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1. ジュリスト 2016年11月号

商事判例研究 平成 25 年度 36 会の保証契約と錯誤 金融機関と信用保証協 東京大学大学院 東京大学商法研究会 裵敏峻 Pae MinJun 東京地裁平成 25 年 8 月 8 日判決 平成幻年 ( ワ ) 第 3132 号・第 8350 号 , 株式会社 みずほ銀行対埼玉県信用保証協会 , 貸金返還及 び保証債務履行請求事件 ( 第 1 事件 ) , 埼玉県信 用保証協会対株式会社みすほ銀行ほか 3 社 , 不 当利得返還請求事件 ( 第 2 事件 ) / 金融・商事 判例 1425 号 44 頁 / 参照条文 : 民法 95 条・ 446 事実 条・ 703 条 , 信用保証協会法 20 条 証契約」という ) , YI は貸付を行った。その後 A 社 債務とする信用保証契約を締結し ( 以下「本件信用保 た。同月 25 日 , X と YI は , A 社に対する貸付を主 取する目的で X との間で信用保証委託契約を締結し 同社に中小企業としての実体がないのに , 貸付金を詐 18 日 , 訴外 A 会社の代表取締役を名乗る訴外 B は , ら Y4 を「 Y ら」という ) である。平成 18 年 10 月 おいて信用保証付貸付を行った金融機関 ( 以下 YI か 件の被告ら ) はいずれも本件第 1 事件と第 2 事件に 件の原告〔第 2 事件の被告〕 ) , Y2, Y3, Y4 ( 第 2 事 証を主業務とする信用保証協会であり , YI ( 第 1 事 業等が金融機関から貸付等を受けるにつき , 債務の保 x ( 第 1 事件の被告〔第 2 事件の原告〕 ) は中小企 が返済しなかったことから , YI は X に代位弁済を請 求したが , X が信用保証債務の履行を拒絶したため , 保証債務履行請求の訴えを提起した ( 第 1 事件 ) 。同 請求に対し , X は本件信用保証契約は要素の錯誤に より無効であると抗弁した。 X は , 錯誤の理由とし て , A 社には保証対象会社としての実体がなかった ( 以下「錯誤理由①」という ) , A 社に当初から詐取 目的があった ( 以下「錯誤理由②」という ) 等と主張 した。 YI ~ Y4 を被告とする第 2 事件の経緯や請求 原因等はおおむね同様であり , 詳細な事実関係は省略 する。なお , X による保証には , 協会斡旋保証と金 融機関経由保証の 2 つの形態があるが , 本件の信用 保証はいずれも , 金融機関経由保証であった。 請求認容 ( 第 1 事件 ) , 請求棄却 ( 第 2 事件 ) 。 裁判所は錯誤理由①②に対し , X に動機 の錯誤があったと認めた上 , 錯誤無効の判断基 準について次のように述べた。「信用保証契約も保証 契約の一類型であり・・・・・・錯誤事由①及び②は , いわゆ る動機の錯誤と位置付けるのが相当であ」り , 「保証 契約については・・・・・・そのリスクを保証人に転嫁するた めに締結される特質を持つものである以上 , 動機の錯 誤が要素の錯誤となり得るかを判断するに際しても , このような保証契約の特質を十分に念頭に置く必要が あ」り , 「錯誤事由①及び②が要素の錯誤に当たるか 否かを判断するに際しては , Y らに対して X 主張の 動機が表示されたか否かだけではなく・・・・・・認識と事実 が異なり , 債務が履行されない場合のリスク負担につ いて , どのような合意が成立しているかを先す吟味し たうえで , X 主張の錯誤がリスク負担についての合 意内容を前提にして , 要素の錯誤に当たるといえるか を検討することが相当である」。 続いて裁判所は以下の点を指摘し , 上記錯誤 Ⅱ 理由① , ②は要素の錯誤となりえないとした。 保証契約は「原則として , 主債務者が債務を履行し ない事由を問わないものと解するのが相当である。 ・・・貸付金の詐取は , 主債務者から債権回収ができな い事態の一つとして想定されており , 原則としては , 保証人において引き受けられたリスクであると解すべ きであ」り , 「信用保証協会である x は , 専門性や交 渉力を有してお - り , ーまた , 一般論として貸付金が詐取 されるリスクがあることの認識も有していたはずであ [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 115

