怪物 - みる会図書館


検索対象: 運命の息子
21件見つかりました。

1. 運命の息子

ちさつわらだいあい こうふく 「人間どもはおもしろみがかけてきたとは思わんか ? 平和、幸福、世界との調和、兄弟愛 : : : そんな だんけっ せんそう もの、なにが楽しい ? おもしろい戦争やいがみあいがなくなったわけではないが、人間どもは団結す ふへいふまん るようになってきた。わたしは、わたしなりに力をつくした。国と国をあおって戦わせたり、不平不満 の種をあちこちにまいた。おおぜいではないが、暴君といわれる人物が世界をゆるがす地位につくよう、 はめっすんぜんお しむけたこともある。そうした暴君たちが、世界を破滅寸前に追いこんでくれると信じていた。 ヤ」ま いくら国と国がいがみあっても、わたしの駒たちがいくらこの世をかきみだしても、 ところがた ! 人間どもはじわじわとおりあいをつけ、平和をめざしてしまう。だからわたしは腹をくくったのだ。思 しゆだん いきった手段をとるしかない。人間どうしがいがみあう、古き良き時代をとりもどすためには、それし じさったい こんらん ほんらい かないとな。わたしは、この世を本来あるべき混乱した美しき状態にもどしただけなのだ。だから、罰 ねが せられることなどない。願わくば : : : 」 「うるさい ばくは、どなった。ミスター・タイニーもエハンナも、おどろいたようだ。 かいぶつ ただの怪物だ , 「ぜんぶ、でたらめだ ! あんたは、父親じゃないー ばくのさけびに、ミスタ 1 ・タイニーが顔をかがやかせた かいぶつ あん むすこ かいぶつ 「それを言うなら、おまえもだ。おまえも、じきに怪物になる。だが息子よ、案ずることはない。怪物 たね 阜ほうくん よ たたか はら 16 ろー第 13 章運命の子どもたち

2. 運命の息子

エバンナのいう怪物たちを、ばくはどう受けとめたらいいのか ? エバンナはこれまで一度として、 ばノ、はと士小」 そんな話などしなかったのに い、ばくの頭からはなれないもうひとつの怪物のこと に、・古をもどした。 やみ 「あんた、ばくが闇の帝王になるかもしれないって言ったけど、まちがってるよ。ばくは、そんな怪物 じゃない」 うんめい カ いっしん よげん ばくは運命を変えたい一心で、エバンナの予言をうちけした。 いた たがエバンナは、痛いところをついてきた。 さ 「おや、ダリウスがおいっ子だとスティープが明かさなかったら、おまえ、ダリウスを刺してたんじゃ ないのかい」 いか たしかに あのとき、目の前でシャンカスをころされて、ばくはにくしみと怒りで、はらわたが かんけい ぜんあく にえくりかえった。あのときのばくは、スティープとそっくりだった。善も悪も、関係ない。スティー さ むすこ みらい きず プの息子を刺すことで、スティ 1 プを傷つけてやるという思いしかなかった。あのとき、ばくは未来の 自分のすがたをかいま見た。怪物としての自分のすがたを でも、ああなるとは思いたくない しんじっ べんかい ばくは真実から目をそむけようと、やっきになって弁解した。 「あのときは、シャンカスのかたきをとりたかっただけだ。手に負えない怪物になったわけじゃない 0 0 お ろ 9 ー第 2 章家、

3. 運命の息子

ねん くに念をおした。 「もぐったら、そばにいておくれ。ぜったい、はぐれるんじゃないよ」 「はぐれたら、ミスター・タイニーにやられるのか ? かいぶつ 「こんなことを言っても信じられないだろうけど、世の中には父上よりはるかにおぞましい怪物たちが いるんだよ。その怪物たちのそばを、これから通る。怪物たちにつかまっちまったら、精霊の湖での長 い苦しみなんて、海岸でひなたばっこしているようなものに感じるはずだよ たしかに信じられないか、エバンナのおどしは本気だ。ばくは、エバンナにはりつくようにして、 かくど っしょにトンネルに人った。トンネルは、三十度ぐらいの角度でくだっていく。ゆかもかべもつるつる で、かたい岩のようなものでできている。そのかべの表面で、なにかがうようよとうごめいていた。人 かげ 間ではないゆがんだもの、長くのびた影のようなものがいる。つめや歯、長いうでが見える。その前を っ 通りすぎたら、かべがそこだけ飛びだして、ぐっとせまってきた。閉じこめられた「なにか」が、い せいにばくらをつかまえようとする。でも、かべをつきやぶれるものはなかった。 「なんだ、あれは ? 」 こえ きさっふ ばくは、声をしばりだした。暑さに恐怖がくわわって、汗がふきだす。 せいだい かいぶつ 「この世を盛大にかきみだす生きものさ。さっき話しただろ。あれが、おぞましい怪物たちだよ。父上 あっ あせ 211 ー第 15 章工 , ヾンナの子

