物質 - みる会図書館


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1. 日経サイエンス 2016年12月号

00 のい。 , 0 詳報ノーベル物理学賞 ↑電気伝導 っ ボコッ 物質の「トボロジカル相」を発見 新たな物質状態に理解を広げたブレークスルー 、なし 2016 年ノーベル物理学賞は「物質 性物理学分野における 20 世紀で最も 非常にホットな研究領域となっている。 のトボロジカル相とトボロジカル相転 重要な発見」といわれている。 KT 転移 移の理論的発見」によって , 米ワシン 量子ホール効果の謎解き 物質の相はまず , 原子や分子が 3 トン大学 ( シアトル ) 名誉教授のサウ レス (David J. Thouless, 82 ) , 米プ 次元の広がりを持って集合した系につ さらにサウレスは 1980 年代 , 「量 リンストン大学教授のホールデン (F. いて理解が進んだ。ただ当時の理論で 子ホール効果」と呼ばれる現象をトボ Duncan M. HaIdane, 65 ) , 米プラ は , 原子が 1 層だけの 2 次元の系に ロジカル相の考え方を用いて説明した。 ウン大学教授のコステリツツ (J. ついてはいくら温度を下げても秩序だ 量子ホール効果は非常に薄い導体の層 った相ができず , 例えば超電導は出現 MichaeI KosterIitz, 74 ) の 3 氏に贈 を半導体の層でサンドイッチにした構 しないと考えられた。これに対しコス られる。賞の半分はサウレス氏に贈ら 造を極低温に冷やして強い磁場をかけ れ , 残りをホールデン , コステリツツ テリツツとサウレスは 1970 年代初め , たときに生じる現象で , 磁場の強さな 2 次元系に生じる渦 ( 例えば原子のス の両氏で分け合う。 どを変えるとサンドイッチ構造を流れ 物質は条件によって明確に異なる相 ピンの向きがなす渦 ) がもとになって る電流が 2 倍 , 3 倍 , 4 倍というよう に整数倍のステップを踏んで変化する。 ( 状態 ) を取る。よく知られるのは固相・ 生じる相が考えられることを示した 液相・気相の区分だが , 温度を極端に ( 下の図 ) 。 2 つの渦が強く結びついて 当時の理論では変化がなぜ整数倍に 下げると超電導や超流動のように日常 ペアをなす状態と , 結びつきが解けて なるのか説明がつかなかったが , サウ 個々の渦が自由に移動する状態た。 では見られない特殊な相が出現する。 レスはサンドイッチ構造中の電子が全 いずれも 20 世紀に量子力学や統計カ この考え方に立っと , 2 次元系でも 体として「トボロジカル量子流体」と 学によってかなりの理解が進んだが , 極低温で生じた超電導状態が高温では いう相を取ると考えることによって , 3 氏はトボロジー ( 位相幾何学 ) とい 消えて常電導になる相転移を説明でき 系全体の性質が段階的に変化すること う数学の考え方を援用して , 厚みが原 る。こうした 2 次元系における相転 を理論的に示した。上の図に示すよう 子サイズと非常に薄く実質的に 2 次 に , トボロジーでは立体図形の穴が重 移は 2 人の頭文字を取って「 KT 転移」 , あるいは同様のアイデアを提案したロ 元と見なせる系や , 原子が一筋の糸の 要な区分になるが , 穴の数が 1 つ , 2 ように並んだ 1 次元の系について , 特 シアの理論物理学者べレジンスキー っと整数で増えるのと同様 , 量子流体 殊な相が現れる背景を深く考察した。 (Vadim Berezinskii, 故人 ) のイニ の電気伝導率も整数倍で変化する。図 「トボロジカル相」と呼ばれるこれら シャルを加えて「 BKT 転移」と呼ば 形の一部を見ただけでは穴の数がわか の状態は実験的にも確認され , 物質科 れている。相転移に関する従来の理解 らないのと似て , 個々の電子を考えた を大きく変えた重要な発見だった。「物 だけではトボロジカル量子流体の性質 学とエレクトロニクスの新分野として はわからず , 全体を眺めたときに初め て見えてくる。 またホールデンは 1982 年 , 固体中 に並んだ一列の原子の磁気的な性質を 説明するのにトボロジカル相の考え方 単独の渦 を利用した。量子力学では磁性のもと になっている原子の磁気モーメントを スピンという量子数で表し一一この数値 は整数 ( 0 , 1 など ) か半整数 ( 1 / 2 など ) のどちらかになる。ホールデン は整数スピンの原子列はトボロジカル / 、 2 つ 強く結びついた渦ペア トボロジカルな相転移 低温 日経サイエンス 2016 年 12 月号 30