2. ジュリスト 2016年11月号

x のこのような不利益又は侵害に照らすと , 多数 決濫用法理を適用することが考えられる。その具体的 な基準として , ①当該取扱いを正当化するだけのニ ズがあるか ( 必要性テスト ) , 及び②当該ニーズに照 らして不相当な制約になっていないか ( 相当性テス ト ) が説かれている ( 野村修也「株式の多様化とその 制約原理」商事法務 1775 号 33 頁 ) 。属人的定めの限 界を画するには , 「合理的な理由 , 目的の正当性」と 「手段の必要性 , 手段の相当性」という判旨の基準が 合理的であろう。もっとも , 合理的な理由及び目的の 正当性の有無について , 最高裁判所はプルドックソー ス事件において , 総会決議の判断を尊重すべきである としたが , 株主平等原則の観点から見ると , 資本多数 決の横暴を抑制する機能を持っと考えられてきた当該 原則の機能がかえって失われてしまう ( 木俣由美「株 主平等の原則と株式平等の原則」森本還暦・企業法の 課題と展望 63 頁 ) 。本件は株主平等原則の趣旨を援 用しなくても , 一種の多数決の濫用といえるので , 前 述した批判に説得力があろう。特に非公開会社のよう に株式に市場性がなく , 会社から離脱することが容易 でない場合 , 少数株主にとっては , 議決権の行使又は 株式の売却等の機会を通じて自己の利益を守ることは ほとんど期待できない。したがって , 本件において は , プルドックソース事件のように総会決議を尊重す ることは妥当ではなく , 不利益な取扱いをする合理的 な理由及び目的の正当性の有無については客観的に評 価すべきであろう。 本件において , Y は , X は A と競業する行為を 行った敵対的な株主であると主張したが , 判旨の認定 によれば , 本件決議は「 X らを Y の経営から実質的 に排除し , X らの財産的犠牲の下に , C らによる Y の経営支配を盤石ならしめる」ことを目的とするもの であって , 目的の正当性を欠くとされた。確かに , Y が主張した行為のうち , 競業行為は X の行為ではな く , かっ当該行為が仮にあったとしても別の法律の規 定や法理等により解決すべきであり , また x による Y の会計帳簿等の閲覧・謄写等の申立てもそもそも 株主としての監督是正権の行使にすぎないので , これ らの事由のみをもって X の株主としての権利を制限 する理由は見出しがたい。なお , 一般に締出しの事案 においては , 対価の相当性が重要な基準として機能し ているが , 合理的な理由及び目的の正当性すら認めら れない本件においては , 手段の相当性について言及す 114 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 る必要はなかったと思われる。しかし , やはり何の補 償も得ずに実質的に X を締め出した本件においては , 相当性についても否定されることになろう。 さらに , 多数決の濫用が株主間の内部的な利 Ⅵ 害対立の問題にすぎない場合であっても , 特に 瑕疵が非常に大きく民法 1 条 , 2 条 , 3 条に違反する ような場合には , 総会決議は無効になるとするのが判 例・学説である ( 最判昭和 35 ・ 1 ・ 12 集民 39 号 1 頁 , 岩原紳作・新版注釈会社法⑤ 326 頁等 ) 。本件に おける属人的定めにより実質的な締出しカ哘われてい ると評価し得ること , 非公開会社における構成員の緊 密性等を考慮すると , x らを保護するため , 本件決 議の内容は公序良俗に反するという理由により , 本件 決議を無効とする余地もあったと思われる。

3. ジュリスト 2016年11月号

るから , X において , 引き受けられないリスクがあ 保証協会が貸付を行った金融機関に対して信用保証契 る場合には , その事由を契約書において定めることが 約の錯誤無効を主張した事案において , 錯誤無効を否 可能であるところ , X と Y らとの間で取り交わされ 定したものである。 た書面で・・・・・・本件各貸付先が企業実体を有しているこ このように信用保証協会が保証契約の錯誤を主張し と及び資金使途が事業資金であること等が記載されて た裁判例の中で , 「主債務者に会社としての実体がな はいるものの , それ自体はあくまで X や Y らの認識 い」ことが錯誤理由であった事件としては , ①東京地 を記載したものにすぎず , それらの認識が事実と異な 判昭和 53 ・ 3 ・ 29 判時 909 号 68 頁と , ②東京高判平 る場合のリスク負担に関する記載があるわけではない 成 19 ・ 12 ・ 13 判時 1992 号 65 頁がある。この 2 件の こうした場合のリスクを負担するまでの意思 裁判例はいずれも , 信用保証協会の保証は貸付先であ から・・ が Y らに存在するものと読み取ることはできない。 る企業が実体を有することを当然の前提としており , また・・・・・・金融機関としては , 約定書の定めは , 義務違 その実体がなければ信用保証の対象とならないこと 反や帰責事由が存在する場合という限度でリスクを負 は , 金融機関も当然のこととして熟知していたもので 担したことを意味するだけであり , これらがない場合 あり , 企業が実体を有することは信用保証協会が保証 にまで , X が信用保証債務を免れることを甘受して を付すための重要な要素であると判示し , 錯誤無効を いたものと解することは困難というべきである。した 認めた。これらの裁判例は動機表示説の立場に立っと がって・・・・・・ Y らにおいて , 義務違反や帰責事由がな されるが ( 伊藤進・信用保証協会保証法概論 111 い場合にまで , リスクを負担するとの意思があったと 頁 ) , 動機の表示の要件をかなり拡大したものである いうことはできない」。 という評価もある ( 渡邊博己〔判批〕金法 1834 号 94 また「信用保証協会である X は , 公的資金を扱う 頁 ) 。ただし , ①では金融機関経由保証のみが問題に 公的機関であり , 中小企業への融資の促進を使命とし なったが , ②では金融機関経由保証と協会斡旋保証の ているのであるから , 定められた融資対象者 , 資金使 両者が含まれていた点で事実関係が異なる。これに対 途以外に公的資金が渡ることは , 厳に避けるべき事態 し , 錯誤の認定において両者を区別すべきであり , 協 であって , それと異なる事態が生じるリスクを金融機 会斡旋保証の場合には信用保証協会が責任を負担する 関に転嫁すべき事情があり・・・・・・そのこと自体は金融機 余地があるという指摘がある ( 吉岡伸一〔判批〕岡山 関においても認識されていたものと思われる。しかし 大学法学会雑誌 58 巻 1 号 107 頁 ) 。 ・・・私企業である Y らが , 直ちに避け難いリスクの 他方 , ③福岡高那覇支判平成 23 ・ 9 ・ 1 金法 1982 負担を甘受するものとは解されないし , また , 信用保 号 143 頁 ( 第 1 審 : 那覇地判平成 23 ・ 2 ・ 8 金法 1982 号 151 頁 ) は「主債務者に実際の創業意思がない」 証協会である X としても , Y ら金融機関が上記リス クを負担することになれば , 金融機関が中小企業に対 という錯誤理由が主張された事案において , 当該錯誤 する融資を躊躇し , 審査が厳格になる事態が想定さ は動機の錯誤であり , 要素の錯誤と認定するためには れ , 金融機関から中小企業に対する円滑な融資の協力 契約の解釈を通じ , 契約上表れている当事者の意思を が得られなくなる結果 , 中小企業への融資を促進する 考慮すべきであると判示し , ( a ) 貸倒れリスクに関す という信用保証協会の趣旨・目的に反する事態が生じ る保証契約の当事者の意思はその発生の原因や理由を 得ることも認識していたものと推認すべきである」た 問わないこと , ( b ) 同リスクを金融機関に負担させる め , 「 X と Y らとの間で , 認識と事実が異なり , 債 と融資の円滑化という中小企業振興資金融資制度の目 務が履行されない場合のリスクを Y ら金融機関が負 的が果たせないこと , ( c ) 信用保証協会が独自の審 担するものとしたと認めるに足りる事情は見当たらな 査・判断能力を持っこと , (d) 貸付金の詐取も使途違 反行為に含まれることは保証契約当事者の想定内であ ること等を理由として , 錯誤無効を認めなかった。 平釈 最近では , 反社会的勢力に対し信用保証付貸付がな された事件が社会問題化するとともに , その効力をめ 判旨に反対する。 本件は , 中小企業としての実体がない主債務 ぐる争いが増加している。具体的には , ④大阪高判平 者に信用保証協会の保証付貸付が行われ , 信用 成 25 ・ 3 ・ 22 金法 1978 号 116 頁 ( 第 1 審 : 神戸地姫 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 116

