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検索対象: ジュリスト 2016年11月号
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1. ジュリスト 2016年11月号

税理士法人の依頼者に対する 説明義務違反が肯定された事例 面引用略〕。・・・・・・本件 DES は税法上の適格現物出資 ではないし , 法的整理又はそれに準ずる私的整理にお いて行われたものでもないのであるから , 「運用上の 取扱い』によって債務消滅益を欠損金と相殺しようと いう期待は , 何ら合理的な根拠に基づくものとはいえ ず , Y 代表者の上記供述は , 誤った認識に基づく独 自の見解を述べるにすぎないものというべきである」。 説明義務違反の有無について Ⅱ 「 Y は税務の専門家として X と税務顧問契約 を締結していたことを踏まえて考えれば , Y は , X に対し , DES 方式を提案するに当たり , 本件 DES に より生じ得る課税リスク , 具体的には , ・・・本件 DES に伴い発生することが見込まれる債務消滅益課 税について , 課税される可能性 , 予想される課税額等 を含めた具体的な説明をすべき義務があったというべ きである」。 「これを前提に , Y の説明義務違反の有無を検討す るに , Y 代表者の供述中には , 要旨『本件 DES の実 行により債務消滅益の課税を指摘される可能性はある が , そうだとしても 3 億円程度の法人税であり , 相 続税 6 億円程度を免れるのであればその方がいいと 思うし , 税務調査が行われても交渉等により税額を減 少させることは実務的に可能である』という趣旨の説 明をしたとの部分がある〔証拠略〕。 ・・・しかし仮 に , このような説明があったとしても , 全体としては 債務消滅益に対する課税は回避できるという趣旨の説 明にほかならないから , 上記・・・・・・で認定したような DES に伴う債務消滅益課税のリスクの説明としては , 著しく不十分ないし不正確なものといわざるを得ない し , そもそも , 上記のような説明さえされていたか , 極めて疑わしいといわざるを得ない。すなわち , X 代表者は , 上記のような説明は全く受けていない旨供 述し , Y 代表者の上記供述を正面から争っている上 , そもそも本件 DES の基本的な説明資料という性格の 〔証拠略〕に , 債務消滅益課税の可能性 , その予想さ れる税額等についての記載が全くないことは上記〔筆 者注 : 本稿で引用していないが認定事実としてその旨 の記載がある〕のとおりであり , このこと自体 , 債務 消滅益課税について何らの説明もされていなかったこ とを強く推認させるものというべきである」。 「以上の認定判断を総合すれば , Y 代表者は , 本件 DES に係る債務消滅益と欠損金との相殺の可否につ いて , 誤った認識に基づく独自の見解を有していたた め , 債務消滅益に対する課税を看過又は軽視し , 本件 DES に伴う債務免除益に対する課税の問題について , X に対して , 全く又はほとんど説明をしなかったも のと認められる」。 「以上によれば , Y 代表者らは本件 DES に係る債 務消滅益課税のリスクについての説明義務を怠ったこ とが明らかであり , Y は , この点について債務不履 行責任及ひ不法行為責任を免れない」。 解説 本件は賠償額の高額さゆえか一般にも報道された が , 判断内容は従前の裁判例に連なり , ー事例を加え るものと思われる。その意味で案件固有の事実及び判 旨を詳しく紹介することが適切と思われたので , 解説 は簡潔に付する。 平成 18 年度税制改正で , 現物出資型の DES につ いて , 債権の現物出資は券面額ではなく時価によるも のとされ ( 法人税法 2 条 16 号 , 同法施行令 8 条 1 項 1 号 ) , この結果 , 現物出資する債権の券面額と時価 の差額は債務消滅益として認識する必要があるものと された。本件で Y の助言がなされた時点では上記改 正から数年を経過しており , その内容を説明しなかっ たとなると , 説明義務違反とならざるを得まい。過去 の裁判例でも , 法令の認識不足 ( 神戸地判平成 5 ・ 11 ・ 24 判時 1509 号 114 頁 ) , 基本通達に反する助言 ( 大阪高判平成 10 ・ 3 ・ 13 判時 1654 号 54 頁 ) といっ た場合に説明義務違反を認めている。 ※本稿の執筆に当たり , 小西貴雄弁護士の助力を得 た。 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499

