本書は、現代の少年少女に、日本の古典文学を おもしろく、やさしく鑑賞してもらいたいとの目的で、 およそ次の基準で編集した。 ◎底本は、講談社学術文庫『徒然草』、新潮社版・新潮日本古典集成 『方丈記発心集」を基本とし、適宜諸本を参照した。 ◎原典としての味わいを失わないよう、 また、わかりやすさを増すよう、『徒然草』では 筆者の自由な解釈を「かげの声」として入れて現代文とした。 ◎表記は、原則として現代仮名づかいを用い ◎むずかしい語句には、おおよその意味を傍注として補足した。 また、特に本文理解のために知識を広げてもらいたい語句には、 欄外コラムを設けた。 ◎在然草』は、底本では序段のほか一一百四十三段あるが、 そのうち百三十段を抜粋した。 ◎『方丈記』作者、鴨長明の読み方は、本文・あとがき・解説では、 本名の「かものながあきら」としたが、ほかのところでは、 通称の「かものちょうめい」を用いたところもある。 また、読み方が判明していない女性名は、慣例にしたがって音読とした。
少年少女古典文学館全巻編成 巻巻名 内容 収録作品 筆者 「ヤマタノオロチ」「ヤマトタケル」等、躍動感とエネルギー 古事記 橋本治 古事記 あふれる神々や英雄の物語。 かぐや姫は宇宙人 ? 日本最古の物語文学はファン 竹取物語 北杜夫 竹取物語 タジーの傑作だった卩 恋の苦しさ、かけひき、作法 : : : 在原業平と思われる男の 伊勢物語 俵万智 伊勢物語 半生を、名歌で味わう。 おちくばものがたり 継子いじめに玉の輿ーーー。「シンデレラ」より面白い日本少 落窪物語 氷室冴子 落窪物語 女小説の古典傑作。 枕草子 大庭みな子春は曙・・丨・。スポーツ紙の見出しにまで引用される、平安 枕草子 たぐいまれな魅力の持ち主・光源氏を主人公に、平安王朝 源氏物語 瀬戸内寂聴 源氏物語 ( 上・下 ) に愛のドラマが展開する 堤中納言物語 堤中納言物語 干刈あかた氈騁製当「虫めする姫君」ほか、 天上の音楽を奏でるふしぎな琴に運命をあやつられる芸 宇津保物語 津島佑子 うつほ物語 術一家四代の数奇な物語。 男まさりの姫君と、女性的な男君とが、男女とりかえて育 とりか、ばや物語田辺聖子 8 とりかえばや物語 てられるコミカルな平安文学。 今昔物語集・ 「鼻の長い僧の話」「舌切り雀」など、庶民のたくましい生活 杉本苑子 今昔物語集ほか 宇治拾遺物語 をいきいきと描いた説話集。 金—、人間を温かく見つめる兼好。今に通 徒然草 徒然草 嵐山光三郎るおもしろ = 〉セイ集。 人間らしい生き方を求めて出家した鴨長明。日本人の美意 方丈記 三木卓 方丈記 識に大きな影響を与えた随筆文学の傑作。 栄華を極めた平家一門も、重盛、清盛の死と共に滅亡への 平家物語 吉村昭 平家物語 ( 上・下 ) 道をたどる。歴史ドラマの最高峰 ここんちよもんじゅ、つ 古今著聞集・ カ持ちの美女に、俗つばい僧、鬼、天狗、しらみまで登場の 阿刀田高 十訓抄・沙石集 古今著聞集ほか 中世ショートショート集。 13 12 11 2 6 5 4 9 2
ふかよ いっせつかんどう ばくは教科書を深読みする生徒で、とくに国語の教科書にでてくる一節に感動すると、 こうふん ものた ドーンと興奮してのめりこんでしまうタイプでした。教科書だけでは物足らす、書店へ げんてんぶんこぼん いって原典の文庫本を買って読んだものです。 とうじよう げんだい 中学三年生になったとき、現代文学にかわって古典文学が登場しました。はしめのうち はとつつ医」にノ、かオ っこけれど、なれてくるとおもしろくなりました。中学三年で『奥の細 まくらのそうし つれづれぐさ 道』、高校一年で『枕草子』、高校二年で『徒然草』だったように思います。 さいしょ つれづれぐさ 最初に『徒然草』に出会ったときは、やたらにおもしろくて、目からうろこが落ちるよ かんしん けんこう うでした。「なるほどなあ。」「そうだなあ。」と感心して、兼好が書いている一節を引用し て、先生や親をからかったものです。 さくひんかんしよう ところが、いざ試験になると、まるでだめでした。作品を鑑賞してしま、つあまり、分析 みち 草ー あ と が き しけん せいと 嵐山光三郎 あらしやまこうざぶろう お おく ぶんせき 262
