信用保証協会 - みる会図書館


検索対象: ジュリスト 2016年11月号
85件見つかりました。

1. ジュリスト 2016年11月号

るから , X において , 引き受けられないリスクがあ 保証協会が貸付を行った金融機関に対して信用保証契 る場合には , その事由を契約書において定めることが 約の錯誤無効を主張した事案において , 錯誤無効を否 可能であるところ , X と Y らとの間で取り交わされ 定したものである。 た書面で・・・・・・本件各貸付先が企業実体を有しているこ このように信用保証協会が保証契約の錯誤を主張し と及び資金使途が事業資金であること等が記載されて た裁判例の中で , 「主債務者に会社としての実体がな はいるものの , それ自体はあくまで X や Y らの認識 い」ことが錯誤理由であった事件としては , ①東京地 を記載したものにすぎず , それらの認識が事実と異な 判昭和 53 ・ 3 ・ 29 判時 909 号 68 頁と , ②東京高判平 る場合のリスク負担に関する記載があるわけではない 成 19 ・ 12 ・ 13 判時 1992 号 65 頁がある。この 2 件の こうした場合のリスクを負担するまでの意思 裁判例はいずれも , 信用保証協会の保証は貸付先であ から・・ が Y らに存在するものと読み取ることはできない。 る企業が実体を有することを当然の前提としており , また・・・・・・金融機関としては , 約定書の定めは , 義務違 その実体がなければ信用保証の対象とならないこと 反や帰責事由が存在する場合という限度でリスクを負 は , 金融機関も当然のこととして熟知していたもので 担したことを意味するだけであり , これらがない場合 あり , 企業が実体を有することは信用保証協会が保証 にまで , X が信用保証債務を免れることを甘受して を付すための重要な要素であると判示し , 錯誤無効を いたものと解することは困難というべきである。した 認めた。これらの裁判例は動機表示説の立場に立っと がって・・・・・・ Y らにおいて , 義務違反や帰責事由がな されるが ( 伊藤進・信用保証協会保証法概論 111 い場合にまで , リスクを負担するとの意思があったと 頁 ) , 動機の表示の要件をかなり拡大したものである いうことはできない」。 という評価もある ( 渡邊博己〔判批〕金法 1834 号 94 また「信用保証協会である X は , 公的資金を扱う 頁 ) 。ただし , ①では金融機関経由保証のみが問題に 公的機関であり , 中小企業への融資の促進を使命とし なったが , ②では金融機関経由保証と協会斡旋保証の ているのであるから , 定められた融資対象者 , 資金使 両者が含まれていた点で事実関係が異なる。これに対 途以外に公的資金が渡ることは , 厳に避けるべき事態 し , 錯誤の認定において両者を区別すべきであり , 協 であって , それと異なる事態が生じるリスクを金融機 会斡旋保証の場合には信用保証協会が責任を負担する 関に転嫁すべき事情があり・・・・・・そのこと自体は金融機 余地があるという指摘がある ( 吉岡伸一〔判批〕岡山 関においても認識されていたものと思われる。しかし 大学法学会雑誌 58 巻 1 号 107 頁 ) 。 ・・・私企業である Y らが , 直ちに避け難いリスクの 他方 , ③福岡高那覇支判平成 23 ・ 9 ・ 1 金法 1982 負担を甘受するものとは解されないし , また , 信用保 号 143 頁 ( 第 1 審 : 那覇地判平成 23 ・ 2 ・ 8 金法 1982 号 151 頁 ) は「主債務者に実際の創業意思がない」 証協会である X としても , Y ら金融機関が上記リス クを負担することになれば , 金融機関が中小企業に対 という錯誤理由が主張された事案において , 当該錯誤 する融資を躊躇し , 審査が厳格になる事態が想定さ は動機の錯誤であり , 要素の錯誤と認定するためには れ , 金融機関から中小企業に対する円滑な融資の協力 契約の解釈を通じ , 契約上表れている当事者の意思を が得られなくなる結果 , 中小企業への融資を促進する 考慮すべきであると判示し , ( a ) 貸倒れリスクに関す という信用保証協会の趣旨・目的に反する事態が生じ る保証契約の当事者の意思はその発生の原因や理由を 得ることも認識していたものと推認すべきである」た 問わないこと , ( b ) 同リスクを金融機関に負担させる め , 「 X と Y らとの間で , 認識と事実が異なり , 債 と融資の円滑化という中小企業振興資金融資制度の目 務が履行されない場合のリスクを Y ら金融機関が負 的が果たせないこと , ( c ) 信用保証協会が独自の審 担するものとしたと認めるに足りる事情は見当たらな 査・判断能力を持っこと , (d) 貸付金の詐取も使途違 反行為に含まれることは保証契約当事者の想定内であ ること等を理由として , 錯誤無効を認めなかった。 平釈 最近では , 反社会的勢力に対し信用保証付貸付がな された事件が社会問題化するとともに , その効力をめ 判旨に反対する。 本件は , 中小企業としての実体がない主債務 ぐる争いが増加している。具体的には , ④大阪高判平 者に信用保証協会の保証付貸付が行われ , 信用 成 25 ・ 3 ・ 22 金法 1978 号 116 頁 ( 第 1 審 : 神戸地姫 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 116

