清治「死んだことにしてくれ」 喜太郎「そゃねん」 清治「僕もひとりになりたいよ」 と、強引にその生薬の中に身体を沈めて、 と、喜太郎は不意に上空を見上げた。 喜太郎「せやかてふたりゃん」 中から蓋を閉める 清治もつられて見上げた。 清治「せやな」 ヒナ子、蓋越しに声を掛ける。 木々の隙間には、青い空しかなかった。 喜太郎「意味わからん」 ヒナ子「死んだことて、死にたいんですか」 清治「 ( 腫れた眼を覗き込み ) ええ湿布ある 清治の声「ああ」 から、あとでうちにおいで」 % 団地 ヒナ子「しまいに怒りまっせ、あたし」 に戻ってきた清治。 喜太郎「いらん」 と、向こうで君子や住民たちが、草むし清治の声「勝手に怒ったらええ」 清治「眼を瞑って深呼吸したらいろんなこと ヒナ子「あたしに心配かけて嬉しいですか」 りをしている 忘れる」 通りかかる清治。 喜太郎「ほんまにほっとけや」 と、「君子さん、日一那さんに票入れへん清治「言、っても、分からんから、ええ」 清治「ほな、お互いひとりになろか」 かったってほんま ? 」という西の声が聞ヒナ子の声「平凡なあたしが分からんいうこ と、清治、喜太郎から離れる。一歩だけ。 こ、んる 喜太郎「ほんまにひとりにしてくれや」 とは、世間のだーれも分からんいうこと一 でっせ」 それに応えて君子、 と、清治、また一歩離れる。 君子「そら私は清治さんがええと思たから清治「そや、どうせ僕は人望ないんや」 喜太郎「おっさん、なにふざけとんね」 : ・せやけど思たほど人望なかったんやな、 清治「君が離れたらええやろ」 ヒナ子「わあ、おいしそうなトンカッ」 清治さん」 喜太郎「 : : : 」 清治の声「なにがトンカツやねん」 と、遠く走って行く。 ーで残りもんのトンカッ貰て ヒナ子「スー が、向こうで振り向いて、 きたんや。久しぶりやろ、トンカッ」 喜太郎「おっさん、気にせんでええよ、オレ台所 清治、帰るなり、押し入れに入ろうとす清治の声「トンカツで僕がなびくと思うんか、 のことなんか」 あほか」 るが、ミキサーなど薬局時代の道具で一 ヒナ子「生まれて初めて、あほ、言いました 杯。 喜太郎「ここで人を待ってるだけやから」 と踵を返し、台所の食卓を乱暴にずらすね。許せませんで」 清治「へえ、どこの誰や」 と、床の収納場所の蓋を引き上げる清治。清治の声「そらすまんかったな。謝るがな。 喜太郎「どこの誰でもない」 このとおりや」 以前と同じように生薬がぎっしり。 清治「どこの誰かわからんのに、その人待っ ヒナ子「このとおりて、見えへんやろ」 ヒナ子「なにするつもり」 てんのか」 0
地 団 て、まあまあ、私の妄想かもしれんけど、 と、また喜太郎の頭を殴りつけ、中へ。 すると、給水塔の陰に隠れていた北と、 その旦那とカメラマンが、眼の前に現れ まあまあ、皆さんの耳に入れとこかなて 喜太郎、耐えながら、いっかの林のよう る。 に歌を口ずさみ始める。 これは殺人です」 北の旦那、マイクを向け、 東「クまあまあ気省きなさい」 ヒナ子「・ : ・ : 」 と、やがて喜太郎、こっそり中を窺うと、旦那「あの、山下ヒナ子さんですか」 立ち上がって、窓に向き直り、その手にヒナ子「え、これは」 302 号室・浴室 3 ヒナ子、仕上がった丸薬を入れたタッ 金属バットを握る。 旦那「ご主人が行方不明のようですが」 ヒナ子「・ : : ・」 ーを、ドライアイスを置いた浴槽の中 その震える背に、 ヒナ子「あかん、あかんで ! 」 旦那「もつばらの噂で」 大量のタッヾ ノーか、白い靄に包まれて。 