= = 禾卓 三木卓 , 然草 " 方 嵐山光三郎 嵐山光三郎 I S B N 4-0 6 - 2 5 0 8 1 0 - 9 C 8 5 9 5 P 1 7 0 0 E ( O ) 定価 1700 円 ( 本体 1650 円 ) あらしやまこうざぶろう 嵐山光三郎 ームは、こし」あるごし」に 『徒然草』を読み、 その数は百回をこえますが 読み返すたびに新しい発見と 感動があります。 読めば読むほど奥が深い 座右の書となりました。 0 ミ洋ミ kÖzab に、 0 「少年少女古典文学館」の特色 0 現代の有力文筆家たちが、いまの言葉でつづ る日本の古典です。したしみやすい現代文が古 典の世界をいきいきと再現します。 0 一度は読んでおきたい名作ぞろい。それも、 おもしろい作品ばかりです。 0 中学・高校の授業でとりあげるおもな作品は、 ほとんどカバーしています。古典の入門に ってつけの全集です。 0 カラーのさしえが、たくさん入ります。一流 画家のカ作が、作品の世界をひろげます。 0 本文中のコラム欄は、おもしろくて、とくす る古典豆百科です。時代背景や、登場人物、習 慣などについての理解を深めると、作品がたの しく味わえます。 0 それぞれの巻に第一線の研究者がついて、内 容も万全。解説もコラムも、安心して読めます。 少年 7 少女古典 みき 三木卓 『方丈記』は、一見すると はかないこの世を嘆いているだけの 文章と思われるかもしれません。 たしかに愚痴つばい、 と思われるところもないではありませんが しかしよく読むとこの作者がこの世が はかないからこそいっそう貴重なものとして 架い愛を抱いているということがわかります。 徒然草』はふしぎな作品だ。教訓あり、世 間話あり、思い出話あり、世相批判あり、う わさ話あり、うんちくあり 乱世の鎌倉時代に生きた兼好が残したメッ セージは、宝島の地図のように魅力的で、謎 にみちていて、だれもが一度は目を通したく なる 方丈記は、読む人の背すじをのばす。混 乱の時代を生き人の世の無常を語りながらも、 生きることのすばらしさも教えてくれる。こ れほど後世の人の精神に大きな影響を与えた 書物はないといわれる つれづれぐさ ・監修・ 司馬遼太郎 田辺聖子 井上ひさし ・編集委員・ 興津要 ト林保治 津本信博 三一 111 写真一白田利夫
じよう ねどこ いる寝床だけでした。これも一畳ちょっとぐらいのものでした。高校生だったばくも、そ と こに泊まったことかあります・。 兄は、当時の自分の学生生活を思い出して、「あのころは『方丈記』よりせまい生活 だったなあ。、と、かしそうにいったことかあります。方丈の部屋というのは、一辺が かくけい ルの四角形ですから四畳半ぐらいでしようか。 約三メート けいざ じゅうたくじじよう わたしが大学に入ったのはそれから四年後でした。住宅事情もわたしの経済事情もま だだめでしたが、それでも三畳を借りることができましたから、兄よりはましな時代に なっていたのでしよう。しかしまだ、方丈よりはせまいのでした。わたしたちの学生時代 しようちょう しっそ には、質素の象徴として建てられた『方丈記』の部屋で暮らすことすら、ぜ、 たのです。 すいひっ ちゅうせいらんせ 『方丈記』は、中世の乱世を背景にして書かれた随筆文学ですが、現代の乱世を少年時代 こてん に生きたわたしには、とても親しみのもてる古典です。 ちょうしゅん じせかいたいせんお わたしは小学校四年生のときに第二次世界大戦の終わりを中国東北の長春という町で しよくみんち むか 迎えました。当時はそこに満州国という、日本がつくった植民地国家があって、長春はそ すがた しゆと の首都でしたから、一つの国家が敗戦によって崩れ落ちていく姿を、まざまざと体験した のでした。 くうしゅうや それから空襲で焼け野原になった日本へ引きあげてきました。古い町はなくなって新し なっ のはら た まんしゅうこく はいせん ほうじようき げんだい たいけん じだい ごっ 279 「方丈記」あとがき
徒然草 方丈記 嵐山光三郎 ( 0 ミミ 0 kÖzaburÖつれづれぐさ 三木卓 miki ミほ一つじようき 少年 少女古典 文学館 0 講談社
