ニーズはめだたないよう、静かにたんたんと、自分たちの世界で生きていた。 そうぞう これはばくの想像にすぎないが、スティーフはクレプスリーにこはまれたように、ヾ ノンパニーズにも こばまれたのではないだろうか。ハンハニーズは、バンパイアよりもかたくなに昔ながらのおきてにこ だわる。自分たちの世界をかきみだしかねないやっかい者を、わざわざ受けいれるとは思えない いちそく なかま だがスティープは、ある人物のおかげでバンパニーズ一族の仲間人りをはたすことかできた。その人 物とは、つねに世の平和をみだしつつける、デズモンド・タイニ 1 だ。、 テスモンド・タイニーは、「ミ スター・タイニーとよばれることが多いのでびんとこないが、名前をデスとちぢめ、名字とくつつけ ると、ミスター・デス・タイニ ミスター・デスタイニ ・「ミスター・デスティニー」となる。 そこし ふじみ ミスター・タイニーは、底知れぬ力を持った男だ。不死身と言われ、ありとあらゆる手を使って世の中 さず をかきみだす。数百年前、ミスター・タイニーはバンパニーズに、あるひつぎを授けた。そのひつぎの 綉お 中にだれかが横たわると、ひつぎが炎でいつばいになり、たちまちその者を焼いてしまう。しかしいっ むきず よげん の日か、ひつぎの中に横たわっても無傷で出てくる者があらわれると、ミスター・タイニーは予言した。 しト - らい その人物こそが将来のバンパニーズ大王であり、バンパニーズ一族はひとり残らず大王につきしたがわ なければならない。ヾ ノンパニーズ大王につきしたがえば、バンパニーズ一族はこの世を思うままに動か せる。だがしたがわなければ、バンパニーズ一族はほろびてしまう ミスター・タイニーは、バン、 しず のこ
になれば、心おきなく楽しめるぞ ! 」 ばくは、ミスター・タイニーを見つめた。吐きそうだ。めまいがする。あまりのことに、頭がついて いかない。ミスタ 1 ・タイニーの一言うことがほんとうならば、ばくの人生はまがいものでしかない くは、ダレン・シャンという人間ではなかった。ミスター・タイニーの駒として、爆発するときを待っ ていただけだ。ま 。くがハンハイアの血をそそがれたのは、人間よりも長く生き、ミスター・タイニーの やぼう じっげん しノぶ 野望をできるだけ多く実現するため。スティープと戦ってきたのは、勝負をつけ、弱いほうがこの世か さいきさつかいぶつ いちぞく かぞく ら消え、強いほうが最強の怪物として生まれかわるため。バンパイア一族や、家族や、友だちのために なることは、なにもしていない。ばくがしてきたことは、すべてミスター・タイニーのため しか やみていおう どくさいしゃ もばくは、スティープとの戦いに勝ってしまった。これからは闇の帝王という独裁者になり、さからう ものをかたつばしからたおすことになる。いくらいやだと思っても、どうしようもない。それが、ばく うんめい の運命なのだ。 そのとき、スティープが苦しげにうめく声がした。 「ち、ち、父上 : : : 」 スティープが血を吐き、ばくにおさえつけられていない右手をミスタ 1 ・タイニ 1 のほうへのばした。 「父上、お : : : お助けを」 たたか こま ばくはっ 164
スティープの目に、絶望の色がうかぶ。見ていて、いたいたしいほどだ。スティープは子どものころ、 きず ばくにうらぎられたと思いこみ、傷ついた。さらにおとなになったいま、父親にあざわらわれ、見すて られた。スティープは、かんせんにうちのめされた。いままでスティープの心は、にくしみでいつばい だった。しかし死を目前にしたいまは、絶望しかない き・ほう だが苦しむスティーフを見るうちに、ばくは「希望ーを見いだした。ミスター・タイニーはうちょう てんになり、あまりにも早く、あまりにも多くのことを明かしすぎた。おかげで、ばっと、ある考えが じさつほう ひらめいたのだ。ばくは頭をフル回転して、いろいろな情報を、ひとつひとつ、つなげていった。ミス しカ やみ ター・タイニーが明かした意外な真実と、それを知ったエバンナの怒り 。ばくかスティーフか闇の みらい うんめい 帝王となる未来を作ったのは父上だと、エバンナはミスター・タイニ 1 をなじった。父上は運命の道を ねじまげ、ゆがんだ世界を作るためにおきてをやぶった。あげくに、その世界を闇の帝王となったばく しはい と支配する気でいる と、タイニ 1 を責めた。闇の帝王について、エバンナとミスタ 1 ・トールは以 ぜん たんじさっ 前、ばくにこう言った。なにがあろうと闇の帝王はせったいに誕生する、それがさけられぬ運命なのだ、 と。でも、それはちがう。闇の帝王は、あくまでも、ミスター・タイニーが思いえがく未来だ。たしか ぜったいてきそんぎい にミスタ 1 ・タイニーは、この世でいちばん力のある人物だろう。でも、絶対的な存在ではない。 ター・タイニーが作りあげた未来を、ほかの者がこわせないはすがない ていおう つく ぜっぽう いがいしんじっ かいてん 166