2. 日経サイエンス 2016年12月号

sa6eWl 9 lISVSNöV41 ト当コ プラスチックとコンクリート ジャカルタのプラスチックごみの山とニューヨークのコンクリート ジャングル。これらは地殻に半永久的な痕跡を残すことになるだろう。 化石燃料の燃焼によって煙も生じる。 煙は不完全燃焼した不活性の微粒子で , られる樹脂状の物質 ) ゃべークライト , クリートの破片が見つかる。コンクリ 世界中の地面に降着して , 地質学的に レーヨンなどごく一部に限られていた ートはすでに人新世を特徴づける岩石 長くとどまる痕跡を残す。白亜紀末の が , 戦後は飛躍的に拡大し , 現在では となっているが , 人造のレンガやセラ 隕石衝突で生じた地球規模の火災は , 年間約 3 億トンが製造されている。こ ミックスも目印になる。 白亜紀と第三紀の地層の境目に同様の れは全人類の体重に匹敵する重量だ。 これら人間が作り出した大量の岩石 煙の跡を残した。化石燃料の燃焼で出 耐久性に優れ分解されにくいという便 で地殻の最上部はいつばいになってい てくる炭素は , 炭素 12 ( 12C ) という 利な性質のゆえに , プラスチックは環 る。そして人間はその地面を重機で掘 軽い同位体を多く含むという特徴があ 境に長年にわたってとどまり続ける。 り返してビルを建て , 耕耘機ですき返 る。 12C は動植物に吸収されやすいた プラスチックごみが地上に残す痕跡 して作物を育てており , これらが再配 め , それらの生物が死んで化石になる は十分に明確だが , 地質学的には海の 分されている。人類はいまや , 川や風 と 12C が半永久的に残り , 人新世を示 ほうにより顕著な影響が表れる。多く など自然の力を上回るべースで堆積物 す目印となるだろう。 の海生動物がプラスチックを食べ , そ を動かしているのだ。 世界に広がった農業も独自の化学的 れらの死骸の多くは最終的に海底の泥 痕跡を生む。人類が農耕を始めたのは 化学物質が残すしるし として堆積する。これが化石化の第一 約 1 万年前だが , 大量の窒素肥料が使 段階だ。肉眼では見えないが , プラご 過去 100 年ほどの間 , アルミニウム われるようになったのは 20 世紀初頭 みよりもずっと広範に見られるのが , やプラスチック , コンクリートなど新 になってからで , これは空気中から窒 合成繊維の布地から出た微細な繊維く 地層を形成する材料の生産を大幅に加 素を固定して肥料を合成する「ハーバ ずなどの「マイクロプラスチック」た。 速する原動力となったのは , 主に化石 ・ポッシュ法」という技術の発明に 陸地から遠く離れた海底でさえ , どの 燃料を燃やして得られたエネルギーだ。 よる。また同じころ , 鉱石として掘り lm を調べても多数の微細繊維くず この化石燃料燃焼が生んだ副産物の量 出されたリンも肥料として使われるよ が見つかっている。 も膨大で , 世界の堆積物に様々な化学 うになった。 人造の岩石も至る所にある。量でい 的痕跡を残している。産業革命以降 , この結果として土壌と水 , 大気に生 えばコンクリートが断トツで , 人類は 大気中の二酸化炭素 (C02) の濃度は じた擾乱は , 明確な化学的痕跡を残し これまでに 5000 億トンものコンクリ 急激に上昇しており , 最終氷期が終わ ている。高緯度地域の湖は , 遠く離れ ートを製造してきた。地球表面の lm って完新世が始まったころに比べて約 た農業地域から風で飛ばされてきたこ につき約 lkg のコンクーリーートが存在す一 100 倍のスピードで増え続けている。 れらの化学物質によって汚染されてい る計算た。コンクリートはビルの上部 排出された C02 は , 極冠の雪氷層に る。農地から流出した肥料は河川から 構造や道路 , ダムなどを構成し , 市街 海に流れ込み , プランクトンを大量発 閉じ込められた気泡となって記録され 地で足元を掘り返せばたいていはコン ていく。 生させる。これら大量のプランクトン 2 66 日経サイエンス 2016 年 12 月号

