ートのための二回 キルバ ートとジャンが、下へおりていったあと、ルルーはギルバ くすり みずぐすり 、カとこげたはねのにおいがする水薬は、あと一 めの薬をかきまぜました。つよいハノ じかん かんせい せいぶんへんか 時間もしないうちに、成分が変化して完成するはずでした。できあがった薬をのめば、 ートはふたたび、目がみえるようになるのです。 キルバ サラはそのようすを、さっきおかみさんにつくってもらったねどこにこしをおろし て、足をぶらぶらさせながらみていましたが、 「ねえ、魔女さま。ひとっききたいんだけど」 ( いました。 と、しやがれた声で、 「なあに ? サラさん」 「サラでいいわ。さんなんて気もちわるい」 「じゃあ、わたしのことも、よかったら、ルル 1 ってよんで」 2 力し リ 7
たかだい その屋敷は、街をみおろす高台にあり、背後にはがけがありました。下を白くる あるじ 川がながれています。下はたらきの人びとが、主に気をつかったように、しずかには やしき たらくほかは、屋敷はねむるようにしんとしていました。 こきゅう げんかん 1 トが玄関のとびらのまえにたち、ひとっ呼吸をして、あけると、そこにバ キルバ かおいろ ラケがたっていました。いっからそこにいたのか血の気のない顔色をして、だまって やしき ートと、そしてルルーたちを、屋敷のおくのほうへととおしました。 それどころか、わるくすると、「よくもここまでやってきた」と、おじがじぶんの トのいのちをうばおうとするかもしれないのに。 手でキルバー ならずものをやとうような人です。どんなひどいことを思いつくかわからないのです。 ルルーは目をとじ、ためいきをつきました。 「じゃあ、わたしもついていきます。だめっていうんなら、 やしき まち いかせませんからね」 165
まもの 「魔物 ? そんなのどこにいるの ? 気のせいでしょ ? 」 あっさりと、サラはこたえました。 みずみ ものおと 「湖をさんばしてたら、この別荘から物音やひめいがきこえたのよ。なにかしらと思っ あくにん て、のぞいてみたら悪人があばれてたでしょ ? とめなきやと思ってルバをけしかけ まもの たの。おやくにたててよかったけど、これはただのふくろう。魔物なんかじゃないわ」 りようて ジャンが、両手をにぎりしめました。 「うそだよ、あれは、あの白いばけものは鳥なんかじゃなかったよ。だいたいただの とり 鳥がおそいかかったんなら、あんなこわいやつがにげるもんかあいつは魔女さまや キルバ ートさまをころそうとしたくらい、わるいわるいやつなんだぞ」 サラはふくろうをなでて、うたうようにいいました。 にんげん 「たそがれどきにはだれでもまばろしをみるもの。心のなかにやみをかかえた人間な らよけいに、うすくらがりにこわいものをみておびえるものよ」 ひっそりとした泣き声がきこえました。 キルバ 1 トがよこたわる年おいた犬のそばにうずくまり、泣いているのでした。ル とし べっそう III
えがお ートがこまったような笑顔をうかべて、ルル】にいいました。 キルバ 「バラケさんは人づきあいがとくいじゃないんです。それに、おじからばくのことを たのまれているものだから、どうしてもきついかんじになるんだと思うし : : : 」 ( ( ました。 ルルーのうでのなかのベルタが、ばそりと、 せいか / 、 『どうかんがえても、あのバラケってやとい人、性格わるいような気がするけど ? 』 せいかく 。いました。 「性格、だんぜんわるいよ」と、ジャンがほおをふくらませて、 まち 「あいつは街のきらわれものなんだよ。よわいものいじめはするし、よそんちに石な まち ひるま げたりするし。まだ十八なのに、昼間つから酒のんでよっぱらって、街の人にからん つもひとりばっちでさ」 だりするんだぜ ? 友だちなんか、だーれもいないんだ。い くろひとみ ルル】も、あの黒い瞳にそこしれないやみをのぞいたような気がしていました。阯 格がわるいとか、そんなかんたんなことばではかたづけられないような、ふかいやみを ートが、しずかにいいました。 キルバ かれ 「ねえ、ジャン。ばくは彼の友だちになれたらと思っているんだよ」 「ええつ、どうしてなの ? 」と、ジャンが、目を大きくみひらきました。 カ / 、
おと にひづめの音をひびかせて、とおくにみえる城のほうへとかけさっていきました。 ルル 1 たちは騎士とわかれがたい思いで、別荘をでて、丘の上から騎士のうしろす がたをみおくりました。と、『ちょっと、ルルー』と、ルルーのうでのなかで、ベル しせん タが耳うちしました。ベルタの視線のとおりにふりかえると、別荘のまどから、あの しようねん 】トたちのうしろすがたをみつめていました。うすぐら ハラケという少年が、キルバ ひょうじよう いへやのなかにいても、表情が青ざめているのが、ルル 1 の目にはわかりました。 し くろ かおいろ ( ーカりの色にもえていました。 死んだような顔色をしながら、でも、なぜか黒い目よ、、 ハラケはルルーの視線に気づくと、はっとしたように顔をひっこめました。 、ました。 『あやしいね』と、ベルタがい ( ートとジャンは、そんなこともしらず、城のほうをむいてたたずんでいます。 キルバ ふたりは、、 ( つかしつかりと手をにぎりあっていました。 きんぎん なっそら 夏の空はどこまでも青く、湖をわたる風もすきとおるようで、水面を金銀にかがや じよう 1 いい かせていました。ルルーはその景にみとれながらも、それがあまりにもうつくしす ふあん ぎて、かえって、不安な気もちがましてゆくのでした。 しせん かぜ しろ べっそう しろ かお おか べっそう みなも