2. ジュリスト 2016年11月号

示の内容ではな 0 、としたが , このような観点カ : らは動 内容から排除するための要件 , 信用保証協会の政策・ 機の錯誤について錯誤無効が認定される範囲カ極めて 経済的公共性等を勘案すれば , 本件判旨に対して同様 狭くなり , 信用保証協会側に動機の錯誤があったとし の批判が可能であり , 錯誤無効を否定した結果につい て契約の効力を争う余地がほばなくなってしまう点で ては再考する必要があると思われる。 貸付人との間のリスク分配について均衡を失すること 他方 , 錯誤に関する判断とは別に , 本件のよ Ⅳ となる可能性も否定できない。むしろ , 動機の錯誤が うな事案において民法 95 条の適用の結果 , 契 表示された場合には , 原則として契約の内容に応じて 約が無効になるにせよ有効になるにせよ , 公平の見地 要素の錯誤に該当すると解するべきであり , 例外的 から疑問が残る結果となる可能性が高い点を指摘した に , 契約の解釈ないし諸般の事情によって表示された い。民法 95 条は契約の効力を争うための規定であ 動機の錯誤を契約の内容から排除するためには , その り , 契約に伴う金銭などの利益が事実上無資力である 旨の当事者の意思や認識が契約上より明確に表れる必 第三者によって全部騙取された場合には , 当事者間の 要があるように思われる。また , 信用保証協会と金融 利益・損害を調整する手段が設けられていないため , 機関の間には , 主債務者の属性に錯誤があったとして 一方当事者が損害を全部負う結果となるからである。 争った事案がこれまでも存在し , 明示的に繰り返し契 したがって , より公平な結論を導き出すために , 保証 約の錯誤無効の主張が提出され , 要素の錯誤が認めら 契約における当事者間のリスク分配をどのように調整 れたケースも複数あったにもかかわらず , その後 , 特 するか考慮する必要がある。この点について , 前掲最 別な事情の変更もないのに , 信用保証協会と金融機関 高裁判決 ( ⑧ ~ ⑩ ) は金融機関の調査義務を基本契約 がこのような類型の錯誤に対し , 契約に別途排除条項 に付随する義務と解し同義務に違反があった場合には を設けなカ : 。たからと 0 、。て契約の前提条件と考えて 信用保証協会は保証契約の免責条項により責めを免れ いた事項カ動機の錯誤にすぎないことを甘受する意思 ると判示し , 契約上の過失責任から保証契約当事者間 またはそのような認識が信用保証協会にあったとは考 のリスク分配を調整する旨を示唆した。この立場とは えにくい。さらに , 本件判旨は , 中小企業に対する円 異なり , 前記折衷説は , 信義則に基づき , 過失のない 滑な資金提供のための信用保証協会の公益目的を考慮 両当事者間における危険負担を調整した。両説は保証 しているが , 金融機関が信用保証協会に過大なリスク 契約におけるリスク分配ないし利害調整を契約上の過 を転嫁しているという指摘もある ( 柿沼重志 = 中西信 失の場面で行うか無過失の場面で行うかという点で異 介「財政負担の視点から見た信用保証に関する一考 なるが , 両説は相互に排他的なものではなく , 具体的 察」経済のプリズム 114 号 33 頁 ) 。このような場合 な事案での過失の認定において後者が補完的に適用さ まで信用保証制度本来の設立趣旨や運営目的に含まれ れると解する余地もありえよう。 るとはいえないのではないか。 なお , 本判決に対し , X は控訴したが , 控訴審判 したがって , 本件において「主債務者に会社として 決 ( 東京高判平成 26 ・ 1 ・ 30 金法 1988 号 109 頁 ) は の実体があること」が信用保証協会と金融機関が共通 X の控訴を棄却し , これに対して x は上告した。 して認識していた契約の重要な内容であり , 錯誤無効 を認めることがより妥当な結論ではないかと考えられ * 本判決の控訴審判決に対する評釈として , 中村 る。なお , 前掲最高裁判決 ( ⑧ ~ ⑩ ) も , 錯誤の原因 聡・金法 1990 号 4 頁がある。 が本件事案とは違うものの , 主債務者の属性に関する 錯誤は要素の錯誤に該当せす , 信用保証協会がリスク を負担することが当該保証契約の合理的な解釈である という立場を強く表明しており , 本件のような事案も 今後上級審で錯誤無効を否定する可能性が高いと予想 される。しかしながら , 主債務者が「反社会的勢力」 であるケースも含めて , 前述したように , 信用保証協 会と金融機関の間のリスク分配の均衡 , 表示された動 機の錯誤または熟知していた契約の前提事項を契約の 118 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499