気がして好きです。 かん いく年か時 みなさんは、読まれてどう感じましたか。もし、心に残るものがあったら、 間をおいてまた読んでみてください。そうするとまた新しいものが見えてくると思いま せいちょう す。それはあなたが成長したからです。そしたらまた時間をあけて読んでみてください。 こてん そのたびに新しいものをあたえてくれるのが古典というものです。 、まうじ・ようき ほっしんしゅうみきすみとこうちゅうしんちょうしゃ しんちょうにほんこてんしゅうせしー 使用したテキストは、新潮日本古典集成『方丈記発心集』 ( 三木紀人校注・新潮社 ) おざきのぶおちょ みきすみとやくがくとうしゃ ほうじようき ほっしんしゅうたんにしよう げんだいごやく です。それに『現代語訳方丈記発心集歎異抄』 ( 三木紀人訳・学燈社 ) 、尾崎暢殃著 かんしゃ さんこう ぶんばうしようかいほうじようきせいしやくちゅうどうかん 『文法詳解・方丈記精釈』 ( 中道館 ) を参考にさせていただきました。記ーメ、、感謝の意を表 します。 しよう す のこ ひょう 283 「方丈記」あとがき
913 嵐山光三郎・三木卓 少年少女古典文学館 10 徒然草・方丈記 講談社 1992 292P 22cm 内容・徒然草方丈記 こうざぶろう・みきたく あらしやま 少年少女古典文学館第十巻 徒然草・方丈記 定価一七〇〇円 ( 本体一六五〇円 ) 一九九一一年四月十七日第一刷発行 ・ : 著者 嵐山光一一一郎・三木卓・ : : 野間佐和子 株式会社講談社 : 来星都文京区音羽二ー 郵便万二二ー〇一 電話蘰部〇三 ( 五一一元五 ) 三五三五 販売部〇三 ( 五一一元五 ) 三六二五 製作部 C ) 三 ( 五一一元五 ) 三六一五 : 印凧所 凸版印刷株式会社・ : 製本所 株式会社黒岩大光堂 OKözaburö Arashiyama ・ Taku Miki 1992 落丁本・乱丁本は、小社書籍製作部あてにお送りください 送科小社負担にておとりかえします。 なお、この本についてのお問い合わせは、 児童図書出版部あてにお願いいたします。 発行者 ・ : 発行所 Printed in Japan 旧 BN4 ー 06 ー 250810 ー 9 ( 児図 )
きょゅうそんしん 許由・孫晨 きょゅうこだい でんせってきけんじやかれ 許由は古代中国の伝説的賢者。彼 ひょうばん ぎようてい の評判を聞いた堯帝が天下をゆず ろうといったとき、耳がけがれた あら といって耳を洗い、山にかくれて そんしん しまったという。孫晨も古代中国 の賢者。ますしく、むしろを作る しよくぎよう ことを職業としたという。 花たちばな さっきま 「五月待っ花たちばなの香をかげ むかし こきん そでか ば昔の人の袖の香ぞする」 ( 「古今 わかしゅう 和歌集」 ) の歌によって、そのかお りはむかしなっかしさ ( とくに、 むかし愛しあった異性への思い 出 ) をかきたてるものとなった。 人は自分の生活を質素にして、ぜ いたくをせす、財産をもたす、名 よ りえきえ よく たいど 誉や利益を得ようと欲ばらないのがりつばな態度である。 かざいどうぐ * きょゅう 中国の許由という人は、家財道具がなく、水を手ですくって飲んで いた。それを見た人がひょうたんをくれたが、あるとき木の枝にかけ たところ、カラカラと音が鳴り、それか、フるさいと捨ててしまった。 そして、もとのように水を手ですくって飲むようになった。どんなに か心のなかかさばさばしたことであろ、つ。また孫晨とい、フ人は、冬な しんぐ のに寝具がなく、ひとたばのわらでねて、朝になるとかたづけたとい 0 しっそ 生活は質素に ざいさん す えだ の
どこへいくにせよ、しばらく家をはなれて生活すると新鮮な気持ちになる。 きんじよ 泊まっている家の近所をあちこち見て歩くの力しし ゞ ) : いなかや山の村里を歩くと、はじめて目にす わす るものばかりで、都へ手紙を出すのも楽しい。忘れたことを思いだして、「あれをやっておいてね。 とたのんだりする。 ちゅうい こういった旅先では、なにごとにつけてもしせんに注意をはら、フようになる。持っている手まわり然 どうぐるい の道具類もよく見え、自分もひきたって見える きよう′」くためかね * 3 ・一 かげの声近ごろの歌とは、わたしの先生と対立している京極為兼の京極派のこと。その点、 きよ、つ′」くは こてん わたしが属する二条派の歌は、古典にのっとって、すなおで清らかということさ。 にじようは たび 旅の楽しさ ぞく みやこ たいりつ しんせんきも