4. ジュリスト 2016年11月号

判例の概況を紹介した上で ( Ⅱ ) , 同条の「不 合理性」の解釈問題について若干の私見を述べ たい ( Ⅲ Ⅱ . 法制・裁判例・学説の概況 1. 立法までの裁判例・学説 有期契約労働者 ( 臨時工 ) ・無期契約労働者 ( 本工 ) の処遇格差問題には古い歴史がある。 ( 有期契約労働者と実態として重なるパートタ イム労働者に関するものも含めて ) 非正規労働 者の処遇格差に関する裁判例・学説について , はじめにごく簡単に整理してみよう。 (1) 学説 (a) 処遇格差を労使の合意以外の規制により 救済するか 立法前の正規・非正規の格差についての議論 は , 契約当事者の労働契約で決定される建前で ある賃金等への介入をどのような根拠で認める か , あるいは認めないかという視点で大きく分 けることができる。 第 1 に , 契約当事者の合意以外の外在的な介 入による規制を否定し , 労基法等による最低限 の規制を除き , 労働条件決定を基本的に当事者 自治にゆだねるべきとみる立場がある。この立 場では , 正規雇用・非正規雇用間の賃金格差問 題は , 基本的には柔軟な労働市場ないし労使の 団体交渉での解決によるべきことになる ( 菅野 和夫 = 諏訪康雄「パートタイム労働と均等待遇 原則・一その比較法的ノート」山口俊夫先生古 稀記念論文集『現代ヨーロッパ法の展望』〔東 京大学出版会 , 1998 年〕 113 頁等。一般には , 救済否定説として知られる ) 。 第 2 に , 何らかの ( 契約当事者の合意以外 の ) 外在的な法理により , 雇用形態等による処 遇格差の規制を主張する立場がある ( 救済肯定 説 ) 。その場合の構成としては , ① ( 間接的な ) 性差別禁止と構成する立場 ( 仮に「間接性差別 構成」。根拠として労基法 4 条等の差別禁止規 定を参照 ) , ②雇用形態による不合理な格差も 禁止されるべきとみる立場 ( 仮に「非正規労働 者差別構成」。根拠として公序等の一般条項等 を参照 ) がありうる。 ①説は , 簡単にいえば「一定の差別禁止事由 ( 性別等の人的属性 ) を理由として労働者が異 別取扱いを受けてはならない」という考え方で の処理である。この構成では , 一定の差別禁止 事由以外の理由による異別取扱いは , 直接の禁 止対象でない以上 , 間接的に当該差別禁止事由 による差別となる場合 ( 間接差別 ) にのみ禁止 される ( 家族的責任の偏在との関係から , 欧州 法ではパートタイム労働についてこの構成も採 られた ) 。これに対し②説は , より一般的に , 特定の人的属性に限らず「同一使用者に雇用 ( または使用 ) される労働者は , 原則として均 等な ( 合理的な ) 処遇を受けるべきであり , 不 合理に異なって処遇されるべきでない」という 前提に立っと思われる。この前提は「均等待遇 原則」「同一 ( 価値 ) 労働同一賃金原則」等と 呼ばれる ( これらの用語は①説でも用いられる ので混乱を招きやすいが , ①説は専ら , 人権的 な保障を受ける差別禁止事由〔自己の意思で選 択できない人種・性別 , 選択の自由に憲法上の 保障を受ける宗教等の人的属性〕の別に関わら ない均等待遇・同一賃金の意で各用語を用いる のに対し , ②説は人権的な差別禁止事由に限定 せず , より一般的に均等待遇・同一賃金の原則 の存在を認めるものと思われる ) 。 (b) 誰と比べた , どのような処遇格差が 禁止されるか ②説においては , さらに ( i ) どのような者と 比べた ( 比較対象者の問題 ) , ( ⅱ ) どのような 処遇格差がどのように禁止されるか ( 不同一か 不均衡か , 両面的禁止か片面的禁止か ) , とい う視点での分類が可能である。 ( i ) どのような者と比較するか ( どのよう な要素で同一・類似の者を比較対象者とする 職務・責任・能力の差異を無視し , 文字どお り頭割りの同一賃金を支払う原始共産制は現代 社会では採りにくいため , ②説の多くの学説 は , ーー労働契約上 , 賃金等と対価関係にある「労 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 働」に注目し , 「労働」の点で同一視可能ない