3. 日経サイエンス 2016年12月号

ノーベル生理学・医学賞 ! 大良典博 詳報ノーベル賞 「オートフアジー」解明で A\LFRc 製 0 齷に 今年のノーベル生理学・医学賞ー , オ , ートフアジーのメカニスムの発の業 績で大隅良典東京工業大学栄誉授の単 独受賞となった。オートファシとはギ リシャ語由来で「自分を食べるい - XXX(lfl(l 0 日。 MDCCC] れたオートフっーの機構や遺伝子は′ 的に研究する体制整え , 酵母で発見 博士は 1980 年代後、ら酵母を使 た研究を進め , 、 990 年めにオ トフアジーに必要た、子群を初めて明 人間など でもほぼ同様であるこ らかに 究が大きく進展する端緒 、止た。生命活動に必須のシス だとみられている。受賞発表直後の 意味。細胞が不要になった構成要素 2016 年ノーベル賞 生理学・医学賞オートフアジーの いた ( 次ページ ) 。さらに生物を」メ : = 見とインタビューで , 博士の思いを聞 物理学賞 化学賞 メカニズムの発見 トボロジカル相転移と 物質のトボロジカル相の 理論的発見 分子機械の設計 および合成 D. 」 . サウレス〔米ワシントン大学 ( シアトル ) 名誉教授〕 / F. D. M. ホールデン ( 米プリンストン大学教授 ) / 」 . M. コ ステリツツ ( 米プラウン大学教授 ) ー 」 .- P. ソヴァージュ ( 仏ストラスプール大学名誉教授 ) / 」 . F. ストッダート ( 米ノースウェスタン大学教授 ) / B. L. フェリン ハ ( 蘭フローニンゲン大学教授 ) 大隅良典 ( 東京工業大学栄誉教授 ) いた ( 18 ページ ) 。オートフアジーを深 く知るのに役立つ専門家による詳しい解 説記事も再録した ( 22 ページ ) 。物理学 賞は , 従来の物性物理学の枠組みでは説 明が難しい物質の状態「トボロジカル相」 の理論研究の 3 人のパイオニアに贈られ る ()0 ページ ) 。化学賞は物質の分子を 個々の " 部品″として使って組み立てる 「分子機械」の分野で先駆的な業績を上 げた 3 人の研究者が栄誉を受けることに 0 なった ( 31 ページ ) 。 ( 編集部 ) 日経サイエンス 2016 年 1 2 月号