3. ジュリスト 2016年11月号

商事判例研究 平成 25 年度 36 会の保証契約と錯誤 金融機関と信用保証協 東京大学大学院 東京大学商法研究会 裵敏峻 Pae MinJun 東京地裁平成 25 年 8 月 8 日判決 平成幻年 ( ワ ) 第 3132 号・第 8350 号 , 株式会社 みずほ銀行対埼玉県信用保証協会 , 貸金返還及 び保証債務履行請求事件 ( 第 1 事件 ) , 埼玉県信 用保証協会対株式会社みすほ銀行ほか 3 社 , 不 当利得返還請求事件 ( 第 2 事件 ) / 金融・商事 判例 1425 号 44 頁 / 参照条文 : 民法 95 条・ 446 事実 条・ 703 条 , 信用保証協会法 20 条 証契約」という ) , YI は貸付を行った。その後 A 社 債務とする信用保証契約を締結し ( 以下「本件信用保 た。同月 25 日 , X と YI は , A 社に対する貸付を主 取する目的で X との間で信用保証委託契約を締結し 同社に中小企業としての実体がないのに , 貸付金を詐 18 日 , 訴外 A 会社の代表取締役を名乗る訴外 B は , ら Y4 を「 Y ら」という ) である。平成 18 年 10 月 おいて信用保証付貸付を行った金融機関 ( 以下 YI か 件の被告ら ) はいずれも本件第 1 事件と第 2 事件に 件の原告〔第 2 事件の被告〕 ) , Y2, Y3, Y4 ( 第 2 事 証を主業務とする信用保証協会であり , YI ( 第 1 事 業等が金融機関から貸付等を受けるにつき , 債務の保 x ( 第 1 事件の被告〔第 2 事件の原告〕 ) は中小企 が返済しなかったことから , YI は X に代位弁済を請 求したが , X が信用保証債務の履行を拒絶したため , 保証債務履行請求の訴えを提起した ( 第 1 事件 ) 。同 請求に対し , X は本件信用保証契約は要素の錯誤に より無効であると抗弁した。 X は , 錯誤の理由とし て , A 社には保証対象会社としての実体がなかった ( 以下「錯誤理由①」という ) , A 社に当初から詐取 目的があった ( 以下「錯誤理由②」という ) 等と主張 した。 YI ~ Y4 を被告とする第 2 事件の経緯や請求 原因等はおおむね同様であり , 詳細な事実関係は省略 する。なお , X による保証には , 協会斡旋保証と金 融機関経由保証の 2 つの形態があるが , 本件の信用 保証はいずれも , 金融機関経由保証であった。 請求認容 ( 第 1 事件 ) , 請求棄却 ( 第 2 事件 ) 。 裁判所は錯誤理由①②に対し , X に動機 の錯誤があったと認めた上 , 錯誤無効の判断基 準について次のように述べた。「信用保証契約も保証 契約の一類型であり・・・・・・錯誤事由①及び②は , いわゆ る動機の錯誤と位置付けるのが相当であ」り , 「保証 契約については・・・・・・そのリスクを保証人に転嫁するた めに締結される特質を持つものである以上 , 動機の錯 誤が要素の錯誤となり得るかを判断するに際しても , このような保証契約の特質を十分に念頭に置く必要が あ」り , 「錯誤事由①及び②が要素の錯誤に当たるか 否かを判断するに際しては , Y らに対して X 主張の 動機が表示されたか否かだけではなく・・・・・・認識と事実 が異なり , 債務が履行されない場合のリスク負担につ いて , どのような合意が成立しているかを先す吟味し たうえで , X 主張の錯誤がリスク負担についての合 意内容を前提にして , 要素の錯誤に当たるといえるか を検討することが相当である」。 続いて裁判所は以下の点を指摘し , 上記錯誤 Ⅱ 理由① , ②は要素の錯誤となりえないとした。 保証契約は「原則として , 主債務者が債務を履行し ない事由を問わないものと解するのが相当である。 ・・・貸付金の詐取は , 主債務者から債権回収ができな い事態の一つとして想定されており , 原則としては , 保証人において引き受けられたリスクであると解すべ きであ」り , 「信用保証協会である x は , 専門性や交 渉力を有してお - り , ーまた , 一般論として貸付金が詐取 されるリスクがあることの認識も有していたはずであ [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 115

