かお かかりましたが、男は赤くそまった顔でわらうばかり。それはまるでタロットカード あくま の「悪魔」のようでした。 サラの名をよんでルル 1 は、ほうきにのってそとへととびだしました。はるか下に みえる川にむかっておちてゆくサラがみえました。手をのばしてもとどきません よ みなも ルルーの心にふと、きのう夜をあかしていた の水面は、どんどんちかづいてゆき ときに、なにかのはずみでサラがつぶやいたことばがよみがえりました。 「水がこわいの」と、サラはいったのです。 よる ほうろうたみかそく 「放浪の民の家族が死んでしまったあの夜から : : : 水はなっかしくて、すごくこわい むすう サラとルルーをひきこもうとする白い無数の手のように、川のはげしいながれはち みずおと かづいてきます。ながれる水音は、おそろしいけもののさけび声のようです かぜ サラのフクロウのルバが、ひっしにはばたいてついてこようとしていますが、風に ち じよう′、・つ ながされて、上空にまいあがってゆきました。白いはねが散ります。 ( だめだ : : : まにあわない ) ルルーは歯をくいしばりました。このままだとサラも、そしてルル 1 も、川の水面 し 0 0 みなも 179
またずにきまりをやぶって箱をあけるかもしれないしかしそのとき、絵はにせもの にかわっている。だれがかんがえたって絵をすりかえることができたのは、おじであ しちょう る市長のわたしだけだ。 りようしゅ まち きみもそして街の人びとも、それどころか、領主さまみずからが、わたしのことを カカ まち ートさまが、お気にいりの画家がひ せめるだろう。街の人びとに愛されているギルバ ざいさん どい目にあわされたんだからな。わたしはしごとと財産をうしない、そしてどれほど つまむすめ の罪にとわれることかいや、じぶんはどんな目にあってもいいんだ。だが妻と娘が : むすめ ルネーデはかなしみで死んでしまうだろう。あれはそれほどよわい娘なのだから」 しちょう 市長はかなしくわらいました。 あくま むすめ 「つまりわたしは娘のいのちのかわりに、きみのいのちを悪魔の手にわたそうとした というわけだ。、 とんなにひどい目にあわせても、わたしのことをしたいつづけてくれ ていたきみのいのちを 】トはひざますきました。澄んだ瞳はほほえみをうかべていました。 キルバ うすももいろ おじの手をとり、みあげていいました。生きかえったような薄桃色のほおをして つみ ひとみ 171
よるぬま にんげん 「それからずっと、人間がこわい。わたしたちが死んでいくのがわかっていて、夜の沼 にんげん においやった人たちのことがこわいの。どうして人間は、あんなことができるんだろ にんげん ほ - つつつ , っ たみにんげん うって。ええ、わたしをそだててくれた放浪の民も人間だもの、だから人間にはやさし す いところもあるんだって、わかってる。でも : : : あの人たちのことを好きだったぶん にんげん だけ : : : あのやさしかった人たちをころせた人間というものが、おそろしくなるの」 ルルーは、にぎりしめていたてのひらをひろげました。ゅびがきしむようでした。 「わたしだって」と、ルルーはいいました。 にんげん 「人間がこわくなるときはあるわ。きっとほんとうにはわかりあうことはできないか えいえん もしれないと思うもの。わかりあえたかどうかなんて、永遠にわからないことだと思 うし。だって、人の心のなかはみえないもの。でも : ルルーは心のおくにともっているろうそくのほのおをかんじました。ほそばそとし ひかり てはいても、その光は、けっしてきえない光なのでした。 にんげん 「わたしは人間をしんじるってきめたの。いやなことがあっても、きらいだなって思え にんげんぜんたい る人にであったとしても、人間全体をきらいになったりはしないって、きめたのよ」 ひかり し 143
