エバンナのいう怪物たちを、ばくはどう受けとめたらいいのか ? エバンナはこれまで一度として、 ばノ、はと士小」 そんな話などしなかったのに い、ばくの頭からはなれないもうひとつの怪物のこと に、・古をもどした。 やみ 「あんた、ばくが闇の帝王になるかもしれないって言ったけど、まちがってるよ。ばくは、そんな怪物 じゃない」 うんめい カ いっしん よげん ばくは運命を変えたい一心で、エバンナの予言をうちけした。 いた たがエバンナは、痛いところをついてきた。 さ 「おや、ダリウスがおいっ子だとスティープが明かさなかったら、おまえ、ダリウスを刺してたんじゃ ないのかい」 いか たしかに あのとき、目の前でシャンカスをころされて、ばくはにくしみと怒りで、はらわたが かんけい ぜんあく にえくりかえった。あのときのばくは、スティープとそっくりだった。善も悪も、関係ない。スティー さ むすこ みらい きず プの息子を刺すことで、スティ 1 プを傷つけてやるという思いしかなかった。あのとき、ばくは未来の 自分のすがたをかいま見た。怪物としての自分のすがたを でも、ああなるとは思いたくない しんじっ べんかい ばくは真実から目をそむけようと、やっきになって弁解した。 「あのときは、シャンカスのかたきをとりたかっただけだ。手に負えない怪物になったわけじゃない 0 0 お ろ 9 ー第 2 章家、
ミスター・タイニ 1 は、鼻で笑った。 「ふん、なぜ助けるのだ ? 」 いまのスティープは、声をしばりだすのがやっとだ。それでも、けんめいにうったえた。 いちども : ・・ : 持ったことがない。父上である : ・・ : あなたを : ・・ : 知り 「おれは : ・・ : 父親というものを : あいじさっ たい。あなたの : : : 言うとおりにして : : : あなたに : : : 愛情を : : : ささげますから : : : 」 たか、ミスター・タイニーは声をあげてあざわらった。 きほんてきかんじさっ 「愛情だと ? そんなもの、このわたしがのぞむと思うか ? 愛情とは、人間のもっとも基本的な感情 ふくじゅう むえん だ。わたしはそんなものとは無縁で、ほんとうによかったと思っている。わたしがほしいのは、服従、 せいれい いか いぞんきさっふ 依存、恐布、にくしみ、怒りといった感情だ。愛情だと ? そんなもの、おまえの魂とともに、精霊の ち 湖に行ってしまえ。精霊の湖でのなぐさめにでもしろ」 むすこ 「でも : : : おれは : : : あなたの : : : 息子ですー 子 の 消えいりそうな声でうったえるスティープを、ミスター・タイニーはせせら笑った。 「ふん、もう息子でもなんでもない。ただの負け犬だ。じきに命もなくなる。おまえの死体など、リト 章 し ) - しゃ ル・ピープルにくれてやるわ。わたしにとっておまえは、そんなものよ。この世は勝者のもの。二位に第 しさつぶ なっても、負けは負けだ。負けたおまえに用はない。勝負がついたいま、わが息子はダレンだけだ」
体のあちこちを杭にひっかかれている。いっ命を落とさないともかぎらない。しかしあまりにもむごい しさっげき 死に衝撃を受け、だれひとりとして動けなかった。 きずお さいわいにもエフラは、ひどい傷を負うことなく、舞台にたどりついた。舞台にあかると、エプラは むすこ 泣き シャンカスのそばにすわりこんだ。息子が生きていないかと、ひっしにあちこちさわりまくり わら くずれた。身もだえしてむせび泣き、死んだ息子の頭をひざに乗せ、二度と笑うことのない息子の顔を 自分の涙でぬらす。ばくらは、はなれたところから見つめることしかできなかった。みんな、声をあげ て泣いた。ふだんなら涙などぜったい見せないアリスも、泣いていた。 まいなカ やがてハーキャットが杭をおしのけながら、あなを通りぬけた。そして舞台においてあった一枚の長 い板をバンチャ元帥とふたりであなの上にわたし、ばくらが舞台に行けるようにしてくれた。でも、行 きたいなどと思う者はいない。長いこと、だれも動かなかった。