5. ジュリスト 2016年11月号

頁 , 宅地建物取引業法令研究会編著・宅地建物 取引業法の解説〔 5 訂版〕 126 頁参照 ) 。 そして , 宅建業を廃業する等の理由により , 営業保証金を供託しておく必要がなくなること があるが , この場合には , 供託してある営業保 証金を払い戻してもらう必要があり , これを営 業保証金の取戻しという。そして , 宅建業法 30 条 2 項本文の取戻公告及び同項ただし書の 趣旨については , 「〔営業保証金の取戻公告は , 〕 供託されている営業保証金について還付請求権 を有している者がいる場合に , その者の知らな い間に営業保証金の取戻しが行われてしまうこ とは , その者が営業保証金から損害を賠償して もらう機会を失わせることになるので , 還付請 求権を持っている者に対しては , その権利を実 行する機会を与えておいて , その機会に権利を 行使しない場合にのみ取戻しを認めるのが合理 的であると考えられるため設けられている制度 である。公告制度は , このような趣旨から認め られているのであるが , 営業保証金を取り戻す 事由が発生してから 10 年を経過したときは , 取引の相手方の有していた債権はほとんど時効 となり消滅するので , 公告を要しないで取り戻 すことができることになって〔いる〕」 ( 宅地建 物取引業法令研究会編著・前掲 142 頁 ) と説明 されている。 Ⅲ . 判旨について 本判決は , 営業保証金及び取戻公告の制度趣 旨等に照らすと , 宅建業法 30 条 2 項の規定は , 取戻請求をするに当たり ,. 取戻公告をして取戻 請求をするか , 取戻公告をすることなく同項た だし書所定の期間の経過後に取戻請求をするか の選択を , 宅建業者であった者等の自由な判断 に委ねる趣旨であると解するのが相当であると 0 敷衍するに , 営業保証金の制度趣旨に照らす と , 本来 , 営業保証金は , 取戻事由が発生した 後も , 取引の相手方に生じた損害を担保するも のとして長期間供託され続けることが望ましい 性質のものであり ( 例えば , 宅地の購入者にお 94 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 いて , 当該宅地に存在する瑕疵やこれに基づく 損害を了知するまでに数年を要することは必ず しも珍しいことではない ) , このような営業保 証金の性質からすれば , 同項本文の規定は , 宅 建業者であった者等が義務的に又は原則的にな すべき行為を定めたものではなく , むしろ , 宅 建業者であった者等が早期に営業保証金の取戻 請求を行う場合において , 還付請求権者の権利 行使の機会を確保するために履践すべき手続な いし要件を定めたものにすぎないと解するのが 相当であり , 同項本文所定の手続に基づく取戻 請求の方法と , 同項ただし書所定の期間の経過 による取戻請求の方法との間に優先関係はな く , 宅建業者であった者等が自由な判断により 選択することが可能なものとして予定されてい るものとみるのが相当であると考えられる。本 判決は , このような観点から , 宅建業法 30 条 2 項の規定の趣旨を , 上記のとおり解したもの といえよう。 その上で , 本判決は , 取戻公告をすることな く取戻請求をする場合に , 宅建業者であった者 等は取戻事由が発生すれば直ちに公告期間を最 短の 6 か月と定めて取戻公告をすることができ ることを理由として , 取戻事由の発生時から 6 か月を経過した時から取戻請求権の消滅時効が 進行すると解することは , 上記の選択を宅建業 者であった者等の自由な判断に委ねた宅建業法 30 条 2 項の趣旨に反すると解したものである。 そして , このように解さなければ , 同項ただし 書所定の期間の経過による取戻請求の方法が制 度上予定されていることは同項の規定の文理に 照らし明らかであるにもかかわらず , 本判決も 説示しているとおり , 当該取戻請求をなし得る 期間が僅か 6 か月間に限定され得ることにな り , 不合理といわざるを得ないことも , 本判決 の上記解釈の正当性を裏付けるものと解される ( なお , 国会に提出されている民法改正法案に おいては , 民法 166 条 1 項の消滅時効期間は , 債権者が権利を行使することができることを 知った時から 5 年間〔 1 号〕 , 又は , 権利を行 使することができる時から 10 年間〔 2 号〕と