2. ジュリスト 2016年11月号

頁 ( 代休残日数がある場合は年休ではなく代休を消化 させるような運用は , 労基法 39 条の趣旨との関係で 相当性を欠くが , 年休取得の禁止・制限の具体的な証 拠はなく , 違法な取得妨害は認められないとして不法 行為の成立を否定 ) , ⑤日能研関西ほか事件・大阪高 判平成 24 ・ 4 ・ 6 労判 1055 号 28 頁 ( 年休取得申請を なしたところ , 第 1 次考課者たる上司が申請を取り 下げなければ評価を下げる旨の発言をし , 労働者が申 請を取り下げたことにつき , 上記発言は労働者の年休 の権利を侵害する違法な行為であるとして不法行為の 成立を肯定 ) がある。 本件は , 不適法な時季変更権行使によるものではな い事例において , ⑤に続く 2 件目の責任肯定例であ ると思われるが , ⑤が , 具体的な ( 時季指定を行った 日についての ) 取得妨害について責任を肯定した事例 であることと対比して , 年休を取得しようとする ( 時 季指定をしようとする ) 行為を一般的に妨害 ( 抑制 ) する行為について使用者の責任を肯定した点で新規性 を有する ( X2 については , 年休を申請したが欠勤扱 いされたことがあるとの事実があるが , このこと自体 の適否が争われているわけではない ) 。また , ③ ~ ⑤ と対比して , 一定の取得理由 ( 冠婚葬祭や病気休暇 ) 以外の理由による取得の妨害を図った事案についての 判断でもある点にも新規性がある。このほか , ( ③ , ④の労働者側の主張及び ) ⑤と対比して , 取得妨害を 労働契約上の債務不履行と判断しており (X らは単 に債務不履行と主張するようである ) , 法的構成に特 徴がある ( 不適法な時季変更権行使による年休取得妨 害の事例においては , ①がこの構成を採っている ) 。 2 判旨 1 1 は , 本件のような一般的な年休取得の 妨害行為が , 労働契約上の債務不履行となる理由とし て , 年休自由利用原則に言及することに加えて , 年休 権が発生した場合 , その権利の行使を妨害してはなら ない義務が使用者にあることを挙げている。判旨はこ の義務を , 年休権が労基法 39 条 1 項により当然に発 生するものであること , 及び , 時季指定権を規定する 同条 5 項の存在から導出している。しかし , 現行法 の下では , 年休を「与え」る具体的方法として , ( 本 件では予定されていなかったであろうが ) 計画年休 ( 同条 6 項 ) もあり , 同条 5 項の方法のみを念頭に置 いたかのような判旨には疑問の余地がある上 , 本件で よ , x らは時季指定した日についての取得妨害を 争っているわけではなく , ( 年休権の発生根拠以外に 労働判例研究 は ) 同条 5 項に言及することのみをもって上記の義 務を根拠づける判旨の論理には , 疑問がある。 こうした義務を別途根 もっとも , 評釈者としては , 拠づけることは可能であると考える。判旨は , 上記義 務について , 「休暇の付与義務者たる使用者に要求さ れるのは , 労働者がその権利として有する有給休暇を 享受することを妨げてはならないという不作為を基本 的内容とする義務にほかならない」と説示する白石営 林署事件・最判昭和 48 ・ 3 ・ 2 民集 27 巻 2 号 191 頁 に示唆を得ているのではないかと推測される。同判例 は , 労働者が ( 具体的な日についての ) 時季指定をし た事案 ( 賃金カットの適否カ竫われた事案 ) にかかる ものであるが , 上記の説示は , 当時の労基法 39 条 1 項ないし 3 項 ( 現在の 1 項 , 2 項及び 5 項 ) の「与えな ければならない」 , 「与える」の意義についてなされて おり , かっ , 上記説示に先立って , 「労基法 39 条 1 , 2 項の要件が充足されたときは , 当該労働者は法律上当 然に右各項所定日数の年次有給休暇の権利を取得し , 使用者はこれを与える義務を負う」 ( 傍点評釈者 ) と の判示がなされており , 同判例は , 年休権の成立要件 ( 労基法 39 条 1 項・ 2 項 ) が充足されることによっ て , 同条 5 項に基づく時季指定とは関わりなく , 使 用者には年休を「与える」義務 , すなわち , 上記の 「有給休暇を享受することを妨げてはならない」義務 が発生するとの立場であると理解することが可能と解 される。このように , 判旨 1 1 が述べる義務は , 判 例が , 年休権そのものに使用者の「与える」義務の一 内容として上記の義務を肯定している ( そして , 年休 権が労働契約の内容となることに伴い , 上記の義務が 労働契約上の義務となる ) という形で根拠づけうると 考えられる ( なお , 本研究会では , 判旨が述べる義務 を労働契約上の義務としてどう構成するのか , 白石営 林署事件最判の射程が , 本件のように時季指定がない 事案にも及ぶのかについて議論があった ) 。したがっ て , 時季指定がなされない状況下で一般的に年休の取 得を妨害 ( 抑制 ) する行為も , 使用者の労働契約上の 義務違反となるものと解される。そして , 年休自由利 用原則を考慮すれば , 取得理由を限定することもこの 義務の違反を構成するものと解される。判旨 1 1 に ついては , 結論としては賛成できる。 3 本件事案の判断について。判旨 1 2 が摘示する 本件における Y の各行為は , 法所定の日数よりも年 休取得可能日数が少ないと誤信させる , あるいは , 取 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 125