4. 日経サイエンス 2016年12月号

朝意書店 核爆弾の爆発のたびに世界中にまき 散らされた放射性物質の微粒子も検出 光学ライブーや、ヾ ラリー 7 アインタルホログラフィ 可能だ。戦争で使われた核爆弾は 2 個 だけだが , 1940 年代半ばから 1990 年 ・早崎芳夫編著 A5 判 152 頁本体 3000 円 ( 13737-8 ) 代後半にかけて様々な国が大気圏内で 対象の 3 次元データを電 光学ライプラリー 7 、 子的に記録でき , 多分野 500 回を超える核実験を行った。その での形状・変位・変形計 放射性降下物は土壌や極氷 , 海底堆積 測に応用可能な撮像方式 の理論と応用。〔内容〕 物などに入り込み , 地表の動植物にも ホログラムの生成 / 再生 吸収された。この放射性物質を含む地 ー計算手法 / 応用 [ 工業計 測 / DH 顕微鏡 ] / 他 層は , 最も明確な人新世のしるしとい 電気回路ハンドブック えよう。 ■奥村・西・松瀬・横山編 B5 判 464 頁本体 18000 円 ( 22061-2 ) 化石が変わる 電化の進む社会基盤を構 私たち人間は地球の生態系の姿にも 電気回路 築する重要技術で , 人類 の技術遺産ともいうべき 明らかな変化を残してきた。具体的に が死んで分解されると , 酸素が欠乏し 「電気回路」の歴史から た「デッドゾーン」が生じ , いまや毎 いうと , わずか数千年前まで地球の生 最新の電気回路 , 省エネ が期待される電力システ 年数十万 km2 の海底で生物が死滅し 物相のなかで非常にマイナーな存在に ムまでを網羅 , 回路解析 すぎなかったヒトという生物種が , 現 に用いられる数学も詳述。 ている。こうして荒廃した海の生態系 はやがて化石となり , 未来の地質学者 在は陸と海の上位捕 イラストレイテッド光の実験 に何があったかを物語るだろう。 食者となっている。 ・大津元ー監修田所利康著 このほか殺虫剤やダイオキシンなど 人類は地球の全生物 B5 判 128 頁本体 2800 円 ( 13120-8 ) 回折 , 反射 , 干渉など光 人工合成された残留性の有機汚染物質 生産量の約 1 / 4 を自 ・・ ! イラストレイテッド・■ 光の実験一学現象の面白さ・美しさ トップ も多くの堆積物に混入しており , 化学 分たちのために使っ ー、 , ′ ~ - を実感できる実験 , 観察 ■第・第対象などを紹介。実験・ 科学者が ている。この結果 , 的痕跡となる。その一部は地質学的な 00 : こを撮影条件などのコツも記 予測する ■■ロ載。オールカラー。大好 時間スケールで存続するだろう。古代 人類は陸生脊椎動物 評『イラストレイテッド 未来 の約 1 / 3 を占め ( 単 の藻類が生成した長鎖炭素化合物は現 光の科学』の姉妹書 純な体重べースで ) , 在の古生物学者にとって数千万年前の 質感の科学 一知覚・認知メカニズム と分析・表現の技術ー 残り 2 / 3 の大半は人 古気候を知るトレーサーとなっている ・小松英彦編 間が食物とするため が , それと同様だ。 A5 判 240 頁本体 4500 円 ( 10274-1 ) 物の状態を判断する認知 機能を科学的に捉える様々 質感の科学 な研究を紹介。〔内容〕 物の性質 , 感覚情報 , 脳 の働き / 知覚 ( 見る , 触 る等 ) / 認知メカニズム / 生成と表現 ( 光 , 芸術 , ロ語表現 , 手触り等 ) 東山篤規先生ご執筆書籍 現代心理学 [ 事例 ] 事典 中島義明編 A5 判 400 頁本体 8500 円 ( 52017-0 ) 足立浩平先生ご執筆書籍 シ非計量多変量解析法 ー主成分分析から多重対応分析ヘー 足立浩平・村上隆著 A5 判 184 頁本体 3200 円 ( 12829-1 ) 〒 162-8707 東京都新宿区新小川町 6-29 TEL ( 03 ) 3260-7631 FAX ( 03 ) 3260-0180 http://www.asakura.co.jp (ISBN) は 978-4-2 - を省略価格表示は税抜本体 < 資料請求番号 67 > ディジタル ホログラフィ se6ew 、 9 N131SY3b•NL•NV 工山 9 区 0 山 9 ハンドプ′ク 知資囓知メカニズムと 未来の人類は 地球以外で生きていく ? 「地球外への大規模移住構想は , 危険な妄想だと思う。工べレスト山頂や南極点でさえ , そこよりも快適に過ごせる場所は地球を除く太陽系のどこにもない。私たちは地球上で 起こっている問題にこの場で対処しなければならない。それでも 22 世紀には複数の冒 険家グループが民間資金によって火星で暮らすようになり , その後おそらく太陽系の別 の地を目指すのだろう。 もちろん , これらの先駆的移住者たちがあらゆるサイボーグ技術とバイオテクノロ ジーを駆使して異星の環境にうまく適応できるよう , 幸運を祈りたい。彼らは数百年内 に , 新種の生物になリ , ポストヒューマン 時代が幕を開けるだろう。太陽系外への旅 ユノ なるが , 彼らがその段階でまだ生物といえ るのかどうかは定かでない」 彳 祝・イグノーベル賞受賞 M. ーリース - ーー ( M a i n ReesV 英国の宇宙学者・宇宙物理学者 Portrait by Kyle HiIton 67 http.//www.nikkei-science.com/