4. ジュリスト 2016年11月号

路支判平成 24 ・ 6 ・ 29 金判 1396 号 35 頁 ) , ⑤東京高 判平成 26 ・ 3 ・ 12 金法 1991 号 116 頁 ( 第 1 審 : 東京 地判平成 25 ・ 4 ・ 24 判時 2193 号 28 頁 ) , ⑥東京高判 平成 25 ・ 10 ・ 31 金判 1429 号 21 頁 ( 第 1 審 : 東京地 判平成 25 ・ 4 ・ 23 判タ 1416 号 334 頁 ) , ⑦東京高判 平成 27 ・ 6 ・ 3 金法 2031 号 63 頁 ( 第 1 審 : 東京地判 平成 26 ・ 12 ・ 19 金法 2031 号 68 頁 ) 等がある。④ ~ ⑦はいずれも , 主債務者が反社会的勢力であり信用保 証の対象とならないにもかかわらず信用保証付貸付が なされた事案であった。これらの事実関係はほば同様 であるが , 錯誤無効の認定に対する結論は分かれてい る。すなわち , ④ , ⑥ , ⑦は , 主債務者が反社会的勢 力ではないことが保証契約の当然の前提であり , 契約 の相手方もそれを熟知していた場合には , 当該前提に 錯誤があれば , 表示の有無を問わず , 要素の錯誤に該 当すると判示した。もっとも④は協会斡旋保証と金融 機関経由保証とを区別し , 前者に限り , 信用保証協会 が自ら問題がないと判断した保証斡旋について同じく 問題がないと判断した金融機関に対して債務履行を全 面拒絶することは信義則に反するとして , 錯誤無効の 認定の範囲を 2 分の 1 に限定した。他方⑤は , 主債 務者が反社会的勢力でないことが保証契約の重要な内 容にはなっておらず , 当該錯誤は動機の錯誤にすぎな いとした上で , 要素の錯誤と認められるためにはそれ が明示または黙示に意思表示の相手方に表示されて保 証契約の内容とされている必要があるが , これに加え て認識に係る事実が表示されていても , 契約の内容と されているとは認められない場合には , 契約は無効と はならないとし , 主債務者が反社会的勢力でないこと が当事者間の合意の内容にはなっていないとした。 ところが , 最近出された最高裁の判例は , ⑧最判平 成 28 ・ 1 ・ 12 金法 2035 号 6 頁 ( ④の上告審 ) , ⑨最 判平成 28 ・ 1 ・ 12 民集 70 巻 1 号 1 頁 ( ⑤の上告審 ) , ⑩最判平成 28 ・ 1 ・ 12 金法 2035 号 9 頁 ( ⑥の上告 審 ) , ⑩最判平成 28 ・ 3 ・ 15 平成 27 ( 受 ) 第 1721 号 ( ⑦の上告審 ) のいずれも , 動機が表示されても , 当 事者の意思解釈上 , 法律行為の内容とされたものと認 められない場合には要素の錯誤には当たらないという 前提の下に , 各事案において債務者が反社会的勢力で ないことは主債務者に関する事情の 1 つにすぎず , 当然に契約の内容とならないと判断し , 錯誤無効を否 定した。 商事判例研究 上記裁判例の論理構成を便宜上分類してみる Ⅱ と , (1) ① , ② , ⑥ , ⑦のように , 被保証資格 が保証契約の前提であることは金融機関も熟知してお り , その錯誤は要素の錯誤であるとする立場 ( 以下 「肯定説」という ) , ②③ , ⑤ , ⑧ ~ ⑩のように当事 者の合理的な意思解釈に基づき , 被保証資格の錯誤に 関しては信用保証協会が想定していたリスクの範囲に 含まれるとし , 要素の錯誤を認めない立場 ( 以下「否 定説」という ) , ( 3 ) ④のように肯定説の考え方に 従って要素の錯誤を認めるが , 具体的事情とりわけ協 会斡旋保証か金融機関経由保証かの区別を勘案して信 義則により無効の範囲を制限する立場 ( 以下「折衷 説」という ) の 3 つに大別することができる。肯定 説によると被保証資格は当然の保証契約の前提として 契約当事者に認識の合致があり , 表示の有無にかかわ らず , 契約の内容となるという論理構造を有する。他 方 , 否定説は , 保証契約のリスク転嫁機能や , 信用保 証協会が通常の保証債務者とは異なる独自の信用調査 能力を持っ公的機関であること等を勘案し , 当該錯誤 のリスクは信用保証協会が負担するという当事者の認 識が形成されていると推論し , 動機の錯誤が契約上表 示されたとしても , 法律効果のない願望にすぎないと 解する。このような否定説の論理もかって最高裁が認 めており ( 最判昭和 37 ・ 12 ・ 25 集民 63 号 953 頁 , 最判平成 1 ・ 9 ・ 14 集民 157 号 555 頁等 ) , 動機表示 説と矛盾するものではない。 本判決は , 論理構造や結論についてはおおむね否定 説の立場に立つものと評価できそうであるが , 「反社 会的勢力」に対して信用保証等を行うことが信用保証 協会の公的性格に著しく反するような場合には別途の 考慮が必要となると判示しており , 主債務者が「反社 会的勢力」であるケースであれば要素の錯誤が認めら れる可能性もあったと思われ , この点において否定説 とは若干の差異が見受けられる。 しかし , 被保証資格があることは保証契約の Ⅲ 最も基本的な前提事項であり , 保証契約はそも そも契約締結後の信用リスクを保証人が引き受けるも のであることからすれば , 契約の前提となる事項が欠 如している場合にまで保証契約により担保されると解 することは , 保証人の保証責任の範囲をあまりにも広 範にするおそれがある。さらに本件判旨は , 動機の錯 誤が表示さ - れても , ーそれは保証債務者の期待あるいは 願望を表明したものにすぎず , 法的効果を伴う意思表 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 117

5. ジュリスト 2016年11月号

Contents と→⑩ 2016 、 1499 Page 経済法判例研究会国際的適用における「需要者」及び「競争の実質的制限」東條吉純 103 ブラウン管カルテル事件 東京高判平成 28 ・ 4 ・ 22 クレジットカード情報を流出させた加盟店の責任 商事判例研究 ー加盟店の決済代行業者への責任が認容された事例 東京地判平成 25 ・ 3 ・ 19 非公開会社における属人的定めの効力 ー東京地立川支判平成 25 ・ 9 ・ 25 金融機関と信用保証協会の保証契約と錯誤 ー東京地判平成 25 ・ 8 ・ 8 偽装請負と黙示の雇用契約の成否 DN P ファインオプトロニクスほか事件 東京高判平成 27 ・ 1 1 ・ 年休取得を一般的に妨害する行為と 労働契約上の責任の成否 ー出水商事事件 東京地判平成 27 ・ 2 ・ 18 馬券の払戻金に係る所得区分とその費用控除 租税判例研究 東京地判平成 27 ・ 5 ・ 14 受贈図書・ 2016 年度秋季学会予告 Juri-site 森田果 107 洪邦桓 濱ロ桂一郎 119 裵敏峻 1 15 労働判例研究 竹内 ( 奥野 ) 寿 123 漆さき 127 131 132