3. ジュリスト 2016年11月号

を認めたものでないことは , 当裁判所の判例の 趣旨に徴して明らかであるとして , 規定違憲の 主張を排斥した上 , その余は , 憲法違反をいう 点を含め , 実質は単なる法令違反の主張であっ て , 適法な抗告理由に当たらないとした。 その上で , 法 4 条 1 項ただし書 , 刑訴法 53 条 1 項ただし書にいう「検察庁の事務に支障の あるとき」と「関連する他の事件の捜査や公判 に不当な影響を及ほすおそれがある場合」の関 係につき , 決定要旨のとおりの職権判断を示し 判旨 刑事確定訴訟記録法 4 条 1 項ただし書 , 刑訴 法 53 条 1 項ただし書にいう「検察庁の事務に 支障のあるとき」には , 保管記録を請求者に閲 覧させることによって , その保管記録に係る事 件と関連する他の事件の捜査や公判に不当な影 響を及ばすおそれがある場合が含まれる。 解説 I . 本決定の背景 刑訴法は , 47 条で「訴訟に関する書類は , 公判の開廷前には , これを公にしてはならな い」と規定する一方 , 53 条 1 項で「何人も , 被告事件の終結後 , 訴訟記録を閲覧することが できる」と規定している。法は , 刑事被告事件 に係る訴訟の記録の訴訟終結後における管理全 般に関する法律であるが , そのうち訴訟記録の 閲覧に関する規定は , 刑訴法 53 条 1 項ただし 書に規定された閲覧制限事由を具体化するとと もに , 閲覧に関する手続を定めるものというこ とができる。 刑訴法 53 条 1 項と憲法の関係について , 裁 判の公開には記録の公開も含まれるとする少数 説もあるが , 通説は , 憲法 82 条 1 項は , 「対 審」及び「判決」の公開を要求しているにとど まり , 「訴訟に関する記録の全部をつねに公開 すべきだとする趣旨までをも含むものではな い」「訴訟記録をどの程度まで公開すべきかは , [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 100 もつばら立法政策 ことに刑事政策の立場か らの一の問題である」とする ( 宮澤俊義〔芦 部信喜補訂〕・全訂日本国憲法 698 頁等 ) 。通 説と同様の理解を前提としつつ , 刑訴法 53 条 1 項は , 憲法 21 条から導かれる知る権利を具 体化したものと解すべきであるとの説も有力に 主張されている ( 佐藤幸治・憲法〔第 3 版〕 540 頁等 ) が , 憲法 21 条自体から , 訴訟記録 を閲覧する具体的権利が導かれるとする見解は 見当たらない。 最高裁の判例 ( 最三小決平成 2 ・ 2 ・ 16 集刑 254 号 113 頁 ) は , 憲法 21 条 , 82 条が「刑事 確定訴訟記録の閲覧を権利として要求できるこ とまでを認めたものでないことは , 当裁判所大 法廷判例 ( 昭和 29 年 ( 秩ち ) 第 1 号同 33 年 2 月 17 日決定・刑集 12 巻 2 号 253 頁 , 昭和 63 年 ( オ ) 第 436 号平成元年 3 月 8 日判決・民集 43 巻 2 号 89 頁 ) の趣旨に徴して明らかである」 としている。 本決定も , 上記第三小法廷の決定を参照し て , 「憲法の上記各規定が刑事確定訴訟記録の 閲覧を権利として要求できることまでを認めた ものでないことは , 当裁判所の判例〔上記平成 元年 3 月 8 日大法廷判決〕の趣旨に徴して明ら かである」としており , 判例の立場は確立した ものといえよう ( なお , 上記大法廷判決は , 憲 法 82 条 1 項の趣旨につき , 「裁判を一般に公開 して裁判が公正に行われることを制度として保 障し , ひいては裁判に対する国民の信頼を確保 しようとすることにある。裁判の公開が制度と して保障されていることに伴い , 各人は , 裁判 を傍聴することができることとなるが , 右規定 は , 各人が裁判所に対して傍聴することを権利 として要求できることまでを認めたものでない ことはもとより , 傍聴人に対して法廷において メモを取ることを権利として保障しているもの でないことも , いうまでもないところである」 としたものである ) 。 憲法 82 条の趣旨は , 裁判手続の核心である 対審及び判決の公開を定めることにより , 国民 の監視を通じて裁判の公正な運用を確保するこ

4. ジュリスト 2016年11月号

例えば医薬品の剤型の発明に係る特許権につい て , 当該発明の実施が可能となった処分 ( 医薬 品の承認 ) が初めてなされたとしても , 当該処 分に係る医薬品が含有する有効成分とその効 能・効果については過去に先行医薬品に関して 処分 ( 承認 ) がなされていた場合には , 延長登 録はなされることはなかった。すなわち , 上記 のような医薬品の剤型の発明に係る特許権につ いて , 処分 ( 承認 ) を得るために侵食された期 間は補償されなかった。 これに対し , 平成 23 年最判は , 「先行医薬品 が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項 に係る特許発明の技術的範囲にも属しないとき は , 先行処分がされていることを根拠として , 当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受け ることが必要であったとは認められないという ことはできない」と論じて上記運用を否定し , そのようなときには延長登録はなされるべきで あるとした。 特許・実用新案審査基準は , これを受けて , 平成 23 年 12 月 28 日に改訂された。ただし , 当該改訂審査基準では , 延長登録出願が理由と する処分 ( 承認 ) の対象医薬品の発明特定事項 ( 及び用途 ) に該当する事項によって特定され る範囲が , 先行処分 ( 承認 ) によって実施でき るようになっていた場合には , 延長登録を認め ないこととされた ( 第Ⅵ部 3.1.1 ②② ) 。その ため , 例えば , 先行処分 ( 承認 ) がなされた医 薬品と成分及び効能・効果を同じくしながらも 剤型や用法・用量が異なる医薬品についての新 たな処分 ( 承認 ) がなされた場合 , 当該剤型や 用法・用量を特徴とする発明に係る特許権の延 長登録は認められることとなったが , 他方で , 既に先行処分 ( 承認 ) に基づく態様での実施が 可能となっていた発明 ( この例では成分又は効 1 ) 特許法施行令 2 条が , ①農薬取締法の登録 , ならび に②医薬品 , 医療機器等の品質 , 有効性及び安全性の確保等 に関する法律に規定する医薬品・体外診断用医薬品に係る承 認・認証を , 当該処分と定める。 能・効果に関する発明 ) に係る特許権の延長登 録は , 従前どおり認められないこととなった。 2. 平成 27 年最判とその後の運用 上記改訂審査基準により , 延長登録制度の運 用はいったん落ち着くかに思われた。ところ が , 平成 27 年最判は , 上記改訂審査基準に 従ってなされた延長登録出願拒絶査定 ( を維持 した審決 ) を違法とした。 平成 27 年最判は , 「出願理由処分を受けるこ とが特許発明の実施に必要であったか否かは , 飽くまで先行処分と出願理由処分とを比較して 判断すべきであり , 特許発明の発明特定事項に 該当する全ての事項によって判断すべきもので はない。」として特許庁の運用を批判し , 「医薬 品の製造販売につき先行処分と出願理由処分が されている場合については , 先行処分と出願理 由処分とを比較した結果 , 先行処分の対象と なった医薬品の製造販売が , 出願理由処分の対 象となった医薬品の製造販売をも包含すると認 められるときには , 延長登録出願に係る特許発 明の実施に出願理由処分を受けることが必要で あったとは認められないこととなる」ところ , 「医薬品の成分を対象とする物の発明について , 医薬品としての実質的同一性に直接関わること となる両処分の審査事項は , 医薬品の成分 , 分 量 , 用法 , 用量 , 効能及び効果である。」と論 じた。そして , 具体的なあてはめにおいては , 「本件処分に先行して , 本件先行処分がされてい るところ , 本件先行処分と本件処分とを比較す ると , 本件先行医薬品は , その用法及び用量を 『他の抗悪性腫瘍剤との併用において , 通常 , 成人には , べバシズマプとして 1 回 5mg / kg ( 体重 ) 又は 10mg/kg ( 体重 ) を点滴静脈内 投与する。投与間隔は 2 週間以上とする。』と 2 ) 昭和 62 年改正により延長登録制度が導入された当初 は , 特許発明の実施を 2 年以上できなかったことが延長登録 の要件とされていたが , ーー平成 11 年改正により当該下限が廃 止され , 現行の条文となった。 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 57