4. 運命の息子

なかま かいぶつ の仲間さ。もっとも父上は、あの怪物たちほど強くないけどねえ。あの怪物たちは、さだめのカで : いどう そう、父上とあたしがしたがってきた天のさだめのカでここに閉じこめられ、時間を移動することがで きない。万が一、あたしと父上がさだめをやぶるようなことをしたら、この怪物たちが飛びたしてきて、 すかって じごくか はかい この世を好き勝手にかきみだし、地獄に変えちまう。なにもかも破壊しつくすんだよ。あらゆる時間が えいえん おかされ、生きとし生けるものが苦しめられる。しかも永遠にね ばくは、なるほど、と一つなすいた むすこ 「だからあんたは、ばくがミスター・タイニーの息子だとわかったとき、おこったのか。あいつが、そ のさだめをやぶったと思って 「そうさ。あたしの思いちかいだったけど、父上はすれすれのことをしたんだよ。そもそも父上は、自 分のたくらみがうまくいくかどうか、自信はなかったんじゃないかねえ。あたしとハイハーニアスは、 父上にさためのことを教えられて、かたくなに守ってきた。でも、もしおまえたちが父上からまちがっ ひつよういじさっ て必要以上の力を受けついでしまったら、知らず知らすのうちにおきてをやぶり、このだいじな世界を はかい みらい うんめい 破壊してしまうおそれがあった。おまえたちはおきてを知らないから、未来を見通し、運命を変えるよ うに動くことで、知らず知らずのうちにおきてをやぶってしまうかもしれないだろ。そんなことをした ら、あたしたちがだいじに守ってきた世界は、なにもかもぶちこわしだ」 まんいち 2 12

5. 運命の息子

かたほうは茶色、かたほうは緑色の目で、エバンナがきよとんとしてばくを見る。 ばくは、思わず声をとがらせた。 「あんた、知ってたんだろ。こうなるって。先に教えてくれれば、シャンカスは死なずにすんだのに」 だが、エバンナにびしやりとはねつけられた。 せ おまえだって、 「やめとくれ。なんでおまえたちは、なんどもなんども、おなじことで責めるんだい ? うんめい か みらい わかってるだろ。あたしには未来を見通す力があるけど、この手で運命を変えることはゆるされないっ しっさいできないんだよ。あたしも、弟もね て。運命を変えるようなまねは、ゝ 「なんでだよ ? あんた、いつも一一一口うよな。運命を変えたら、とんでもないことになるって。とんでも あくま ないことって、なんだよ ? いたいけな子どもをみすみす悪魔にころさせるより、もっとひどいことが あるのかよ ? エバンナはすぐには答えず、間をおいて、ひそひそと、ばくにだけ聞こえるようにささやいた じゃあくかいぶつ やみていおう 「この世には、スティープ・レナードよりも、いや、スティープどころか闇の帝王よりも邪悪な怪物た へ げんじっ ~ 冢 ちがいるんだよ。おまえとスティープ、どちらが闇の帝王になるとしてもねえ。その怪物たちは、現実 章 むげん の世界の向こうにある、無限の世界に閉じこめられてる。こちらからは向こうは見えないけど、向こう第 はつねにこっちを見てる。つねに腹をすかし、すぐにでも飛びだそうとしてる。 さき

6. 運命の息子

れきし あたしはねえ、人類の歴史よりも古いさだめにしばられてるんだよ。ハイハーニアスもそうだし、父 げんぎい 上だって、あたしたちよりは力があるけど、やはりしばられてる。もしあたしが現在の世界をいじくっ よけん みらいすかって て、予見した未来を好き勝手に変えようとしたら、そのさだめをやぶることになる。そんなことをした かいぶつ みらいえいごう さつりく ら、怪物たちがこの世に飛びだしてくる。未来永劫、血で血をあらう殺戮がくりひろげられ、この世は じごくか 地獄と化しちまうんだよ こた ばくは、ふてくされて答えた。 「もう、地獄じゃないか エバンナが、うなすいた。 「ああ、おまえにとってはねえ。でも、ほかのおおぜいの者にとっては、地獄じゃない。ダレン、おま え、ほかの者たちもおなじ目にあわせたいのかい ? 自分よりひどい目にあわせてもいいのかい ? 「いいわけ、ないだろ。でも、あんた、言ったじゃないか。どうせ、みんなつらい目にあうって。闇の ていおう 帝王は、人間をほろばすんだろ きぼうめ 「ああ、闇の帝王は、人間をたたきのめすさ。でも、根だやしにするわけじゃない。希望の芽は、残る。 ふつかっ はるか先の話になるけど、人間が復活する望みがないわけじゃない。でも、あたしがみようなちょっか じゃあくかいぶつ こと・は いを出して、邪悪な怪物たちを解きはなしちまったら、希望なんて言葉はどこかにふっとんじまうさ じんるい のぞ やみ のこ