5. 日経サイエンス 2016年12月号

地層に刻まれる 人類の時代 特集 どんな痕跡を残していくのか ? 一人類は地球に 人新世を考える 地質学 "A History in Layers その考え方は , 2000 年にメキシコ で生まれた。世界で最も尊敬されてい る科学者の 1 人 , クルツツェン (PauI Crutzen) がまったく即興的に思いつ いたものだった。このオランダ生まれ の大気化学者は , 全面核戦争は「核の 冬」を引き起こして地球上の動植物を 死滅させると唱えたことで広く知られ るほか , もう 1 つの世界的脅威に関す る研究で 1995 年のノーベル化学賞を 受賞している。人間活動によるオゾン 層の破壊だ。 メキシコで彼は , 完新世の間に起こ きった地球環境の変化を示す証拠に関す る専門家たちの議論に耳を傾けていた。 完新世は地質年代区分の 1 つで , 1 万 1700 年前に始まり現在まで続いてき たと地質学者はいう。そうした話を聞 くうちにクルツツェンは明らかに苛立 をちを募らせ , ついに大声で叫んだ。 く「「二丁違う ! ーフはもう世ではない。 今は・ ・・・」言葉を切って一瞬考えた 後にこう続けた。「今は人新世だ ! 」 日経サイエンス 2016 年 12 月号 / 英 , タ学 明らかな変化の数々 K E Y ( 0 N ( E P T S 彼とは独立に「人新世」という言葉を という微小な藻類の専門家で数年前に 場した。同年にクルツツェンは , 珪藻 その後の会議の間に何度も繰り返し登 琴線に触れ直観的に理解されたようで , 人類の時代の意 ) という言葉は聴衆の (Anthropocene : アントロポセン , 部屋は静まり返った。この人新世 考案していたステルマー (Eugene Stoermer, 故人 ) とともに論文を共 著した。 2 人は論文で , 人新世の証拠は明ら かだと述べている。産業革命後の人類 は , 地球の大気と海の組成を変化させ , 地形と生物圏を変えた ( 珪藻の総個体 数はその一例 ) 。私たちは現在 , 以前 ・人類は地球の様々なシステムを変えた。それらの変化が地層に恒久的な痕 跡を残し , 「 ~ 世」や「 ~ 代」のような正式な地質年代区分となるのかどうか , 科学者たちは活発に議論している。 ■人間はアルミニウムやプラスチック , コンクリート , 炭素微粒子 ( 化石燃 料の燃焼に伴って排出 ) , 殺虫剤 , 放射性物質の微粒子 ( 核爆弾から放出 ) を陸地や海にまき散らしてきた。これらは新たな地質年代「人新世」を宣 言する根拠となリうる。 ・残る問題点は , いまから数千年前 , 地層に人間の影響が最初に認められた 時点て人新世が始まっていたとみるべきなのか , もう少し先の未来に人類 の影響がフルに表れるときから始まるとみるべきなのかた。

6. 日経サイエンス 2016年12月号

ータイジェスト DIgest 特集人新世を考える 明らかな人類の影響 地層に刻まれる人類の時代・ 62 ヘージ J. ザラシーウィッツ ( 英レスター大学 ) 藝第 4 を 人類は気候や生態系 , 自然環境まで , 地球の様々なシステ ムを変えた。アルミニウムやプラスチック , コンクリート , 炭素微粒子 ( 化石燃料の燃焼に伴って排出 ) , 殺虫剤 , 放射 性物質の微粒子 ( 核爆弾から放出 ) を陸地や海にまき散らし てきた。これらは地層に恒久的な痕跡を残し , 新たな地質年 代区分「人新世 ( アントロポセン , 人類の時代の意 ) 」を特 徴づけるものになりうる。だが , これらの影響は巨大火山噴 火や小惑星衝突といった過去の大変動に本当に比肩しうるの か ? 地質年代の名称は国際層序委員会 (ICS) で議論を重 ねたうえで認定される。人類が地球に及ぼしている明らかな 影響をめぐって , 科学者たちは活発な議論を続けている。 特集人新世を考える ム編集が変える未来 遺伝子改変人類が誕生 ? ・ 88 ペ→ S. S. ホール ( サイエンスライター ) 、 & 」でし 0 ~ の SOdVNV) V DN くÅ8 E)NIIAIS d08d ・ s 」毀 > 」 puv Åq 工 de 」 60 ち qd ーン ーゞに ゲノム DNA を改変する新しい技術の登場で , 標的遺伝子 を容易に操作できるようになった。 CRISPR/Cas9 に代表さ れるゲノム編集技術は農作物や医薬だけでなく , ヒトの遺伝 子改変にも有効だ。遺伝子疾患のほか , 最近では男性不妊の 治療法としても関心が寄せられている。胚の遺伝子操作に比 べ , 精原幹細胞の改変は心理面でのハードルが低く , 目的の 遺伝子のみをターゲットにする手法も確立している。しかし 改変遺伝子は次世代に受け継がれるため , ゲノムを改変した 新人類の誕生を危惧する声もある。人類はこの技術を制御す ることができるのか。技術的な課題はほぼクリアされ , 体外 受精クリニックで開始される日はそう遠くないとみられる。 s 」毀 > 」 puv Åq qde 」 690qd 一 & 」 ePV で uel さ 99 SOdLNVD V DN く A8 DNIIAIS dO 圧 日経サイエンス 2016 年 12 月号