5. ジュリスト 2016年11月号

得理由を限定するものとして年休取得を一般的に妨害 する行為に該当し , したがって , 債務不履行を構成す ると解される ( 判旨 1 2 には異論がない ) 。 これに対して , 損害について判断する判旨 1 3 に ついては , 疑問を差し挟む余地があるのではないかと 思われる。判旨は , 「 Y が X らの年次有給休暇の取得 申請を妨害した」 ( 傍点評釈者 ) としているが , 上記 Y の妨害行為により X らの年休取得申請が実際に妨 げられたか否かは , 判決文からは必ずしも判然としな い ( 詳細は割愛するが , 例えば , X2 については , 在 職期間中のほとんどの期間について , 上記 Y の妨害 行為のあった期間・ない期間を通じ , 毎年 2 日の年 休を取得する状況であった ) 。この点 , 本件のような , 年休取得を一般的に妨害する行為にかかる損害賠償責 任については , 損害の発生 ( あるいは相当因果関係の 存在 ) の認定について , なお検討すべき課題があるよ うに思われる ( にもかかわらず , 判旨 1 3 が損害と してそれなりの額を認めているのは , 一般に日本の職 場〔特に中小企業の職場〕の雰囲気が , 労働者の年休 取得を躊躇させるものであることカ昿く知られている 中で , 本件のような妨害行為につき警鐘を鳴らす趣旨 のものである , と理解する余地もあろう ) 。 1 判旨Ⅱ 1 は , 就労の実態における労働条 件 ( 労働時間 ) が , 就業規則所定の基準に達し ない場合について , 就業規則の最低基準効 ( 労働契約 法〔以下「労契法」という〕 12 条 ) により就業規則 所定の基準が労働契約の内容となるとするものであ る。従来の裁判例には , 就業規則所定の基準に達しな い労使間の労働条件合意を有効とするものがあり , ま た , 労働協約や就業規則に反する労使慣行が事実たる 慣習として法的な効力を認められる場合があるとの一 般論を述べるものがあるが , 学説からは就業規則の最 低基準効を看過するものとの批判がなされてきている ( 東京大学労働法研究会編・注釈労働基準法 ( 下 ) 1020 頁 ~ 1021 頁 [ 荒木尚志 ] 参照 ) 。判旨Ⅱ 1 は , した裁判例には与せず , 労働者との個別合意が就業規 則の最低基準効に反しえないことを明確に説示すると ともに , ( 就業規則所定の基準を下回る ) 労使慣行に ついても同様に就業規則の最低基準効には反しえない とするものと解され , 正当である。 2 判旨Ⅱ 2 は , 就業規則変更による労働条件不利 益変更の効力について判断している。不利益変更を認 めなかった結論には異論はないが , 判断過程にはいく Ⅲ 126 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 っか疑問がある。 第 1 に , 判旨は , 冒頭で , 就業規則③につき , 実 質的周知がなされていないと判断しているにもかかわ らず , 変更の合理性についても検討を加えて結論に 至っており , 就業規則変更の合理性と実質的周知とを 別個独立の要件とは考えていない可能性がある。もし そうであるとすれば , 妥当ではない ( 実質的周知がな いことのみをもって同じ結論を導きえたはずである ) 。 第 2 に , 判旨は , 変更の必要性について , 所定労 働時間 8 時間が従業員の「共通認識」であり , かっ , 就業規則③への変更は Y の規定変更上の誤りを訂正 するものにすぎないがゆえに必要性は高いとしてい る。しかし , 上記の共通認識の下における状況は , 変 更前である就業規則②の下では法的に許容されない状 況である ( 1 参照 ) 。本来的には実態が是正されるべ きことを考えると , 規定のほうの誤りを訂正するにす ぎないがゆえに必要性が高いとは速断せず , 所定労働 時間を 30 分延長し 8 時間とする事業遂行上の必要性 があるか否かという実質的な検討を行うべきである。 第 3 に , 判旨は , 変更にあたっての意見聴取 , 届 出を , 合理性判断の一考慮要素としている。本判決 は , 労契法施行後の事案において , 不利益に変更され た就業規則の契約内容規律効と , 労基法所定の意見聴 取 , 届出との関係について , 初めて明示的に論じたも のではないかと思われる ( 労契法施行前の裁判例の状 況については , 東京大学労働法研究会編・前掲 1027 頁 ~ 1028 頁 [ 荒木 ] 等参照 ) 。労契法制定過程では , 効力要件ではないものの , 「合理性判断の重要な要素 となるべき」との了解があったとされており ( 荒木尚 志ほか・詳説労働契約法〔第 2 版〕 138 頁 ) , 判旨は , こうした考え方を一定程度採り入れたものと解され る。もっとも , 判旨は , これらの手続の履践・不履践 を単なる一考慮要素にとどめている ( 重要な要素とは していない ) ように解され , 上記のような了解の立場 からは , 未だ疑問の余地があると思われる。 ( なお , 本判決は , 判旨Ⅱに関連して X らの法内残 業にかかる請求を一部認容しているが , 判断の前提の 1 つであるはずの , 法内残業に対する賃金にかかる X らの労働契約内容は , 判決文上明らかではない〔むし ろ X らの主張の中にこの旨の指摘がある〕。この点の 認定・判断が欠けているならば , 疑問である。 )