7. 運命の息子

一時間ほど歩いたところで、トンネルが終わった。いよいよ、ミスタ 1 ・タイニーのとりでだ。ミス しよっじきいがい せんじさっこんらん ター・タイニーにとりでかあるとは、正直意外だった。ミスタ 1 ・タイニーは血の流れる戦場や混乱し くにぐに た国々をさがし、世界中をさまよいあるいているのだとばかり思っていた。でも考えてみればたしかに、 かいぶつ かいぶつ ふしぎ どんな怪物にもねじろは必要だ。怪物のねじろの中でも、ミスター・タイニーのねじろは世にも不思議 な場所にちがいない ミスター・タイニーのねじろは、大きなほらあなだった。大きいのなんの、すさまじい広さだ ! 何 はば しぜん キロもの幅があるほらあなが、見わたすかぎり続いている。あなそのものは、自然にできたものらしい てんじ、 - しさつにゆう′一う 石が天井からつららのようにたれさがり、地面からもたけのこのようにのびていて、鍾乳洞そっくりだ。 たき 滝もあれば、かわった色や形の美しい岩もある。ただしほらあなの中におさめてあるものは、かなり不 しぜん 自然だった。 なんだい 頭上には、年代物のクラシックカーが何台もういている。一九二〇、三〇年代の車か。ワイヤーで天 第十六章タイニ 1 のとりで ねんだいもの ひつよう なか

8. 運命の息子

「じつはねえ、もうここに子どもかいるんだよ」 「ええっ ! でも、むりやりうませることはできないって : : : 」 「ああ、そうだよ 「でも、うんだら : ・・ : 」 「ああ、そうさ 「でも : : : 」 「いいから、おだまり ! 言われなくても、わかってるさ 「じゃあ、どうしてフ ひめい ばくは、よ鳴をあけた。 せつめい かいぶつ エバンナが、説明しようと足を止めた。とたんに、かべの中にいる怪物たちがせまってきた。あらい 息の音や、うなり声がする。つめやうでで内がわからかべをぐーっとおし、こっちに向かってくる。そ のようすにエバンナが気づき、すたすたと歩きながら説明を続けた。 たまレい 「あたしはね、父上に、ダレンの魂を助けてやってくれとたのんだ。おまえさんは罪の意識にさいなま せいれい - 挙ろみ えいえん れていたから、精霊の湖につかまっちまった。そのまま永遠に出られないはずだった。いったんあの湖 じりき たにんすく に閉じこめられたら、自力では出られない。でも、他人が救いだすことならできる。魂を引きあげるこ つみ いしき 2 2 0

9. 運命の息子

けるたくらみだとしたら ? ミスター・タイニーとぐるになっているとしたら ? に命じられてやっているのだとしたら ? なにもかもが、あやしい ちゅうこくむし しかし、ほかにどうすればいい ? エバンナの忠告を無視し、池に人るのをこばんで立ちさるか ? かいぶつ たとえミスタ 1 ・タイニ 1 がすなおに逃がしてくれ、トンネルのかべにいた怪物たちにつかまらずにす せいれいみずつみ んだとしても、その先どうなる ? 竜がひしめく世界でくらしたあげく、死んだら精霊の湖にもどるだ いちばち なんて、考えただけでぞっとする ! こうなったら、一か八かで飛びこんで、うまくいくよう祈るしか ばくは、しぶしぶうなずいた。 じさつけん 「わかったよ。でもひとつだけ、条件がある」 ミスター・タイニーかすごんだ。 たちば と の 「条件など言える立場かー イ わかってますよ、とばくは続けた。 タ きおくのこ 1 キャットのよ一つ 「一言うだけ言わせてください。記憶を残しておいてくれるなら、飛びこみますよ。 章 第 にはなりたくない。自分がほんとうはだれかわすれてしまって、自分の意志がなく、あんたの言いなり きおく になるのはごめんだ。ばくをリトル・ピ 1 プルにして、なにをさせたいのかわかりませんが、記億のな ミスター・タイニ

10. 運命の息子

けつか あたしの番さ。あたしは新しい命をうむことで、あたしの力を使う。その結果どうなるかは、時間がた たないとわからない。でも、これだけはたしかだよ。あたしたちが切りひらこうとしている未来は、父 上が作ろうとしている未来より、ぜったいにましさ 「ああ、そうだとも ! 」 ばくは考えごとをしながら、だまってエバンナについていった。未来は、どうなるのだろう ? 思い もよらないことや、意外なことがおこるのか ? しろいろな考えが、つぎからつぎへとうかんでくる。 りかい あまりにもたくさんのことを、いっぺんに理解しなければならず、なにがなんだかわからなくて、頭が ふたご しさったい はちきれそうだ。それでもひとつだけ、たしかなことがある。エバンナの双子の正体を知ったら、ミス いか ター・タイニーは怒りくるうにちがいない 1 そうぞう そのとき、ミスター・タイニーはどんな顔をするだろう ? 想像したら、ふきだしてしまった。エバ ンナもふきだし、ふたりでひとしきり笑いあった。ばくとエバンナの笑い声が、鳥のさえずりのように かいぶつ かろ トンネルでひびく。その軽やかな声は、ばくらをつかまえようとかべの中でうごめく怪物たちへの魔除 じゅもん けの呪文のようだった。 わら 225 ー第 15 章エバンナの子