6. ジュリスト 2016年11月号

とした。「属人的定め」の許容範囲については , 旧有 利益を保護するため , 株式会社に対し , 株主をその有 する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを 限会社法の時代を含め公表裁判例が少なく , 判断基準 義務付けるものであるところ , 団体の構成員が平等の も判然としていなかったところ , 本判決は非公開会社 取扱いを受けるべきことは正義・衡平の理念を基礎と における属人的定めの効力を判示した貴重な先例であ し全ての団体に共通する原則であるから , 株主平等原 る。 則の背後には一般的な正義・衡平の理念が存在するも 判旨がその趣旨を適用した株主平等原則について , のというべきである。」「条文の文言及び位置関係に照 平成 17 年法律第 87 号による改正前商法の下では , らせば , 属人的定めの制度は , その運用の仕方次第で 議決権や利益配当請求権等の各条項において , 具体的 な「株式」平等原則を定めていたが , 同原則を定める は非公開会社における無秩序状況をも招きかねないも のであり・・・・・・同制度を利用して行う定款変更であれば 一般的な規定はなかった。しかし , 判例・学説上 , 同 ・・・自ずと限界があるものというべきである。」 原則は株式会社法理の根本原則であると認められてい 「属人的定めの制度についても株主平等原則 た。他方 , 旧有限会社法は , 議決権 , 利益配当請求権 Ⅲ の趣旨による規制が及ぶと解するのが相当であ 及ひ戮余財産分配請求権について , 出資ロ数に応じた り・・・・・・差別的取扱いが合理的な理由に基づかず , その 平等原則を定めていたが , 定款に別段の定めを置くこ 目的において正当性を欠いているような場合や , 特定 とを認めていた。会社法において株式譲渡制限会社と の株主の基本的な権利を実質的に奪うものであるな 有限会社が実質的に統合されたことに伴い , 全株式譲 ど , 当該株主に対する差別的取扱いが手段の必要性や 渡制限会社に限って「属人的定め」が許容されること 相当性を欠くような場合には , そのような定款変更を になった。しかし , 前述の通り , 株主平等原則との関 する旨の株主総会決議は , 株主平等原則の趣旨に違反 係をはじめとして , 「属人的定め」の有効性の基準は するものとして無効になるというべきである。」 不明確であり , そのことは当該制度の使い勝手にも影 「 Y が本件決議によって行った属人的定めの 響を及ばしていると思われる。 Ⅳ 制度に基づく定款変更は , その内容としての差 本件決議の内容は , 訴訟資料によれば , 議決 Ⅱ 別的取扱いが何ら合理的な理由に基づくものであると 権に関しては主に「 B に株式 1 株につき 100 はいえず・・・・・・本件決議は , X らを Y の経営から実質 個の議決権 , C に株式 1 株につき 220 個の議決権」 , 的に排除し , X らの財産的犠牲の下に , C らによる 剰余金の配当については「 X らの剰余金の配当を受 Y の経営支配を盤石ならしめる目的で行われたもの ける権利は , X らを除く他の株主の 100 分の 1 とし , であるといわざるを得ない。 ・・・その目的において正 X らを除く他の株主は , その持株数に応じた配当額 当性を欠いており , 株主平等原則の趣旨に違反するも を受ける」という差別的な取扱いをするものであった。 のというべきである。」「 X は , 本件決議の結果 , X 側の 4 名の株主が反対したのに対し , 残る 23 名の 定の要件を具備することを前提に認められる株主の監 株主が C に議決権行使を委任した結果 , 本件決議は 督是正権を行使することができなくなり , また , 株主 可決された。 としての財産権が大幅に制約されるに至ったものとい 判旨 I について。旧有限会社法においては , Ⅲ これに対する経済的代償措置が Y によって講 社員の権利・義務については , 株式会社におけ じられたことも窺われ〔ず〕・・・・・・手段において相当性 る「株主平等原則」に対応する強行法規としての原則 を欠いているものといわざるを得ず , この点において は存在せず , むしろ「定款自治の原則」が妥当すると も , 株主平等原則の趣旨に違反するものというべきで 説かれてきた ( 江頭憲治郎・株式会社・有限会社法 ある。」 〔第 4 版〕 125 頁 ) 。会社法の属人的定めの制度は実質 的に旧有限会社法の規律を受け継いだものであるため , 平釈 109 条 1 項の「株主平等原則」は属人的定めには適用 結論に賛成するが , 判旨の理由付けに疑問がある。 されないと解することが立法趣旨に合致する。また , 同条 1 項の規定は属人的定めに関する 2 項の趣旨が 本判決は , 会社法 109 条 2 項の「属人的定 内容と数に応ずるものでないことを明らかにするため め」を設ける旨の株主総会決議を同条 1 項の に立法技術的観点から設けられた原則規定であるとす 「株主平等の原則」の趣旨に違反するものとして無効 112 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499

