っていったのは女だった。 そして、神楽坂駅の男子用トイレの個室から出てきた男だ。 勝瀬のもとに次々と捜査員が集まってくる。 しつこく 漆黒の闇に向かって叫んだ。 378