7. 日経サイエンス 2016年12月号

いないのだろうとの推定がなされてい 素については , 超新星爆発で生じた超 なるので「 godzillium 」「 godzilline 」 る。こうした想定から , より突飛なフ 高密度のコンパクトな「中性子星」 2 「 godzillon 」などが考えられる ) 。 イクションが立ち現れてくる。ゴジラ つからなる連星が衝突・合体する際に は大気や海水を構成する原子から , 核 生じるとの説がある ) 。 融合によって必要な種類の元素を必要 ここでゴジラが環境中に放出した新 な分だけ合成し , それを元手に望みの 元素が超重元素の同位体で , 先述した 分子構造を持つ物質を合成していると 「安定の島」に属するようなものだと いうシナリオだ。 すれば , ゴジラは自然界に存在するあ もっともゴジラの体内に加速器や核 例えば通常兵器を跳ね返すほど頑強 融合炉 , 発電タービンなどがあると想 らゆる元素を作り出せることになる。 なゴジラの外皮は , 体内で生み出され ゴジラ体内では宇宙における物質創成 像すれば , それは生物ではなく口ポッ た軽量で強靱なグラファイトのような が再現されているという壮大なフィク トになってしまう。ゴジラはあくまで 物質だと考えればよい。火焔を溜め込 ションだ。作中の新元素については何 も血肉を持つ生物であり , 変態を遂げ むような高温部分は高断熱のセラミッ らかの目的があって作り出されたのか , る際にはかなりの出血をする様が描き クスのような組織で包み込まれている 生命活動の副産物 ( 核廃棄物 ) として 出されている。生物と原子力という水 生じたのかは不明だが , 原発事故の隠 と解釈できる。 と油のような 2 つをどのように結びつ 自然界では水素とヘリウム , リチウ 喩と考えれば後者になるだろう。 ければ , リアリティを与えることがで ム ( 3 番元素 ) は宇宙誕生直後に形成 現実世界では新元素の元素名は国際 きるのだろう ? されたが , それより番号が大きい元素 ルールとして , 神話にまつわる名称も 映画では核融合によって物質合成 のうち 26 番元素の鉄までは , 太陽な 許される。作中 , ゴジラは神の化身を ( 元素変換 ) する場としてゴジラを構 ど恒星の中心部で核融合によって合成 意味する「呉爾羅」に由来するので , 成する細胞の細胞膜を想定している。 され , 鉄より番号が大きい重い元素は ゴジラにちなんだ元素名も考えうるだ 実際の生物でも細胞膜は生体内部と外 星が大爆発 ( 超新星爆発 ) する際に生 ろう ( 元素名の末尾は元素番号に応じ 部環境を区切る役割を果たすと同時に , じたと考えられている ( 非常に重い元 て「 ium 」「 ine 」「 on 」のいずれかに そこで様々な生化学反応が起き , 細胞 どうしの情報のやり取りも行われる。 例えば先述したデスルフォルディス・ アウダックスヴィアトールでも細胞膜 が重要な役割を果たしていた。また特 定の機能を帯びた細胞膜を持つ細胞が 集まれば , それは特定の役割を担う組 織や器官になる。 広島大の長沼教授はゴジラの細胞膜 について , 次のようなフィクションと しての仮説を持っている。最初 , 深海 底にいたゴジラは核廃棄物から海中に 溶け出した放射性物質を自身が持つ膜 組織で漉しとって濃縮し , これを熱源 体とする ( 核物質は崩壊熱を持つので 高温になる ) 。深海底は低温なので , 熱源体との間に大きな温度差が生じる。 ゴジラの想定移動ルート放射性廃棄物が投棄された深海底に生息していたゴジラは , 海の深い ところをたどって東京湾に到達したのかもしれない。東京湾の外湾部には , 水深 500m 以上に達する東 この温度差を利用して , ある種の金属 京湾海底谷があり , その谷の先 , 相模湾に至ると , 相模トラフがある。だとすると深海魚のような第 1 形 などを主成分とする生物学的な熱電変 態のゴジラは相模トラフから東京湾海底谷に入り , 東京湾横断道 ( アクアライン ) の海底トンネル直上の 換素子を用いて電気を生み出す太陽 あたリで第 1 形態から第 2 形態に変態したのかもしれない①。そして多摩川を遡上 , 東京・蒲田に上陸し一 ② , 川を遡リ , さらには陸に上がって東京・品川まで来たところで第 3 形態に変態した③。その後 , 東京 から遠く離れて太陽電池による電力供 湾に戻リ , 再び東京湾海底谷から相模トラフまで来たあたリで第 4 形態に変態④ , 鎌倉に再上陸し北 給が難しい木星探査機や土星探査機な 上を始めた⑤。政府は多摩川で攻撃を試みるが失敗⑥ , ゴジラは川を渡ってさらに北上し東京都心に どに搭載する原子力電池と同じ仕組み 来たところで , 血液凝固剤の投与により動きを停止した⑦。海底地形図は海上保安庁の海洋台帳による。 長沼教授が考える 細胞膜のマジック 蓄 日経サイエンス・海上保安庁 46 日経サイエンス 2016 年 12 月号