にんげん ルル 1 はうなずきました。魔女だって、むかし、おなじように人間たちからうたが ほうろうたみ いをかけられて、おなじようにきらわれた過去があるのです。放浪の民のーーーーサラと カそく 家族たちのくるしみが、じぶんのことのように思えました。 うでわ サラは、腕輪をなでつづけました。 まち 「 : : : でもわたしたちは、街の人たちから、石をなげられて、こちらへくるなといわ まち のはら れて。そしてある日野原でねているときに、ちかくにあった街の人たちが、おそっ カそく の・つじよう ゆみや てきたの。たいまっとこんばうと弓矢をもって。わたしたち家族が、農場のにわとり をさらったっていって。そんなことはしてなかったのに。わたしたちはまっくらな山 ぬま ばしゃ 、、召こまよいこんだの。それに気 道を馬車にのるひまもなく、にげまどって : : : ふカ ( 、冫 ( カそく づいた街の人たちが、たいまつをふってよろこぶのがとおくにみえたわ。家族は十七 ぬま 人もいたのに : : : 夜があけるまでに、みんな死んでしまった。おばれて、沼にのまれ て。わたしひとりたすかったの。みんながたすけてくれたから。じぶんたちはしずみ ながらも、たすけてくれたから。それからわたしはずっとひとり」 かお サラは、顔をあげました。 みち まち まじよ やま 142
たび 足もとに背おいぶくろがおいてあるところをみると、旅のとちゅうなのでしようか ? たび ほうろうたみ でも、放浪の民ならば、ひとり旅などしないものだと、ルル 1 はずっとまえに、死ん だお姉さんからきいていました。 「気のどくにあの人たちは、むかしから、街や村にすむ人たちから、あまりよく思わ れていなくて、ひとりでいるといじめられたりするの」 そんなふうに、お姉さんはいいました。そのときルルーは、魔女がきらわれている のとにているな、かわいそうな人たちだなと思ったのです。 さいノ、 おんがく 音楽をかなで、おどりをおどり、細工ものをつくり、うらないや動物のせわをしな 、つしようたび ほうろうたみ のはら がら、一生を旅のなかでくらすという放浪の民。ひろい野原や森を愛し、空の下でね むる人びと まちむら その日ぐらしではあっても、まずしくても、ほがらかに生きるその人たちは、街や村 あくま にすむ人びとからあやしまれ、どろばうをするとうたがいをかけられて、「悪魔となか よしだ」とか「人の子をさらっていって食べるらしい」とか、根も葉もないひどいう じだい わさをされることもあるのでした。おなじようなうわさを、魔女もされた時代があり ねえ ねえ まちむら まじよ どうぶつ
さんめいよ かのうせ ( 産と名誉のすべてをうしなう可能性があるということにやっと気づいたんだ。 と・つじ ート、同時に、おまえがいとしかったから わたしはこわかった。そして : : : ギルバ こそ、おまえをみるのがつらくなったんだ。わたしをうたがいもしない、湖のように す 澄んだ心のおまえといっしょにいるのがたまらなくなった。だから」 べっそう 「ばくを、あの別荘に : し いやそれだけではない。 「そうだ。 きみがしらぬまに死んでいてくれたらと思っ たんだ。湖におちて。ひどいかぜをひいて。あるいは孤独のせいで。だからあえて、 ハラケのような男をそばづかえとしてつけたんだ。きみの目がなおるのがこわかった あくじ んだよ。まずなおるまいとは思ったが、きみの目がなおってしまえば、そのとき悪事 はばれてしまうのだからね。きみなら空の絵がにせものだとみやぶってしまうから。 りようしゅ やしき しろ そんなとき、 ハラケが屋敷に報告にきた。領主さまの城からきみにむかえの騎士さ まじよ まがきたと。そして、魔女さままでが目をなおすために別荘にきたと。 わたしがどれほどこわかったかわかるかね ? もうだめだと思ったよ。きみの目が え す なおる、いっかきみは絵の箱をあけるだろう、いや絵が好きなきみは、つぎの夏至を え え べっそう 170
あさ こんや 「父さんも母さんもね、どのみちあすの朝になれば、お城にいくんだから、今夜ばた ートさまをとめようとしたんだ。い くらここからお ばたうごくことはないってギルバ やしき 屋敷まではちかいっていっても、あんなこわい強盗がねらってるんだもの。でも、ギ やしき レヾ ートさまは屋敷にいくつもりなんだ。 : すなおによろこんでらっしやるんだよ だいす ヾレヾ ートさまは、さいころにかわいがってもらってたおじさんのことが、大好き みずみべっそう なんだ。 : でも、湖の別荘におしこめられてから、おじさんからつめたくされるば かりで、あってももらってなかったから : : : やっと、やさしくしてもらえるって思っ て : : : それで、なみだがでるくらいうれしいみたいなんだよ」 ジャンはヘやのなかをうろうろしていましたが、やがて、ためいきをつきました。 こうと , っ 「 : : : でも、これでよかったのかな ? そりや、強盗におそわれたって大事件だもの、 : おじさんもやっとギルバ ートさまをしんばいする気になったのかもしれない しちょう し あの市長さん、いままでギルバ ートさまがひとりきりのあの別荘で、死にそうにた ねっ かい熱をだしても、みまいにもこなかったような人なんだけど : ・ : なんてやつだと にんげん はんせい 思ってたんだけど、でも、人間の心はもっていたんだね。やっと反省したんだね」 ご - っと - っ しろ べっそう だいじけん 0 148
