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検索対象: 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)
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1. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

かいりゅう ようじん 回竜は、かんぬきをそっとはずして、庭にで、用心ぶかく、むこうの森のほうへ歩いていき ました。 すると、森の中で話し声がします。回竜は、木かげから木かげへと、足音をしのばせながら、 その声のほうへ近づき、ちょうどゝ しいかくれ場所へたどりつくことができました。 一本の木のみきのかげから、そっとうかがうと、頭が全部で五つ、しゃべりながら飛びまわっ ているのが見えました。 頭たちは、地面や木々のあいだで見つけた虫を食べていました。やがて、あるじの頭が、食 しいました。 べるのをやめて、 こんや たびそう 「今夜きたあの旅僧なあ、なんてふとったやつだろう。あいつを食べたら、さぞかし腹もふく れるだろうなあ。あんなことを、あいつに話すなんて、おれは、ばかだったよ。おれのたまし きよう いのために、あいつに、お経を読ませることになってしまった。あいつがお経を読んでるあい からだに だに、あいつのそばへ近づくのはむずかしいことだし、お祈りをしているときには、 さわることだってできない。だけど、まもなく夜が明けるだろ ? たぶん、あいつはねむって るよ。だれか、うちへいって、あいつがどうしているか、見てきてくれないかな。」 いの はら

2. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

おくりものの用意もできているぞ。」 かちゅうおお 殿さまのあいずで、奥の間のふすまがあきました。そこには、式のために集まった家中の大 こうかん はなよめ ともただ あおやぎ : こうして、青柳は友忠 勢の高官たちゃ、花嫁すがたで友忠を待っている青柳がいました。・ けっこんしき ほそかわ の手にかえされたのです。結婚式はにぎやかで、すばらしいものでした。細川の殿さまや、家 中の人びとからは、みごとなおくりものが、若い二人におくられました。 それから五年間、友忠と青柳は、しあわせな月日をすごしました。 ところが、ある朝のこと、青柳は、友忠と何か暮らしの話をしていたとき、とっぜん、苦し そうなさけび声をあげたかと思うと、まっさおになり、動けなくなってしまいました。そして、 しばらくたってから、よわよわしい声でいうのでした。 「こんな、はしたない声をだして、おゆるしくださいませ。でも、きゅうに苦しくなったので やくそく ぜんせ ございます。あなた。私たちがいっしょになれましたのも、きっと、何か前世からの約束ごと があったからでございましようね。そして、このしあわせなあいだがらは、このさきもいちど ならず私たちをいっしょにしてくれると思いますの。でも、この世では、私たちのあいだはも ねんぶつ うおしまいでございます。お別れしなければなりません。どうぞ、念仏をおとなえくださいま 103

3. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

安芸之助は、二十三年ものあいだ暮らした、莱州の島の話を、二人にしてきかせました。 「ほう、二十三年も。」 友だちは、わらって、 「たしか、あなたがねむったのは、ほんの四ー五分のあいだでしたよ。しかし、とにかく、ふ しぎな夢だ。そういえば、私たちも、あなたがねむっているあいだに、ふしぎなものを見まし たよ。」 「何です ? そのふしぎなものというのは。」 と、安芸之助がきくと、 「黄色の小さなチョウが、あなたの顔の上を、しばらく飛んでいましたが、あなたのすぐそば あな の地面にとまりました。ちょうどそのとき、一びきのアリが穴からでてきたかと思うと、チョ ウをつかまえて、穴の中にひきずりこみました。そのチョウが、また穴からでてきたのは、そ うだ、ちょうど、あなたが目をさますほんの少し前だった。チョウは、また、あなたの顔の上 をひらひら飛んでから、ふいに、どこかへいってしまいました。」 どの 「あのチョウは、安芸之助殿の、たましいではないかな。」 らいしゅう 114

4. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

あいて 相手がいてくれたので、難なくやりおおせることができました。 ぎしき あとにのこっているのは、きまりきった儀式にでることだけでした。 ひんく ほうりつ ふこころえもの 島には、病気も、貧苦もなく、法律をやぶるような不心得者は一人もいませんでした。 こんな、天国のような島で、安芸之助は、とうとう、二十三年もの長いあいだ暮らしました。 きさき けれど二十四年めに、大きなふしあわせがやってきました。妃がなくなったのです。妃は、安 芸之助とのあいだにできた、五人の男の子と、二人の女の子をのこして、あの世に旅だっていっ たのでした。 おかちょうじよう きねんひ 安芸之助は、美しい丘の頂上に妃を手あっくほうむり、そこにみごとな記念碑をたてました。 もちろん、そんなことをしても、妃を失った悲しみは消えるものではありませんでした。 「ああ、私も、死んでしまいたい。」 と、安芸之助はなげくのでした。 きかん とこよきゅうでん きまりどおりの喪の期間がおわったとき、常世の宮殿から使いがやってきて、 「お妃がなくなられまして、さぞおカおとしのことでございましよう。さて、常世の国王は、 こきよ、つ あなたさまを、生まれ故郷へおかえししようと申しておられます。七人のお子さまのことにつ なん 112

5. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

もらいました。 のと 馬にのって能登をたったのは、一年じゅうでいちばん寒いころのこと、あたりは雪でおおわ りよ .- つば れ、せつかくの良馬も、ともすれば行きなやみました。道は山の中をうねうねととおっていて、 人家とてほとんどなく、村と村のあいだも遠くはなれていました。 旅に出て二日めのことです。長いあいだ馬にのりつづけて、すっかりつかれてしまったのに、 いってもいっても人家はありません。はげしいふぶきがふきつけてくるし、馬はつかれきって ともただ います。友忠は、山の中で、とほうにくれました。 ところが、そのおりもおり、友忠は、思いがけなく、近くのとうげに、一けんのわらぶき屋 ゃなぎ 根の小屋が建っているのを見つけました。小屋のそばには、柳の木がのびていました。 つかれた馬にむちうって、やっとのことで、その小屋にたどりついた友忠は、しつかりとと ざされているその小屋のあらしよけの戸を、力いつばいたたきました。 わかもの すると、一人のおばあさんが、戸をあけてくれました。そして、美しい、見知らぬ若者のす がたを見ると、 「おお、おきのどくに、このふぶきの中をひとり旅なさるとはごくろうなことです。お若いか じんか

6. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

こじ とう・ いぎかや した。武一は、居士を追って居酒屋へかけこみ、一刀のもとに居士の首をはねました。そして、 のぶなが おうごん 居士が信長からもらったあの百両をうばいとり、居士の首とその黄金をいっしょにふろしきに つつんで、荒川に見せようと、いそいで家に帰りました。ところが、つつみをあけて見ると、 あらわれたのは首のかわりに、 からつほのひょうたんがただ一つ。黄金のかわりにはひとかた まりのどろ。しかも、果心居士の首なし死体が、どうしたわけか、いつのまにか、居酒屋の店 きようだい からなくなってしまっていたという知らせをきいて、荒川兄弟は、いよいよびつくりしてしま いました。 果心居士については、その後一か月ばかりは何のうわさも聞きませんでした。 やしき ところが、ある晩のこと、一人の酔いどれが、信長の屋敷の門前で、雷のような大いびきを けらい かきながらねむっているのを、信長の家来が見つけました。よく見ると、その酔いどれは、果 ろうや ぶれい 心居士でした。この無礼な罪によって老人はすぐにとらえられ牢屋にほうりこまれました。 ばん しかし、居士は、牢屋の中でも、十日十晩のあいだ、ずっとねむりつづけ、そのあいだも、 遠くからでも聞こえるような大いびきをとどろかせていました。 ばん かみなり 138

7. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

しんばい いては、国王のほうでよくせわをしますから、どうぞご心配なさいませんように。 しいました。 めいれい あきのすけ 安芸之助は、すなおに国王の命令を聞くことにして、出発のしたくをしました。港には、国 王からまわされた船が待っていました。 船は、青い空の下を、青い海へとのりだしました。莱州の島は、はじめは青く、だんだん灰 色に、そして、まもなく、見えなくなりました。 とたんに、安芸之助は、目をさましました。庭の、スギの木の下でした。 しばらくのあいだ、安芸之助は、ばんやりしていました。二人の友だちは、まだ、酒をのみ だんしよう ながら、談笑していました。 「ふしぎだ。まったく、ふしぎだ。」 と、安芸之助がつぶやくのを聞くと、友だちの一人が、 どの 「夢を見られたか、安芸之助殿。どんな夢を見られました ? 」 と、ききました。 ら し う 113

8. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

お雪はたいへんよい嫁でした。 五年ほどたって、巳之吉の母が死にましたが、母の死にぎわにのこしたのは、息子の嫁がど んなにかわいいカ、どんなにりつばかということばでした。 お雪は巳之吉とのあいだに、男女まぜて十人もの子どもを産みました。どの子もはだの白い かわいらしい子ばかりでした。 村の人たちは、お雪を、生まれつき自分たちとはちがった、ふしぎな人だと考えていました。 お ひやくしよう 百姓をやっている女の人は、早く老いこんでしまうものです。けれどお雪は、十人もの子供の 母になっても、はじめて村にきたときとおなじように、若わかしくて、美しく見えたからでし みのきちよめ そんなことで、お雪はとうとう江戸へいかずじまいになり、巳之吉の嫁になって、その家にい ることになりました。 ある晩、子供たちがねむってしまってからお雪は、あんどんの火影で、縫い物をしていまし むすこ

9. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

私にかわってその約束をはたしてくださいませ。さよなら、みなさん。私が、おっゆさんのた めに、よろこんで死んでいったことを、お忘れにならないでくださいませ。」 わかぎ そでそうしき お袖の葬式がすんでから、おっゅの両親は、いちばんりつばなサクラの若木をさがして、西 えだは けいだし ほうじ 方寺の境内に植えました。その木は、大きくなり、こんもりと枝葉をしげらせ、あくる年の二 めいにち 月十六日、お袖の命日の日には、みごとな花をつけました。それから二百五十四年のあいだ、 その木には、いつも二月十六日に、きまって花がさきました。その花は、うすもも色と白で、 ちくび らち 乳でぬれた女の人の胸の乳首のようでした。それで、人びとは、この木を「うばザクラ」とよ びました。

10. 怪談 (1980年) (ポプラ社文庫)

た、さあさあ、どうぞおはいりくだされ。」 と 、 ) たましそうにいいました。 ともただ うらてものおき 友忠は、馬からおり、裏手の物置に馬をつないでから、小屋の中にはいっていきました。お むすめ じいさんと娘が、竹ぎれをたいて、火にあたっていましたが、友忠を見ると、ていねいに、さ あさあ、火の近くへよってあたたまりなさい、とすすめました。 たびびと 老人たちは、さっそく、この旅人のために酒をあたため、食事のしたくをしはじめました。 どうちゅう そして、おそるおそる友忠に、道中のことを聞くのでした。 そのあいだに、娘は、ふすまのかげにすがたをかくしました。友忠は、さっきから、その娘 があまり美しいのでびつくりしていました。着ているものはみすばらしかったし、長いおさげ がみ 髪もみだれていましたが、ともかく、たいへん美しいのです。こんなきれいな娘が、こんなさ びしい、むさくるしいところに住んでいるのが、ふしぎでなりませんでした。 しました。 おじいさんが、友忠にい ) 「お武家さま。となり村は遠うございます。それに、雪はさかんにふっていますし、ひえきっ