8. 日経サイエンス 2016年12月号

東京に突如 , 信じられないほど巨大 な未知の生物が出現し , 災厄をもたら す。 CG ( コンピューター・グラフィ ックス ) などの映像技術によって , 見 慣れた東京の風景の中に巨大生物が存 強大な存在となった巨大生物が東京を 火の海に変えるクライマックスでは , 絶望感と無力感を我が身に感じて呆然 とする人も多い。 映画『シン・ゴジラが大ヒットし 故に見舞われたという時代状況がある。 原子力発電所の建屋が相次いで吹き飛 び , 3 基もの原子炉で炉心溶融が起き , 大量の放射性物質が大気中に放出され 続けるという悪夢のような光景を目に 土感を持って入ーり込みー対応に苦慮す一一一ている一一 - ( 本記事に - はその内容に関わる一一一・一一した私たちに一とっていーゴジラが放射ー る政府や自衛隊の描写にリアリティを 感じさせるため , 見る人は次第にスク リーンに引き込まれていく。圧倒的に 40 記述が含まれている ) 。ヒットの背景 には現実の日本が不意打ちのように東 日本大震災と福島第 1 原子力発電所事 物質を吐き , 多くの人々が避難する情 景には絵空事とは思えないリアリティ があった。 日経サイエンス 2016 年 12 月号