と、ヒナ子を振り向く喜太郎 ヒナ子「どんな」 ヒナ子「 : : : きれいな歌やったで、ほんまに 旦那「様子がおかしいと」 きれいな歌やった」 ヒナ子「誰の」 3 階・昼下がり 玄関を開け、ト 1 トバッグに財布を入れ 喜太郎、眼に一杯の涙を溜めて、金属バッ 旦那「ご主人が行方不明なのに、平然として一 て、 トを離した。 ると」 ヒナ子「 : : : 」 ヒナ子「蜂蜜、どんだけいるねん」 8 夕食 日一那「 : : : あ、顔にポカシ入れますから」 と、階段の踊り場から、向かいの棟の っ 0 べランダに出てきた吉住と喜太郎が見え 食卓。喜太郎の話題。 北「 : る ヒナ子「君子さんが連絡して、児童相談所が と、ヒナ子、おかしくなってその場で笑、つ 笑い止まらず、カメラも回り続けて。 喜太郎、正座をさせられ、吉住、その膝行ったら、『ただの親子喧嘩や』て、帰さ れて」 の裏に金属バットを捩じ込む。 喜太郎、痛みに顔を歪める。 清治「 : : : あの子は強いよ : : : それに」 そのテレビ映像 吉住に後頭部を叩かれる。 顔だけばかしが入り、ヒナ子が、笑い続 ヒナ子「それに」 けている ヒナ子、たまらす、 清治「クあしたみがあること、ちゃんとわかっ その夕刻のワイドショーを観ているのは てる」 ヒナ子「 ( 吉住に ) やめて、そんなことやめ 自室の行徳と君子。 吉住「 ( 気付き ) こいつが逆らうんや、ほっと 君子「これ疑いそのままやん。決めつけられ ゴミ集積所・翌朝 たも同然で、ひどい」 ヒナ子、ゴミ袋を置いて、立ち去ろうと
君子「あした言う」 一番後ろに清治。 り得るのが団地、てか」 ヒナ子「なんで」 生きてた清治を見て、東西南北、悲鳴。真城「誰かついてきたら、うまくしばいてく 君子「別れ際に一言う」 ださい」 その階段の人だかりを避けて、道を作る ヒナ子「なんで」 行徳と君子。 行徳「さばいてください」 君子「なんでも」 行徳「さあ、どいてどいて」 ヒナ子「なんで」 百合子「 ( 行徳を捉まえ ) 喜太郎、見んかっ 林の中 君子「眠たい」 た ? 」 を行く、真城たち、清治、ヒナ子、君子、 ヒナ子「はい。寝ましよ」 行徳「見てない」 茸を収穫中の近隣農民が近寄ると、 吉住「 ( 清治に ) バ、バッグの中身はなんや 行徳「私ら、文部科学省のものです。いや、 ねん」 眠れぬ夜の集会所 この先で古墳が発見されたものですから」 警官「 ( 無線で署に ) はい、 確かに様子が変百合子「まさか、喜太郎」 と、あしら、つ なんですけど : いえ、事件性は : : : ただ、清治「 ( バッグを掲げ ) 天に輝く星屑ゃ。お ここの住民、だいぶ変わってます、怖い怖まえらは、ただの屑や」 ヒナ子たち、奥深く入って行くと、見た一 こともない景色が広がっている。湖と朝 い言いながら ( と、振り向くと ) 」 清治とヒナ子、階段を下りると、真城た 東西南北、膝付き合わせて、トランプ。 ちの後について、林の方に向かって行く。 靄と濡れた木々。 集会所のテレビで通販番組を観ている吉 群がっていた住人たちが、「なんやあヒナ子「こんな広い林やったん ( と、不思議 住。 れ ! 」の声に振り返る。 がる ) 」 敷地内にいた警官とその同僚、報道陣、 と、清治が、「喜太郎君」と呟く。 吉住「 ( スマホに着信 ) なんや : : : 喜太郎が ? 向こうから喜太郎が、来る ・ : 知らんがな」 住民たち、なぜかヒナ子たちに眼もくれ と、またテレビ映像が少しすっゆがみ始 ず、空を見上げている。 ヒナ子「ごめんやで、おばちゃん、すっと何 め : 団地の上空に巨大な円盤が浮かんでいる もしてあげられへんかった。聞いてたのに、 なんにもな」 ずらっと並んだテレビカメラは、レンズ と、喜太郎を抱きしめる 翌朝 を真上に向けたまま その円盤を見て、 喜太郎「おばちゃんがおれへんかったら、あ 行徳と君子を先頭にヒナ子たちが玄関か のときオレ、もっと殴られてたから」 真城「あの船が、私たちの故郷です。 5000 ら、階段へ。 と、夭、つ 真城たちの手にはパンパンに膨れ上がっ 人の同郷人が暮らす私たちの : : : 」 たポストンバッグ。 ヒナ子、真城に、 行徳「そんなことあり得ないということがあ 8