6. ジュリスト 2016年11月号

2 点目は , 地方公共団体とーロにいっても , 規模は 様々です。職員数が 1 万人を超える大規模なところ と , 100 人以下の小規模なところでは対処体制の構築 1 つをとってもその姿は違うでしようしセキュリ ティ対策に割く予算規模も異なります。したがって , 1 つの対策が全地方公共団体に当てはまるとは限らな いことに留意する必要があります。総務省では , マイ ナンバー制度の導入に伴い , 情報セキュリティ対策の 抜本的強化を図る地方公共団体の支援を行っていま す。いまお話のあった自治体情報セキュリティクラウ ドもその 1 つです。小規模な地方公共団体にとって は , 自らシステムの構築・運用・管理を行い , セキュ リティ対策を行うことは人的・予算的制約から難しい こともあります。そうした地方公共団体にとっては , クラウドの活用は 1 つの有効な選択肢であると思い ます。 各地方公共団体においては , これらの対策を引き続 き講じていただきたいと思いますし , NISC としても 総務省を通して必要な協力をしていきたいと思いま す。 宇賀自治体情報セキュリティ対策に関する必要な技 術的助言 , 支援は , 第 1 次的には , 総務省が行うこ とになりますが , サイバーセキュリティ戦略本部も , 総務省を通して地方公共団体に資料の提出 , 意見の開 陳 , 説明その他の協力を求め , 提出された資料等を分 析して , 関係行政機関の長に対して勧告をすることが できます。これまで , 字治市 , 愛南町 , 堺市等で大量 の住民情報が漏洩した事件が発生しましたが , サイ バーセキュリティ戦略本部が , 総務省を通して地方公 共団体に対して , 資料の提出等の協力を求めるのは , どの程度の重大な事件が発生した場合になるのでしょ うか。 三角地方公共団体で発生したインシデントは , 基本 法の規定では , サイバーセキュリティ戦略本部による 原因究明調査の直接の対象とはなっていません。先ほ ど申し上げた通り , サイバーセキュリティ戦略本部と 地方公共団体の関係は , 国の行政機関との関係とは異 なり , あくまで任意の協力をお願いするというもので す。実務上は , 地方自治を所管する総務省を通じてや り取りをすることになります。総務省を通して地方公 共団体に対して協力を求めることとなるインシデント については , 事前に定めた基準があるわけではなーく , 事案に応じて判断されることになります。 HOT issue もちろん , 個人情報漏洩のようなインシデントの情 報については , 当該地方公共団体だけでなく , 同様の 行政サービスを提供する他の地方公共団体にとって も , 同様の手口を使った攻撃に対して , 迅速かっ有効 な対策を講じるにあたって重要な情報となります。地 方公共団体も , まさに先生からご指摘があった「政 府・行政サービス」という重要インフラの 1 分野と して , 同分野内および分野間の情報共有の枠組みに 入っています。これは , インシデント等の情報につい て , 任意で共有を行うものであり , NISC はいわば情 報共有のハプとして機能しています。この枠組みも活 用して , セキュリティ対策を講じることを期待してい ます。 サイバーセキュリティ戦略の課題 宇賀 2015 年 9 月 4 日に閣議決定されたサイバーセ キュリティ戦略においては , 「機能保証 ( 任務保証 ) 」 の考え方が重視されています。この考え方が , 同戦略 において , どのようなかたちで具体化しているかにつ いてご説明いただけますでしようか。 三角機能保証とは , 業務責任者 ( 任務責任者 ) がシ ステム責任者 ( 資産責任者 ) と機能やサービスを全う するという観点からリスクを分析し , 協議し , 残存リ スクの情報も添えて経営者層に対し提供し総合的な判 断を受ける「機能保証 ( 任務保証 ) 」の考え方に基づ く取組が必要である , というものです。 サイバーセキュリティ戦略においては , 機能保証の 考え方は , 政府機関や重要インフラ防護に関する部分 にもっとも色濃く表れています。政府機関の任務とし ては国民生活や経済社会を守るということがあります し , 重要インフラ事業者は国民や社会に不可欠なサー ビスを持続的に提供するという重要な任務を有してい ます。そして , 政府機関の任務遂行は , 重要インフラ その他の社会システムを担う事業者のサーピスに依存 しているといえます。これを踏まえ , 政府機関や各重 要インフラ事業者が任務を遂行するという観点からリ スクを分析し , 対策を講じることが必要となります。 この機能保証の考え方は , サイバーセキュリティ戦 略の重要な項目である安全な I 。 T システムの創出に あたっても重要です。 NISC は , 本年 8 月に「安全な IoT システムのためのセキュリティに関する一般的な 枠組」を決定しました。これは , 関係省庁が I 。 T セ [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 67