9. 日経サイエンス 2016年12月号

原発に擬されたゴジラ を受けるシーンでは , 福島第 1 原発事故 が重要になる。先に話題になった 1 1 3 発生当時の現地の状況などを紹介したり 番元素「ニホニウム」のように , 現実世 した。またゴジラがいったん , 海に去っ 界では加速器で原子の衝突実験をして得 た後 , ゴジラが通った都心で放射線量の 放射性物質を食べて身体が巨大化する られる新元素の原子は数えるほどで , し 上昇が検出されるシーンがあるが , その とか , 1 秒以上の半減期の新元素などは かもすぐに崩壊してしまう。環境中に新 線量は福島第 1 原発事故の発生当初 . 放 現実には考えられない。かといって , あ 元素 ( 未知の放射性物質 ) が残留する ( 長 射性プルーム ( 放射性物質を含む空気の まリ現実に忠実にしようとしたら SF は 時間安定的に存在する ) ことはあリえな 塊 ) が関東上空に飛来した際に計測され 作れない。現時点では不可能と思われて いが , 新元素にリアリティを持たせるた たレベルに近い設定だ。実際の計測値は も , 将来は可能になることがあるかもし め , 「これまで知られていないエネルギー れない。 iPS 細胞も実際にできる前に聞 単位時間当たリの線量を表す線量率なの 値のガンマ線が検出された」という筋立 いたら SF のような話だ。どれだけお役 で , 「ノヾー ・アワー ( 毎時 ) 」などの言葉 てをアドバイスした。 に立てるかわからないが , できる範囲で , を付けてもらった方がよかったと思う。 またゴジラを原発に擬するとしたら , 主に放射線関連の話について協力させて 一方 . 映画の終盤 , 読み上げられた東 複数の放射性核種が放出される可能性が いただいた。 京都心の線量は致死的レベルで , 切迫感 考えられるので , 新元素の半減期が 20 福島第 1 原子力発電所事故を下敷きに を持たせるにしても状況との間にキャッ 日としても . 後に長寿命の核種が残って プを感じた。ただ福島第 1 原発でも配管 ゴジラを原発に擬したシナリオとして , 除染はそれほど容易ではないかもしれな 生体原子炉の熱を取り除くために海に戻 のエルボ部 ( L 字形に曲がっているとこ い。私自身が映画の世界の中にいたとし ろ ) などで . 局所的に非常に高い線量率 るとか , 最後には生体原子炉を緊急停止 たら , まずはどんな種類の放射性物質が が計測されている。真面目に考えると , に導くとか , よく考えられていると思う。 どこにどれほど存在するのか徹底的に調 「キリン」 ( 左へージの写真 ) でゴジラ これはどこで測った値で . どれくらいの べるだろう。 時間 , 高線量が持続したのかなど , いろ に血液凝固剤を飲ませるところなどは , どうしたって事故発生当時を思い出して いろな疑問が出てくる しまう。そもそもキリンを登場させるた 放射性元素が出す放射線は主にアル めにはどうすればよいか考えて , シナリ ファ線 . べータ線 . ガンマ線の 3 種類で オが練られたのではないだろうか。 あるが , ガンマ線は測定しやすく , 元素 の種類ごとに特定のエネルギー値を持つ もっとも私の専門は放射線でできた DNA 二重鎖切断の修復機構の研究なの ので , 元素の特定にはガンマ線の測定値 で . あれほど外部に放射性物質をまき散 らすゴジラの細胞の DNA はいったいど 松本義久 ( まつもと・よしひさ ) 東京工業大学准教授 ( 科学技術創成研究院先導 ういうことになっているんだろうという 原子力研究所 / 環境・社会理工学院融合理工学 ことが目下 . 最大の関心事た。 系原子核工学コース ) 。専門は放射線生物学。放 ゴジラが大量の放射性物質を放出した 射線の生体への作用と影響 , 及び生体の放射線に ため , 政府機能が立川に移転 , 東京から 対する反応と応答を分子レベルで研究している。 シン・ゴジラ - の製作に協力した。 着の身着のまま到着した主人公らが除染 日経サイエンス する生物種の 1 つで , 自身の鰓 ( えら ) 物の細胞表面に共生している事例は多 ラ」というイガイ科二枚貝の別種もい 細胞の表面に化学合成細菌を共生させ い。 JAMSTEC の藤倉上席研究員が て , こちらは化学合成細菌が鰓細胞の 例として挙げるのは「ヒラノマクラ」 ている ( 細胞外共生という ) 。化学合 表面ではなく , 細胞の中に入り込んで というイガイ科の二枚貝だ。クジラは 成細菌は硫化水素やメタンを利用して しまっている ( 細胞内共生 ) 。こちら 死ぬと海底に沈んで最後には骨となる 有機物を作り , その有機物をヒラノマ の方が共生の度合いは深いといえる。 クラが食べるわけだ。化学合成細菌に が , この鯨骨から発生する硫化水素や つまり鯨骨生物群集には異なるタイプ メタンをエネルギー源として「鯨骨生 とってヒラノマクラは硫化水素やメタ の共生関係を持つイガイ類が共存して 形「 7 「「「「「「丁「「 7 ンを送 - ーり - - 込んでぐれる快適な住みかで ; ーーーー - ー -- 一一 " ーし、るわけだ。 いわばウインウインの関係だ また深海底の熱水噴出域のチムニ 成される。 ヒラノマクラは鯨骨生物群集を構成 鯨骨生物群集には「ホソヒラノマク からは鯨骨よりもはるかに豊富な硫化 49 http://www nikkei-science. (0血

10. 日経サイエンス 2016年12月号

日経サイエンス崙、日本版 ーダイジェスト Dlgest 2016 VOL46 No. 12 詳報 : ノー べーレ賞 オートフアジーでノーベル賞 大隅良典氏 生理学・医学賞 みツ /MDCCC MDCCC XC\/I' 細胞内の″ゴミ捨て場″に隠されていた リサイクル機構・・・・ 12 ページ 永田好生 ( 日本経済新聞 ) 顕微鏡下に見えた驚異の世界・・・・ 18 ページ 日本経済新聞科学技術部 細胞を支える掃除役オートフアジー ( 再録 ) ・ ・・・ 22 ペ V. デレティック ( 米ニューメキシコ大学 ) D. 第クリオンスキー ( 米ミシガン大学 ) 物理学賞 物質の「トボロジカル相」を発見・・・ 30 ページ 化学賞 分子マシンを設計・合成・・ 31 ページ ノーベル生理学・医学賞は「オートフアジーのメカニ ズムの発見」で大隅良典博士に贈られる。同賞は最大 3 人の受賞枠があるが今回は単独受賞だ。オートフアジー は細胞内で起きている物質のリサイクル機構。 1980 年 代後半から酵母を使った研究を始め , やがて若い研究者 たちが加わって裾野が広が一り亠一世界に注目される分野に 発展した。受賞発表直後 , 博士は日本が中心となって引 っ張ってきた研究の歴史を振り返り , 改めて基礎研究の 重要性を強調した。専門家による解説記事も再録。 ノ NOBEL 0 ト 0 工 d dV 東京工業大学 日経サイエンス 2016 年 12 月号 1