ふしあな とびらが閉められた。二人で節穴から外を見ようとすると、玲とばくのほほがくつついてし まう。なんだか息苦しい。それは、この中がせまいせいだけではなかった。玲と二人っきりで みっちゃく こんなに密着しているために、ばくはこんなに息苦しいんだ。 しんぞう さっき玲の心臓の音か聞こえたのだから、ばくのドキドキも玲に聞こえるだろうか ? 落ち ひっし しんぞう つけ、落ちつけと必死に考えるが、そう思えば思うほどばくの心臓ははねあがる あな そんなばくの気持ちを知ってか知らすか、玲はじっと穴から暗い教室の中を見張っている 玲のかみからまた、トリ 1 トメントのかおりがする。そうじ用具入れの中は、くさったぞう きんのにおいだってしているのだが、 ばくには玲のトリートメントのかおりしか感じることが できなかった。 とっぜん、教室のドアが開いた。続けて光の輪が三つ入ってきた。だれかが懐中電灯を手に 夜の教室に入ってきたのだ。 「これでもう、だれにもじゃまされないな。」 わら ささやき声にこたえるように、ヒヒヒとしのび笑いが聞こえる つづ かいちゅうでんと、つ
おもな登場人物 さくらばれい 桜庭玲 ひばりが丘小学校の五年生。活動 ふしぎたんてい . ) 的なスポーツ少女で、不思議探偵 クラブの会長。 まつやまとしお 松山俊夫 ふしぎたんてい れい 玲の同級生。不思議探偵クラブの 一、 . 会員。ちょっと内気だが、案外た 〔よりになる。 ろくじようらんまる 六條蘭丸先生 れい たんにん 辷玲たちの担任の代わりに来た先生。 ファッションも行動も、かなりュ 0 5 たけかわ れい 玲の同級生。小山、杉本との三人グループで、よく 問題を起こす。 ひがしやま 東山 れい 玲の同級生。スポーツ万能で、クラス一の人気者。 きたむらなかがわなかよ 北村、中川と仲が良い。 千葉のぞみ れい 玲の同級生。東山にあこがれている。 さとうゆりこ 佐藤百合子先生 / 柄でほっそりとした美人の先生。 五年 = 一組の担任。於 としお 金ぶちのめがねをかけている。俊夫のあこがれの人。 ひがしやま こがら
「すみません、すぐ帰ります。俊ちゃん行こ。」 かいだん 玲は頭をベこりと下げ、ばくのうでを取って、さっさと昇降口に向かって階段を下りはじめ た。まったく、こういうときの玲のにげ足はとてつもなく速いもたもたしていた三人は、先 生につかまってお説教をくらってるみたいだ。 「わたし、俊ちゃんのこと、見直しちゃった。三人相手でも向かっていくんだもの。でも、ち よっと危なかったから、看護当番の先生、よんできちゃった、よけいなことしてごめんね。」 玲がハンカチを差しだした。ばくは照れくささと、くやしさと、はすかしさとがごっちゃに はなみすたいりよう なったせいで、なみだと鼻水が大量に流れ、顔がぐしょぐしょになりはじめていたのだった。 おおかがみ しせん ふと、玲は足を止めた。視線の先には、うわさの大鏡がある。 おおかがみ 「これがうわさの、人を飲みこむ大鏡なんだよね。」 ばくは、今の顔を玲に見られないですむのをほっとした。また同時に、もう少し優しい言葉 ふくざっ つづ をかけ続けてもらいたかったとも思った。まったく男の気持ちは複雑なのだ。 あぶ とし せつきよう かんご しようこ、つぐち やさ