6. ジュリスト 2016年11月号

21 条 10 項 ) が導入され , 活用が期待されるも のの , 侵害態様の実態が類型的に異なる特許権 侵害罪は , それ自体 , 実務運用上 , 機能し難 く , それゆえ , 同罪に係る犯罪収益の没収規定 も実際上機能し難いため , 異論は少なかろう。 Ⅳ . 「損害賠償額は当事者で決められる という方法」 さらに , 報告書では , 「損害賠償額は当事者 で決められるという方法」につき , 「これを機 能させるためには , 弁護士費用の負担の問題や 侵害判決における情報提供義務の可能性などと 併せて検討する必要がある」とされた。 この点 , さらに , 判決後の当事者間での情報 提供義務の履行・強制の可能性・容易性や , 提 供された情報に基づく ( 非 ) 寄与率・実施料率 等の評価も含めた損害賠償額の算定の可能性・ 容易性等をも併せて , 慎重に検討する必要があ ろつ。 V. 「訴訟に必要な費用の負担」 最後に , 報告書では , 「訴訟に必要な費用の 負担」につき , 「権利者が実態に基づき弁護士 費用等を請求して , それが認容されるという適 切な運用が行われることを期待しつつ , その基 礎として活用できるようにするため , 知的財産 訴訟に必要な費用のデータベース等の作成につ いて , その可否を含め具体的に検討を進めるこ とが適当である」とされた。 この点 , 不法行為の被害者である原告に諸般 の事情により相当額の弁護士費用の損害賠償を 認容する判例 34 ) の下 , 特許権侵害による損害 賠償請求訴訟でも , 裁判例上 , 弁護士等代理人 等費用の損害賠償請求が相当額の範囲内で認容 されてきた。ただし , 従来 , 他の損害賠償額が 100 万円 ~ 1 億円程度の場合 , 同額の 10 % 程度 を認容したものが多数であった 35 ) 。もっとも , 近年 , 同額以外の事情をも斟酌して同額の 10 % を多少超える額を認容したもの 36 ) や , 特 に他の損害賠償額が 500 万円程度以下の場合 , 同額以外の事情をも十分に斟酌して同額の 10 % を大幅に超える額を認容したもの 37 ) が 増加してきた。他方 , 他の損害賠償額が 1 億円 程度を超える場合 , 同額の 10 % より低減した 割合で認容したものも多数ある ) 。 この点 , 定型的な算定を基礎とすること自体 は , 算定の簡便性・客観的合理性・予測可能性 等に鑑み , 裁判実務上 , 是認され得るものの , 特許権侵害訴訟の場合に特に交通事故訴訟の場 合と同様に 10 % 程度が基準とされるべきかは , 一考の余地があろう。また , 他の損害賠償額が 低額または高額である場合には , 上記判例や近 年の裁判例に沿って , 事案の難易 , 訴訟の経 緯 , 差止請求の認容その他諸般の事情を十分に 斟酌して , 定型的な算定額より高額または低額 な相当額が柔軟に認容されるべきであろう。 よって , まずはかかる裁判実務上の「適切な 運用」が必要であるが , 上記「データベース 等」は , 相応なものが作成されれば , かかる 「適切な運用」に資する客観的な目安として , 裁判実務上 , 活用され得るであろう。 Ⅵ . 今後の動向 そして , 上記報告を受けて , 知的財産戦略本 部「知的財産推進計画 2016 」 ( 2016 年 5 月 ) で は , 「ビジネスの実態やニーズを反映した適切 な損害賠償額の実現」のための方向性が示さ れ , 同計画を受けて , 今年度 , 産業構造審議会 知的財産分科会特許制度小委員会において , 損 害賠償を含む知財紛争処理システムの一層の機 能強化が論点として審議される予定であり , そ の審議の動向が注目される。 34 ) 35 ) 36 ) 48 最判昭和 44 ・ 2 ・ 27 民集 23 巻 2 号 441 頁。 中山 = 小泉編・前掲注 D1542 頁 [ 飯田 ] 。 中山 = 小泉編・前掲注 D1543 頁 [ 飯田 ] 。 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 37 ) 38 ) 中山 = 小泉編・前掲注 D1544 頁 [ 飯田 ] 。 中山 = 小泉編・前掲注 D1545 頁 [ 飯田 ] 。