一時間ほど歩いたところで、トンネルが終わった。いよいよ、ミスタ 1 ・タイニーのとりでだ。ミス しよっじきいがい せんじさっこんらん ター・タイニーにとりでかあるとは、正直意外だった。ミスタ 1 ・タイニーは血の流れる戦場や混乱し くにぐに た国々をさがし、世界中をさまよいあるいているのだとばかり思っていた。でも考えてみればたしかに、 かいぶつ かいぶつ ふしぎ どんな怪物にもねじろは必要だ。怪物のねじろの中でも、ミスター・タイニーのねじろは世にも不思議 な場所にちがいない ミスター・タイニーのねじろは、大きなほらあなだった。大きいのなんの、すさまじい広さだ ! 何 はば しぜん キロもの幅があるほらあなが、見わたすかぎり続いている。あなそのものは、自然にできたものらしい てんじ、 - しさつにゆう′一う 石が天井からつららのようにたれさがり、地面からもたけのこのようにのびていて、鍾乳洞そっくりだ。 たき 滝もあれば、かわった色や形の美しい岩もある。ただしほらあなの中におさめてあるものは、かなり不 しぜん 自然だった。 なんだい 頭上には、年代物のクラシックカーが何台もういている。一九二〇、三〇年代の車か。ワイヤーで天 第十六章タイニ 1 のとりで ねんだいもの ひつよう なか
「おまえのもの ? まさか。ダリウスのむは、おまえのものなんかじゃなかった。おまえはただ、ダ丿 ウスをだまして手なずけただけだ」 スティ 1 プはなにか言いかけたが、ふいに顔をしかめ、いらいらと首をふった。 「くそっ、どうでもゝ しいガキなんざ、どうでも : 。ガキと母親のことは、あとだ。そろそろ、お楽 よげん しみといこうぜ。予言のことは、知ってるよな」 と、ミスター・タイニーのほうを見る。ミスター・タイニーは、炎をあげるテントやトレーラーをな がめわたし、こちらを見ようともしない スティーフが、続けた。 きず 「おまえらがおれをやるか、それとも、おれがおまえらのどちらかをやるか。いずれにしろそれで、傷 ものり」けっちア、 ある者の戦は決着がつく」 げんすい な ハンチャ元帥が、鼻を鳴らした。 「ミスタ 1 ・タイニーの予言が当たってるならな。うそをついてるのかもしれねえぞ」 スティープが、まゆをひそめた。 「ミスタ 1 ・タイニーを、信じないのか ? ああ、とバンチャ元帥がうなずいた。 109 ー第 8 章攻撃開始
けるたくらみだとしたら ? ミスター・タイニーとぐるになっているとしたら ? に命じられてやっているのだとしたら ? なにもかもが、あやしい ちゅうこくむし しかし、ほかにどうすればいい ? エバンナの忠告を無視し、池に人るのをこばんで立ちさるか ? かいぶつ たとえミスタ 1 ・タイニ 1 がすなおに逃がしてくれ、トンネルのかべにいた怪物たちにつかまらずにす せいれいみずつみ んだとしても、その先どうなる ? 竜がひしめく世界でくらしたあげく、死んだら精霊の湖にもどるだ いちばち なんて、考えただけでぞっとする ! こうなったら、一か八かで飛びこんで、うまくいくよう祈るしか ばくは、しぶしぶうなずいた。 じさつけん 「わかったよ。でもひとつだけ、条件がある」 ミスター・タイニーかすごんだ。 たちば と の 「条件など言える立場かー イ わかってますよ、とばくは続けた。 タ きおくのこ 1 キャットのよ一つ 「一言うだけ言わせてください。記憶を残しておいてくれるなら、飛びこみますよ。 章 第 にはなりたくない。自分がほんとうはだれかわすれてしまって、自分の意志がなく、あんたの言いなり きおく になるのはごめんだ。ばくをリトル・ピ 1 プルにして、なにをさせたいのかわかりませんが、記億のな ミスター・タイニ