7. ジュリスト 2016年11月号

例えば医薬品の剤型の発明に係る特許権につい て , 当該発明の実施が可能となった処分 ( 医薬 品の承認 ) が初めてなされたとしても , 当該処 分に係る医薬品が含有する有効成分とその効 能・効果については過去に先行医薬品に関して 処分 ( 承認 ) がなされていた場合には , 延長登 録はなされることはなかった。すなわち , 上記 のような医薬品の剤型の発明に係る特許権につ いて , 処分 ( 承認 ) を得るために侵食された期 間は補償されなかった。 これに対し , 平成 23 年最判は , 「先行医薬品 が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項 に係る特許発明の技術的範囲にも属しないとき は , 先行処分がされていることを根拠として , 当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受け ることが必要であったとは認められないという ことはできない」と論じて上記運用を否定し , そのようなときには延長登録はなされるべきで あるとした。 特許・実用新案審査基準は , これを受けて , 平成 23 年 12 月 28 日に改訂された。ただし , 当該改訂審査基準では , 延長登録出願が理由と する処分 ( 承認 ) の対象医薬品の発明特定事項 ( 及び用途 ) に該当する事項によって特定され る範囲が , 先行処分 ( 承認 ) によって実施でき るようになっていた場合には , 延長登録を認め ないこととされた ( 第Ⅵ部 3.1.1 ②② ) 。その ため , 例えば , 先行処分 ( 承認 ) がなされた医 薬品と成分及び効能・効果を同じくしながらも 剤型や用法・用量が異なる医薬品についての新 たな処分 ( 承認 ) がなされた場合 , 当該剤型や 用法・用量を特徴とする発明に係る特許権の延 長登録は認められることとなったが , 他方で , 既に先行処分 ( 承認 ) に基づく態様での実施が 可能となっていた発明 ( この例では成分又は効 1 ) 特許法施行令 2 条が , ①農薬取締法の登録 , ならび に②医薬品 , 医療機器等の品質 , 有効性及び安全性の確保等 に関する法律に規定する医薬品・体外診断用医薬品に係る承 認・認証を , 当該処分と定める。 能・効果に関する発明 ) に係る特許権の延長登 録は , 従前どおり認められないこととなった。 2. 平成 27 年最判とその後の運用 上記改訂審査基準により , 延長登録制度の運 用はいったん落ち着くかに思われた。ところ が , 平成 27 年最判は , 上記改訂審査基準に 従ってなされた延長登録出願拒絶査定 ( を維持 した審決 ) を違法とした。 平成 27 年最判は , 「出願理由処分を受けるこ とが特許発明の実施に必要であったか否かは , 飽くまで先行処分と出願理由処分とを比較して 判断すべきであり , 特許発明の発明特定事項に 該当する全ての事項によって判断すべきもので はない。」として特許庁の運用を批判し , 「医薬 品の製造販売につき先行処分と出願理由処分が されている場合については , 先行処分と出願理 由処分とを比較した結果 , 先行処分の対象と なった医薬品の製造販売が , 出願理由処分の対 象となった医薬品の製造販売をも包含すると認 められるときには , 延長登録出願に係る特許発 明の実施に出願理由処分を受けることが必要で あったとは認められないこととなる」ところ , 「医薬品の成分を対象とする物の発明について , 医薬品としての実質的同一性に直接関わること となる両処分の審査事項は , 医薬品の成分 , 分 量 , 用法 , 用量 , 効能及び効果である。」と論 じた。そして , 具体的なあてはめにおいては , 「本件処分に先行して , 本件先行処分がされてい るところ , 本件先行処分と本件処分とを比較す ると , 本件先行医薬品は , その用法及び用量を 『他の抗悪性腫瘍剤との併用において , 通常 , 成人には , べバシズマプとして 1 回 5mg / kg ( 体重 ) 又は 10mg/kg ( 体重 ) を点滴静脈内 投与する。投与間隔は 2 週間以上とする。』と 2 ) 昭和 62 年改正により延長登録制度が導入された当初 は , 特許発明の実施を 2 年以上できなかったことが延長登録 の要件とされていたが , ーー平成 11 年改正により当該下限が廃 止され , 現行の条文となった。 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 57