7. ジュリスト 2016年11月号

頁 , 宅地建物取引業法令研究会編著・宅地建物 取引業法の解説〔 5 訂版〕 126 頁参照 ) 。 そして , 宅建業を廃業する等の理由により , 営業保証金を供託しておく必要がなくなること があるが , この場合には , 供託してある営業保 証金を払い戻してもらう必要があり , これを営 業保証金の取戻しという。そして , 宅建業法 30 条 2 項本文の取戻公告及び同項ただし書の 趣旨については , 「〔営業保証金の取戻公告は , 〕 供託されている営業保証金について還付請求権 を有している者がいる場合に , その者の知らな い間に営業保証金の取戻しが行われてしまうこ とは , その者が営業保証金から損害を賠償して もらう機会を失わせることになるので , 還付請 求権を持っている者に対しては , その権利を実 行する機会を与えておいて , その機会に権利を 行使しない場合にのみ取戻しを認めるのが合理 的であると考えられるため設けられている制度 である。公告制度は , このような趣旨から認め られているのであるが , 営業保証金を取り戻す 事由が発生してから 10 年を経過したときは , 取引の相手方の有していた債権はほとんど時効 となり消滅するので , 公告を要しないで取り戻 すことができることになって〔いる〕」 ( 宅地建 物取引業法令研究会編著・前掲 142 頁 ) と説明 されている。 Ⅲ . 判旨について 本判決は , 営業保証金及び取戻公告の制度趣 旨等に照らすと , 宅建業法 30 条 2 項の規定は , 取戻請求をするに当たり ,. 取戻公告をして取戻 請求をするか , 取戻公告をすることなく同項た だし書所定の期間の経過後に取戻請求をするか の選択を , 宅建業者であった者等の自由な判断 に委ねる趣旨であると解するのが相当であると 0 敷衍するに , 営業保証金の制度趣旨に照らす と , 本来 , 営業保証金は , 取戻事由が発生した 後も , 取引の相手方に生じた損害を担保するも のとして長期間供託され続けることが望ましい 性質のものであり ( 例えば , 宅地の購入者にお 94 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 いて , 当該宅地に存在する瑕疵やこれに基づく 損害を了知するまでに数年を要することは必ず しも珍しいことではない ) , このような営業保 証金の性質からすれば , 同項本文の規定は , 宅 建業者であった者等が義務的に又は原則的にな すべき行為を定めたものではなく , むしろ , 宅 建業者であった者等が早期に営業保証金の取戻 請求を行う場合において , 還付請求権者の権利 行使の機会を確保するために履践すべき手続な いし要件を定めたものにすぎないと解するのが 相当であり , 同項本文所定の手続に基づく取戻 請求の方法と , 同項ただし書所定の期間の経過 による取戻請求の方法との間に優先関係はな く , 宅建業者であった者等が自由な判断により 選択することが可能なものとして予定されてい るものとみるのが相当であると考えられる。本 判決は , このような観点から , 宅建業法 30 条 2 項の規定の趣旨を , 上記のとおり解したもの といえよう。 その上で , 本判決は , 取戻公告をすることな く取戻請求をする場合に , 宅建業者であった者 等は取戻事由が発生すれば直ちに公告期間を最 短の 6 か月と定めて取戻公告をすることができ ることを理由として , 取戻事由の発生時から 6 か月を経過した時から取戻請求権の消滅時効が 進行すると解することは , 上記の選択を宅建業 者であった者等の自由な判断に委ねた宅建業法 30 条 2 項の趣旨に反すると解したものである。 そして , このように解さなければ , 同項ただし 書所定の期間の経過による取戻請求の方法が制 度上予定されていることは同項の規定の文理に 照らし明らかであるにもかかわらず , 本判決も 説示しているとおり , 当該取戻請求をなし得る 期間が僅か 6 か月間に限定され得ることにな り , 不合理といわざるを得ないことも , 本判決 の上記解釈の正当性を裏付けるものと解される ( なお , 国会に提出されている民法改正法案に おいては , 民法 166 条 1 項の消滅時効期間は , 債権者が権利を行使することができることを 知った時から 5 年間〔 1 号〕 , 又は , 権利を行 使することができる時から 10 年間〔 2 号〕と

8. ジュリスト 2016年11月号

民事 特例財団法人は , その同一性を失わせるような 根本的事項の変更に当たるか否かにかかわら ず , その定款の定めを変更することができるか 最高裁平成 27 年 12 月 8 日第三小法廷判決 平成 25 年 ( 受 ) 第 2307 号 , 寄附行為変更無効確認等請求事 件 / 民集 69 巻 8 号 2211 頁 / 第 1 審・京都地判平成 24 年 3 月 27 日 / 第 2 審・大阪高判平成 25 年 7 月 19 日 Nomura Takenori 最高裁判所調査官野村武範 事実 本件は , 宗教法人である X ( 原告・控 訴人兼被控訴人・被上告人 ) が , 一般社 団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益 社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法 律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 ( 以下「整備法」という ) による改正前の民法 ( 以下「旧民法」という ) に基づき財団法人と して設立され , 平成 20 年の一般社団法人及び 一般財団法人に関する法律 ( 以下「一般社団・ 財団法人法」という ) 等の施行により一般財団 法人として存続しつつ整備法に定められた経過 措置が適用される特例財団法人となり , 平成 23 年に通常の一般財団法人に移行した Y ( 被 告・被控訴人兼控訴人・上告人 ) に対し , Y の寄附行為に加えられた 4 件の変更の無効確認 等を求めた事案である。上記変更のうち , 特例 財団法人から一般財団法人への移行時にされた 2 件の変更について , 法人の同一性を失わせる ような根本的事項の変更である場合には無効と なるか否か等が争われた。 事実関係の概要等は , 次のとおりであ Ⅱ る。 Y は , 大正元年 , A 宗 B 派の門徒らにより , 旧民法に基づく財団法人として設立された。設 立時の Y の寄附行為には , ① Y の目的につい て定める条項 ( 以下「本件目的条項」という ) において , Y は B 派の維持を目的とするもの 最高裁時の判例 と , ② Y の解散に伴う残余財産の帰属につい て定める条項 ( 以下「本件残余財産条項」とい う ) において , Y の解散に伴う残余財産は B 派に寄附するものと , ③ Y の寄附行為は所定 の手続を経てこれを変更することができるもの とする定めがあった。 X は , 昭和 27 年に宗教法人として設立さ れ , B 派の地位を承継した。 Y は , 平成 20 年 12 月 , 一般社団・財団法 人法及び整備法の施行により特例財団法人とな り , その寄附行為は定款とみなされた。さら に , Y は , 平成 23 年 2 月 , 整備法 45 条の認 可を受け , 通常の一般財団法人に移行したが , ーの際①本件目的条項が , 広く仏教文化を興 隆する事業を行うことにより世界の精神文化発 展に寄与すること等を目的とする旨に , ②本件 残余財産条項が , Y の残余財産は類似の事業 を目的とする公益法人等に贈与する旨に変更さ れた。 原審 ( 第 1 審同旨 ) は , 上記の 2 件の Ⅲ 寄附行為の変更は Y の同一性を失わせ るような根本的事項の変更であるから無効であ るなどとして , その無効確認等を求める限度で X の請求を認容すべきものとした。 これに対して Y が上告及び上告受理申立て をしたところ , 最高裁第三小法廷は , 上告受理 申立て事件を受理した上で次のとおり判示し て , 上記の 2 件の寄附行為の変更に関する X の請求を棄却した。 判旨 「一般社団法人及び一般財団法人に関する法 律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等 に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に 関する法律」 42 条 1 項に規定する特例財団法 人は , 所定の手続を経て , その同一性を失わせ るような根本的事項の変更に当たるか否かにか かわらず , その定款の定めを変更することがで きる。 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 89

