しんぞう の子は、やはり心臓がわるくて、小さいときに死んでしまった。ばくはそのいとこの かわりのように、おじからかわいがられたんです。 あい だいす ばくもおじが大好きです。だから、あの人をしんじてるんです。ばくを愛してくれ ( 、えしよう洋、 てるって。家の商売だって、ばくがおじにたのんでやってもらっているようなものな んです。この目ですから。もっともばくの目がみえていたとしても、ばくにはおじの しちょう ちち みせ さいのう ように、店を大きくする才能がないんですけど。市長のしごとだって、もともと、父 しようじき まじよ しちょう のあとはおじが市長になるのがふさわしいと思っていたんです。正直いって魔女さま のおかげで目がなおっても、ばくは家にはかえらずにここにいたいと思う : ートはいいかけて、ふっとわらって、 キルバ しょ・つ小、 「そんなのはだめですね。目がなおったら、おじのところへかえって、商売について べんきよう 勉強しなくては。いそがしくなりそうだなあ ギルバ ートは宝石でかざられた箱のなかがみえるように、目をむけました。 しいました。 しばらくそうしていて、やがて、 やしき 「どうしても、そばにおいておきたくて、屋敷をでるとき、じぶんの絵といっしょに、 ほうせき し え 0
たび 「旅のとちゅうみたいだったわ。馬といっしょにがけからおちたのね。馬はもう死ん でた。その人も、ほうっておいたら死んだんじゃないかなって思う。わたしはさい しよ、とってもっかれていたから、ただその人のそばでみていたの。この人も死ん じゃうのかなあって思いながら よる 夏なのに、さむい夜だったの。わたしがふるえてたら、その人はおいでっていって うわぎ くれた。上着をぬいでかけてくれて、きずついたうででだいてくれた。みずしらずの、 ぬまち それも沼地をさすらったあとのよごれていたわたしを。 あたたかかった : こんな人もいるんだって思ったの。そうしてひとばんすごし あさ て、朝になったわたしは、うすく目をひらいているその人の目があんまりきれいに青 いので、びつくりしたのよ。しばらくみつめていてー・ーああ、死んじゃったら、この きれいな目はとじちゃうんだなって思ったの。にどととりかえせないんだって まじよ くすり わたしは薬をつくって、あの人をたすけたの。ええ、わたしは魔女だもの。薬をつ くることも、魔法のつかいかたも、ほんとうのお母さんだった魔女からならってしつ ていたものね」 なっ - つま 194
ジャンは、ほそいかたに首をうめるようにして、うつむきました。 、、ナ・ど「キレヾ 「ーーーばくがおこられるんなら ( ( ートさまがおこられるから」 ルルーは、そんなひどいことがほんとうにあるのかしらと思っていました。 し じぶんの死んだ兄のこどもに、そんなにいじわるができるものでしようか ? ( それも、ギルバ ートさまは天使のようにきれいな心の人なんでしよう ? ) ートさまが手にいれるはずのものをみんなとっちゃったんだ。財 「あいつは、ギレヾ さんめいよ やしきたいだい 産も名誉も、お屋敷も代々のしごとも。ギルバ ートさまのお父さまがなくなられて、 しつめい ヾレヾ ートさまが失明して、きっとうれしかったんだと思うよ。ひどいやつだよ」 ジャンはい、 ( きると、ためいきをついて、あわててつけくわえました。 やしき ートさまのいとこのルネ 1 一アさまは、ギレヾ 「あのね、でもギルバ ートさまがお屋敷 はんたい ちちおや しんぞう からでることに反対だったっていうよ。けど、あの子は心臓がよわいから、父親のす ートさまにもあ ることにさからえないんだ。そとにもでられないし、だから、ギルバ げんき いにこられないんだ。あ、でもこのごろは元気になったみたいだってうわさはきいた まち やしきにわ けど。お屋敷の庭であそんでいるあの子をみたって、街のだれかがいってたな」 てんし ざい