ようやくデビーがしやくりあげて泣き ながら、ふらふらと板のところに行き、あなをわたりだした。 デビーに続いてアリスが板に乗り、そのあとにばくか続いた。体が、どうしようもなくふるえる。こ ひとじちこうかん こから、逃げだしてしまいたい。万が一、人質交換という計画が失敗して、シャンカスがスティープに やられたらどう感じるか。自分では、わかっているつもりだった。でも、なにもわかっていなかった。 いくらスティープでもシャンカスの命をうばうようなまねはしないだろうと、たかをくくっていたのだ。 いた しつばい 19 ー第 1 章ア = ーの子
ダレン・シャン うんめいむす 運命の息子 Darren Shan 作 橋本恵訳 0
と、ダリウスかまたにくくなってきた。指が、。 ひくっと動く。この指で、ダリウスの首をひつつかみ、 ひと思いに だがすぐに、ばくがおじさんだとわかったときのダリウスの顔が、うかんできた。ショックを受け、 こうかい おそれおののき、混乱して、苦しみ、はげしく後海する顔ーーー。ダリウスへのにくしみが、すっと消え ないしん ダリウスが板をわたりきり、まっすぐ近づいてきた。内心ではびくびくしているのだろうが、そんな 気配はおくびにも出さない。ダリウスが、立ちどまった。バンチャ元帥を、アリスを、そして最後にば ばくはある くを見る。あらためてしげしげとながめたら、たしかにばくと似ている。似ているーーー ? ことを思いだし、ダリウスに声をかけた。 「アニーの家で見かけた子と、ちがうな」 せつめい ダリウスが首をかしげたので、説明してやった。 「この町に来てから、自分が生まれ育った家をのぞきに行ったんだ。そのとき、フェンスごしにアニー むすこかえ を見た。せんたくものをとりいれているところだった。そこへ息子が帰ってきて、手伝った。でも、そ きんばっ のときに見た息子は、おまえじゃない。金髪のきれいな、太った子だった」 そのときのことを、ダリウスはすぐに思いだした。 こんらん 25 ー第 1 章ア = ーの子
じゃあく えられないほど邪悪だが、やりかけたことはとことんやりぬく意志の強さがある。こうと決めたら、て こでも動かない。ダリウスもそうだ。 ばくはいすにすわったダリウスの前に腰をおろし、ダリウスの指の先につめをつきたてようとした。 そのとき、アニーがためいきをついてなげいた。 「信じられないわ。ついさっきまで、明日なにを買おうとか、ダリウスが学校から帰るまでにもどらな くちゃとか、そんなことしか考えてなかったのに : 。とっぜん、死んだはずのお兄ちゃんがもどって きて、しかもバンパイアだなんて言いだした。やっとなっとくできたと思ったら、すぐにまた死ぬかも むすこ しれないなんて。息子まで、死んでしまうかもしれないなんて : : : 」 はいご いまにも、やめて、と言いだしそうだ。アリスが背後から歩みより、アニーにそっとっげた。 さつじんき 「息子さんを、人間のまま死なせるほうがいい ? それとも、父親とおなじ殺人鬼として死なせるほう 力いいのかしらフ・ ざんこく こと・は 残酷な言葉だ。でもそのおかげでアニーは、ダリウスがどうなってしまうか考えて、あきらめかつい たらしい。体をはげしくふるわせ、声を出さずに泣きながらはなれていき、ようすを見守った。 りさって ばくはなにも言わす、ダリウスと両手の指先を合わせ、ダリウスのやわらかい指の先に、つめをぜん第 ひめい ぶ、いっきにつきたてた。ダリウスが悲鳴をあげ、すわったままのけぞった。血の出る指をくわえよう こし
ぼう せいしんてき 望をみたしてくれるが、ひとりの人間として自分の意思を持つ者がほしかったのだ。とはいえ、精神的 こゞゝこきそわせることにした。負けたほうには、 にもろくてはこまる。そこでわか子をふたり作り、オカし。 しはいしゃ この世から消えてもらう。負け犬など、どうでもいい。勝ったほうが、この世の支配者となるのだ : : : 」 あいじさっ ミスター・タイニーか、 ばくに向かって左右のうでをのばした。ふざけたしぐさだが、愛清あふれる しぐさに見えなくもない 「さあ、ダレン、わたしをだきしめてくれ。いとしい、わが息子よ ! こ むすこ 160