地 団 と、吉住、清治、行徳がホワイトボード頑張ってみようかなと、でも、本音は、 均等に区分けされた窓に、灯りが並ぶ。 の横に立つ。 き際が肝腎だよなと、江戸っ子はそうでな 行徳「誰だよ、オレ推薦したの」 きやと、でも、まいったなあ、引き際が逃四 < 棟の階段・翌日 と、呟くと、住民の中の一人の女と眼が げて行くんだもんなあ」 を下りて外に出た清治。 合う。噂の佐伯恭子。 と、ヒナ子が清治に、 また小脇に植物図鑑。 恭子、こそっと行徳にウインクすると、 ヒナ子「すっとしたやろ」 と、ひとりの少年が逃げるように清治の 行徳、誤摩化すように咳払いをしてその清治「すっとしたで」 前を通り過ぎる まま咳き込む ヒナ子「どうか落ちますようにて、そればっ 「こら、喜太郎、逃げんな、こらっ」と 吉住「おっさん、辞退したら。ええ年なんや かりお祈りしてたもんな」 いう吉住の声が聞こえる から」 清治「あたりまえやん」 清治が振り返ると、ばっ悪そうに吉住が 行徳「お黙り」 行徳「いや、副会長に推そうかなと思ったん 踵を返す。 一番後ろの席に座り、清治を見守るヒナ だけど」 また向き直ると、少年が裏の林に入って 子。 ヒナ子「 ( 清治に ) ク」 髜みと名の付くもん、嫌 行くのが見える いやもんな。副キャプテンとか、副首相と いっか林の中で見かけた少年。 開票。ホワイトボードに各人の票数が正 か」 吉住が虐待していると噂の、喜太郎 の字で記されて行く。 清治「副操縦士も入れといて」 開票を終え、 東「吉住さん、 5 票、山下さん、票、行 徳さん、票・ : : ・」 その夜 食卓で痛飲している清治。 選挙が終わり、住民たち、三々五々解散ヒナ子「呑み過ぎちゃうん」 する。 清治「ウコン、飲んだ」 椅子に座ったまま、落胆を押し殺して、 ヒナ子、カーテンを閉めようとして、 深呼吸などしている清治に、行徳が歩みヒナ子「団地て、おもろいなあ」 寄り、 清治「なにがおもろいんや」 行徳「なんだか、すまなかったな。オレ、辞ヒナ子「噂のコインロッカーや」 退しよ、つかなと思ったんだけど、も、つ少し、 と、向かいの棟を見る 林の中 喜太郎が、木陰でほっんと佇んでいる。 頬には殴られた跡が また歌を口ずさんで。 と、後ろから声を掛ける清治。 清治「不思議なことがあるもんやな」 「え」と振り向く喜太郎 清治「ここに来るとな、僕は君くらいの歳に なったような気がするんや」 喜太郎「ひとりにしといてほしい」
く、私たちの意識です 知らなし彳 ( 、皮こ」 清治「 : : : ほな、死んだらその神秘とやらは なくなるんか」 清治「あんたらも、か」 喜太郎「ん。ここにいるとき声をかけられた」 清治「彼はなんて」 真城「はい。 肉体を持って生きていること、真城「はい」 それこそが最大の神秘です」 と、シャツのボタンを外し、その胸元を喜太郎「自分たちは、歌というものを知らな 見せる。 清治「死んだ直哉より、僕たちの方が非科学 的やと」 真城「こうやって、貧相な皮膚を纏っていま清治「そうか」 真城「はい。だから直哉君は誰かに逢いたくす。進化しすぎて免疫力が衰えたのに、ま喜太郎「誰も殺したないから、オレは遠いと こに ~ 何 / \ 」 ても逢えない。こちらの世界こそが非現実だ肉体を捨てきれないのです」 清治「遠いとこ」 の世界ですから」 喜太郎「教えてもらった場所があるんや。