ルーはなんとかたちあがり、そばにいきました。ギレヾ 1 トは絵をまもろうとしたと きにきずついたのか、手やうでにきずをおっていました。かぎのペンダントは、あの ろうけん 男にうばわれたのか、ちぎれてなくなっていました。そうして、よこたわる老犬は、 もはや自 5 をしていないのでした。 すな とんなき ルル】は砂をのんだようなおもい気もちで、その場にすわりこみました。、 し びようき ずも病気もなおせるルル】でも、死んでしまっていては、たすけることはできません。 し し さ びよう しゅんかん 生きていることと死んでいることと。死のその瞬間は、たった一秒くらいの差のこと びよう とれほどとおくまで にしか思えないのに、その一秒のあいだに、たましいはいったい、 ってしまうのでしよう ? 、ました。 「さあ、たって」と、ひくい声で、サラがい ( じじよう あくにん 「事情はよくわからないけど、あの悪人は、またここにくるかもしれないわ。どこで 4 え 112
男はくぐもった声で、わらいました。 まじよ やどや 「ゆうべ宿屋でみたときは、まさかほんとに魔女だとは思わなかったがな。魔女って し まじよが のは、みんな魔女狩りで死んじまったんじゃなかったのか ? せつかく生きのびてた ものをこんな目にあうんじゃ、気のどくなことだが、じつは、おばっちゃまの目をあ んたがなおそうとするようなら、あんたもころしちまってくれってたのまれててね」 りようて すまないね、と、 いながら、男は両手に力をこめました。 あくにん たび ルルーは、ながいさすらいの旅のあいだに、運わるく、いろんな悪人とであったこと もありました。それなりにこわい目にもあってきたつもりでした。でも、この男のよう あくにん におそろしく、そして人をきずつけたりころしたりすることになれているような悪人 には、あったことがないような気がしました。わすかのあいだに思いがながれました。 ートさまはど一つなる ( じようだんじゃないわ : : : わたしが、ここで死んだら、ギルバ のよ ? 一生目がみえないまま : : : それどころか、わたしのあとにころされちゃうか もしれないわ。ジャンだってそうよ。それに : : : それに ) ルルーは、男の手をひっかきました。岩でもひっかくように、カがはいりません っしよう まじよ うん し 0 107
かお くろ とびらのむこうから、あの強盗が、ぬっと顔をあらわしました。黒いずきんをとり、 いいつつ ひくい声で「こんばんは」と、わらって、仄色の目でギルバ ートをみつめました。 し こんや きんか 「すまないが、ばっちゃま今夜こそ死んでもらうよ。 ( いかげん、金貨ひとふくろ し れいきん 力い A 」・つ の礼金をおがみたいんでね。 " 怪盜バルヴァル〃の手にかかって死ぬのをせめて、光 まじよ 栄だと思ってほしいもんだね。ま、気のどくなのは、まきぞえになるそちらの魔女さ ばしゃ がたりと、馬車がとまりました。 しようねん 「そういうわけで」と、少年バラケは、とびらをあけて、馬車をおりました。 しちょう 「うらむなら、市長さまをうらむことですね」 森のやみのなかへきえてゆきました。 ・つま やがてかけさる馬のひづめの音がしました。「用意周到に森からかえるためのじゅ んびまでしてたってことね」とサラがはきすてるようにいいました。 6 こ・つと・つ よ・ついしゅうと・つ ばしゃ 一つ 156