ど、つこ、つ 校長先生が朝礼台に上がっても、さわぎは一向におさまらなかった。 「こうなったら、いよいよわたしたちの出番ね。」 さくらはれい だいたんにも桜庭玲が、一番後ろから真ん中へんに並んでいるばくの所までわざわざやって きて話しかけた。 みと ふしぎたんてい 玲は、「不思議探偵クラブ」の会長を名乗っている。とはいっても、学校で正式に認められ 、も′、て」 ちょうじようげんしよう ているクラブではない。ミステリ 1 や怪談話、といった超常現象を解明するのを目的に、 し った げんざい 同好の士が勝手につくっちゃったクラプだ。現在の活動は、ばくたちひばりが丘小学校に伝わ ちょうさ ふしぎ る七不思議を、本にまとめて発表しようと調査をしている : ばくの二人。 会員は、会長である玲とそれに : かいだん おおかがみ 「階段のおどり場の大鏡のなぞを、わたしたちで解決するのよ。そうすれば、わたしたちの不 しぎたんてい ふ 思議探偵クラブの会員が増えるわ、きっと。」 す 玲のひとみがキラキラしている。この目を見ていると、吸いこまれるように、ばくは玲のい いなりになってしま、つ 0 かいだんばなしューフォ 、かい・け・つ なら 0 ーカいめ - い おか ふ
「そうだよ。おれたちはあんなことあったのに、次の日、ちゃんと学校に来たもんな。」 玲とばくは、その様子を苦々しい思いでながめていた。 とし ふしぎたんてい 「俊ちゃん、いよいよ不思議探偵クラブの出番ね。わたしたちもしのびこんで、うわさが本当 か A 」、つか確かめよ、つ。」 玲が顔を近づけて、ばくにささやいた。大きなひとみの中に、ばくが映っているのが見える かのじよ せんさい 彼女の茶色の繊細なかみからは しいカ 42 り・カ ・ : ・ : トリ 1 トメントたろ、つか、何ともいえない きようふしん する。それにふらふらとなってする前に、それでも恐怖心のほうがまさった。 かがみ 「でも、鏡の中に引きずりこまれて、この世界にもどってこられなくなったらどうする ? ふしぎたんてい 玲は苦しそうな顔をした。だってそうだろう。不思議探偵クラブのリ 1 ダーとして玲は、学 ふしぎ ちょうじようげんしようと、つぜんしん 校の七不思議のような超常現象は当然、信じているはすなのだ。それが、竹川たちのうそをあ ちょうさ むじゅん ばくための調査をすることになる。この矛盾に苦しんでいるのだ。 れいすく ばくは玲を救うためにも、もう一度言った。 「ねえ、やめようよ。お化けが本当にいるかもしれないもん。もどってこられなかったら大変 かお たし うつ たけかわ たいへん
ちょうじようげんしようしん ふしぎたんてい 玲が、がっかりしたような声を出した。玲は超常現象を信じるからこそ、不思議探偵クラブ をつくったのだ。こわいけれど、やはり何か出てほしかったのだろう。ばくだってちょっとが ふしぎ つかりだった。あんなにこわかったのに不思議なものだ。 「いや、やはり何か出るようだぞ。」 かがみ とっせん、先生が言った。ばくたちはギョっとして、また鏡をのぞきこむ。そこにはやはり うつ 不安そうなばくと玲の顔が映っているだけだ。 「またあ、先生、わたしたちをこわがらそうたってだめですよ。」 らんまる わら 玲がひきつったような笑いで、その場をごまかそうしたが、蘭丸先生は、 たいき 「いや、急ごう。いったん教室に待機だ。」 かいだん しんけん 真剣な顔で、ばくたちに早く階段を上るようにうながした。 かいだん 三階の階段わきに、ばくたちの教室、五年三組がある 「この中に入って。」 先生は、そうじ用具入れのとびらを開けた。 ? ? ? ? ? ? という顔をしている、ぼくたちに
まつやま 「東山君は絶対に、松山君にはじをかかせようとしてるな。」 わたしはびつくりして、 じきゅうそ、つ 「のぞピ 1 、持久走に出場しないあなたが、どうしてここにいるのよ。」 「わたしの友だちで、ぜひ、玲ちゃんに話を聞いてもらいたいという子がいるのよ。それで、 玲ちゃんのこと待ってたというわけ。ちょっとだけ、つきあってくんない ? と、わたしのことをおがむ 「それはいいけど : : : 東山が俊にはじをかかせようとしているって、どういうことなのよ。」 並んで歩きながらきくと、のぞピ 1 はみようにうれしそうに笑って、 「東山君って、玲ちゃんに気があるでしよ。だから、玲ちゃんと仲がいい松山君のこと、にく じきゅうそ、つ まつやま いはすなのね。それで、持久走大会で松山君がはじをかけば、東山君は気分がいいと思うわけ。」 すいり と、自分の推理をひろうした。 い ) 、つ 「でも、移動教室のあたりから、二人はすごく仲良くなったみたいだよ。ほら、きもだめしの ノ最後の持久走練習 ひがしやま なら ひがしやま せったい ひがしやまとし 0 なかよ ひがしやま わら なか まつやま