ほ 清治「その逢える術をあんたらが」 ヒナ子「・ : : ・」 な」 真城「はい。 とてつもなく簡単な」 真城「すべて欲の所為です。誰かから何かを と、林の奥深く歩いて行った。 奪いたいという」 ヒナ子「とてつもなく簡単て」 と、気配に振り向くと、ヒナ子がいた 清治「ちょっと頭整理してええか」 真城「臍の緒さえあれば、直哉君の」 と、立ち、 ヒナ子「 ( 真城さん ) もう帰りはった」 清治「最初何を言うてるか、さつばり分から一 真城「床下の収納に籠っていては、直哉君に清治「林の中へ行ってくる」 んかったけど」 逢えません」 ヒナ子「もう死んだ振りでけへんで」 ヒナ子「あの人と喋ってると頭痛い」 清治「 : : : その収納で不思議なことがあった清治「もうええ」 んや。生薬に囲まれてその臭いに包まれて 清治「せえけど、嘘は言わへんな、真城さん」 ヒナ子「 ( 頷き ) あたしはおさらばする、こ るとな、身体が消えて行くような気がした。 夕食どき んな世の中と」 ほんの一瞬やけど、直哉がそばにいるよう の階段も表も、ただ団欒の声が溢れ聞こ えるだけで、結局誰にも会わすに、裏の清治「 : : : そうか」 な」 ヒナ子「あの子に逢いたい」 林へ。 真城「よく行かれる林の中はどうです」 清治「 ( 頷き ) あしたから、えらいこっちゃ。 清治「そのときも、そんな気持ちに」 5000 人分」 その林の中に入って行く清治 真城「肉体を意識しない瞬間は誰にでもあり 向こうに清治が来ることを知っていたかヒナ子「もうくよくよせんでええな」 ます、自分が歩いていることにすら気付か 清治「そゃな」 ない、そんな瞬間が本来の私たちのすがた のよ、つに、 ~ 暑太郎かいる です。つまり、生きているのは肉体ではな清治「君も、彼に逢うたんやな、どこの誰かヒナ子「ええ方にええ方に考える」 4
をりオー 脚本・監督阪本順治 製作・配給 : キノフィルムズ 6 月 4 日 ( 土 ) 有楽町スパル座・新宿シネマカリテほかロードショー 02016 「団地」製作委員会 〈スタッフ〉 製作総指揮 木下直哉読 プロデューサー武部由実子 菅野和佳奈 音楽 安川午朗 の部 音楽プロデューサー津島玄 ト集 撮影 大塚亮 ラ 照明 杉本崇 のす 美術 原田満生オま 録音 尾崎聡 編集 普嶋信一 〈キャスト〉 山下ヒナ子 藤山直美まだ 1 山下清治 岸部一徳 行徳君子 大楠道代て覧 行徳正三 石橋蓮司れご ・史を 真城貴史 斎藤工携画 吉住将太 宅間孝行で映 宅配便の青年 冨浦智嗣ュ知 ヒ / 、 竹内都子 タベ ンる 濱田マリ イな 原田麻由 滝裕可里監 吉住喜太郎 小笠原弘晃本 スー。ハー主任 三浦誠己 権藤 麿赤兒
けど、なにひとっしてくれへんやろ」 吉住「喜太郎にオレが ? 何抜かしとんね君子「そうやね、声かけたときも、めっそう もないていう感じゃったし。そのことで失 ん」 行徳「聞き捨てならんな、その言葉。オレは みんなのために犠牲になって無給で尽くし北 「おとうさん、ごめんなさいて、何回も踪なんか」 聞いた」 てるだろ」 『遡って 3 ヶ月前』・ 5 月中旬 吉住「ほな、噂の真相を確かめに行ってくだ吉住「あほくさ」 朝、団地のゴミ集積所 さいよ腐ってるなら、臭いもしてるやろ」 と、椅子を蹴って退席する 君子が分別がめちゃくちゃな吉住宅のゴ と、君「十か庇、つよ、つに、 ミ袋を開け、仕分けしてると、吉住の妻、 君子「吉住さん、あなたいつも苦情ばっかり行徳「自治会長、やめたい」 百合子が現れ、 で、人任せで、いっしょに解決したろうと君子「なにをいまさら」 百合子「なに勝手にうちのゴミ袋開けてんの いう気がまったくない。それてどうなん」行徳「清治君がなればよかったのに」 東「そゃ。