「″放浪の民のおかげ〃って、どういうことなの ? ジャンは、足のほうたいをなでながら、ゆっくりといいました。 ートさまのひいひいおじいさまが、わかいころ、もともとの国をは 「むかし、ギルバ たび なれられて旅にでた八十年もまえのことなんだけど、夜のくらい山道で馬が足をふみ はずして、がけからおちたんだってさ。気がつくとあたりはまっくらで、なんにもみ えないし、ひどいけがもしている。馬は死んでしまっている。たすけをもとめてもだ れもこないそこにどこからともなくふっと小さな放浪の民の女の子があらわれたん だって。そうしてずっとそばにいてくれた。なにを話したわけでもないんだけど、 、つしょにいてくれたんだって。夜があけたら女の子はいなくなってしまった。 でも、女の子はひいひいおじいさまのために、がけの上にあがれるように、草をあ んでロ 1 プをつくっていてくれてた。そうしてひいひいおじいさまのけがには、い やくそう のまにか薬草で手あてがしてあって、もうきずはいたくなくなってたんだって。ひい かんしゃ ひいおじいさまは、女の子に感謝しながら上の道へとのばった。そしたらちょうど、 お日さまがのばってきたところで、空がとてもきれいだったんだって。あの空の絵は、 ほうろうたみ - つま みち ほうろうたみ よる やまみち 135
おと にひづめの音をひびかせて、とおくにみえる城のほうへとかけさっていきました。 ルル 1 たちは騎士とわかれがたい思いで、別荘をでて、丘の上から騎士のうしろす がたをみおくりました。と、『ちょっと、ルルー』と、ルルーのうでのなかで、ベル しせん タが耳うちしました。ベルタの視線のとおりにふりかえると、別荘のまどから、あの しようねん 】トたちのうしろすがたをみつめていました。うすぐら ハラケという少年が、キルバ ひょうじよう いへやのなかにいても、表情が青ざめているのが、ルル 1 の目にはわかりました。 し くろ かおいろ ( ーカりの色にもえていました。 死んだような顔色をしながら、でも、なぜか黒い目よ、、 ハラケはルルーの視線に気づくと、はっとしたように顔をひっこめました。 、ました。 『あやしいね』と、ベルタがい ( ートとジャンは、そんなこともしらず、城のほうをむいてたたずんでいます。 キルバ ふたりは、、 ( つかしつかりと手をにぎりあっていました。 きんぎん なっそら 夏の空はどこまでも青く、湖をわたる風もすきとおるようで、水面を金銀にかがや じよう 1 いい かせていました。ルルーはその景にみとれながらも、それがあまりにもうつくしす ふあん ぎて、かえって、不安な気もちがましてゆくのでした。 しせん かぜ しろ べっそう しろ かお おか べっそう みなも
げんかん ながら、それをきいて礼をいうと、玄関からでてゆきました。ふとふりかえって、 「そのとき、魔女さまもそのあやしい男をごらんになったのですか ? 」 ノノーカこたえると、騎士は、 「まいとレレ、、 まじよ にんげん かんか / 、 「魔女さまはわたしども人間がもたないふしぎな感覚をおもちとききます。その魔女 カ ( A 」 - っ さまの目からみて : : : 男が、うわさの〃怪盗バルヴァル〃のようにみえましたか ? ルルーはきよとんとしました。 騎士は、まゆのあたりをくもらせました。 ・刀 ( A っ 「じつは、そのあやしい男こそが、怪盗バルヴァルなのだといううわさがあるのです ご - っとう よ じけん ほうせきてん となりの国でひどい事件がありましてね。夜ふけに宝石店をおそった強盗がいて、そ かそく の家の家族もやとい人たちもほとんどころされてしまったのですが、そのときその強 と・つ 盗が、じぶんはバルヴァルだと名のったというのです。ひとり生きのこった小さな子 はいいろ しようげん の証言です。その子はとっさに死んだふりをしてたすかったらしい。背のたかい灰色 にんそうが の目の黒衣の男だったらしいという特徴がかかれた人相書きとともに、ゆうべ、とな とうげとりで でんしょ りの国から伝書ばとが手紙をはこんできたのです。峠の砦もその男がこの国へはいっ まじよ てがみ し と′、ちょう せ まじよ 0