「玲、やめろ。先生が言ったろ。」 ばくが先生の言葉を思い出し、すばやくたしなめた。玲はくちびるをかみしめ、だまった。 いじよう 三人は、それ以上追いうちをかけることなく、またひそひそ話を始めた。 「そんなに一言うんだったら、主事室に行って確かめてみようせ。」 いしまる くろだ しん ていあん 石丸君、黒田君が、自分たちの話が信じられないのは心外だとばかりに提案した。ばくたち のぞ も望むところだ。ぞろぞろとみんなで主事室に移動した。 せいそう 一番若い主事さんの島村さんにきいてみると、「ああ、確かにきのうの清掃時間から昼休み おおかがみ にかけて大鏡を取り外したよ。」と、それがどうしたのという感じで答えた。 せすじ ばくは背筋がぞっとした。玲も同じだったらしい では、きのうの夜、ばくたちが見たのはいったい何だ ? まだ、午前中だというのに、目の 前か真っ暗になった。 がまんしきれなくなったばくと玲は、蘭丸先生を呼びだした。息せききって、きのうの昼に おおかがみ はもう大鏡がなかったことを告げた。 わか しまむら らんまる どう
けいびいん 「さようなら、おやすみなさい」と続けて先生と警備員さんにあいさっして、ばくのうでをぐ しくい引っぱった。 げんかん けいびいん ばくたちは今度は玄関から外に出た。帰りぎわに一階の主事室のおくの畳の部屋、警備員さ しようじ すわ んが休む部屋の障子に、三人の子どもが座っているかげが映っていた。 ちゅうりんじよう ばくと玲は、駐輪場とパチンコ屋の間の道を通って駅前通りに出た。 「玲、いったいどういうことなのさ ? いつまでも玲がだまっているので、とうとうばくは切りだした。 よ 、か′、ちょう 玲は、道路拡張の工事中のフェンスに寄りかかって、ばくをじっと見つめた。 すいり たけかわ 「わたしの推理を一言うよ。・ : ・ : 竹川君たちはお店で万引きした品物を夜、学校にかくしにきて たんだと思う。」 そうか ! そうだったのか。ばくはようやく納得した。それで、やつらの机の中に大量の新 ぶんばうぐ 品の文房具があったんだ。 「でも、どうして学校にかくしに来たんだろうね。」 つづ 探検 なっとく うつ たたみ つくえ たいりよう
当、 A ) 、つゆり・ んの頭はなんなんですか。それにその下品なファッション。ちょっと校長先生、前の佐藤百合 子先生は、すぐに病気になってしまうし、今度の先生はこんな調子だし、本当に子どもたちの ふしんかん 教育のこと考えてらっしやるのでしようか。とても不信感を持ちますわ。」 はなあな ほこさ一 竹川の母親が鼻の穴をふくらまして、矛先を校長先生に向けた。 「何を言ってるんだよ。あんたたちが学校を悪くしてるんだろう。」 ドアのすきまから中をのぞきこみながら、玲がつぶやいた。玲がこんな乱暴な言葉づかいを さんせい するのはいやだったが、 その発言の中身には、ばくは大いに賛成だった。 「おい、そんなところで何やってる。」 しよくいんしつ とっせん、声をかけられた。職員室から出てきた先生が、校長室の中をのぞき見しているば すがた くらの姿におどろいたのだった。 しつもん 「いえ、校長先生に質問があったんですけど、何かお取りこみ中みたいだからまた出直します。」 玲は、とっさにそれだけの言いわけをはっきりとした口調で言った。まったく玲はえらい ばくはとなりでただドギマギしていただけだ。 たけかわ 2 母親たちの訪問 らんば、つ