あんたのとこ、ゴミも分別せん東「そういえば、おらんようになったのは、 君子「これじゃ、持って行ってくれへんで と、缶も瓶も生ゴミも一緒くたにして、誰 その選挙の後やわね」 しよ」 が後始末してると思てんの。君子さんや」西「選挙に落ちて、それがショックで失踪 百合子「ほなら言いにきたらええやん」 南「ぜんぶ君子さんや」 したんと違、つ」 君子「何遍お願いしても、あなたたち知らん一 南「そうかも」 行徳「オレも時々やってる」 西「私も言いたいわ。洗濯物落ちたら落ち西「腐ったんやわ、気持ちが腐ったんやわ」顔やったでしよ」 たままで、たまたま拾た君子さんに、部屋君子「清治さん、いつもきちんとしてた。誰百合子「けつ」 と、ゴミ袋ひったくって立ち去った。 まで持ってきてやなんて、あんたの奥さん に言われた訳でもないのに、冬は階段に巻 と、入れ違いに清治が来て、 もど、つかしてる」 き上がった枯れ葉を一つ一つ拾て、春は排 行徳「オレも拾って持って行ったことがあ水溝にたまった桜の花弁を取り除いて、気清治「 ( 君子に ) おはようございます」 と、電池やスプレー缶を別袋に分けて、 持ちいいぐらいきちんとしてた。せやから る」 各々指定の場所に置いて行く。 私はこんな旦那より、清治さんを他薦で推 吉住「そんなちんけなことやないやろ、人が 君子「清治さん、いつもきっちりしてて、気 薦した」 殺されたかもしれんのやで」 行徳「しかし、本人は落ちてホッとしてたぞ」持ちええわ」 、北が「はい」と手を挙げ、 清治「そんな、気持ちええやなんて」 北「吉住さん、子供虐待してます」 西「ほんま ? 」 行徳「虐待」 行徳「荷が重かったんだよ。だから、そのこ君子「うちの旦那、そろそろ自治会長誰かに 譲りたい一一一口うてるんで、私、清治さんを強 とで失踪なんかありえない」 「私、隣に住んでますけど、夜中に声が」
する。監督は前作に引き続き、藤田敏八 ( パキさん ) 。 打ち合わせしながら、麻雀でパキさんから大枚、せしめ る。につかつの監督陣はみな強気で、降りるということを 知らない。「え 5 、通ればリ 1 チ ! 」「通しません」てな わけで、福屋に居続けても財布がどんどん膨らんでいく。 神代辰巳、長谷部安春、上垣保朗、根岸吉太郎ーーみなさ ん、お小遣いありがとう。博打だけは、東映育ちがいちば ん強いのであります。丹波哲郎に何百万円も負けたり、麻 雀の賭け金と外れ馬券で家を売らなければならなくなった プロデューサーが、東映にはゴロゴロしているのでありま す。だから必然、使い込みも多い。人生誤ったスタッフは、 やつば、東映がいちばん多いんと違うかなア。 望月六郎が女優を連れて慰問に現れる 六郎の酒。 こ目薬を垂らして酔わせて追い払い、女優を泊 める。 鬼畜の所業だ。 一年の半分以上を、福屋ホテルで暮らす。 そういう人は案外多くて、鹿水晶子なんて、仕事と仕事 の間は自前で泊まっていたほどだ。 ともかく、居心地が良い 当時は携帯電話なんてないから、電話はすべて帳場を通 す。 女中さんたちは、誰が何時に寝て何時に起きるかをすべ て掌握していて、たとえプロデューサーからの電話だろう と、「 x x さんはまだお寝みです」と受け付けない。居留 守も O 。メシは美味いしネ工ちゃんはきれいだ。天国。 『続ダブルべッド』は、やはり僕の書いた第一稿が予定し ていた女優 ( 樋口可南子 ) の承諾が得られず、あえなく中止。 さて、そろそろ福屋を引き払わねばならないのか、とい うところでカモがネギしよって登場。 「エロス大作やります。脚本、お願いしたい。持ち込み企 画なので、夏木マリを口説いてきた制作会社が予定してい る小川英さんと共同脚本になりますけどいいですか ? 