しせん いま、ミスター・タイニ 1 の視線は、スティープにそそがれている。死を前にしたスティープをあざ ぜっぽう まんぞく わらい、絶望と悲しみにうちひしがれたスティープを満足げに見ている。エバンナは、下を向いていた。 はかいあくじ この しかたないと、あきらめたのだ。でも、ばくはあきらめない ミスター・タイニーから破壊と悪事を好 せいかく わるぢえ む匪格を受けついだのなら、悪知恵も受けついだはずだ。ミスター・タイニーが思いえがく荒れはてた 未来をこわすためなら、なんでもする。 ばくは少しずつ、そろそろと、おさえつけていたスティープの左手をはなした。いまなら、ばくを左 手のナイフで刺せる。さっきはばくをしとめそこねたが、この体勢からなら、失敗するわけがない かる ゝ。まくはわざと軽くせきをして、スティー でも、スティープは動かなかった。絶望のあまり気づかなし。 プの左そでをひつばった。ミスター・タイニーに見つかったら、それまでだ。でもミスター・タイニー かのうせい はすっかり院に人り、ゆだんしている。自分のもくろみが失敗する可能性など、万に一つも考えていなち いはすた。 スティープか、ちらりと下を見た。やっと、左手が自由になったと気づいてくれた。チャンスだ。ス命 ティーフが、ナイフをきつくにぎりしめる だか、ふっと力をぬいた。死んでしまったのか、いや、章 ぎもん まだ生きている。スティ 1 プかためらったのは、疑問がわいてきたからだろう。スティープは、これま第 いぼきさつだい でずっとばくをにくんで生きてきた。しかしいまになって、ばくが異母兄弟だったと知った。心がおお えっ たいせい しつばい まんひと
お いく。スティープが目を血走らせ、起きあがった。 と、スティ 1 プの体をまたぎ、なにもせずにはなれて たたか わけがわからず、ばうぜんとしている。ガネンが手をかして、スティープを立たせた。まわりでは戦い か続いているが、ガネンとスティープにはだれも目をくれない げんすいかた ばくはバンチャ元帥の肩に手をおいて、言った。 「見ろよ」 はるか先の右がわで、ミスター・タイニーが、スティープとガネンを見つめていた。右手ににぎりし しんぞう めた心臓の形の時計が、赤くかがやいている。となりに立っエバンナの顔も、てらされて赤くそまって スティーフとガネンは、ミスター・タイニーに助けられたことに気づいただろうか ? ふたりともチ ャンスとはかりに、ゲートにかけこんだ。 に 逃げたふたりを、ミスター・タイニーはだまって見送り、バンチャ元帥とばくを見てにやりとした。 こと・は 時計のかかやきが、うせていく。ミスター・タイニーが、わずかにくちびるを動かした。言葉がとどく きより 距離ではない。でもばくらには、すぐとなりで言われたように、はっきりと聞こえた。 しよくん 「諸君、いよいよだ ! 」 なかま ばくは声をはりあげ、仲間の名をよんだ。 リ 0
み ちを信じて、父上に身をゆだねるかい ? 「信じるよ、あんたのことなら」 ばくはエバンナに答え、ミスタ 1 ・タイニーをうたがわしげに見オ むすこ 「ああ、わが息子よ、なんと悲しいことを一『一口うのだ」 ミスター・タイニーが、わざとつらそうな顔をした。と、ふいに声をあげて笑い、ばくとエバンナに っげた。 「ぐずぐずするな。やるのか、やらないのか ? エバンナよ、これだけは言っておく。わたしは、ダレ やくそく ンにリトル・ピ 1 プルになるよう持ちかけた。これで、おまえとの約束は守ったぞ。ダレンがおまえの ちゅうこく 忠告にしたがわないなら、それまでだ。おまえには、きちんと約束を守ってもらう」 めい エバンナが、どうする、と言いたげにばくをのぞきこんだ。飛びこめと、ばくに命じるつもりはない いた らしい。ばくは、じっくりと考えてみた。リトル・ピープルになるのはいやだ。痛みかこわいというよ り、ミスタ 1 ・タイニーの手下になるのがいやなのだ。それに、エバンナがうそをついていたらどうす りゅう る ? エバンナを信じると答えはしたが、よく考えると、エバンナを信用する理由などこれつばっちも これまでエバンナは、父親であるミスタ 1 ・タイニ 1 を一度もうらぎったことがない。ほかのだ かたい れかに肩入れしたこともないなのになぜとっせん、ばくのため、などと言うのか ? ばくをわなにか わら 2 ろ 6
ミスター・タイニ ーになど、なにがあろうと、ぜったい会いたくない ! かかった。なぜ会わなければならないのか ? なんのために会うのか ? いじよう こわい 知ったいまは、これまで以上にミスター・タイニーがにくい ばくは、大声でうったえた。 せいはんたい 「あいつが地球のおもてにいるなら、正反対のうらに行く , 「ああ、そうだろうとも。でもねえ、いくらいやでも会わなきゃならないのさ」 せいれい、つみ 「あんた、あいつに言われてここに来たのか ? ばくを精霊の湖から引きあげろって言われたのか ? 引きあげて、つれてこいって言われたのか ? ばくの人生を、まためちゃくちゃにするために ? 」 「会えばわかるさ」 エバンナが、そっけなく答えた。い 第 + 五章エバンナの子 まのばくは、だまってしたがうしかない。したがわなかったら、 うちゅう 行けるものなら、ちがう宇宙にだって行 ばくは、エバンナに食って ほんし 4 ノ ミスター・タイニーの本性を 207 ー第 15 章、バンナの子