7. ジュリスト 2016年11月号

キュリティのための施策を講じるにあたって , 安全な IoT システムが具備すべき一般要求事項としてのセ キュリティ要件の基本的要素を明らかにすることを目 的としています。この中では , IoT システムに関する リスクがユースケースや時間の経過とともに変化する ことを踏まえて , 機能保証の観点から柔軟に対応でき るように , リスクアセスメントを活用することとして います。 このように , 機能保証の考え方はサイバーセキュリ ティ対策全体において通じるものですので , サイバー セキュリティ戦略を踏まえた各種施策においてこれに 留意していきたいと考えています。 宇賀よくわかりました。最後に , 我が国のサイバー セキュリティ戦略についての今後の課題についてお話 しいただけますでしようか。 三角 2015 年 9 月に閣議決定したサイバーセキュリ ティ戦略は , 「今後 3 年間」 , すなわち , 2018 年半ば までに実施すべき施策の基本的な指針を示したもので す。政府としては , まずは , 本戦略に記載の方針にし たがって , 各施策を着実に進めていくことが重要で す。個別の政策課題としては , 3 つのポイントを挙げ たいと思います。 1 点目は , 新産業の創出 , 人材育成 のための環境整備です。 IoT 等の技術革新を実現する ためには , サイバーセキュリティを新しい産業として 育成するとともに , サイバーセキュリティ確保のため の人材育成を行っていくことが必要です。 2 点目は , 重要インフラ防護のための対策強化です。これは , 2020 年の東京オリンピック・パラリンピック競技大 会の成功に向けても不可欠の取組であり , 先ほど話題 に上がったロードマップに沿って検討を進めていきま す。 3 点目は , 国際連携の強化です。今年 5 月に行わ れた G7 伊勢志摩サミットの結果を踏まえ , G7 各国 の政策協調や実務的な協力を強化し , また , ASEAN との緊密な連携を図るほか , 国連等におけるサイバー 空間の利用に係る国際的なルール策定や規範の形成に 向け , 主導的な役割を果たしていく必要があります。 宇賀本日は , 大変ご多忙のところ , 貴重なお話をい ただき , 誠にありがとうございました。 本誌の主たる読者は法律関係者ですが , サイバーセ キュリティ戦略において , 法律等の社会科学的視点も 含めた様々な領域の研究との連携の必要性が指摘され ています。この対談が , 法律関係者の間でサイバーセ キュリテイへの関心を高める一助となることができれ [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 68 ば幸いです。 [ 2016 年 9 月 15 日収録 ]

8. ジュリスト 2016年11月号

頁 , 宅地建物取引業法令研究会編著・宅地建物 取引業法の解説〔 5 訂版〕 126 頁参照 ) 。 そして , 宅建業を廃業する等の理由により , 営業保証金を供託しておく必要がなくなること があるが , この場合には , 供託してある営業保 証金を払い戻してもらう必要があり , これを営 業保証金の取戻しという。そして , 宅建業法 30 条 2 項本文の取戻公告及び同項ただし書の 趣旨については , 「〔営業保証金の取戻公告は , 〕 供託されている営業保証金について還付請求権 を有している者がいる場合に , その者の知らな い間に営業保証金の取戻しが行われてしまうこ とは , その者が営業保証金から損害を賠償して もらう機会を失わせることになるので , 還付請 求権を持っている者に対しては , その権利を実 行する機会を与えておいて , その機会に権利を 行使しない場合にのみ取戻しを認めるのが合理 的であると考えられるため設けられている制度 である。公告制度は , このような趣旨から認め られているのであるが , 営業保証金を取り戻す 事由が発生してから 10 年を経過したときは , 取引の相手方の有していた債権はほとんど時効 となり消滅するので , 公告を要しないで取り戻 すことができることになって〔いる〕」 ( 宅地建 物取引業法令研究会編著・前掲 142 頁 ) と説明 されている。 Ⅲ . 判旨について 本判決は , 営業保証金及び取戻公告の制度趣 旨等に照らすと , 宅建業法 30 条 2 項の規定は , 取戻請求をするに当たり ,. 取戻公告をして取戻 請求をするか , 取戻公告をすることなく同項た だし書所定の期間の経過後に取戻請求をするか の選択を , 宅建業者であった者等の自由な判断 に委ねる趣旨であると解するのが相当であると 0 敷衍するに , 営業保証金の制度趣旨に照らす と , 本来 , 営業保証金は , 取戻事由が発生した 後も , 取引の相手方に生じた損害を担保するも のとして長期間供託され続けることが望ましい 性質のものであり ( 例えば , 宅地の購入者にお 94 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 いて , 当該宅地に存在する瑕疵やこれに基づく 損害を了知するまでに数年を要することは必ず しも珍しいことではない ) , このような営業保 証金の性質からすれば , 同項本文の規定は , 宅 建業者であった者等が義務的に又は原則的にな すべき行為を定めたものではなく , むしろ , 宅 建業者であった者等が早期に営業保証金の取戻 請求を行う場合において , 還付請求権者の権利 行使の機会を確保するために履践すべき手続な いし要件を定めたものにすぎないと解するのが 相当であり , 同項本文所定の手続に基づく取戻 請求の方法と , 同項ただし書所定の期間の経過 による取戻請求の方法との間に優先関係はな く , 宅建業者であった者等が自由な判断により 選択することが可能なものとして予定されてい るものとみるのが相当であると考えられる。本 判決は , このような観点から , 宅建業法 30 条 2 項の規定の趣旨を , 上記のとおり解したもの といえよう。 その上で , 本判決は , 取戻公告をすることな く取戻請求をする場合に , 宅建業者であった者 等は取戻事由が発生すれば直ちに公告期間を最 短の 6 か月と定めて取戻公告をすることができ ることを理由として , 取戻事由の発生時から 6 か月を経過した時から取戻請求権の消滅時効が 進行すると解することは , 上記の選択を宅建業 者であった者等の自由な判断に委ねた宅建業法 30 条 2 項の趣旨に反すると解したものである。 そして , このように解さなければ , 同項ただし 書所定の期間の経過による取戻請求の方法が制 度上予定されていることは同項の規定の文理に 照らし明らかであるにもかかわらず , 本判決も 説示しているとおり , 当該取戻請求をなし得る 期間が僅か 6 か月間に限定され得ることにな り , 不合理といわざるを得ないことも , 本判決 の上記解釈の正当性を裏付けるものと解される ( なお , 国会に提出されている民法改正法案に おいては , 民法 166 条 1 項の消滅時効期間は , 債権者が権利を行使することができることを 知った時から 5 年間〔 1 号〕 , 又は , 権利を行 使することができる時から 10 年間〔 2 号〕と