」 山田耕大が現れて、そう言う。 「じゃ、福屋に居続けてもいいの ? 」 「当面、第一稿の間はね。でも小川さんが加わって直しに 入ると、彼はいつも東武ホテルだそうなんで、そちらに移一 ってもらいますけど」 「判った。で、題材は ? 」 「タイトルは『薔薇夫人』。ここに、 / 川さんが書いたプ ロットがあるんだけど : 山田に渡されたのは、小さなメモ用紙が一枚。 「無国籍アクションはいいけど、ともかく話が古いんです よ。構うこたアない。一緒にぜんぶ、新しくしちまいまし よ、つ」 「配給すんのはこっちだもの 。いいんですいいんですー 福屋ホテルの快適な生活は、まだまだ続くのであった ( 文中一部敬称略 )
うせ他に女も作ってるんでしょ ? 諸星「土産じゃねえよ : : : ロシアくんだりま猿渡「届きましたじゃねえよ ! 」 諸星「 : : : なに妄想してんだよバーカ」 で行かせたのに、チャカは一丁しか買えな 猿渡、諸星を引っ張って応接室に連れて 由貴「バカはどっち ? しい気になってヤク かったのかって聞いてんだよ ! 」 ザと連んでるけど、あんたの先輩がそれで太郎「いや : : : 想像以上に相場が高くてさ、 警視庁の国吉博和 ( ) と対応している どうなったか忘れたの ? あんただってそ預かった金だと一丁がやっとだったんだよ、 岸谷がいる のうち使い捨てられてーーー」 奴ら日本人だってわかると値段釣り上げや国吉「 ( 諸星を見て ) 彼が諸星さん ? 」 諸星「うるせえんだよ ! 」 がって」 諸星「 : : : そうですが」 持っていたお金を由貴に投げつける諸星。諸星「だからラシード連れてったんだろう国吉「警視庁の国吉です」 諸星「俺らの商売はな、テメ工らみてえに色が」 『警視庁銃器対策室国吉博和』の名 目使ってりや済む商売と違うんだー : ク太郎「でも、こいつお姉ちゃんに熱あげ 刺を渡す。 ソも味噌も全部飲み込んで、使えるモン全ちゃって」 国吉「配送業者から警視庁に通報がありまし 部使い倒してやっと務まる商売なんだ、そ諸星「なにい : : : 」 てね、宅配の荷物から拳銃が三丁出てきた うでもしなきや世の中なんてよくなんねえラシード「違う、違うよっ、それ太郎だっぺ んですよ。受取先の住所はこの道警本部の、一 んだよ、年増のホステスが説教ぶつこいて 諸星さん宛です」 んじゃねえ ! 」 太郎「嘘つけよ、お前毎晩通ってたじゃねえ猿渡「 ( 大きくため息 ) 宅配使うかよ普通一 諸星はテ 1 プルを蹴飛ばし、部屋を出て 諸星「テメ工らなにやってんだよ ! 」 諸星「早い方がいいかと思って : : : 」 由貴「 ( 睨み付けて ) ・ 国吉「どうりで道警の検挙数が高いわけだ。 北海道警察本部・銃器対策室 5 応接室呆れますね、こんなことして恥すかしくな 引小樽・中古車屋『日の丸オート』・表 ( 日 ( 昼 ) いんですか ? 」 替わり・昼 ) ムッとした表情で戻ってきた諸星を、猿猿渡「いやそんな、私らもこういうのは初め 、り 奴 諸星の前に、太郎とラシード。 渡が迎える。 てで : : : 」 悪諸星「え、一丁だけなの ? 」 猿渡「お前どこ行ってたんだよ ! 」 諸星「待てよ : : : お宅も銃器対策だろ ? 長 一太郎「うん、ちゃんといつもの船に載せたか諸星「はい ? 」 官のタマ狙われてなりふり構ってらんねえ 本 ら、来週にはこっちに着くよ。あ、これお猿渡「東京のヤー公に銃送らせただろ」 のは一緒だろうが。チャカ挙げんのに恥す 日 土産です」 届き 諸星「 : : : ( 思い出し ) あーはいはい、 かしいもヘッタクレもあるか」 ました ? マトリヨーシカのお土産を出す太郎 国吉「 : ・ 8