8. ジュリスト 2016年11月号

民事 宅地建物取引業法 30 条 1 項前段所定の事由が 発生した場合において , 同条 2 項本文所定の公 告がされなかったときにおける営業保証金の取 戻請求権の消滅時効の起算点 最高裁平成 28 年 3 月 31 日第一小法廷判決 平成 27 年 ( 行ヒ ) 第 374 号 , 供託金払渡認可義務付等請求事 件 / 判タ 1425 号 116 頁 / 第 1 審・東京地判平成 27 年 1 月 29 日 / 第 2 審・東京高判平成 27 年 6 月 17 日 Tokuchi Atsushi 前最高裁判所調査官徳地淳 事実 本件は , 平成 10 年 3 月 31 日をもって 宅地建物取引業 ( 以下「宅建業」とい う ) の免許の有効期間が満了した X ( 原告・控 訴人・上告人 ) が , 宅地建物取引業法 ( 以下 「宅建業法」という ) 25 条 1 項に基づき供託し た営業保証金 ( 以下「本件保証金」という ) に つき , 同 25 年 9 月 20 日 , 同法 30 条 1 項に基 づき取戻請求をしたところ , 東京法務局供託官 から , 本件保証金の取戻請求権 ( 以下「本件取 戻請求権」という ) の消滅時効が完成している として , 上記取戻請求を却下する旨の決定 ( 以 下「本件却下決定」という ) を受けたため , Y ( 被告・被控訴人・被上告人 ) を相手に , 本件 却下決定の取消し及び上記取戻請求に対する払 渡認可決定の義務付けを求める事案である。 宅建業法 30 条 2 項本文は , 同条 1 項の営業 保証金の取戻しは , 当該営業保証金につき還付 請求権を有する者に対し , 6 か月を下らない一 定期間内に申し出るべき旨を公告 ( 以下「取戻 公告」という ) し , その期間 ( 以下「公告期 間」という ) 内にその申出がなかった場合でな ければ , これをすることができない旨規定し , 同条 2 項ただし書は , 営業保証金を取り戻すこ とができる事由が発生した時から 10 年を経過 したときは , この限りでない旨規定している。 本件の事実関係等の概要は , 次のとお Ⅱ りである。 X は , 平成元年 3 月 31 日付けで , 東京都知 事から , 宅建業法 3 条 1 項に基づき宅建業の免 許を受け , 同年 6 月 13 日付けで , 東京法務局 において , 同法 25 条 1 項に基づき 1000 万円の 本件保証金を供託した。 X の宅建業の免許の有効期間は , 平成 10 年 3 月 31 日をもって満了した。その後 , X は本 件保証金につき取戻公告をせず , また , 本件保 は , 宅建業者であった者等に取戻公告をするこ るものと解される。なお , 宅建業法 30 条 2 項 あり , その時から同請求権の消滅時効は進行す 求権の行使は法律上可能になると解されるので 6 か月が満了した時点で , 営業保証金の取戻請 は , 取戻事由が発生し , 最短の公告期間である 上記申出に係る還付請求権が存在しない場合に 律上確定しているものというべきであるから , 引は行われており , 還付請求権の存否は既に法 事由が発生した時点では , 宅建業者としての取 を法律上行使することができる。そして , 取戻 消滅したことにより , 営業保証金の取戻請求権 の申出に係る還付請求権が不存在であるか又は の公告期間が経過したことに加え , 公告期間内 宅建業者であった者等は , 取戻公告をし , そ 下すべきものとした。 件保証金の払渡認可決定の義務付けの訴えを却 の本件却下決定の取消請求を棄却し , 本 Ⅲ 原審は , 要旨次のとおり判断し , X た。 成していることを理由に , 本件却下決定をし ているとして ) 本件取戻請求権の消滅時効が完 求の時点でその日から既に 10 年以上が経過し 月 1 日から 6 か月を経過した日であり , 取戻請 取戻請求権の消滅時効の起算点は平成 10 年 4 は , 同年 10 月 1 日付けで , X に対し , ( 本件 を理由として取戻請求を行ったが , 同供託官 託官に対し , 本件保証金につき , 供託原因消滅 X は , 平成 25 年 9 月 20 日 , 東京法務局供 かった。 証金に対して還付請求権が行使されることもな 92 [ Jurist ] November 2016 / Number 1499

9. ジュリスト 2016年11月号

Montnly 一 JurISt 円呈円薫円 8 円呈円円 0 O 田 5 0 0 録 8 2 6 5 ☆ 2 修 抜 税 編 会 版 格 会 六斜法験ん 価 員 新 委 、亠ハ試六権 表 修 範 最 編呈 可偐一員育 , 集 畄日 範利務。教 4 9 0 3 2 〔編修代表〕位田隆一・最上敏樹 3 コンサイス条約集第 2 版 1 、 LOOO 円 3 大林啓吾・見平典〔編著〕 3 、 200 円 尸憲法用語の源泉をよむ 姉崎洋一・荒牧重人ほか〔編〕 2 、 800 円 。カイドブック教育法新訂版 はじめての憲法学第 3 版中村睦男〔編著〕 2 、 68 円 区 畠山武道・下井康史〔編著〕 はじめての行政法第 3 版 3 、 300 円 吉田利宏〔著〕 2 、 000 円 地方議会のズレの構造 京ゅ 滝沢聿代〔著〕 4 、 000 円 選択的夫婦別氏制これまでとこれから 8 。 4 、 800 円 第 2 版菊田幸一〔著〕 。受刑者の法的権利 堂海洋カハナンスの国際法翦。 " 。 杉原高嶺・酒井啓亘〔編〕 2 、 CNOO 円 省国際法基本判例版 三省堂編修所〔編〕 1 CDOO 円 三ディリー法学用語辞典 法律で認められた場合を除き、本誌からのコピーを禁じます。 皆が「判例秘書」を使う 3 つの理由その② 理由その② なせ、皆があの「判例秘書」を 使うのたろう ? 独自のデータベースを構築できる クラウド型「電子書庫」を装備しているから 判例秘書 判例秘書マ http://www.hanreihisho.com ′次回は『理由その③ 現行法令アーカイプを ご紹介します。 定価 14 4 0 円本体 13 3 3 円 〒 107-0062 東京都港区南青山 2-6-18 渡邊ビル 。第 ~ TEL 03-3401-5181 FAX 03-5412-0535 を開発・提供株式会社 LMC 4 9 1 0 0 5 2 9 5 1 1 6 9 0 1 5 5 5 雑誌 05293 ー 1 1 Printed in Japan YUHIKAKU@ ISSN 0448-0791

