ている。トオルは自分の顔に向かって、ニッと 歯をむきだしてみせた。もちろん鏡の中の自分 も同じように歯をむきだす。 かがみ そのときだ。鏡に何か白いものが映った。そ れがユラュラゆれながら、だんだん自分の背後 に近づいてくる : か、とてもじ トオルはふり返ろうとした・ ゃないけどできなかった。目が鏡にすいつけら れて、どれだけはがそうとしても動かすことな んてできない 白いものは真後ろまで来ると、大きく両手を 上げて、トオルにおそいかかってきた。 こうしゃない 夜の校舎内に、トオルの悲鳴がこだました。 かがみ かがみ うつ 9
かがみ あな いかもしれない。このポイラー室わきにあるぬけ穴のことは、トオルの通うひばりが丘小学校 の高学年の子どもなら、だれでも知っていたのだ。 ) 」 - つかし ぶきみ トオルは、歩きだしてすぐに後悔した。夜の学校の不気味さはハンパじゃない。鳥小屋のそ はを通ったとき、鳥たちがははたく音に、思わず悲鳴を上げて飛びあがりそうになった。 けいびいん 警備員さんがもどってくるまで、おとなしく待っていればよかった。夜の学校なんてちょろ しぜ、といきかったのがまちかいだった。足音がヒタヒタと、自分についてくるように感じる かいだん 長いろうかか終わり、つきあたりの階段を上がりはじめる。ニ階から三階のおどり場にたど おおかがみ り着いたとき、取りつけてあった大鏡が目に入った。 った ふしぎかいだん トオルは、ここで思い出した。自分たちの学校に伝わる七不思議の怪談。このおどり場の大 おおかがみ 鏡は、その何番目だったかに登場する、いわくつきの代物だったことを。夜、この大鏡をのぞ あらわ かがみ くと中からあやしい人かけか現れ、鏡の中に引きずりこまれてしまうのだという 「じようだんだよね。」 ひじようぐちゅうどうと - っ つぶやくと、トオルは鏡をのぞきこんだ。非常ロ誘導灯の緑の光を受けて、自分の顔が映っ かがみ おか うつ おお
「どうせプールに入れはぬれちゃうんだから、水着なんて別にかわいてなくったっていいんだ よな。」 小声でささやいたつもりが、思いのほか大きくひびいて、トオルの足が止まった。 わす プールバッグを学校に忘れたのを、母親に命じられて、夜の学校にわざわざ取りにきたのだ。 こ - っしゃない けいびいん トオルの教室、五年三組は三階にある。本当は警備員さんにことわってから校舎内に入らな じゅんかいちゅう ければならないのだが、ちょうど巡回中のようで、どれだけ来客ブサーを鳴らしてもだれも出 てはくれなかった。しばらく待ってみたか、いつまで待ってももどってくる気配がなかったの しんにゆうぐち で、思いきってひみつの侵入口から、だまって入ってしまったのだ。いや、ひみつとはいえな わす プ 1 ルバッグの忘れ物 べっ
さくらばれい まつやまとしお ばくの名は、松山俊夫。ここ、「ひばりが丘小学校」の五年生だ。桜庭玲とは同じ三組、そ まえかわとおる して、朝会で全校のうわさになっているトオル前川徹とも同じクラスだ。 かいだん 」の、つ わす トオルは昨日の夜、忘れ物のプ 1 ルバッグを取りにきて、教室に向かうとちゅう、階段のお けいびいん おおかがみ どり場の所で大鏡の中に引きずりこまれそうになった。警備員さんがあわててかけつけて、何 とか無事だったが、ショックで入院してしまったといううわさだ。 玲は言うべきことを言ってしまうと、もうすすしい顔をして、朝礼台の方に顔を向けている かのじよ 列の間に立ったまま、自分の並ぶ場所にはもどる気はないようだ。横目でうかがうと、彼女の きりつとした小麦色の横顔が見える。くちびるはしつかりと引きしめられ、ショートカットの しよか サラサラへアが初夏の風にふかれて目元をかくすと、ちょっとうるさそうにかきあげる ノンプルな白のシャツからむきだしになってい 小麦色をしているのは、顔だけじゃない、、 ふしぎたんてい るうで、ジ 1 ンズ地のショートパンツからのびている長いあしも同じだ。玲は不思議探偵クラ しゆみ プというマニアックな趣味をもっているだけでなく、バスケットボールクラブのエースとい、つ スポ 1 ッ少女でもあるのだ。 なら おか