ねっ は熱をだしていたので、絵をだしてやれな かったのです。あの日のかわりにだしてあ げてもいいですよね ? ほんとうによかった、 せめてこの絵がぶじで。そう、絵がぬすま れたらにどともどらな ( 、。いまはあけられ ないけどこの箱のなかにあるのならーーー」 ートはあこがれるよ一つにいっと、 キルバ しばらくして、つぶやきました。 「ーーばくは、どうしたらいいんでしよう ? 」 みえない目でうすやみをみすえるように し・なが、ら、 ( ( 亠ました。 「じぶんがだれかから死んでほしいと思わ れているとい一つことが、ばくはつらい。そ の人はばくをにくんでいるのでしようか ? はこ 第 0 に
てんじよう 別荘のなかにとおされたルルーは、へやのなかが、あまりにもふるくて、あれはて ているようすに、ことばをうしないました。 ちょうどひん わ カ 家具や調度品は、 ( かがわしい骨董市ででもそろえたように、欠けたり割れたりし ています。じゅうたんにもかべ紙にもあやしげなしみがあって、どうやらそのしみは、 あま 天井から雨もりがして、そうしてできたものらしいのでした。 ルル 1 の耳もとで、ジャンがささやきました。 たんじようびあさ 誕生日の朝みたいにまちどおしいんだよ」 ジャンは、目をうるませて、そして、鼻の下をゆびでこすりました。 キルバ ートはわらって、ルル 1 たちをへやのおくへといざないました。 ちゃ 「さあどうぞ。お茶でもおいれしましよう」 「〃ニジマス亭〃のパンは、一流だからね」 べっそう 3 いちりゅう がみ こっとういち
くすり レレ 1 は、キルバ 】トに薬をのませました。よそうしていたとおり、いちどめの薬だ くすり けでは、まだ、目はなおりませんでした。しかし、思ったよりも薬がよくきいたので、 ひかり ルルーはほっとしました。目をまぶしそうにするギルバ ートには、うっすらと光がわ かるようでした。死んでいた目は生きかえろうとしているのです。 「これなら、あといちどのお薬で、みえるようになるかもしれません。一一回めのぶん くすり じかん じゅくせい のお薬は、もうだいたいできあがっています。あとちょっと時間をおいて熟成させた ら、のめますよ。ええ、きようかあすのうちには、もとどおりになれます」 えがお ノノ 1 が笑顔でいうと、ギルバ ートは「ありがと一つ」ざいますとこたえました。 とてもっかれたようすでした。ほおはやつれ、青い目はくばんでみえます。 7 ルルーの戦冂 たたか 124
ました。 ルル】は、かんがえをまとめながらいー ートさまにあいにゆきましよう。目のぐあいをみたら、お薬 「とにかくあす、キルバ ざいりようやくそう をつくれると思うから。材料の薬草は、ここは山のなかだし、きっとすぐにみつかる んじゃないかしら。もしここになくても、わたしがさがしてきてあげる」 ジャンがわらって、「うん、あした」といいました。夢みるように、い、 まじよ ーい MJ ートさまの目をなおしてくださるよね。ギルバー 「魔女さまならきっと、ギルバ やしき あくにん まはそしたら、あの悪人のおじさんをお屋敷からおいだせるかもしれないね。むかし みたいにしあわせになれるんだね」 しゅうり ジャンがへやをでたあと、ルルーはおそくまでかかって、こわれたほうきの修理を こうそうえだ しました。ほどけてばらばらになった香草の枝のたばのかわりに、おかみさんにたの んでゆずってもらった、ふるいほうきにつかってあった細枝をほどいて、じぶんのほ ゅめ ほそえだ ーました。
ほほえんで、 ( いました。ことばのひとつひとつをかみしめるようにしながら。 1 トさまは、やさしい 、心のきれいなかたですよ。だって、やさしい心やっ 「ギルバ よい心ってーーー・そうでありたいって思う人の心のありさまのことをいうんだと思いま すものー 1 トは、すこしだけうなずいてくれたようでした。 キルバ え ーーました。 そして、バラケの絵をふりかえりながら、 まじよ 「あの人がこどものころの話をしてくれたときにね、むかしは魔女をしんじていたっ ま びようき ていってたんです。ご両親がしごとをうしなったあげく、病気でくるしんだとき、魔 まち 女がどこかにいないかって、こどものころのあの人は街じゅうをさがしまわったそう まじよ です。でも、魔女はどこにもいなくて、ご両親はなくなってしまったっていってまし ひょうじよう しようねん しようねん レレ 1 ー、ヾ ノラケ少年の絵をみつめました。さみしそうな表情を。少年は、なにか をまっているようなようすで、たたずんでいるようにもみえるのでした。 ふこう ( むかしに、魔女にーーーわたしにあえていたら、ひょっとしたら、この人は、不幸に じよ りようしん え りようしん