9. ジュリスト 2016年11月号

2016 年 8 月・ 9 月分 村上ー博・西村安博編 ・〔新版 ) 史料で読む日本法史 ( 弘文堂・ A5 判 267 頁・ 3888 円 ) 横濱竜也 ・法哲学叢書 ( 10 ) / 遵法責務論 ( 日本評論社・四六判 251 頁・ 1521 円 ) 石松竹雄 ーある刑事裁判官の足跡 ・ ERCJ 選書 ( 1 ) / 気骨 ( 国際書院・ A5 判 378 頁・ 3888 円 ) 林康史編 ( 13 ) / 貨幣と通貨の法文化 ・法文化 ( 歴史・比較・情報 ) 叢書 ( 法律文化社・四六判 346 頁・ 3564 円 ) 木村草太 ・憲法という希望 公法 ジェンダー法学会 民主主義科学者協会法律部会 日本法政学会 法とコンビュータ学会 司法アクセス学会 日本医事法学会 国際商取引学会 日韓土地法学術大会 日本消費者法学会 ( 影書房・四六判 202 頁・ 1836 円 ) 在日コリアン弁護士協会 (LAZAK) 編 か ・ヘイトスビーチはどこまで規制できる ( 講談社・新書判 221 頁・ 821 円 ) 受贈 図書 03 ・ GENJIN ブックレット ( 64 ) / Q&A ヘイトスビーチ解消法 師岡康子監修・外国人人権法連絡会編著 ( 現代人文社・ A5 判 102 頁・ 1296 円 ) ・赤ペンチェック自民党憲法改正草案 〔増補版 ) 伊藤真 ( 大月書店・ A5 判 124 頁・ 1080 円 ) ・憲法判例からみる日本 法 x 政治 x 歴史 x 文化 山本龍彦・清水唯一朗・出口雄一編著 ( 日本評論社・ A5 判 295 頁・ 2700 円 ) ・治安維持法の教訓 ー権利運動の制限と憲法改正 内田博文 ( みすず書房・ A5 判 589 頁・ 9720 円 ) ・憲法学のゆくえ ー諸法との対話で切り拓く新たな地平 宍戸常寿・曽我部真裕・山本龍彦編著 ( 日本評論社・ A5 判 532 頁・ 5184 円 ) ・行政不服審査法の使いかた 幸田雅治編 ( 法律文化社・ A5 判 200 頁・ 2592 円 ) 民事法 ・ボワソナードと近世自然法論における 所有権論 一所有者がニ重売りをした場合に関す るグロチウス , プーフェンドルフ , トマ ジウス , およびヴォルフの学説史 2016 年度秋季学会予告 10 月 29 日 ( 土 ) 1 1 月 26 日 ( 土 ) ・ 27 日 ( 日 ) 1 1 月 26 日 ( 土 ) ・ 27 日 ( 日 ) 1 1 月 26 日 ( 土 ) 1 1 月 26 日 ( 土 ) 1 1 月 19 日 ( 土 ) ・ 20 日 ( 日 ) 1 1 月 12 日 ( 土 ) ・ 1 3 日 ( 日 ) 1 1 月 12 日 ( 土 ) 12 月 3 日 ( 土 ) ・ 4 ( 日 ) 日本国際著作権法学会 ( ALAI Japan) 12 月 4 日 ( 日 ) 出雲孝 ( 国際書院・ A5 判 303 頁・ 6912 円 ) ・解説消費者裁判手続特例法〔第 2 版 ) 山本和彦 ( 弘文堂・ A5 判 340 頁・ 3456 円 ) ・商事法論集 I / 会社法論集 岩原紳作 ( 商事法務・ A5 判 505 頁・ 10800 円 ) 刑事法 ・ソーシャルワーカーのための更生保護 と刑事法 野﨑和義 ( ミネルヴァ書房・ A5 判 266 頁・ 3240 円 ) 国際法・外国法 ・独仏指図の法理論 ー資金移動取引の基礎理論 隅谷史人 ( 慶應義塾大学出版会・ A5 判 284 頁・ 7992 円 ) ・アメリカ法べーシックス ( 6 ) / アメリカ民事手続法〔第 3 版 ) 浅香吉幹 ( 弘文堂・ A5 判 214 頁・ 2808 円 ) ・国際商事仲裁の法と実務 谷口安平・鈴木五十三編 ( 丸善雄松堂・ A5 判 553 頁・ 10800 円 ) Number 弁護士会館 明治大学駿河台キャンパス 神戸大学六甲台キャンパス 神奈川大学横浜キャンパス 中央大学後楽園キャンパス * 詳細は各学会ウェブサイト等をご確認ください。 一橋大学千代田キャンパス 立命館大学朱雀キャンパス中川会館 早稲田大学早稲田キャンパス 大阪女子短期大学 東京工業大学大岡山キャンパス [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 131