( ( カり一かわいて / 、 ルルーはそれがなんともかわいそうなかんじがして、心のおくこ、、 ご・つと・つきん ごうとう しようねん るのでした。こんな天使のような少年をころそうとした強盗に : : : そして、強盗に金 しようねん かね 貨ひとふくろのお金をあたえるかわりに、少年をころさせようとしただれかに。 ご - っと - っ ( いったいだれが、なんのために、強盗ととりひきしようなんてしたのかしら ? ) ルルーは、かんがえこみました。 きんがノ、 きんか ( 金貨ひとふくろなんてお金、だれでもがはらえる金額じゃないわ。その人はそれだ けのお金をはらうことのできる人なのね。そうしてそれだけのお金をはらってもいい ートさまは、人か / ) らい、キルバ 】トさまに死んでほしい人なのね。なぜ ? ギルバ ートさまがいま死んだ たとえば、ギルバ らうらまれるような人じゃないそれに からって、得する人もいないんじゃないかしら ? ) トのいのちをうばって でもその〃だれか…は、〃きようのうちかならす〃ギルバー ほしかったのです。たかい、 お金をしはらってでも なぜ ? なんのために ? しようねん ふっと、 ハラケ少年のギルバ かね とく てんし かね かね ートをみるときの、くらいまなざしが思いだされまし かね 125
ふいにジャンが、わっと泣きだしました。 それがとっぜんだったので、ルル】はびつくりしましたが、すぐに、ああそうかと 思いあたって、ジャンの小さなかたをだき、なでてあげました。 へいわ いくらあたまがよくて気がきいていても、ジャンはまだこどもで、それもこの平和 じけん まち なうつくしい街で、しあわせにくらしていたこどもなのです。あんな事件にあえば、 しままでジャンはじぶんがしつか おどろききすっくのはあたりまえでした。なのに、、 りしなければと思っていたのでしよう。むりしてがんばっていたのでしよう ルルーは、あせとお日さまのにおいがする体を、しつかりだきしめてあげました。 「 : : : こわい思いをさせちゃって、ごめんね」 ジャンはルル】のむねに発をふせたまま、首をよこにふりました。泣きながら、 「 : : : ばくが、もっとつよかったらよかったんだ。そしたら犬は死ななかったし : まじよ まじよ 魔女さまだって、こわかったでしょ ? ばく、魔女さまが死んだら、ばくのせいだと まじよ ートさまともあわなかっ 思ったの。ばくと湖でであわなかったら、魔女さまはギルバ ートさまの目をなおしてほしいなんていったからだって : : : 」 : ばくがキルバ か からだ 121
ねっ は熱をだしていたので、絵をだしてやれな かったのです。あの日のかわりにだしてあ げてもいいですよね ? ほんとうによかった、 せめてこの絵がぶじで。そう、絵がぬすま れたらにどともどらな ( 、。いまはあけられ ないけどこの箱のなかにあるのならーーー」 ートはあこがれるよ一つにいっと、 キルバ しばらくして、つぶやきました。 「ーーばくは、どうしたらいいんでしよう ? 」 みえない目でうすやみをみすえるように し・なが、ら、 ( ( 亠ました。 「じぶんがだれかから死んでほしいと思わ れているとい一つことが、ばくはつらい。そ の人はばくをにくんでいるのでしようか ? はこ 第 0 に
「さあ、いつなんだろうねえ ? 」と、男は、にやにやとわらいました。 市長があわをふくようにしてさけびました。 「それじゃあ、とりひきにならないじゃないか」 男は目をほそくしてわらいました。 「いつあんたたちととりひきをしたいっていった ? これはおどしだよ。おれのいう ことをきけないなら、このおじようちゃんはこの場で死んじまうことになるだけさ」 男はちらとルル】をふりかえりました。 まじよ さくや 「そこの魔女、昨夜みたいにへんな魔法をつかうんじゃないぞ。おかしな呪文でもと なえてみたら、すぐにこの子をやっちまうからな」 ルルーはその男のつめたい目の色に、おびえといかり、そしてあせりをかんじまし まもの た。男は白い魔物にひどくきずつけられていたのか、きずつき、つかれていました。 、ました。 ルルーのうでのなかでベルタが、 ( ( なんとか : : なんとかしなきや』 「わかってるわよ でも : : : 」 しちょう じゅもん 175