ご、つれい じど、つ 月曜日、全校朝会のために全校児童が校庭に集まっていた。週番の先生が何度も号令をかけ ていたが、子どもたちはヒソヒソ話をせんぜんやめようとしなかった。 わす まえかわ 「五年生の前川トオルって子いるだろう ? あの子、忘れ物取りにきてお化けにおそわれちゃ ったんだって。それで、こわくて学校来られなくなっちゃって、とうとう入院しちゃったんだ ってよ。」 かがみ かかみ おおかいだん 「聞いた、聞いた。あの大階段のおどり場のところの鏡だろ。あの鏡にお化けが映るんだろ。」 かがみ ふしぎ 「マジ ? うちの学校の七不思議の一つに、お化けの出る鏡の話があるのは知ってたけど、本 当のことだったの ? ( プ ) 全校朝会 こ、ってい うつ
ゆりこ 竹川の母親も、少しは百合子先生の体のことを気づかっているのか、まだ学校に文句を言い にきてはいないみたいだ。それとも、自分の子どもが万引きしたことがはすかしくて、学校に 来にくいだけなのかもしれない。 へいおん おおかかみ 学校に平穏な日がもどってきたような気がする。あれ以来、大鏡のうわさもすっかりなくな おおかがみ ってしまった。そうそう、プールバッグを取りにきて入院するはめになったトオルは、大鏡が ふつき やぎさわ なくなって元気に復帰した。八木沢もショックから立ち直って登校してきている ふしぎたんてい ばくが一番さびしいのは、玲がすっかり元気をなくしてしまったことだ。不思議探偵クラブ らんまる をもっと活発にすればいいのに、蘭丸先生がいなくなってからぜんせんやる気が出ないらしい。 おおかがみれい 実は、大鏡の霊について、ばくは玲にだまっていることがある じけん あの事件の次の日の昼休みのことだ。 けいびいん 体育係のばくは、体育館のかぎを主事室に取りにいったときに、蘭丸先生と警備員さんがひ そひそ話しているのを聞いてしまった。 かがみさくや 「あの鏡、昨夜のうちにもどしておきましたからね。」 たけかわ 7 0 らんまる 0 もんく
にいった。 大きなバッグが、すみにかためられて置いてあったり、ぬれたタオルがほしてあったりで、 わたしたちの部屋と同じような感じなのだが、でもどこかちがう。わたしたちの部屋だってお むね せじにもきれいとはいえないのだけれど、そのざっせんさに何だか、胸がキュンとなってしま った。 せいざ わたしたちは「おそろ」のヘアバンドをして、どういうわけだかきちんと正座をしてしまう ダンダダダダンダダンダダダダンダ : ・ みとこ、つもん とっせん、男の子たちが照れくさそうに「水戸黄門」のテーマを歌いだしたかと思うと、ふ こ、つもんさま すまが開いて、「黄門様ご行」が入ってきた。 おおわら こ、つもん わたしたちは、もう大笑い。黄門様にふんしているのは俊ちゃんだ。。 すきんをかぶって、つ すけ ひがしやま なかがわ えをもち、白いひげまでつけている。助さん、格さんには、東山君と中川君がふんしている しゆくしゃ しやくよ、つ 二人とも刀を差して、宿舎のゆかたを借用し、こしのところで、からげている。頭にはかつら までかぶっている。 とし