9. ジュリスト 2016年11月号

先の学説の分類の観点でみれば , 同条は , 性 差別禁止法理等によらず有期・無期契約労働者 間の処遇格差自体を是正する救済肯定説であ り , 非正規労働者差別構成である ( ②説 ) 。 上記 1 ( 1 ) ( b ) ( i ) でいう比較の基準について は , 単に「現に従事している職務」のみなら ず , 職務の内容や配置の変更の範囲等の要素を も比較判断の基準とする ( 前述の「同一義務労 働同一賃金説」的で , 日本の現在の雇用慣行に も親和的な ) 立場を採っている。また , 上記 1 ( 1 ) (b) ( ⅱ ) についていえば , 労契法 20 条は , 比較対象者を限定せず , 職務の内容及び配置の 変更の範囲その他の事情という考慮要素から判 断される不合理な←不均衡な ) 処遇格差一般 を禁止する , 射程の広いアプローチ ( 均衡取扱 法理 ) を採っている。 労契法 20 条の射程は広汎なものとなったが , 広い解釈の余地も残された。そこで , 解釈上の 諸論点のうち , 労働条件の相違で「不合理と認 められるもの」 ( 「不合理」性の判断枠組み・立 証責任等 ) に関する解釈に絞って , 行政解釈と 学説・裁判例を次に概観することとする。 3. 「不合理」性に係る 行政解釈 / 学説・立法後の裁判例 ( 1 ) 行政解釈 / 学説 労契法 20 条立法時の施行通達 ( 「労働契約法 の施行について」〔平成 24 ・ 8 ・ 10 基発 0810 第 2 号〕。以下「施行通達」という ) は , 労働条 件の相違の「不合理」性判断枠組みについて , 次のように述べる。 「労働条件」は , 「賃金や労働時間等の狭義の 労働条件のみならず , 労働契約の内容となって いる災害補償 , 服務規律 , 教育訓練 , 付随義 務 , 福利厚生等労働者に対する一切の待遇を包 含する」とする。そして考慮要素である「職務 の内容」は「労働者が従事している業務の内容 及び当該業務に伴う責任の程度」 , 「当該職務の 内容及び配置の変更の範囲」は , 見込みも含め て「転勤 , 昇進といった人事異動や本人の役割ー の変化等・・・・・・の有無や範囲」 , 「その他の事情」 時論 は「合理的な労使の慣行などの諸事情」が想定 されるとし , また個々の労働条件ごとに不合理 性を判断すべきと述べ , 特に通勤手当 , 食堂の 利用 , 安全管理等の相違は , 上記各考慮要素を 考慮して特段の理由がない限り合理的とは認め られないと述べる。なお , 「不合理性」禁止の 片面性 / 両面性について , 典型的には有期契約 労働者に不利益なものが想定されていたのでは ないかと推測される ( 明確でないが , 第 180 回 国会参議院厚生労働委員会会議録 8 号〔平成 24 年 6 月 19 日〕 3 頁 [ 金子順ー政府参考人答 弁 ] 参照 ) 。 また施行通達は , 労働条件格差の不合理性と いう規範的要件の立証責任につき , 有期契約労 働者が不合理性を基礎づける事実を , 使用者が 合理性を基礎づける事実の主張立証責任を負う とする。 多くの学説は , ( 根拠や構成等は異同がある が ) 労契法 20 条の射程は , 無期契約労働者・ 有期契約労働者が同一視される場合の労働条件 の相違 ( 同一取扱法理の違反 ) のみに限られ ず , 同一視できない差異がある場合における当 該差異に不均衡な←不合理な ) 労働条件の相 違があるとき ( 均衡取扱法理の違反 ) にも及ぶ と解する ( 多数。なお同一取扱法理は均衡取扱 法理の特別類型であるので , 労契法 20 条が前 者〔同一取扱法理違反〕の場合をも含むという のは自然な解釈と思われる ) 。また多くの学説 は , 同条は専ら有期契約労働者に不利益な労働 条件の相違を対象とすると解する ( 緒方桂子 「改正労働契約法 20 条の意義と解釈上の課題」 季労 241 号〔 2013 年〕 20 頁等 ) 。 他方 , 労働条件の相違の不合理性 / 合理性の 関係の捉え方と , 労使間の立証責任の分配につ いては , 学説には大きな考え方の違いがある。 1 つの立場は , 合理性と不合理性とは表裏だと して , 「不合理」とはすなわち合理的でないも のとみる ( 緒方・前掲 24 頁等 ) 。立証責任につ いても , 労働者は労働条件の相違を立証すれば よく , ーー使用者が相違の合理性を立証すべきとし て , 実質的な労働者の立証責任の緩和ないし使 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 73