10. ジュリスト 2016年11月号

場合 , 延長された特許権の効力は , 処分 ( 承 『当該用途に使用される物』の均等物や実質同 認 ) の対象となった物 ( 処分において特定の用 一物に当たらないとみるべきときが一定程度存 途が定められている場合は , 当該用途に使用さ 在するものと考えられる。」と論じた。 れるその物 ) についてのみ及び , その同一性は 被告製品は , 上述のように , 成分において濃 「成分 ( 有効成分に限らない。 ) 及び分量」 , 「効 グリセリンの添加という点で原告製品 ( 延長登 能 , 効果」及び「用法 , 用量」によって特定さ 録の理由となった処分〔承認〕の対象物 ) と異 れるが , 「周知技術・慣用技術の付加 , 削除 , なっているため , 均等物ないし実質同一物に該 転換等であって , 新たな効果を奏するものでは 当するか否かが問題となった。そして , 原告の ないと認められるなど」その均等物や実質同一 特許発明は製剤に関する発明であって医薬品の 物と評価される物にも及ぶ , とされた。この判 成分全体を特徴的部分とする発明であるとこ 旨は , 平成 26 年知財高判の傍論とほば同様で ろ , 被告製品における濃グリセリンの添加は , あるが , 「分量」も「物」の同一性を画する要 オキサリプラチンの自然分解とそれによる不純 素であるとする点で異なる。この点につき , 平 物の生成を抑制することを目的としたもので , 成 28 年東京地判は , 分量のみが異なっている 被告製品の処分 ( 承認 ) を受けるのに必要な試 場合には均等物ないし実質同一物と通常評価さ 験が開始された時点 ( これが判断時 ) で単なる れることを平成 26 年知財高判は注意的に述べ 周知技術・慣用技術の付加等にあたるものでは たものと理解するのが相当 , と言及した。 なく , むしろ新たな効果を奏しているとみるこ そして , 平成 28 年東京地判は , 均等物や実 とができる , として均等物ないし実質同一物に 質同一物の考え方について , さらに説明を加 該当しないと判断された ( 請求棄却 ) 。 え , 「新規化合物に関する発明や特定の化合物 平成 28 年東京地判は , 均等物ないし実質同 を特定の医薬用途に用いることに関する発明な 一物の範囲について 1 つの考え方を示した点で ど , 医薬品の有効成分 ( 薬効を発揮する成分 ) は意義がある。しかし , その範囲は依然として のみを特徴的部分とする発明である場合には , 明瞭になったとは言い難い。また , 均等物ない 延長登録の理由となった処分の対象となった し実質同一物の範囲を解釈する際に発明の内容 『物』及び「用途』との関係で , 有効成分以外 を考慮するにもかかわらず , それに先立って特 の成分のみが異なるだけで , 生物学的同等性が 午法 70 条 1 項の発明の技術的範囲の解釈を行 認められる物については , 当該成分の相違は , わなかった点において , 違和感がある。平成 当該特許発明との関係で , 周知技術・慣用技術 28 年東京地判が , 均等物ないし実質同一物に の付加 , 削除 , 転換等に当たり , 新たな効果を 該当しないと判断した根拠として述べた上記理 奏しないことが多いから , 『当該用途に使用さ 由は , 特許法 70 条 1 項の発明の技術的範囲に れる物』の均等物や実質同一物に当たるとみる 該当しない理由としても納得し得るものであ べきときが少なくないと考えられる。他方 , 当 る。延長された特許権の効力を適切な範囲に画 該特許発明が製剤に関する発明であって , 医薬 するためには , 発明の内容を考慮することは必 品の成分全体を特徴的部分とする発明である場 須であると考えるが , そうだとすれば , まずは 合には , 延長登録の理由となった処分の対象と 特許法 70 条 1 項の発明の技術的範囲の解釈を なった『物』及び「用途』との関係で , 有効成 先にすべきではないだろうか。そして , 均等物 分以外の成分が異なっていれば , 生物学的同等 ないし実質同一物の範囲の解釈に際して発明の 性が認められる物であっても , 当該成分の相違 内容を考慮するのであれば , 特許法 70 条 1 項 は , 当該特許発明との関係で , 単なる周知技 の発明の技術的範囲 ( 5 要件を充たす均等侵害 術・慣用技術の付加 , 削除 , 転換等に当たると の範囲を含む ) に属さないものの均等物ないし いえず , 新たな効果を奏することがあるから , 実質同一物に該当する , という場合は想定でき [ Jurist ] November 2016 / Number 1499 薹一口 60