10. ジュリスト 2016年11月号

民事 宅地建物取引業法 30 条 1 項前段所定の事由が 発生した場合において , 同条 2 項本文所定の公 告がされなかったときにおける営業保証金の取 戻請求権の消滅時効の起算点 最高裁平成 28 年 3 月 31 日第一小法廷判決 平成 27 年 ( 行ヒ ) 第 374 号 , 供託金払渡認可義務付等請求事 件 / 判タ 1425 号 116 頁 / 第 1 審・東京地判平成 27 年 1 月 29 日 / 第 2 審・東京高判平成 27 年 6 月 17 日 Tokuchi Atsushi 前最高裁判所調査官徳地淳 事実 本件は , 平成 10 年 3 月 31 日をもって 宅地建物取引業 ( 以下「宅建業」とい う ) の免許の有効期間が満了した X ( 原告・控 訴人・上告人 ) が , 宅地建物取引業法 ( 以下 「宅建業法」という ) 25 条 1 項に基づき供託し た営業保証金 ( 以下「本件保証金」という ) に つき , 同 25 年 9 月 20 日 , 同法 30 条 1 項に基 づき取戻請求をしたところ , 東京法務局供託官 から , 本件保証金の取戻請求権 ( 以下「本件取 戻請求権」という ) の消滅時効が完成している として , 上記取戻請求を却下する旨の決定 ( 以 下「本件却下決定」という ) を受けたため , Y ( 被告・被控訴人・被上告人 ) を相手に , 本件 却下決定の取消し及び上記取戻請求に対する払 渡認可決定の義務付けを求める事案である。 宅建業法 30 条 2 項本文は , 同条 1 項の営業 保証金の取戻しは , 当該営業保証金につき還付 請求権を有する者に対し , 6 か月を下らない一 定期間内に申し出るべき旨を公告 ( 以下「取戻 公告」という ) し , その期間 ( 以下「公告期 間」という ) 内にその申出がなかった場合でな ければ , これをすることができない旨規定し , 同条 2 項ただし書は , 営業保証金を取り戻すこ とができる事由が発生した時から 10 年を経過 したときは , この限りでない旨規定している。 本件の事実関係等の概要は , 次のとお Ⅱ りである。 X は , 平成元年 3 月 31 日付けで , 東京都知 事から , 宅建業法 3 条 1 項に基づき宅建業の免 許を受け , 同年 6 月 13 日付けで , 東京法務局 において , 同法 25 条 1 項に基づき 1000 万円の 本件保証金を供託した。 X の宅建業の免許の有効期間は , 平成 10 年 3 月 31 日をもって満了した。その後 , X は本 件保証金につき取戻公告をせず , また , 本件保 は , 宅建業者であった者等に取戻公告をするこ るものと解される。なお , 宅建業法 30 条 2 項 あり , その時から同請求権の消滅時効は進行す 求権の行使は法律上可能になると解されるので 6 か月が満了した時点で , 営業保証金の取戻請 は , 取戻事由が発生し , 最短の公告期間である 上記申出に係る還付請求権が存在しない場合に 律上確定しているものというべきであるから , 引は行われており , 還付請求権の存否は既に法 事由が発生した時点では , 宅建業者としての取 を法律上行使することができる。そして , 取戻 消滅したことにより , 営業保証金の取戻請求権 の申出に係る還付請求権が不存在であるか又は の公告期間が経過したことに加え , 公告期間内 宅建業者であった者等は , 取戻公告をし , そ 下すべきものとした。 件保証金の払渡認可決定の義務付けの訴えを却 の本件却下決定の取消請求を棄却し , 本 Ⅲ 原審は , 要旨次のとおり判断し , X た。 成していることを理由に , 本件却下決定をし ているとして ) 本件取戻請求権の消滅時効が完 求の時点でその日から既に 10 年以上が経過し 月 1 日から 6 か月を経過した日であり , 取戻請 取戻請求権の消滅時効の起算点は平成 10 年 4 は , 同年 10 月 1 日付けで , X に対し , ( 本件 を理由として取戻請求を行ったが , 同供託官 託官に対し , 本件保証金につき , 供託原因消滅 X は , 平成 25 年 9 月 20 日 , 東京法務局供 かった。 証金に対して還付請求権が行使されることもな 92 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499