10. ジュリスト 2016年11月号

号 3 頁 ) ( 以下「平成 26 年知財高判」という ) は , 傍論としてではあるが , 「医薬品の成分を 対象とする特許発明の場合 , 特許法 68 条の 2 によって存続期間が延長された特許権は , 「物」 に係るものとして , 『成分 ( 有効成分に限らな い。 ) 』によって特定され , かっ , 『用途』に係 るものとして , 「効能 , 効果』及び「用法 , 用 量』によって特定された当該特許発明の実施の 範囲で , 効力が及ぶものと解するのが相当であ る ( もとより , その均等物や実質的に同一と評 価される物が含まれることは , 延長登録制度の 立法趣旨に照らして , 当然であるといえる。 ) 。」 と論じていた。大筋で , 上記懸念を裏付けるも のではあったが , 「分量については , 延長され た特許権の効力を制限する要素となると解する ことはできない。」とし , また均等物や実質同 一物が権利範囲に含まれるとしたことで , 上記 懸念への配慮をみせた。ただ , その範囲は不明 確であって , 予測可能性を欠くとの印象は拭え なかった ( 最判平成 10 ・ 2 ・ 24 民集 52 巻 1 号 113 頁が示した均等侵害の 5 要件が適用される ものではないだろうとは思われた ) 。なお , 平 成 27 年最判は , 平成 26 年知財高判の上記傍論 には触れなかった。 2. 平成 28 年東京地判 そして , いよいよ特許権侵害訴訟において , 延長登録に係る特許権の効力について判断した のが , 東京地裁平成 28 年 3 月 30 日判決 ( 裁判 4 ) 白金製剤に分類される抗癌剤であり , それ自体は原 告特許の優先日前から公知であった。ただ , 従来は凍結乾燥 粉末製剤として製品化され , 処方時に水に溶解しなければな らず煩雑であったところ , 原告の特許発明は , オキサリプラ チン粉末をただ水に溶解するだけで ( おそらく自然平衡によ り ) 安定化したというもので , いわば「コロンプスの卵」的 な発明である。 5 ) クレーム文言は次のとおり。「濃度が 1 ないし 5mg / ml で pH が 4.5 ないし 6 のオキサリプラテイヌムの水溶液か らなり , 医薬的に許容される期間の貯蔵後 , 製剤中のオキサ リプラテイヌム含量が当初含量の少なくとも 95 % であり , 該水溶液が澄明 , 無色 , 沈殿不含有のままである , 腸管外経 特集 / 知財システムの次なる方向性 所 HP 〔平成 27 年 ( ワ ) 第 12414 号〕 ) ( 以下「平 成 28 年東京地判」という ) である。 原告の特許権 ( 特許第 3547755 号 ) に係る発 明は , 濃度と pH を特定したオキサリプラチ ン 4 ) の水溶液からなる医薬的に安定な製剤に関 するものであり 5 ) , その実施品である「エルプ ラット点滴静注液 50mg 」等 ( 以下「原告製 品」という ) に係る各処分 ( 承認 ) に基づき , 合計 7 件の延長登録がなされていた 6 ) 。これに 対し , 被告は後発医薬品メーカーであり , 原告 製品と生物学的同等性が認められる後発医薬品 として承認された「オキサリプラチン点滴静注 50mg 『トーワ』」等 7 ) ( 以下「被告製品」とい う ) の製造販売を行っていた。そして , 被告製 品は , 成分 , 分量 , 用法 , 用量 , 効能及び効果 のうち , オキサリプラチン水溶液への添加物 ( 安定化剤 ) として濃グリセリンを含むという 1 点において , 原告製品と異なっていた。被告 は , 非侵害論として , 濃グリセリンの添加を理 由として , 被告製品はオキサリプラチン水溶液 のみからなるべき特許発明の技術的範囲 ( 特許 70 条 1 項 ) に含まれないと主張し , 加えて , 延長された特許権の効力 ( 特許 68 条の 2 ) も 被告製品に及ばないと主張した。 平成 28 年東京地判は , 「本件事案に鑑み」と して , 特許発明の技術的範囲 ( 特許 70 条 1 項 ) の解釈に立ち入ることなく , 延長された特許権 の効力 ( 特許 68 条の 2 ) について論じた。す なわち , 医薬品の成分を対象とする特許発明の 路投与用のオキサリプラテイヌムの医薬的に安定な製剤。」 ( 「オキサリプラチン」と「オキサリプラテイヌム」は同義で ある。 ) 6 ) 処分 ( 承認 ) の対象となった物は , 工ルプラット点 滴静注液 50mg, 同 100mg 及び同 2()()mg の 3 種 , 処分 ( 承 認 ) において特定された用途も「結腸癌における術後補助化 学療法」 , 「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」及び 「治癒切除不能な膵癌」の 3 種あり , 合計 7 つの処分 ( 承認 ) を理由として , それぞれ延長登録がなされていた。 7 ) 後発医薬品の製品名については , 取り違いを防止す るため , ー厚生労働省の通達により , 一般名称 + 分量 + ーメーー カー名とするよう指導されている。 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 59