りそう 、 0 ゝ、、 しここちのいし 、理想の世界にひたるのだ。 」 ( 一クのチケットを手に人れた日から先のことは、考えな。 ぎようぎ むすこ ぼくは、ダレン・シャン。かわいい息子で、やさしい兄。世界一行儀のいい子とは言わないが、手のつ ー、だい ' 、」けられない悪ガキでもない。ママやパパの手伝いをして、ひいひい言いながら宿題をして、テレビを見 。一て、友だちと遊ぶ。あるときは、六歳か七歳。あるときは、十歳か十一歳。半バンパイア時代の自分に 挙かんぜんに背を向け、昔の自分しか見ない。見たくないものには、すべて目をつぶる。スティープは、 えいカ だいしんゅう ほくの大親友「 = いっしょにマンガを読んで、ホラー映画をみて、しようだんを言いあう。妹のアニーは、 でんせつかい むすこ ノンパイアなんて、伝説の怪 越 ( おさない子ども。いつまでも、子どものまま。息子のいる母親ではない。ヾ 一 ~ な ? お要みゼ」こ 物 3 狼男や、ゾンビや、ミイラとおなし。本気にするほうかおかしい しき つみ 子どものころのばくに、もどるのた。ずっと子どものままでいるのだ。罪の意識など、感したくない。 しさっき 。、いままでも正気をうしないかけたが、そのたびに現実に引きもどされてしまった。こんどこそ、おかし こんどこそ、もどりたくない 』〕ぐなってしまいたい。 かこ さあ、過去の世界へ、子どものころの世界へ、かんぜんに行ってしまうのだ。あのころのことは、な せいれいろみ おも 。糸力しところまで、どんどんはっきりしてくる。精霊の湖の 」物 ) ~ にもかもおばえている。思いだすたひこ、田、ゝ たましい 奉を一ことも、、その中にいる魂たちのことも、バンパイアのことも、バンパニースのことも、頭から消えてい しゅんかん くときどき、ふっとわれに返る瞬間があるか、むりやりわすれる。子どもの目で見て、子どもの頭で
「ママ、ほんとうだってば ! 見ればわかるよ。ダレンおじさんは、どんな人間よりカがある。足も速 いんだ。おじさんは : : : 」 そんなダリウスを、 「おだまりー は′、り」ナ、 と、アニーがどなりつけた。あまりの迫力に、さすがのダリウスも口をつぐむ。アニーが、 ろりとにらみつけた。 「この家から、出ていって。うちの息子に、近づかないで。二度と、来ないで」 「でも : : : 」 ぜっき ばくは言いかけたが、アニーに絶叫された。 ダレンだとしても、あたしはみとめない ! 十八年前に、お 「うそよ ! あなた、ダレンじゃない , はか 墓にうめたんだから。ダレンは、死んだ。いまさら、生きかえってほしくない。あなたがダレンだろう 。 ) ゝ 0 ) がなんだろうか、どうでもしし しますぐ、あたしから : : : あたしたちから、はなれてちょうだい ! へ 家 立ちあがり、ドアを指さす。 章 「さあ、出ていって ! 第 ばくは、動かなかった。できることなら、出ていきたい。ダリウスのことがなければ、犬のようにし ばくをぎ はや
「かまわねえよ。あんなガキ、好きでもなんでもねえ。ガリガリにやせた、こむすかしいガキじゃねえ か。血を見るのも飲むのもいやがるし。まあ、じきに、そうも言ってられなくなるがな , くつくっと笑うスティープに、ばくはするどく一一 = ロいかえした。 「さあ、どうだか」 「おれはよ、あいつに血を流しいれたんだ。あいつは、半バンパニーズなんだぜ」 スティープが胸をはる。 ばくは、にやりとして一一一口いかえした。 「いや。いまはちがう。ばくとおなじ半バンパイアだ」 えつ、とスティ 1 プがばくを見つめた。 「おまえ、血を流しいれたのか ? なかま 「ああ。いまのダリウスは、バンパイアの仲間だ。人間の血を、飲みほさなくていし えん むすこ ろ。息子とは思うなって。おまえとは、かんぜんに縁が切れたんた」 スティープが、けわしい顔をした。 「なんてことをしやがる。あいつは、おれのものだったのに」 ばくは、言ってやった。 むね さっき言っただ 108